案件終われば、さっさと次へ。20年間フリーランスを続けてきた理由とは?
20年間、フリーランスのエンジニアとしてさまざまな案件に関わってきた小堀氏。あえて正社員にならなかった理由をこう語ります。
案件が終った段階で満足してしまうんですよね。フルパワーを出し切ってガーッと働く一方で、各企業のやり方や仕組みをどんどん吸収して自分もスキルアップする。だいたい一つの案件が1~2年ぐらいなので、もうそれで「よし、やりきった!」という感じになってしまいます。それくらいの時期に、他の企業から「新しい案件があるんだけど、加わってもらえない?」と打診が来る…という繰り返しですね。
キャリアのスタートはソフトウエア企業だったというが、入社早々からかなりのハードワークを強いられたのだそう。
専門学校を出てパッケージ製品を作っているソフトウエア会社に入社したんです。在庫管理とか顧客管理ソフトとかを作っている会社だったんですが、入社1年目にしていきなりインドに飛ばされまして(笑)。当時、インドには優秀な技術者がたくさんいるということで、インド支社を立ち上げてそういう人たちに働いてもらおうという計画が出たんです。そこでなぜか私が行くことになったんですが、もうそれが想像を絶する大変さで。プロジェクトリーダーとして身を粉にして働いて燃え尽きてしまい、もうこんな仕事はやっていられないと思いました。
で、ホテルマンになろうと思って(笑)、職業訓練所に通っているときに、以前仕事で関わりがあった人から声がかかったんです。「会社を立ち上げることにしたので、ぜひ手伝ってほしい」と。そこで中間管理職として1年勤めて退社。そこから長いフリーランス生活が始まりました。
業界・業種は違っても「モノづくり」の根本は同じ
その後、ベンチャーだけでなく日本で誰もが名前を聞いたことがある大企業から、世界的に実績のある外資系企業までありとあらゆるメーカーを渡り歩いた小堀氏。そのキャリアの途中には意外な職種も混じっています。
20代後半ぐらいのころ近所によく通っていたお弁当屋さんがあって、あるたびふと思いついて、店主に「土日だけ雇ってくれませんか?」と頼み込みました。別に料理がそれほど好きだったわけではないんですが、「お弁当」というプロダクトに惹かれたんです。お弁当箱という限られたスペースの中に、デザインとか予算とか味とかいろんなものを工夫して完成させていく世界感がたまらなく魅力的に感じられました。
ときにはそこに、法事の仕出しや幼稚園の行事用といったテーマ設定が関わってくることもあります。「これは腕が鳴るぞー」って土日にせっせと通ってメニュー考えて利益率を上げるためにソースまで手作りして……2年くらい経ったころ、店主が別の事業を興すからそのお弁当屋さんを任せたいと言われたんですが「そのつもりはないので」ってお断りしました(笑)。平日はプログラミングの仕事をやっていましたから。店長は笑って「そっか…残念だね」と言ってくれましたが、このときの経験はものすごく良い財産になりました。
その後、ボードゲームの製作・販売を行うメーカーの立ち上げも経験しています。
小さい頃、うちはあまり裕福な家庭ではなかったのですが、家族でボードゲームをしたのがものすごく楽しい思い出として心に残っていました。なので、親子で遊べるボードゲームをつくりたいと思ったんです。CLUB BLACKという屋号を掲げて、相変わらず平日は仕事をしながら、時間をみつけてはこつこつと企画や製作を続けました。東京2020オリンピック・パラリンピックマスコットのミライトワとソメイティを手掛けたデザイナーの谷口さんと一緒に作ったシリーズもあります。
飲食業とはまた違った業種で、しかも今度は自分自身が事業主という立場。経営や製作体制、流通、メディア対応などさまざまな学びがありましたが、中でも一番の収穫が、日本よりボードゲームが盛んなドイツに勉強に行っていたとき、展示会で私が昔遊んでいたボードゲームの作者とお会いできたことです。「僕、あなたのゲームで小さいころによく遊んでたんです」って伝えた時は、さすがに胸にこみあげるものがありましたね。その方とは今でも親しくしていただいています。
作り手が描いた「思い」はちゃんと相手に伝わること、そして予算や納期といった制限があるなかで工夫するからこそ良いモノができるということを、小堀氏はさまざまな事業を通して実感したと言います。
20年ぶりに会社員に。小堀氏から見たトライアローの魅力とは?
