次なるフロンティアは、“宇宙”。堅牢技術を武器に、宇宙から始まる価値創造へ
横河電機の宇宙事業は、2021年に「宇宙事業準備室」が社長直轄組織として立ち上がったことから始まります。当初は、私を含む3人で事業開発をスタートしました。
なぜ、宇宙事業に参入することになったのか。横河電機は、もともと地上の石油やガス、上下水道、電力、化学といったさまざまな分野で計測や制御技術、情報技術を提供してきました。これらの技術をもっと違う領域に広げていこうという考えから、当社の中・長期経営計画にある「探索領域」として防災、宇宙、海洋の3つが設定され、とくに可能性があるとして宇宙に特化した新規事業開発を行うことになったのです。
現在「宇宙事業開発室」へと名称が変わった私たちの事業開発は、大きく分けて2つの軸で活動しています。1つめは「スペースプロダクト」で、横河電機の強みである堅牢なセンサーや制御システムを宇宙向けに開発すること。たとえば石油掘削で言えば、これまで砂漠やシベリア、海底など過酷な環境でも耐えられる製品を作り続けてきました。そして、次なるフロンティアはどこだろうと考えた時に、宇宙という発想が生まれたのです。
具体的には、月でのプラント運用に向けた水資源探査事業です。月には水資源(水氷)がある可能性があり、それを溶かして電気分解すると水素と酸素ができて燃料にすることができます。地上でのプラント計装ビジネスに近しいと考え、そこに向けた技術開発として計測センサーと制御の技術開発で活動を始めました。
2つめは「宇宙インフラの活用」です。すでに宇宙にはたくさんの人工衛星が飛び、宇宙ステーシ ョンも運用されているほど宇宙空間が身近なものになってきましたが、宇宙を活用することで、 お客さまに提供している既存の地上ビジネスに新しい付加価値や貢献ができないかと検討しています。
たとえば、人工衛星を使って地上を観測し、そのデータをAI解析することで水道管の漏水検知位置を推定するシステムを開発したり、宇宙ステーションの微小重力を活用してライフサイエンスに貢献したりできないかといったことです。
また、制約が厳しい条件下でも使える製品やサービスの提供は、地上でのサーキュラーエコノミーに少なからず貢献するはず。そんな壮大なビジョンを持って、これからの社会に新たな価値を提供できるようさまざまなステークホルダーと協力して取り組んでいます。
現在の組織構成は、スペースプロダクト事業が先行している状況で、開発に従事するエンジニアが圧倒的に多くチーム全体の約8割を占めています。大変ありがたいことにさまざまなお仕事をいただけるようになってきておりますが、スペースプロダクトの仕事を獲得するためには、JAXAにしてもプライムコントラクターにしても、交渉においてビジネス的な話と技術的な話の両方を行う必要があります。そこで、ビジネス部分を私が担当して案件を獲得し、最初はプロジェクトマネージャーとして助走をつけ、それから他の技術リーダーに引き渡していくという形を取っています。
新規事業開発における機会を見つけ、それを軌道に乗せる。私自身の役割は、まさにこの事業の“0を1にする”部分を担っています。
宇宙への第一歩──時間と覚悟を賭けて混沌の宇宙ビジネスへ飛び込む
そもそも、当社が宇宙事業への参入を決断した背景には宇宙産業を取り巻く大きな時代の変化がありました。2006年頃からアメリカで COTS(Commercial Orbital Transportation Services)という民間からの宇宙サービス調達プログラムが始まり、それまで官主導だった宇宙開発が民間企業の参入へとシフトしていく流れが生まれる中で、最も大きなインパクトを与えたのが2010年代に起こった「SpaceX」の技術革新です。
ファルコン9という再利用ロケットの登場により、宇宙との物理的な距離は変わらないものの、 より低価格で高頻度に宇宙へ到達できるようになりました。これがゲームチェンジを引き起こし、2010年代から人工衛星を上げるスタートアップ企業が続々と誕生するなど、民間企業が宇宙産業に参入するきっかけとなったのです。当社も比較的早いタイミングでこの変化に気づき、2021年に宇宙事業準備室を立ち上げることができました。
