全国の浅海域を航空測量する。10年がかりの「海の地図PROJECT」を統括
杉浦は現在、海域の専門集団が集まる部署で重要な役割を担っています。
「国土保全コンサルタント事業部 環境部 総合環境課に所属しており、課内では海域の環境調査や海域の測量をメインにするチームに所属しています。その中で私は『海の地図PROJECT』のプロジェクトマネージャーとして、全体を統括しています。
このプロジェクトは、2022年に日本財団と日本水路協会が協働でスタートさせた日本初の試み。日本全国の海岸につづく総海岸線約35,000kmの約90%の浅海域(水深0〜20m)を航空測量し、地図化するもので、10年間で200億円の予算が投じられる予定です。データを防災や環境などさまざまな分野へ有効活用する目的で始まりました」
巨大なプロジェクトの最前線に立つプロジェクトマネージャーの役割を、杉浦はこう語ります。
「発注者と協議を行い、プロジェクトの方針や課題を社内に落とし込んでいく立場です。各作業工程の班長たちと工程を調整したり、会社の上層部への報告役を務めたりしています。実作業を担うというよりは調整役、組織の潤滑油のようなイメージですね」
多様な専門部隊の間に立ち、組織を動かすために、リーダーとして心がけていることがあります。
「メンバー皆の想いが一致するように、うまく意識合わせを行うことを大事にしています。さまざまな意見を広く募る時、自分が判断して伝える時など、タイミングや状況に応じて適切なアプローチを見極めながら、意見を集約しています」
大勢を1つにまとめる難しさの中、杉浦がブレずに進み続けられるのは、その先に大きなやりがいがあるからです。
「このプロジェクトを通して、災害から人の命を守り、大切な自然環境を守ることに貢献できるのは大きいですね。また、日本初のプロジェクトに、航空レーザ計測技術を用いて参加させてもらっていることも、自信や誇りになっています。
それに加えて、業務を通じて社内外のいろいろな人と関わりを持てますし、日々新しい知識が得られることも大きな魅力です」
海を舞台に働きたい。ダイビングインストラクターを経て技術職として再びアジア航測へ
杉浦が海の世界へと進むことになった経緯は、意外にも偶然だったと言います。
「工業高校に通っていたのですが、途中で就職ではなく大学進学を決意しました。漠然と浮かんだ『自然が好き』という想いから、陸・海・空の中で自身の興味や適性を突き詰めた結果、海洋学部へと行き着きました。
当時は特別なきっかけがあったわけではなかったのですが、後になって祖父が船乗りだったことを知り、不思議な縁のようなものを感じました。振り返ってみると、知らず知らずのうちに海に惹かれていたのかもしれません。
大学の研究室では船舶を使っての海底地形測量や地層探査に没頭しました。長崎県松浦市伊万里湾に沈んでいる元寇の船を探すなど、まるで宝探しのようでおもしろかったですね。普段は見られない海底の姿が、調査によって見えるようになることにロマンを感じました」
海の調査に魅せられた杉浦は、その専門性を活かせる環境を求めて2010年にアジア航測へ新卒入社します。
「就職活動では、海底地形の計測や調査を手がける企業で、さらに海の環境に関わる仕事がしたいと考え、業界大手であるアジア航測を選びました。技術職希望でしたが、最初は福岡支店で営業職として配属されました。
市町村などの自治体を担当したのですが、当時は公共事業が減少している時期で、仕事を受注するのは決して簡単ではありませんでした。それでも営業として相手と真摯に対話を重ねた経験は、現在のプロジェクトマネージャーとしての多くの人とコミュニケーションする上で大きな土台になっています」
営業として研鑽を積みながらも、杉浦は海を舞台に働くことへの情熱も諦めきれませんでした。そして、23歳の時に大きな決断を下します。
「やはり現場で海に関わりたくて、『人生を変えるなら今しかない』と退職を決意。沖縄県の久米島で、ダイビングインストラクターとして5年間働きました。海に潜ってサンゴの白化現象を目の当たりにしたり、海底の洞窟やトンネルを体感したりして、海のおもしろさにさらにのめり込んでいきました」
沖縄の海で充実した時を過ごす中で、30歳を目前に控え、再び将来のキャリアを考え始めた杉浦。そこへ、アジア航測のかつての仲間から連絡が届きます。
「同じ寮で仲の良かった同僚が『九州支社で海洋分野の技術職チームが若手を探しているよ。面接を受けてみたら?』と教えてくれたんです。退職時にも温かく送り出してくれるなど社風もよくわかっていたため、再入社に抵抗はありませんでした。
しかし、決して甘い気持ちで戻れるわけではありません。久米島で船長(1級小型船舶免許を保有)を務め、自ら海に潜り続けて得た現場のリアルな知見を持ち帰ることで会社に貢献できるという決意と、厳正な選考を経て、技術職として再びアジア航測で働くことが叶いました」
