チームで連携して課題を解決。ASSBの実用化に向け、生産技術の開発を加速する
EVの普及を促進させる革新的な技術として注目を集めるASSB。その実用化に向けて開発を進めている日産は、横浜工場内にパイロットラインを立ち上げ、技術的な課題の解決に取り組んできました。
このプロジェクトにおいて、性能や品質を支える重要なプロセスとなるのが電極工程です。パワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部に所属する3人は、それぞれ異なる立場からASSBの量産化に挑んでいます。
樋口:電極工程は、主に分散・塗工・乾燥という3つの工程に分かれています。簡単に説明すると、まず活物質や固体電解質などの粉体材料を液体と混ぜてスラリーを作製するのが分散工程、次にそのスラリーを基材に塗布するのが塗工工程、そして、塗布したスラリーを乾燥させるのが乾燥工程です。
私はそれらの工程全体の取りまとめ役として担当の業務進捗と工数管理を行い、選択と集中によってオペレーションの最適化を図っています。
菊池:私は樋口さんの部署が策定したラインのコンセプトにもとづき、設備の詳細な仕様を決定して設計・製作する部署に所属しています。現在は別の業務を担当していますが、ASSBのパイロットライン立ち上げ計画時からプロジェクトに携わってきました。
2022年度から段階的にパイロットラインの構築を進め、電極工程における塗工と乾燥工程の設備導入を担いました。
鈴木:私は品質保証部門に所属し、パイロットラインで試作するセルの試験と品質評価を担当しています。ラインの立ち上げ時には、試作品の計測に必要な建屋や設備、試験環境の構築にゼロから取り組みました。
パイロットラインでの試作が本格的に始まりつつある現在は、試作したセルの充放電試験を通じて性能を検証し、改善していく役割を担っています。
3人が量産化に向けて取り組んできたASSBは、EVのゲームチェンジャーとして期待される次世代電池です。その自社開発に日産が挑む意義について、樋口はこう語ります。
樋口:エネルギー密度が高いASSBは、航続距離が長くなり、充電時間も短くなるなど、従来のリチウムイオン電池における多くの課題を解決できると期待されています。また、電池の薄型化・小型化によってデザインの自由度も高まるため、お客さまにクルマの新たな価値をご提供することが可能です。
こうした大きな可能性を秘めたASSBは、現時点ではまだ自動車業界において実用化されていません。この革新的な技術を世界に先駆けて確立し、市場をリードすることに、ASSBパイロットラインの大きな意義があると考えています。
それぞれ異なる専門領域を担いながらも、同じミッションに向かい、部署の枠を越えて連携している3人。オープンでフラットなコミュニケーションを通じ、課題解決のスピードと精度を高めてきました。
菊池:プロジェクトに従事していた数年間、樋口さんとはほぼ毎日のようにコミュニケーションを取ってきました。設備や工程の立ち上げにおいてスピード感が重要になる中、とくに大切にしてきたのが、Face to Faceでのやり取りです。ときにアドバイスをもらいながら、率直に意見を交わして課題に取り組んできました。
また、鈴木は同期なのですが、チームへの参加は私のほうが早かったので、スムーズに連携できるよう積極的に情報共有することも心がけていた点です。
鈴木:パイロットラインでの試作が本格化したこともあり、樋口さんのチームとの連携が以前にも増して重要になってきていました。その中で業務を円滑に進めるためにも、日々の情報共有やフィードバックを大切にしています。
今年から事務所も同じになり、物理的にも距離が縮まったことで、連携体制はさらに強化されていると感じています。
未来のモビリティを自らの手で。生産技術開発の最前線で、新たな挑戦を楽しむ
それぞれの道を歩み日産へ新卒入社した3人。共通点は、挑戦を求める姿勢でした。
樋口:学生時代から「まだ世の中にないモノを生み出したい」という想いがありました。当時、日産は世界初の量産型電気自動車「リーフ」の発表など、新しいことに果敢に挑戦する姿勢に惹かれました。
また、自動車メーカーは「Tier0」とも呼ばれるように、開発の上流から携わることが可能なため、幅広い技術領域に挑戦できると思い、入社を決めました。
菊池:学生時代、あるインターンシップを通じて社内設備の設計・開発を行う仕事に興味を持ち、この職種を軸に就職活動を進めていました。
最終的に自分がやりたいことができると感じたのが、日産です。完成車メーカーとして、より高い品質と技術力が求められる環境で成長していきたいと考え、入社しました。
鈴木:私はエンジニアとしてモノづくりに関わりたいと思い、さまざまな企業を見ていた中で、開発から設計まで携われる完成車メーカーを志望しました。