しかし、技術革新だけが参入理由ではありません。現在40兆円程度のグローバル市場が将来的には波及効果を含めて160兆円にまでなると予想されており、国も宇宙産業の育成に本気で取り組んでいます。国から多くの資金が投入される中で宇宙業界ではプレイヤー不足が生じており、新規参入者でも機会を得られる可能性が高くなったという判断から、本格的な事業開発を開始することになりました。
私が宇宙事業に携わるきっかけとなったのは、石油やガス産業などに向けたプロセスオートメーション製品の企画を担当していた頃のことです。当時はヒューストンへの出張が多く、休日にジョンソン宇宙センターを見学したところ実物のロケットの迫力に感動し、宇宙への熱が盛り上がっていくのを感じました。そんな折に、社内で宇宙事業開発を立ち上げる公募があり、手を挙げたところ幸運にも選んでもらえたのです。
しかし、宇宙事業開発の立ち上げは決して順風満帆ではありませんでした。一番苦労したのは自分の思考の硬さをほぐすことでした。当社で長年同じビジネスモデルで働いてきたため短いスパンで結果が出る改良的なことしか考えられない癖がついており、宇宙産業のようにダイナミックで変化の多い分野で長期的に成長できる事業機会を考えられるようになるまで1 年ほど苦しみました。
さらに困難だったのが、社内での協力者探しです。流動的で不確実な案件への協力を求めても当然のように断られるような状況で、協力者を見つけるのにさらに時間を要しました。振り返る と、合計2年ほどは試行錯誤が続いたと思います。
そんな状況下で、なぜ諦めずに頑張れたのか。それは、当社にはこれまでも宇宙開発に関わり、 貢献してきた歴史があったからです。じつは、1957 年のスプートニク打ち上げから4年後の1961年には、横河電機のセンサーがロケットで飛んで電離層の状態を測っていたという事実があります。
また、国際宇宙ステーションの「きぼう」モジュールでは、細胞を生きたまま観察する顕微鏡システムの一部として、当社の共焦点スキャナが採用されています。これらの実績があったからこそ、最初から不可能だとは思わず「できないことはない」という見通しを持って事業に取り組むことができました。
制御技術で“人を乗せる”信頼を支える。月面有人与圧ローバー開発の最前線で
現在、私たちが最も力を入れて取り組んでいるプロジェクトの一つが、JAXAとトヨタ自動車が研究開発を進める有人与圧ローバー(※)開発への参画で、ローバーの制御プラットフォームなどの研究開発でトヨタと協業しています。
通常、お客様の宇宙プロジェクトは公に話すことはできないのですが、同社はより多くのパートナーを見つけ、パートナーが仕事しやすい環境を作りたいというお考えをお持ちです。そういった配慮から2025年9月にプレスリリースの機会をいただくことができました。
※ トヨタ愛称「ルナクルーザー」
協業の経緯としては、JAXAに対して横河電機の製品やケーパビリティ、信頼性設計についてご説明したところ、JAXAとトヨタ自動車のミーティングに呼んでいただいたことから議論が始まりました。そこから、トヨタ自動車の責任者や関係者と国内外でお会いして相互理解を深めるなど、さまざまな経緯を経て今の協業体制に至っています。
有人与圧ローバーは、月面を走行する有人のEVです。横河電機は、その中でコントローラーの概念検討を担当しています。強い放射線など月面環境の厳しさは想像を絶するものです。EVとしてのバッテリーの制御や、車の動作やナビゲーション、さらには人や機材を守るヒーターなど、多くの用途に適用できる堅牢な制御プラットフォームが必要となります。
最も重要なのは、そこに人間が搭乗するということ。生命維持にも関わる信頼性が高く安全なコンピューターシステムが求められる中で、横河電機が地上でオートメーション事業を展開してきた経験や技術を活かした制御プラットフォームを検討する形で協業させていただいています。
