社内の課題解決に向けたプロジェクト
乃村工藝社では、2016年度から在宅勤務制度のトライアル導入やフレックス勤務など、多様な働き方に対応できる「働き方改革」を実施してきました。そして、2019年度から「グループ会社拠点集約プロジェクト」が始まりました。その背景には、社内の課題解決につなげたいという想いがありました。
中川 「2019年度にプロジェクトが発足したとき、当社では主に2つの課題がありました。1つ目は『会社の成長や働き方の多様化に対応したオフィス環境の見直し』です。そして2つ目が、『乃村工藝社本体とグループ会社との連携強化、事業シナジーの活性化』でした。
当社はグループ会社も含めると、およそ2,600名の従業員がいます(2021年5月末日時点)。プロジェクトを開始する以前は、お台場にある本社ビルをはじめ少し離れたオフィスのビルをいくつか借りていました。そのような状態の中、2019年度に本社隣のビルが空いたこともあり、グループ会社の拠点を集約することが決まりました。
『従業員同士が物理的に近くなることで、コミュニケーションが誘発され、みんなで事業を進めていけるようにする』ことを目的としました。いろいろな空間の使い方を考えて、プロジェクトを進めていきましたね」
プロジェクトは、プロジェクトリーダーやクリエイティブディレクターを含む、10名程度で始まりました。グループ会社を集約する拠点集約整備プロジェクトの検討協議会が当初は10名程度でスタートし、部門横断型で多様な職種から人財を招集しました。
2018年に本社にオープンした「RESET SPACE(RE/SP)」と同じくボトムアップ型で社員が考え経営層に提案するスタイルで推進。最終的には100名近くが参加しました。
新型コロナウイルスの流行。苦労しながらも前進
2019年3月から始まったプロジェクトは、翌年の1月から基本的な設計が開始されました。しかし、2020年3月から想定外の新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって、プロジェクトの投資予算の見直しを余儀なくされました。また、他にもさまざまな苦労がありました。
中川 「『こういう方向性でやっていこう』というイメージがある程度できあがっていた中で、新型コロナウイルスが流行しました。モチベーションを高く持って推進していたので、プロジェクトが思うように進まないことへのショックは大きかったです。
ただ、企画やパース作成までは進んでいたものの、具体的な設計業務や発注までは進んでいませんでした。この段階で再検討することは、チャンスでもあると捉えました。『コロナ後のオフィスはどうなるのか?』など、新しい視点から議論を重ねました」
勤務は原則在宅勤務となり、メンバーとのコミュニケーションはオンラインが主流に。オンラインによってやりやすい部分もあったものの、難しく感じたこともあったと中川は振り返ります。
中川 「単に情報交換をするなら、オンラインでも不自由を感じることはなかったです。また、何か情報を伝えるときも大勢に情報を届けられるので、オンラインのよさを感じる場面もありました。
会議の難しさもありましたが、一番の難しさは、在宅勤務になり働く人たちが周りにいなくなったことで、他の働く人たちがどういう働き方をしているのか、いま何を感じているのか、を実際に見たり聞いたりすることができないことでした。メンバーが考えることが、正しいのかどうか実感を持つことが出来なかったことです。
そのため、社員に職種ごとにオンラインで集まってもらったり、チャットで意見を募集して『出社しないとできないこと』『今の働き方・いま不自由を感じているか』を聞きました。
そこで出た働き方のニーズ『偶発的なコミュニケーションの必要性』『人と人とのタッチポイント』『行くのが楽しみになる場所』『孤独感』『健康面への心配』『OJT等の人財育成の難しさ』『オフィスでしかできないことの充実』などをプランに活かしていきました」
さまざまな逆境があった中、2020年の6月からプラン作成の再スタートに取り掛かります。
中川 「予算や時間など、限られた条件の中で優先順位をつけつつ、企画の設計や施工準備を進めました。メンバーは通常業務との兼ね合いもありながら、プロジェクトも同時並行で進めてくれました。また、通常業務ではアシスタント的な役回りが中心だった若手メンバーが、ポテンシャルを発揮して主体性を持って推進してくれました。その姿勢はとても嬉しく感じました。
