エンジニアから始まったキャリア
私のキャリアは、エンジニアとして始まりました。新卒で配属されたのは、自動車向けセンサーの設計開発部門。磁気回路の設計支援が最初の仕事で、磁石の形やICとの距離をシミュレーションしたり、不良解析を行ったりする毎日でした。配属当初は希望していた材料開発とはまったく違う分野で、正直戸惑いもありました。けれど、未知の領域に必死で食らいついていくうちに、落ち込む暇もなく仕事にのめり込んでいきました。
その後製品設計に移り、開発から量産までの過程を初めて担当した時のことは、今でも強く心に残っています。自動車向け製品は開発期間が数年単位と長く、途中で仕様変更やトラブルがたくさんあります。そのたびに先輩や他部署の方々に助けてもらいながら、一つひとつ課題を乗り越えました。
そして、長い時間をかけてきた製品が無事に量産へとたどり着いた瞬間、達成感を味わいました。このとき実感した「安全で信頼できる製品は、多くの人の知恵と連携でつくられている」ということは、 今の私の土台になっています。
サステナビリティへの挑戦
転機となったのは、2020年のパンデミックでした。世界の動きが止まり、物流が滞り、物価が上昇したとき、私たちの生活は世界中のサプライチェーンに支えられていること、そしてその基盤にはエネルギーや資源の安定供給といった環境条件が横たわっていることを痛感しました。何気なく使っていた食品や日用品が海外から届いていた事実、そしてその流れが滞るだけで生活が揺らぐ現実に直面し、「社会の脆さの背景には、気候変動や資源制約、環境負荷の蓄積といった課題があるのではないか」と考えるようになりました。こうして、自分の生活と社会の仕組み、環境問題は切り離せないという実感が、私の関心を大きく転換させるきっかけになりました。
私生活では、まず身近な行動から始めました。脱プラスチックの工夫や、できるだけ車に頼らない生活を試し、資源の使い方や移動に伴う排出を自分ごととして捉え直しました。すると自然と、「では仕事で使っているプラスチックや、製造現場で消費される電力はどうだろう?」という問いが生まれ、個人の努力だけでは届かない産業の環境負荷に目が向くようになりました。
関心と日々の業務の間にギャップを感じる中で、サステナビリティ推進室の社内公募に出会い、「ここならサプライチェーン全体の排出(GHG)や資源循環と正面から向き合える」と直感しました。もちろん不安がなかったわけではありませんが、「なにか解決につながることをしたい」という思いと、背中を押してくれた周囲の応援に支えられ、迷わず挑戦を決めました。
エンジニア経験を活かす新しい仕事
今の私の業務は、環境戦略推進プロジェクトに100%の時間を使っています。2050年の環境目標に向けて、中期目標をつくり、その達成プロセスをまわしていくためのPDCAサイクルを整えるのがミッションです。
当初は「資源循環」を担当する予定でしたが、プロジェクトの立ち上げ時期の関係もあり、現在は脱炭素領域に携わっています。脱炭素領域では、2050年にバリューチェーン全体での温室効果ガス排出をゼロにすることを掲げています。
以前は、製品アセスメントの評価項目の見直しにも携わっていました。重要顧客が存在する欧州で先進的なルールメイキングが進む中で、自社のルールをどこまで更新するか。その判断は簡単ではありません。環境に良い選択はコストの増加につながりやすく、企業としての利益と環境価値のバランスをどう取るかは、大きな課題です。それでも、他社の取り組みを知ったり、社内の関係者と対話を重ねたりする中で、少しずつ景色が開けてくる瞬間があります。
こうした日々の業務の中で、エンジニア時代の経験が本当に役に立っています。たとえば再生材を導入しようとするとき、強度や加工性、量産工程での制約など、技術的なハードルを現実的に想像できます。設計時代にお世話になった先輩に気軽に相談できたり、現場感覚を持ったまま他部署と対話できたりするのは、自分の強みだと感じています。
私は、技術部門に近い宮城県の仙台開発センター(古川)に勤務しています。数年前に建て替えたばかりでとても開放的なオフィスとなっており、出社すると気分が上がります。大きな窓から山並みが見え、息抜きにテラスに出て緑豊かな景色を見られるところが気に入っています。
環境戦略推進プロジェクトのメンバーは全国に点在していますが、日々のコミュニケーションはチャットで行い、また定期的に本社へ出張して直接顔を合わせる機会もあるため、不便はありません。私が古川に勤務することで、製品カーボンフットプリント(製品1個あたりのCO₂排出量)算定のチームを含む古川を拠点とする方々とより密に連携できたら良いなと思っています。
「使えば使うほど環境によい製品が生まれる」未来をつくりたい
サステナビリティの仕事は、短期的に成果が出るものばかりではありません。だからこそ、関係者と未来のビジョンを共有できて、「同じ目標に向かって取り組む仲間が増えた」と感じられる瞬間に、何よりのやりがいを感じます。
将来は、環境の知識だけでなく、企業の仕組み──経営や財務の観点も理解した上で、環境経営を会社に導入できる人材になりたいと思っています。ものづくりは環境負荷を生む一方で、環境課題解決のカギになる可能性も持っている。その「可能性」にワクワクしている自分がいます。いつか「使えば使うほど環境によい製品」を生み出せる企業になれるように、仲間を増やしながら進んでいきたいです。
最後に、今キャリアの選択に迷っている方へ。
もし興味や関心に出会えたなら、それはとてもラッキーなことです。熱いうちに動かなければ、気持ちは冷めてしまいます。私自身、エンジニアとして経験を積んだ後にサステナビリティの世界へ飛び込みましたが、その経験は今も大きな強みになっています。技術を学んでから違う道に進むという選択肢は、思っている以上に価値があります。どうか、自分の「やってみたい」を大切にしてほしいです。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
