金型設計はタイヤの仕上がりを左右する
市販用タイヤを開発するRE(※)タイヤ開発部の川端は、金型「モールド」を設計するチームでリーダーを務めています。
※ Replacementの社内略号。リプレイスメント、交換用・市販用のこと
川端 「タイヤの最終的な形状を整えて仕上げる加熱の工程、専門的には加硫工程と言いますが、このステップではたい焼きの焼き型のようにタイヤの表面に模様をつけるための金型が必要になります。タイヤ表面の形状は、視覚的に模様として認識されるデザイン性だけではなく、走ったり止まったりといったタイヤの性能を約束する重要な役割を持っています。
だからこそ、仕上がったタイヤを金型から取り出したとき、タイヤの設計仕様通りにできていることが大前提、かつ一番大事です。金型は大きく3つのパーツから構成されています。私のチームは、タイヤの設計仕様書を前工程であるデザイン設計担当チームから受け取って、タイヤの設計仕様と実際の金型が整合するかを検証しながら金型製作図を作成します」
川端率いる金型図面チームは、金型製作図面の作成を通じてタイヤの仕上がりを左右する最後の砦となります。
川端 「スタッドレスタイヤなどを見るとわかりやすいと思いますが、タイヤの表面には、細かな溝や線が刻まれています。ミリ単位で調整されたデザインを巨大な金型で再現する難易度は実は高く、各タイヤ工場内にいる技術課員と連携して、実際にタイヤを製造したときに不良品が出ないように設計できているか、金型製作図面を細かく確認し、検証します。
工場の現場では実物を目の前にして作業をしています。バーチャルなデータと向き合う私たちは、常に書いた図面通りのものができあがっていることを前提に現場とコミュニケーションをとっていますが、金型というものは使い込むほど摩耗も劣化も進行していきます。
金型の使用中に問題が発生しないよう、データとリアルの違いを理解した上で、金型に作用する影響について想像力を働かせ、現場と緊密に連携を取りながら検証を進めることが、作図担当者の重要な役割だと実感しています」
コンピュータ支援設計(CAD)との出会いが今につながる
川端は、意外なきっかけからTOYO TIREで作図を担うことになりました。
川端 「実は、学生時代はアメリカの大学で会計学を勉強していたんです。国際公認会計士をめざしていたのですが、実際に学んでみるとしっくりこなくて……。主専攻ではない教養科目で、たまたまCADを使って設計する授業を受けたとき、こっちの方が自分には合っているなと直感しました。CADで何かを作り上げることが好きだったんだと思います。TOYO TIREに巡り合わなければ、もしかしたら、建築業に携わっていたかもしれませんね(笑)」
大学を卒業して帰国後、CADに関係する仕事がしたいという想いを抱き、エンジニアの派遣会社へ就職。2012年、派遣先としてTOYO TIREを訪れます。
川端 「面談のために初めてTOYO TIREの社屋を訪ね、通された部屋でエアレスタイヤ『noair』を目にしました。タイヤはただの黒い輪っかだと信じて疑わなかったところに、ポップカラーで不思議な形状のタイヤを目にしたあの衝撃は今でも覚えています。これが未来のタイヤなのか!と。
面接官だった当時の課長に『おもしろいタイヤですね』と思わず話しかけると、タイヤについて熱く、そして気さくに話してくださったんです。今まで気に留めたこともなかったタイヤの魅力とTOYO TIREの温かな雰囲気に惹かれ、ここで働くことを決めました」
着任後、早速CADを用いた作図作業を任された川端は、再び驚愕します。
川端 「初めて金型の設計図を作図したときのことは忘れられません。未来のタイヤに続き、私が持っていたタイヤのイメージがまたしても覆されました。単純なゴム製品に見えていたタイヤが、かなり複雑な構造で成り立っていることを初めて知りました。
専門用語や作図方法を習得するのにも骨を折りましたが、今までのタイヤのイメージを全部捨て、タイヤを構成するパーツやパターンの意味を一つひとつ理解し、図面作成につなげていくのも同じくらい難しかったです」
タイヤのおもしろさに目覚めた川端は、金型設計の仕事に没頭。高い実力と実績からチームリーダーに抜擢され、2018年にTOYO TIREへ転籍しました。メンバーを率い、順調に業務を進めていた川端でしたが、ある時、大きな問題に直面します。