2020年の9月からは、空間だけでなく運営面での検討も始めました。社員が喜ぶサービスは何か、社員のポジティブな意識変化につながるサービスは何かなどを意識して、提供する飲食物の検討などに取り掛かりましたね」
社内だけでなく社外からも注目されるオフィスに
2021年の1月から従業員の拠点集約が本格的に始まり、同年3月から新オフィスの全面利用が開始されました。“ニューノーマル=コロナ対応”ではない、将来対応を見据えた余白のある空間づくりが必要だと考え、それにはコミュニケーションを誘発するイノベーティブな空間が必要だと考えました。
オフィスの機能は「仕事場」から、多様な人財がパフォーマンスを発揮し新たなアイデアやイノベーションを生み出す「エンゲージメントを高める空間」「コミュニケーションする空間」に変わると考えました。例えば、1フロアには社員が誰でも使える公園のような場所を計画しています。
中川 「当社が『歓びと感動』をお届けし続けていくためには、不確実な時代でもインスピレーションを生む場所が必要だと考えています。お客様に対しても、遊び心やサステナビリティなど、幅広い視点から提案できるようにするためです。
新オフィスに作成したコミュニケーションスペースの『RESET SPACE_2』では、森林保護を伝える国産材の家具や、双六テーブルなどオリジナルの什器、ユニークな社員を数珠つなぎで紹介していく『ユニーク・ピーポー・セレクション』などを入れ、インスピレーションを刺激する工夫をしています」
2021年9月現在、RESET SPACE_2は従業員やお客様の利用を含め、1日で300名ほどに利用されています。あえて使う目的を決めないことで、さまざまな効果が見え始めました。
中川 「社内的な効果としては、働く場所が自席だけでなく自由に選べるようになったので、可能性が広がったことが挙げられます。また、グループ会社の従業員が物理的に近くなったこともあり、コミュニケーションが取りやすくなりました。
社外的な面では、社外からの見学が161社・617名、60件以上のメディア(※)に取り上げていただき、新オフィスに対する注目があることを実感しましたね。コロナ禍という状況下でオフィスをリニューアルした事例が少ない中、オフィスがどう変わっていくのかに、メディアの皆さんは関心を持たれていたようです」
※数字は2021年12月時点
メディアやお客様からは、「このオフィスは他の会社でも通用するのか?」と聞かれることがあると語る中川。この問いかけに対して、中川は次のように話します。
中川 「コミュニケーションの活性化やアイデアの誘発は、どの企業も感じている課題だと思います。当社としても、RESET SPACE_2によって偶発的なコミュニケーションを生みたいといった気持ちがありました。そういった意味では、RESET SPACE_2は当社だけでなく他の企業の課題解決につながる場所でもあります。
世の中の一般的な課題と、オフィス運営を通して当社が取り組んでいることが、他の企業様にも参考になっていると思います。さまざまなメディアに取り上げていただいたのも、多くの企業が持つ課題感とマッチしているからではないでしょうか」
オフィスは作って終わりではなく、進化していくもの
グループ拠点を集約するという意味では、プロジェクトは1つの区切りを迎えました。しかし、「自分たち自身で働く場をつくる」という意味ではまだ完成しておらず、「これからもブラッシュアップを続けていきたい」と中川は考えています。
中川 「今後、従業員と企業との関わり方は常に変わっていくでしょう。企業がこのようなオフィスのリニューアルを実施することで、従業員のモチベーションは高まると思います。
作って終わりではなく、運営などで得た知見や従業員ともコミュニケーションを重ね、新しい働き方やこれからの時代にあわせて自社オフィスを進化させていきたいと思います。『未来の働き方』に合わせたオフィスの在り方を、これからも提案していきたいですね。
そして、当社オフィスがあるお台場の価値をもっと上げて、ひいてはまちづくりにつなげたいと考えています」
オフィス運営をまちづくりにつなげるという未来像を持ちつつ、乃村工藝社は今後も「空間の力」が最大限に発揮される空間をつくり続けます。
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2022年3月のオフィスリニューアル1周年を機に、RESET SPACE_2にある木材の入れ替えを行いました。オフィス見学をご希望の方は、乃村工藝社ホームページからお問合せください。
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