「遠くに行きたいなら、みんなで行け」。YOKOGAWAがめざす、グローバルで挑む
当社ならではの宇宙事業の特徴について考える時、まず挙げられるのがグローバルな事業展開力です。当社の売上の70%以上は海外から来ており、国内だけでなく世界中に事業機会を見つけに行く能力を持っています。実際に海外にたくさんのYOKOGAWAグループ拠点があり、手伝ってくれる仲間も多くいるため、宇宙事業においてもグローバルにビジネスができる体制を持っているのが大きな強みだと考えています。
宇宙事業の魅力としては、技術的な挑戦しがいのある目標があることはもちろんですが、この業界に入って特に感じるのは、宇宙開発は1社だけでは到底実現できない大きな目標ということです。経済的にも技術的にも1社では対応しきれないため、ステークホルダーと力を持ち寄って協働して、はじめて成立する世界です。そのため、別の産業分野では競合同士であっても、宇宙では隣り合って力を合わせて仕事をすることが日常茶飯事となっています。
このように、さまざまな企業とコラボレーションしながら仕事をするのが宇宙事業の魅力だと思います。加えて、企業同士だけではなく内閣府や経産省、文科省といった国も含めて一緒に力を合わせて同じ目標に向かって進むところが特徴的だと思っています。宇宙界隈でよく言われる言葉に「早く行きたいなら一人で行け。遠くに行きたいなら、みんなで行け」というものがあります。私も好きな言葉で、まさにその通りだと感じています。
「人はなぜ、宇宙開発に投資をするのか」。そんな本質的な問いについては、私なりの考えがあります。まず、常にフロンティアは存在して、そこに挑戦したい人たちがたくさんいるということです。それは学術的なフロンティアもそうですし、行ったことのないところまで人間や探査機を飛ばしたいという技術的なフロンティアもあります。その背景には、おそらく“私たちはどこから来て、どこに行くのか”というところを知り尽くしたいという、純粋な好奇心があるからです。
そのための資金調達し、技術開発を行い、地上に応用して使える技術や、信頼性を向上させるテクニック、新しい高性能部品を作るアイデアなど、人類社会に貢献する発見が出てくるのです。こうした発見は、限りなく高い目標を設定した誰かの努力の積み重ねによって、初めて生まれるものだと私は思っています。まさにこの宇宙というのは、文字通り高いところにあるわけですが、非常に挑戦的な目標です。それこそが、多くの人が宇宙事業に投資するモチベーションになっていると考えています。
今後の展望については、まずはメーカーとして宇宙産業に確実に貢献できるように自分たちの力をつけることが最初のマイルストーンだと考えています。先に述べた有人与圧ローバーについても労力や時間がかかる話ではありますが、まずは目の前の仕事をしっかりやり遂げるのが一番大事だという認識を持ち、方針として捉えています。
その上で、そこまでいくと次にまた違う視界が開けるはずです。自分たちの技術や製品を使って応用問題にも取り組めるようになると思うので、そこから事業開発の次なるフェーズが始まります。
最後に、候補者の方々に向けたメッセージとして、現在は宇宙に向けた事業開発が拡大傾向にあり、当社ではやりたいことを選びやすい、ポジションも得やすい状況にあると思います。ですから、宇宙に携わる仕事をしたくて、かつ自分で積極的にパートナーとモノづくりを通してビジネスを創り上げる活動をしたい方にはとてもいい環境だと思います。
同じ宇宙事業を行っている他社で宇宙事業参画の夢を叶えるのは確実性が無いと思いますが、当社は新規事業として宇宙をやりたい人材を強く求めているため、入社していただいて宇宙事業をやりたいと言えば確実に宇宙事業開発室で宇宙の仕事に携われるのが魅力です。
エレクトロニクスやメカなどの技術者で何か新しいモノを作りたいという気持ちを持ち、かつ腕に自信のある方。または、自分の能力が宇宙事業に役立つはずだという熱い思いを持つ事業企画、営業、品証などの方と一緒に、YOKOGAWAの宇宙事業を盛り上げていきたいです。
※ 記載内容は2025年12月時点のものです