日産を選んだ決め手は、「技術の日産」を実感したことです。面接で出会った社員の方々との話を通じ、本当に技術が好きな人が集まっていることがわかりました。実際に入社してみて、職位に関係なく全員が根っからのエンジニア気質だと感じています。
入社後、3人は別々のフィールドへ進み、生産技術開発の最前線で経験を積んできました。
樋口:私は2015年に入社し、エンジン部品の加工を担う部署に配属されました 。その後、VCエンジン(可変圧縮比エンジン)の新構造パーツの加工プロジェクトに参画し 、2023年に現在の部署に異動してからは、ASSBのパイロットライン立ち上げに従事しています 。
菊池:私は2020年に入社して6年目になります。最初の2年間はエンジン部品の新車種対応に携わり、エンジン組立設備の改造や量産体制の構築を担当しました。
3年目からASSBのパイロットライン立ち上げプロジェクトに参画し、現在は新車種のギアキャリア部品や、次世代電動パワートレインX-in-1のハウジング部品(モーターや発電機を収納する構造体)に関わる加工ラインの立ち上げに携わっています。
鈴木:私も菊池と同じく2020年の入社です。一貫して品質保証業務に従事し、最初の3年間はエンジン部品、それ以降はASSBを担当しています。これまでの経歴ではとくに、日産初のVCRエンジンを搭載した「エクストレイル」のプロジェクトにおいて、部品試作から市場投入まで一貫して品質保証に携わったことが印象に残っています。
現場の第一線に立ち、成長を重ねてきた3人。仕事をする中で、技術者としての軸となる価値観を築いてきました。
樋口:私が大切にしているのはチャレンジ、スピード、原理原則、そしてリスペクトの4つです。若手の頃はとにかくチャレンジとスピードを重視し、経験値を上げようとしていました。
しかし3年目を迎える頃に気づいたのは、質が高くスピードも上げるには原理原則が重要だということです。さらにチームを率いる立場になった今は、個性を尊重した指導を意識し、相手をリスペクトすることを心がけています。
菊池:私が大事にしているのは、スピード感と、現場・現物・現実を重視する三現主義の両立です。ASSBのような未踏のプロジェクトにおいて、日産全体の競争力を向上させるには、一人ひとりの業務スピードを上げることが欠かせません。
そのためにも重要となるのが三現主義です。実際に現場で現物を見て、事実を素早く的確に把握し、課題解決のスピードを上げることを意識しています。
鈴木:私は常識を疑うことと、視点を変えることを大事にしてきました。目の前の業務を当たり前だと思わず、絶えず改善の余地や別のやり方がないかを追求しています。
とくに品質保証の現場では、データを見る視点を意識的に変えるようにしてきました。その中で得た新たな気づきを活かして、自ら提案ができる環境が日産にはあるため、改善に取り組みやすいと感じています。
ゼロからの積み上げが、やがて確かな成果へ。地道な試行錯誤の先に得たやりがい
次世代電池の実用化に向け、ASSBパイロットラインの立ち上げに挑んだ3人。部の垣根を越えてチームで知見を結集し、試行錯誤を重ねて技術を開発してきました。
菊池:私が導入を担当した電極塗工乾燥機は、通常の設備とはスケールの異なる大規模な機械です。本来であれば専業のメーカーに製造から設置まで依頼するのですが、スピードと柔軟性を重視し、今回は私たちのチームがそのミッションを担うことになりました。
全体像が見えない中、メーカーの工場に何度も足を運び、作業をイメージしながら詳細な仕様を設計。私たちが思い描く設備を形にするため、24社ものパートナー企業に協力してもらいながら、装置を一つひとつ仕立てていきました。
樋口:まだ世の中にない製品を作るために、私たちは開発の道筋がまったくわからないところからスタートしなければならなかった。何十通りもの手段を併行して検討し、ひとつ成果が出ればそこからまた新たな課題が派生していく。そんなふうに、やるべきことが雪だるま式に増えていく状況でした。
その中で意識したのは、優先順位の見極めです。リソースが限られる中、どれを残し、どれを捨てるべきか、選択と集中が重要になります。的確な判断を下すには、広い視野と専門知識が欠かせません。そのため他部署や関連会社の知見を積極的に取り入れながら、最適解を探り続けてきました。
鈴木:品質保証の現場でも同様の課題がありました。ASSBの評価プロセスは、社内に前例がありません。まさにゼロからの立ち上げで、情報を集め、仮説を立て、検証して修正するというステップを地道に繰り返す必要がありました。
開発チームや装置メーカーなど、社内外の専門家と対話を重ね、最適解を探る中で私が大切にしていたのは、「答えのない仕事だからこそ、自分の考え方を持つこと」です。常に最新のトレンドやデータを追いかけ、知識をアップデートしながら、自分なりの正解を探し続ける日々でした。
