声優をめざす出発点は中学時代に感じた「ロマン」
もともとは姉がアニメ好きだったんです。小学生の頃、そんな姉と一緒にアニメを観るようになり、僕もその世界にのめり込んでいきました。宇宙船の艦長、戦闘ロボットの操縦士など、実際には存在しないアニメの中のヒーローに憧れ、そこにロマンを感じたんです。
声優になれば自分もヒーローを演じられる。そう思って高校卒業後、声優コースがある専門学校に入りました。さらに専門学校を出たあとは声優事務所にも所属。でもすぐに仕事ができるわけではありませんでした。専門学校で学んだだけでは、やっぱりスキルが足りないんです。
もちろん声優としての収入なんてほとんどなくて、アルバイトとのかけもちです。ただバイトの収入の大半は、スキルを磨くための養成所通いに消えていきました。事務所の仲間たちも同じような状況で、まわりでは声優を諦めて就職する人がどんどん増えていきました。
夢やロマンを追うだけでは食べていけない。現実はそう甘くないですね。僕自身もバイトとの「二足のわらじ生活」を6年ほど続けましたが、さすがに20代も後半になり、将来について考えるようになりました。
夢と現実の狭間で、新たな道での「独り立ち」を決断
両親は僕の夢を温かく応援し、「好きなだけ頑張ってみなさい」と背中を押してくれていました。その思いやりには本当に感謝しています。ただ、その優しさに少し甘えてしまっていた部分もあったと、自分でも感じています。実際、アルバイトで得た収入のほとんどを養成所の費用などに充てていたので、親の支えに頼りすぎていたかもしれません。
とにかく「先立つもの」がなく、貯金も一切なし。この先どう生きていくかも見通せていませんでした。このままじゃダメだとはわかってはいましたが、まだ夢と現実の間で気持ちが揺らいでいました。
そんな中で、自分が変わるきっかけの一つになったのが、姉が仕事で上京し、結婚したことです。一緒にアニメを観て、声優という夢を与えてくれた姉も新しい家庭を築く。自分ももう20代後半で、ちゃんと1人で生きていけるようにならないといけない。強い決意が生まれ、声優を諦めて新たな道へ進むという決断をしたんです。
そこで興味を持ったのがIT関連の仕事です。義理の兄や従兄弟がITエンジニアをしていて、すごいなぁと思っていたんです。とはいえ、高校も文系で最終学歴は声優の専門学校卒ですから、もちろん知識や経験はまったくありません。
従兄弟から仕事の話を聞いても「C言語って何?」「Pythonは何をするもの?」という状態でした。それでも自動処理などで世の中を便利にする仕事だと聞いて興味が増し、挑戦する決意をしました。
同じエンジニアだけど、ITではなく船の設計の道へ
生まれて初めての就職活動。「独り立ちしないといけない」「未経験だけどITエンジニアになりたい」という熱意だけでゲーム関連の会社などを受けましたが、やはり現実は甘くありません。結局ゲーム関連の会社では採用はされませんでした。そんな中で、紹介してもらった企業がSSEです。
「意欲のある未経験者を積極的に採用してエンジニアへと育成している」と聞いて調べてみると、実際に研修体制がとても充実していました。さらに正社員として採用されて、大手企業のプロジェクトを経験でき常用型派遣(無期雇用派遣)という働き方にも興味を持ちました。ここなら安定した収入を得られるし、豊富なプロジェクトの中で自分の可能性を広げられる。そう思ったんです。
面接も「The 面接」みたいな堅苦しさはなく、ざっくばらんな雰囲気の中で自分のことを飾らずに話すことができました。無事に内定の連絡をもらったときは本当に嬉しかったですね。夢を諦めた悔しさ、就活での苦労が報われた気がして、家の中で「よっしゃ!」と大声を出してしまったくらいです。
ひとつだけ「あれ?」と思ったのは、最初の配属先として造船会社を勧められたことです。仕事は機械系のCAD設計エンジニア。望んでいたITではなかったのですが、自分の性格や好きなことをもとに勧めていただいたんです。ここで幼少期の記憶がブワッと蘇りました。九州で家族と一緒に海中遊覧船に乗って「船ってカッコイイ!」と感動した思い出です。アニメの宇宙船に憧れていたこともあり、一気に興味が湧きました。
考えてみればITもCADも未経験ですから、僕にとっては同じ挑戦です。「やってみたい」と伝えると、すぐに研修を用意してくれました。配属前に専門スクールでAutoCAD・機械設計・製図の基礎を学ぶ講座です。これが「未経験者を積極採用して育ててくれる」ということなんだと実感しました。
新たな「ロマン」へ一直線
配属先では、大型タンカーやコンテナ船、フェリーや艦艇などさまざまな船を手がけていて、多くの人が力を合わせて一隻一隻をつくりあげていくことにロマンがあると思いました。
入社からまだ2年弱ですが、いまは僕も交通装置を担当するチームの一員として、金物や鋼管のCAD設計をしています。交通装置とはガス管などが集中する船底で、人の交通の流動性を高める装置のこと。たとえば配管の上に適切な床板を張ったり、手すりをつけたりして歩きやすくするといった仕組みです。
僕が部品や交通装置の設計に関わっている船に、実際に乗船するという経験もできました。このときは興奮して船上で「うわー!」と声を出してしまいました。声優は現実ではできないことを疑似体験できることが魅力ですが、この仕事は巨大な船を一からつくりあげて現実として海に送り出すことができます。これって壮大なロマンだとあらためて感じました。
正直、わからないことも多くて苦労もありました。でも就業開始してからはSSEのエンジニアサポーターの方が定期的な面談でフォローしてくれて、その都度モヤモヤを解消することができました。
いまは配属先の人たちとの相互理解も深まり、なんでも気軽に話せます。そんな中で学んだのが聞くことの大切さです。知りたいこと・興味を惹かれることがあれば、まずは好奇心を持って自分で調べる。それでもわからなければ積極的に聞く。「聞かないで動かない時間」をなくすことが、成長につながるんです。職場ではその姿勢を「意欲的で積極性がある」と評価してもらっているみたいです。
声優の夢を諦めたときは挫折だと思っていましたが、いまはまったく違う気持ちです。迷惑をかけた両親への感謝、独り立ちできた喜び、新しい夢を見つけた嬉しさの中で、充実した毎日を送っています。何事にも興味を持って挑戦することの大切さも知りました。
だから今後は交通装置以外の設計もやってみたいんです。船全体に関われば、いま感じているロマンもさらに大きくなるはず。それをとことん追いかけてみたいと思っています。
※ 記載内容は2025年11月時点のものです