TOYO TIREのこだわりを守るために、委託ミッションを完遂する
TOYO TIREにとって、タイヤのデザインは大きな特長の1つ。そのユニークなパターンデザインは、国内外の多くのファンから支持を受けています。ところが、そのデザインを金型に起こす作業が、生産に対して間に合わないかもしれないという事態に直面していました。
川端 「当社では、TOYO TIRESブランドとNITTOブランドの2つを展開しています。それぞれのブランドの中にはさらに複数の商品シリーズがあり、タイヤサイズも大から小までさまざま。その数多あるサイズごとに設計通りの性能を発揮できるよう、メンバーが金型の寸法を一つひとつ微調整していきます。
TOYO TIRESのタイヤが欲しい!と指名で購入されるお客様が年々増え、シリーズ数やサイズ数も充実してきました。嬉しいことに設計図の作図リクエストも増えた一方、作業スケジュールがタイトになってしまって……。金型のクオリティーを維持するために、長年当社の金型製作を依頼し、信頼関係を築いている海外の金型メーカーに作図業務の一部を手伝ってもらうことを決めました」
川端は金型の作図ノウハウを教えるため、金型メーカーが事務所を構える現地へ渡航しました。通常であれば半年かけて金型作図方法の基礎教育を行うところ、川端に与えられた出張期間はわずか2週間。言葉の壁や時間の制約を乗り越えて川端が伝えた一番大事なことは、「TOYO TIREのこだわりを理解した金型図面の作成」でした。
川端 「相手は金型メーカーですから、設計図面をもとに金属を加工し、金型を製作することについては知識豊富な専門家です。一方、タイヤの設計仕様から金型製作図面を描き上げること自体はゼロからのスタートなのでイチから方法をレクチャーしました。
中でも特許やデザイン性といったTOYO TIREの強みをよく理解した上で作図してほしい、ということを伝えるのが難しかったです。最終目標は、限られた時間内で手順を教えるだけではなく、一番大事な真髄を理解してもらうこと。そのために、国内での事前準備を入念に行い、現地通訳の方の助けも得ながらできる限り伝え方に工夫を凝らしました」
川端のミッションは無事に終了。2023年6月現在は委託先のメーカーと連携し、安定したスケジュールで作図を進めています。
川端 「このミッションを通して、達成感とともに改めて今の業務に対する誇りを感じました。街中で、自分たちが試行錯誤して作り上げた金型で作られたタイヤを見かけると、やっぱりうれしいものです。大きな決断と使命でしたがやり遂げて良かったと思います」
結束力を軸に、金型設計を追究する
川端は、リーダーとして業務にあたる上で常に心がけていることがあります。
川端 「TOYO TIREの理念には、会社の使命を果たすために全役職員が等しく大切にする価値観が5つあります。『公正さ』、『誇り』、『主体性』、『感謝』、『結束力』の中で私がとくに大切にしているのは『感謝』と『結束力』の2つです」
とくに結束力──仲間と共に知恵と力を結集し、常に創意工夫と改良改善を続けるマインドは川端の仕事にはっきりと表われています。
川端 「いつも後工程のことを第一に考えて仕事に取り組んでいます。部下である自分のチームメンバーはもとより、国内タイヤ工場で連携する技術課員にも、国外で作図している金型メーカーの担当者にも、自分の設計業務に起因する無駄な手間を掛けさせない。
チーム全体においても一つひとつの工程を丁寧に確認しますし、そのためにリーダーとしてメンバーの作業に寄り添うことを大切にしています」
ただ厳然と管理するだけのマネージャーではなく、プレイヤーと一緒になって考えサポートできるリーダーでありたいと川端は微笑みます。
川端 「生産中にどうしても出現してしまう不良品を1本でも減らすため、過去の経験を糧とし、設計に工夫を凝らして、チームみんなで日々より良い『ものづくり』をめざしています。こつこつと積み重ねる、一見地味な作業ですがやりがいを感じます。ここが、国内外で待ち望まれているTOYO TIREらしいタイヤづくりの砦ですから」
すべては、お客様に喜んでもらえるタイヤづくりのために。川端は今日も金型と向き合い続けます。
※ 記載内容は2023年6月時点のものです