樋口:ASSBがまだ実用化されていないということは、その製品を生み出すための設備も当然存在しない。そこで菊池さんの部署が中心となり、他社とも連携しながら耐久試験を何度も繰り返し、ASSBに適した設備や装置を実現するための要素技術を確立してくれました。こうした地道な積み重ねが、今のパイロットラインの礎になっています。
そして2025年1月、チームの努力が結実し、ASSBのパイロットラインがついに稼働を開始。「他のやらぬことを、やる」という困難な挑戦の先に、3人はやりがいを見出しています。
樋口:分散・塗工・乾燥といった工程は、スラリーの作製一つとっても膨大な時間がかかる上、スラリーを塗工するにも試行錯誤を繰り返さなければならないなど、とにかく粘り強く取り組む必要があります。
だからこそ、一つひとつの課題を乗り越え、小さくても成果が出た時に感じる喜びは大きいものです。自分で蒔いた種が少しずつ芽を出し、花が開いていくような感覚があります。
菊池:私がもっとも達成感を感じるのは、やはり設備が完成した時です。製品の性能は、どのような設備を導入するかによって決まります。そのため責任は重く苦労も多いですが、技術的な課題を一つずつ解決し、思い描いた設備を完成させていくことにやりがいを感じます。
鈴木:私も同じく、これまでの積み重ねが成果につながることにやりがいを感じます。中でも実際に導入した設備で試験を行った際に、不具合の原因を突き止め、改善策を見出すことができたときは品質向上に貢献できたと感じ、「この仕事をやっていて良かった」と心から思いました。
自分たちで試験計画の立案から試験装置の導入、そして実際に試験を行うまで、一連の業務を担うことができ、成長につながったと感じています。
世界に誇れるモノづくりを、次の世代へ。生産技術で切り拓く電動化社会の未来
日産のDNAを大切に、生産技術開発の最前線で活躍する3人。目標に向かい、これからも挑戦を続けていきます。
樋口:まずはASSBを搭載したEVを実用化することが目標です。そして将来的には、パワートレインやバッテリーといった現在の領域にとどまらず、新たな価値の創造に挑戦したいと考えています。「お客さまが本当に求めるクルマ」を追求し、企画や製品構想にも関わってみたいです。
また、日産全体の技術力をさらに高めていくために、次世代のエンジニアを育成することにも力を注ぎたいと思います。
菊池:私は日本の技術力のすごさを、世界に発信できる存在になることが目標です。そのためには、品質とスピードの両方を向上していく必要があります。経営的な視点を持ち、その向上に貢献できるような取り組みにも挑戦していきたいです。
今年度からは7人のチームをまとめる立場になったのですが、日々の業務でもスピードを重視しています。小さな成果を積み上げ、徐々に創出できる価値のスケールを大きくしていきたいと思います。
鈴木:品質保証担当として試験データの分析やフィードバックを通じ、ASSBをいち早くEVに搭載するために貢献したいと考えています。
品質保証の仕事を6年間続けてきて思うのは、お客さまに喜ばれる瞬間こそが、自分にとって最大のモチベーションだということです。お客さま起点で品質を追求し、ASSBに限らず新しい技術をより早く、より高品質にお届けしていきたいと思います。
入社以来、生産技術開発の醍醐味を肌で感じてきた3人。モビリティの未来を共に創る新しい仲間に向けて、メッセージを送ります。
樋口:パイロットラインの立ち上げを経て、今は設備も生産体制も整いつつあります。これからは大規模な実験場として、いろいろなことに挑戦できるフェーズです。
何が正解になるかわからないからこそ、不可能に見えるアイデアでも価値があるなら試してみる。日産にはそうした挑戦ができる開発環境があることが、技術者として働く魅力だと感じます。
菊池:クルマの電動化や知能化が進む中、ASSBに限らず新しい製品が求められています。その開発の土台となり、製品の性能を決定づけるのが生産技術です。お客さまにお届けしたい体験を考えながら、自分たちで製品の仕様を決められるのは、この仕事ならではの醍醐味だと思います。
また、生産技術開発部門での経験を活かし、企画や開発など上流工程へとキャリアを広げられることもこの部署の魅力です。まずはモノづくりの現場を知ることからスタートし、技術者としての基礎を固めてもらえればと思います。
鈴木:入社前は、生産技術開発部門に対して研究・開発部門が作成した設計を単に形にする組織というイメージを持っていましたが、実際はまったく違いました。「どうすればできるか」を自ら考え、技術開発を行っている組織です。そのため正解がないことにワクワクできる人、技術的な課題を追求するのが好きな人には、理想的な環境だと思います。
もう1つ、入社してイメージが変わったのが日産の社風です。歴史があるため堅い雰囲気だと思っていたのですが、上司との距離も近く、ユーモアを交わしながら議論できる雰囲気があります。時代に合わせて働き方や組織文化も進化していると感じるので、安心して挑戦してほしいと思います。
※ 記載内容は2025年10月時点のものです
