技術者が“自ら考え、学び、成長する”風土づくり
「技師長」という役職が復活したのは、じつに20年ぶりのこと。
長く空白だったポジションに自らが就くとは、正直思ってもみませんでした。主幹技師として静かにキャリアを終えると思っていたほどです。そんな中、社長から全社員に向けて公表してもらったことで、社内で広く認知されることとなり、今後のミッションを果たしていく上で非常にありがたいスタートとなりました。
技師長に任命され、最初に向き合ったのは「そもそも技師長とは何か?」という問いでした。この問いに向き合う中で見えてきたのは、技師長が担うべき役割──それは、高度な技術力を活かして、全社の技術戦略を立案・遂行し、技術面から業績達成に貢献すること。
当社では技師制度のもと、主幹技師・主任技師が専門領域で活躍しています。私はそれらを横串でつなぐ「技師会」の会長も兼任し、戦略・教育・資産・交流の4部会を通じて、育成と知の共有を推進しています。
とくに重視しているのは、「技術者の成長」と「知識の共有化」です。
新しい製品も技術も、すべてはエンジニア自身の成長から生まれます。長い歴史を持つ当社では設計知識が属人化しがちで、退職などによる“技術の消失”リスクも無視できません。だからこそ、知識を体系化し、誰もが理解しやすい設計環境を整えることが重要なのです。
また、教育では「教えることで成長する」仕組みを重視しています。教えることで理解が深まり、実践的な知識が身につく。そうした文化を根づかせるため、現在150以上の社内講座を展開中です。新人教育でも活用し、技術者が自ら考え、学び、成長できる風土づくりを進めています。
数式でつなぐ、技術と現場。複雑な課題を乗り越えてきたキャリア
新卒で当時のアルプス電気に入社し、液晶ディスプレイの電気回路設計からキャリアをスタートしました。大学ではソフトウェアを専攻していましたが、入社後は電源回路や映像処理回路の設計に携わり、画像処理装置の設計、ソフトウェア開発、さらには筐体設計まで、メカ(Mechanical)・エレ(Electrical)・ソフト(Software)の幅広い技術領域を自ら学びながら実践してきました。
韓国企業との合弁会社に出向した経験も大きな転機でした。半年で日本語を習得するほど優秀な現地技術者たちに刺激を受け、自分の可能性を広げるきっかけになりました。
中でも印象に残っているのが、磁気センサー量産の立ち上げです。実現困難といわれた仕様を、システム全体を俯瞰して最適化し、実現にこぎつけました。数式化できない課題に直面しても、仮説を立て、データを取り、傾向をつかむ。「この測定方法なら見えるかもしれない」と何度も挑み、突破口を見出してきました。
また、海外工場で量産立ち上げを担当した際は、現場メンバーとの信頼関係づくりのために毎日議事録を自ら作成し共有。質問を重ね、議論を深めることで、しだいに信頼が生まれました。そのときに聞いた、ホテル越しの花火の音──立ち上げ課題で議論が緊迫した現場で響いたその音は、今でも忘れられません(笑)。
「すべてを数式でつなぐ」という姿勢が、異なる技術領域を結びつけ、複雑な課題を解く力となっています。
未来を担う若手技術者へ──失敗を恐れず、仮説を立てて挑戦すること
昔は、パソコンを自分で組み立てるのが当たり前でした。性能をどう引き出すかを考えながら、パーツを選び、手を動かして試行錯誤する。多くの製品が、ネジを外せば中が見えて、半田付けをし、修理することができる。そんなふうに、技術に“触れる”ことができる環境がありました。
しかし今では、完成品を買うのが主流となり、内部に触れる機会は減少。スマートフォンも開けられない設計で、技術はソフトウェア中心に。便利さと安全性は向上しましたが、「自分の手で試す」ことは難しくなっています。そのため、若い世代が技術に挑む経験は減っているかもしれません。だからこそ、自ら考え、工夫し、挑戦する姿勢が今の時代に求められていると感じます。技術者の原点は「自分の手で試し、考え、動くこと」。その精神を今も大切にしたいと思っています。
私自身も未経験の領域に飛び込み、問いを持ち続けながら学び、実践してきました。仮説と検証を重ねることで成長につなげてきたのです。
アルプスアルパインには、設計から製造、営業まで関われる環境があり、挑戦を後押しする風土があります。役員との距離も近く、意見を伝えやすい文化が根付いています。「自分の考えを伝えれば、周囲は応えてくれる」──そんな会社です。
技術者として最も大切なのは、「自分の手で試し、考え、動くこと」。その力を育てる環境が、ここにはあります。
AIとロボティクスの融合で、人と技術が共鳴する社会へ
少子高齢化が進む日本では、労働人口の高齢化が避けられない課題です。私はこの問題に対し、ロボット技術が大きな可能性を持つと考えています。すべてを自作するのではなく、既存のモジュールやサービスを組み合わせることで、効率的かつ実用的なソリューションをめざしています。
鍵となるのはAI技術です。クラウドだけでなく、現場でのリアルタイム処理やエッジデバイスの活用など、ローカルな視点も重視しながら、AIとロボティクスの融合を進めています。私たちのVISION「人の感性に寄り添うテクノロジーで未来をつくる」には、HMI企業としての“感性”が込められており、共感できるAIを通じて、誰もが安心してテクノロジーと関われる社会をめざしています。
学生時代からAIに関心を持ち、現在は社内でのAI活用推進にも取り組んでいます。時系列データ解析の知見を活かして機械学習を習得し、社内講師としても活動。議事録作成などの業務効率化だけでなく、設計や業務プロセスの変革にもAIを活用しています。今後は、AIを当たり前に使いこなしながらも、課題を見極め、複数の選択肢から最適解を導く力こそが、技術者に求められる本質だと考えています。
技術革新において私が重視しているのは「常識を疑う力」。数学的に困難とされる課題にも仮説を立てて検証し、ウェアラブル機器や静電センサーなどの新規開発に活かしてきました。「課題設定力」と「原理原則に基づく思考」は、AI時代にも変わらぬ価値を持つと信じています。
人の“らしさ”を尊重し、温かみのあるソリューションを通じて、技術と人が感性を通じて共鳴する未来を創造する──それが、私の挑戦です。
※ 記載内容は2025年10月時点のものです
