企業研究を進める中で、企業が投資家向けに発信している経営状況や財務状況など、いわゆるIR情報を目にすることも多いのではないでしょうか?
そうしたIR情報の一つ、「有価証券報告書(有報)」に加わる情報があります。それは「人的資本」に関連する情報です。人的資本に関連する情報は、就職活動で企業を知ったり、入社を決める際に判断の材料になったりもします。
本記事では、「人的資本」の概要と、企業が人的資本の開示に向けてどのような取り組みを行っているのかをご紹介します。
人的資本とは?
「人的資本」とは企業に所属する人材を資本として捉える考え方で、人的資本の価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営を「人的資本経営」と言います。「ISO30414」という国際標準化機構(ISO)が定めた人的資本に関する情報開示のガイドラインも設定されており、世界の中でも一部の国では開示が義務化されています。
そして、日本国内でも有報の提出が義務づけられている上場企業などは、2023年3月期決算以降の有報にて人的資本を開示することが義務づけられることとなりました。
2022年8月30日に公示された「人的資本可視化指針」の中では、次の項目が開示事項の例として記載されています。
・育成(リーダーシップ、育成、スキル/経験)
・エンゲージメント
・流動性(採用、維持、サクセッション)
・ダイバーシティ(ダイバーシティ、被差別、育児休業)
・健康・安全(精神的健康、身体的健康、安全)
・労働慣行(労働慣行、児童労働/強制労働、賃金の公正性、福利厚生、組合との関係)
・コンプライアンス/倫理
こうした情報は、入社後にどんな人たちと、どんな環境で働き、どのようなキャリアアップサポートやライフイベントへのサポートが受けられるのかなどを知ることにつながるのです。なお、企業によっては、有報以外に採用サイトなどでも情報発信をしていることもあります。
上場企業は「人的資本開示」に向けてどのような取り組みを行っているの?
では、「人的資本開示」が義務づけられている規模の企業は、開示に向けてどのような取り組みを行っているのでしょうか?
株式会社Macbee Planet(本社:東京都渋谷区、以下Macbee Planet)が実施した「人的資本開示と人事戦略に関する意識調査」では、上場企業の取り組みの実態が明らかになっています。調査の対象になったのは、上場企業のIR・人事・経営企画担当者110名です。
まず、「人的資本開示」に向けての取り組みの実施有無を問う質問では、「実施している」が81.9%、「実施していない」が8.2%という結果になりました。
さらに実施している取り組みを尋ねると、次のような結果になっています。
上記で回答した取り組み以外に実施している取り組みを尋ねると、「人事労務方針の情報整理」や「人材養成の過程の開示」といった回答が寄せられました。
<自由回答・一部抜粋>
・55歳:人事労務方針の情報整理。
・54歳:人材養成の過程の開示。
・51歳:経歴情報の見える化、スキルの見える化、成績の見える化。
・54歳:健康経営に関する具体的成果。
・41歳:福利厚生。
・57歳:人間ドック。
・34歳:教育システム。
・44歳:ESGの向上や多様性のある人事。
現段階では、課題の特定や経営戦略との連動、KPI設定など、開示や実際の施策の準備段階という企業が多いように思われます。
一方で、「エンゲージメント向上のための取り組み」や「ダイバーシティを意識した就業環境の整備」、「リスキリングの機会提供・取り組み支援」や「健康経営やWell-beingを達成するための取り組み」といった、具体的な取り組みを行っている企業も少なくありません。
エンゲージメントは従業員の企業への愛着心や貢献意欲を指し、エンゲージメントが高いと生産性の向上や、離職率の低下に影響があると言われています。
「ダイバーシティ」は労働人口の変化やライフプランの変化に適応することで、人材を確保するだけでなく、多様な価値観を持つ人々が集うことでイノベーションを創出し、企業の競争力をあげることにつながります。
次にリスキリングは自身の業務に取り組みながら、新しいスキルや知識を身につけ、新たな業務や職種に挑戦するものです。
また、「健康経営」は社員の健康を守り、活躍を後押しし、企業としての持続可能性を高める経営の在り方、「Well-being」は心身が健康で、社会的にも満たされた状態を指します。
こうした情報を知ることで、自分自身がその企業で働くイメージやキャリア形成のイメージもつきやすくなるのではないでしょうか?
企業選びでは人事戦略の変化も知ることが大切
これまでご紹介してきたように、人的資本の開示に向けて取り組みが進行している最中ではありますが、今回の調査に協力した上場企業のIR・人事・経営企画担当者の8割が「人事戦略への変化」を直近1~2年で実感していると回答しています。
その変化の内容としては、「ジョブ型雇用の実現に対する意識向上」や「デジタル人材(DX人材)に対する意識向上」が上位にくる結果となりました。
従来、日本の新卒採用においては終身雇用を前提として、職務や勤務地を限定せずに一括で採用し、入社後に配属を決めるメンバーシップ型雇用が一般的でしたが、新卒採用においても企業が求めるスキルを持った人材を採用するジョブ型雇用を導入する企業が増えています。
「デジタル人材に対する意識向上」にも関連する話ですが、より専門性の高い人材を雇用することで、企業としての競争力向上を図るのです。
また、女性活躍や男性の育児休業取得、副業の推進など、働き方は多様化していますし、リスキリングなど入社後のスキルアップやキャリアアップの支援に注力する企業も増えています。
こうした人事戦略の内容は開示が望ましいとされる人的資本の項目にも含まれているものであり、企業の開示する情報を見ることで人事戦略について、触れることが可能です。
「人的資本」という言葉は、日本国内においては浸透の最中ではありますが、その中にある取り組み自体はこれまでも取り組んできたと言う企業も少なくないでしょう。すでに取り組んでいる企業については、次のページから知ることができます。ぜひ併せてご覧ください。
・【特集】健康経営
・【特集】DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)
・【特集】男性育休
・【特集】リスキリング
・【特集】社員の成長を後押しする社内制度
【調査概要】人的資本開示と人事戦略に関する意識調査
・調査方法:IDEATECHが提供するリサーチPR「リサピー®︎」の企画によるインターネット・調査
・調査期間:2022年12月26日〜同年12月27日
・有効回答:上場企業のIR・人事・経営企画担当者110名
※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはなりません。