幅広い知見をもとにプロジェクトマネージャーへ。感謝の言葉から、貢献実感を得る
アジア航測で技術職として再スタートをきった杉浦。ダイビングインストラクター時代の経験を活かすと同時に、専門領域を越えた挑戦も求められました。
「現場では、操船経験が役に立ったほか、波の動きや天気を読むスキルが、最適な測量日をプランニングする際に強みになりました。
一方で、地域の支社は人員が限られているため、海だけでなく航空レーザ計測や河川、山での調査など、幅広い分野を勉強しながらも、一生懸命取り組みました。地域で求められるのは、なんでもこなすマルチプレイヤーです。その経験が現在につながっています。
専門外の業務は大変なこともありましたが、そのおかげで社内の人脈が全国に広がり、多様な視点で物事を見る目が養われたことは、現在のマネジメント業務を支える財産になっています」
九州支社で技術者として経験を重ねていた杉浦のもとへ、ある日、大きな打診が届きます。
「海の地図PROJECTが4年目を迎えるタイミングで、新たにプロジェクトマネージャーをやってほしいと声がかかりました。海洋分野と航空レーザの両方の知見があるということで指名をいただき、大役を務めさせていただくことになりました。
正直、最初は巨大プロジェクトという責任の重さに戸惑いを覚えました。ですが、人に求められることは何より嬉しいものです。全力を尽くそうと覚悟を決めました」
新たな志を胸に本社へと異動した杉浦は、引き継いだ現場で、手探りのアプローチから始めることになります。
「一刻も早く現状を把握するため、前任者のもとへ毎日のように話を聞きに行きました。立ち上げを担った先輩たちには、道なきところの草をかき分けて進むような苦労があったと聞いています。私が引き継いだ時にはある程度道ができていたので、今度はその道をどうきれいに舗装し、軌道に乗せるかが私の役割だと思って取り組んでいるところです」
前任者たちの想いを受け継ぎ、プロジェクトを推進する中で、杉浦がこのプロジェクトを通して感じている醍醐味があります。
「やはり、見えない海底が見える楽しさは格別です。船舶とは違い、航空機を使うことで一気に広範囲の地形が見えるようになるんです。
また、能登半島地震の後に、海底がどれくらい隆起したかがわかる地図を現地の海女や漁業者の皆さんへ届けた際には『こういうデータがあると本当にありがたい』と直接感謝の言葉をいただきました。
当社は官公庁がメインのお客さまのため、通常の仕事は国や自治体に成果物を納品して終了します。私たちが作った地図の先にある、地域で暮らす方々の声を直接聞ける機会はめったにありません。だからこそ、エンドユーザーの方の生の声に触れられたことはとても嬉しかったですね」
頼られたら100%で応える。温かい仲間と共に海洋チームが切り拓く新たな展望
地図の先にいる多くの人々を見据え、巨大プロジェクトに向き合う原動力を、杉浦はこう語ります。
「モチベーションの根底にあるのは『わからないことがわかるおもしろさ』。技術的に、見えなかったものが可視化されるプロセスは刺激的です。また、頼られたら、なるべく100%の力で返したいという想いがあります。今のポジションを任されている以上は、期待にしっかり応えたいですね」
一度外の世界を経験したからこそ、あらためて実感するアジア航測の魅力もあります。
「人柄が温かい人たちが多いです。皆さん優しくて、困ったことがあればすぐに助けてくれます。また、自社で航空機を運航しているのも強みですね。撮影や運航の部隊とすぐに運用について話し合える風通しの良さがあります」
温かい仲間に支えられ、杉浦は海洋分野の未来をも視野に入れています。
「現在は全国の海洋技術者を横断する『海洋チーム』のリーダーも務めています。航空測量が主軸の当社において、実はこれまで海洋技術者は社内で紹介される機会がそれほど多くありませんでした。
しかし海の地図PROJECTをきっかけに、社内でも風向きが変わってきたと感じています。若手を育てながら、この盛り上がりを未来につなげていきたいですね。
海底地形データを活かして、水難事故防止や防災分野、生態系の把握や保全、環境教育などさまざまな分野における研究や技術の向上に貢献していきたいです」
その視線は、前職のダイビングへも向けられています。
「潜る前には、地形や出会える生物、安全に楽しめるルートなどについてお客さまに説明するのですが、海底地形がわかればその精度は劇的に上がります。
たとえばダイビングの指導団体などに海の地図データを利活用してもらうなどのアイデアもおもしろいと考えています。これまでのさまざまな経験を活かして会社に還元していきたいですね」
見えない海底を可視化する杉浦の実直な挑戦は、これからも豊かな海と人々の安全な未来を支えていきます。
※ 記載内容は2026年7月時点のものです