そんな小堀氏は2020年にトライアローに入社。20年ぶりに“会社勤め”をすることになります。
自分一人だけのことを考えればフリーランスでキャリアを終えるという方法もありました。実際、次の案件の声もかかっていましたが、そろそろ後進を育てたいなという気持ちになったんです。私がこれまで得てきた技術や知識、仕事の進め方などのスキルを、せっかくだから誰か活かしてくれないかなと。
実際のところ、技術や知識はその気になれば一人でも学べますし、そもそもIT業界は変革のスピードが速いので誰かが教えるということでもないのかもしれません。でも、それでは先人と同じだけの時間がかかってしまう。すでにそれを苦労して手に入れた人たちが上手にリードすることで、効率的に習得時間を短縮させ、新しい技術を生み出すことにエネルギーを割くことができると考えています。
加えて、さまざまなドメインで製品を提供する多くのメーカーと働くなかで経験したマネジメント法や、他業界を含めて実感したモノづくりとの向き合いなど、私にしか伝えられないものがあるのではないかと思いました。
トライアローという組織に惹かれたのも入社理由の一つ、と小堀氏は言います。
よく使われる言葉ではありますが、やっぱり「人」なんですよね。作り手も受け取り手も一人の人間なんだということを、トライアローという会社は大切にしてくれていると感じます。もちろんプロの仕事だから予算や納期といった制約はある。「それをクリアしてお客さまに満足してもらうことは技術者として何よりおもしろいでしょ?」って上の人たちが考えているんだと思うんですよね。だから会社全体の雰囲気もそういう活気が感じられるんです。今後AI技術がいくら進んでも、そのAIをつくるのもAIを使うのもやっぱり人。人との関わりに興味がないと、IT技術って発展しませんよね。
トライアローはメインが派遣事業ですが、派遣スタッフに関してもとことん技術者ファーストです。気持ち良く働ける職場かどうか、新しいスキルを学べるかどうかということをとても大事にしていると聞いています。
社会的に意義があるシステムの開発を通して、後進の育成に力を注ぎたい
小堀氏が現在関わっているのは、web SCADA という分類に属する絶縁監視システムの開発です。
絶縁監視システムとは、施設内の電気回路で漏電の予兆を監視するシステムのことです。電気回路を24時間モニターし、遠隔地から担当者がスマホやパソコンで状態をリアルタイムで確認することができるので、万が一漏電による不具合や事故が起こると大きな損失につながりかねない24時間稼働の工場や病院、官公庁、大規模スタジアム・アリーナなどに導入されています。
この製品は、もともと 『遠測(えんそく)先生 Ⓡ』 という名でスリーイーテックという企業が手がけていたものです。技術者の高齢化によって存続の方法を探っていたところ、この製品の将来性に魅力を感じていたトライアローが株式を100%取得する形で子会社化し、当社で開発を担うことになったのです。
図らずも、スリーイーテックから継承した絶縁監視システムの開発を通じて、自身のキャリアもまるごと継承していこうとしています。
年齢を考えると、あと何人育てられるかなというところ。10人はいかないでしょうね。私は意外とマインドが社畜なので(笑)、関わるとなったらガッツリ向き合いたいタイプ。クリエイティブの面白さをとことんお教えしたいと思っています。
といっても、自分のコピーを作りたいというわけではありません。それだとチームで仕事をする意味がないからです。トライアローってなかなかおもしろい会社で、個性的な社員を矯正せず自由にさせてくれる懐の深さがあるんですね。チャレンジを良しとする文化もある。仕事がデキる社員だけが大きな顔をしているわけじゃなく、将来のためにコツコツ種を蒔く社員もちゃんと評価してくれる。そういうことの大切さもちゃんと伝えていきたいなと。
フリーランスも楽しかったけど、会社員として根を張って仕事をするのもきっと楽しいと思います。この歳になったからこそ、そう思えるのかもしれませんが。
ちなみに社内外で小堀氏は「顧客の要望を先回りして準備しておくといった事に高い基準を持っている」と評されていますが、こうした開発についての厳しい基準を持つに至ったきっかけを聞いてみました。
20代のころ、要件定義の項目は満たしていたのに、満足してもらえなかったことがありました。その時、顧客は望んでいることをすべて言語化できているとは限らないと気づいたんです。それからは、「要望の裏にある真の目的は何か」を常に考えるようにしています。例えば不具合の原因を調査してほしいという依頼があったら、調査報告で終えるのではなく不具合が起こらないようシステムを改修しておく。もちろん勝手に変えるわけにはいかないので、実装まで終わらせておいて実際にそれを使うかどうかの判断は顧客に任せます。まあ、だいたいは使いたいと言いますけどね。そして、また次の案件がある時にはぜひ参加してほしいと言っていただけます。それはフリーランスにとって何よりの評価。嬉しいですよね。
小堀氏はそうした喜びを多くのエンジニアたちに味わってほしいと言います。
顧客から言われてもいないことを自主的にやるのは面倒だと感じるかもしれませんが、そうした姿勢で仕事を続けていると、周りからの見る目が変わってくるのに気づくと思います。いったんそうなれば自分の意見は各段に通りやすくなるし、今までより早い段階から関わらせてもらえるようになります。「言われたことを言われた通りにやる」状態から抜け出すのは意外に簡単なのです。
受託開発だけでなく製品開発も同じです。また、不特定多数の顧客に向けた製品開発の場合は、販売・導入実績がカスタマーからの評価ということになります。総合力が問われるだけに、開発技術だけでなく、マーケティングも含めた仕事の進め方や、顧客や異なる職種の同僚との付き合い方まで遠慮なく聞いて欲しいです。
モノづくりをもはや一般的に言われるところの「仕事」とは捉えていないと言う小堀氏がトライアローでの新しいキャリアをどのように充実させていくのかに期待が高まります。
