気候変動に立ち向かうため、「適応」というアプローチで挑む
気候変動対策には2つのアプローチがある。1つめは「緩和」。二酸化炭素に代表される温室効果ガスの排出量を削減するために節電が求められ、再生可能エネルギーの活用やEVの導入などが進められてきた。こうした対策が、緩和策と呼ばれる。
「緩和は、気候変動の原因をなんとかしようというもので、身近なところで多くの取り組みが進められている実感を皆さんはお持ちではないでしょうか。一方、今私が主に関わっているのが『適応』で、気候変動の結果として現れる影響を回避・軽減しようというものです。適応の認知は少しずつ進み、現在における気候変動対策は緩和と適応の両輪で進めるという意識が高まってきています」
そう話すのは、サステナビリティコンサルティング第1部に所属する大澤 慎吾。これまでに、環境省や国立環境研究所の事業で適応を推進するため、気候変動影響および適応策の調査・分析、情報基盤の整備や適応アクションプラン策定等の支援に関わってきた。まさに、大澤が語る適応が2つめのアプローチだ。
「ひとことで言えば、気候変動のトレンドをおさえ、科学的知見をわかりやすく伝え、具体的な適応策の実装を支援するという仕事です。国や研究機関、自治体、企業が主体となって進めている中で、それぞれの業務を通じて一緒に作り上げていくイメージです。環境省の業務支援であれば、環境省が持つのと同じ使命感を持って取り組んでいるつもりです」
分野と組織をまたぎ、国全体の行動変容につなげる
国で方針が決まれば、それは自治体の方針、そして企業の方針へとつながっていく。自治体での適応策の検討と実施の支援も大澤の重要な仕事だ。
「たとえば、気候変動の専門家がどのようなことを言っているのかを、自治体や企業の方々にわかりやすく伝えるというのも私たちの大切な仕事です。たとえ専門家同士であっても、隣の分野の話はわからないということがあるくらい専門的な話は難しいものです」
また、組織の橋渡しも欠かせない。
現在、国は農林水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域、健康、産業・経済活動、そして国民生活・都市生活の計7つの分野で適応を進めようとしている。自治体でも、それぞれを担当する部局ごとに適応へ向けて取り組み始めている。
この7分野の存在が、適応と緩和とがそれぞれ異なる特徴を持っていることを示している。
「緩和の場合は、『二酸化炭素等の温室効果ガス排出量を削減しよう』というような、分野横断的な目標を立てやすいです。しかし、適応の場合は具体的な対策と回避・軽減したい影響が分野によって異なるので、目標も異なります」
こうした状況で大澤が橋渡しとその先にある連携を重視するのには、一つの分野だけでの取り組みでは限界があるからだと語る。
「たとえば、農林水産業の中でも農業分野は、昔から適応が進んでいた分野です。日本で昔から作られている水稲は、気候変動対策の必要性が叫ばれる前からその土地の気候に適した栽培技術や品種の改良が重ねられてきました。すでに、適応を行なってきているのです。
では、品種改良だけをしていけば農業分野での適応ができるのかというとそうではありません。干ばつや大雨などによる水資源の変化に対応しつつ、暑い中で農作業をする人たちが熱中症にならないように、健康面での適応もしていかなくてはなりません」
より効果的な適応には、国や自治体と企業との間の連携も欠かせない。
「これは、緩和についても同じことが言えるのですが、どれだけ国や自治体が目標を立てても、そこで暮らす住民の行動が変容しないと目標は達成されません。
住民というのは、企業から見ると消費者です。ですから、住民=消費者の行動変容を促すには、自治体と企業とが一緒になって起こす取り組みが必要です。
ペットボトルのリサイクル・リデュースなどは、両者によって行動変容を起こしつつある良い例だと思いますが、同じようなことをしていく必要があると思っています」
国の適応プロジェクトは3年程度のサイクルで進められることが多く、今年は新規事業の1年目にあたるため事業の立ち上げに伴う必要な情報の収集や整理など、インプットする毎日だ。関連するレポートや研究論文を読んだり、企業の先進事例を調査したりして血肉を蓄えている。
「気象」から「気候変動対策」へのキャリアシフト
大澤は、今の仕事をしたくてみずほリサーチ&テクノロジーズに入社してきた。転職前は、民間の気象情報会社で働いており気象予報士の資格も取得している。
「10代のころ、iモード(携帯電話会社各社のインターネットサービス)などで天気予報が見られるようになり、『天気予報ってサービスになるんだな』と思いました。子どものころから、天気に左右されながら農業をしている祖父母の姿を見たり、自分自身がサッカーをしていて突然の雨に降られてびしょ濡れになったりするたびに、『事前に正確に天気が分かればたくさんの人が助かるのに』と関心を持っていた気象とビジネスが、その時結びついたのです」
入社後は、まさに気象をビジネス化してサービス開発や運営、営業まで一通りの経験をしてきた。入社から12年が経ち、次は何をしようかと考えた時に関心が気象から気候へと向いたと言う。
「天気予報の精度向上により、助かった人もいるでしょう。ただ、気候への長期的な取り組みの方が、より多くの人の命を救えるのではないか。より役立つことができるのではないかと思いました。
前の職場だけでなく、どこでなら自分の志をもっと活かすことできるのかと探した時に、みずほリサーチ&テクノロジーズが気候変動対策の本丸である環境省事業を支援していることを知りました」
調べた限りでは、環境省の気候変動対策に関わる案件で最も実績のある民間企業がみずほリサーチ&テクノロジーズであったと言う。
転職先に迷いはなかった。より多くの人の行動変容につながる、大澤にとってしたい仕事ができる会社。それが、みずほリサーチ&テクノロジーズだったのだ。
「せっかくなら、気候変動対策の根幹をなす仕事に携わりたいじゃないですか」
組織であれば、一人ではできないこともできる
転職して5年目。職場にはすっかり馴染んでいる。
「私には、この職場が合っていると思います。転職してきたからかもしれませんが、周りから与えられた仕事をするというよりは、自分で仕事を作って目標を立てて達成し、チームにフィードバックするという働き方ができているからです」
大澤は、自分の中にアントレプレナーシップがあると感じている。前職時代には、起業を考えたこともある。それでも、会社という組織で働くのは「一人でできることには限界があるから」だと語る。
「やりたいことを実現するには、同じ志を持った仲間がいた方がいいし、結果的に自分の周りの人だけでなく多くの人のために役立てます。仕事のやりがいとは、そういうことだと思います。
気候変動による被害を目の当たりにしている以上、それを少しでもなんとかしたいという自分に正直に生きたいですし、そこを蔑ろにするようであれば自分に罪悪感を覚えます」
かつては気象をビジネスの対象とし、今は気候に向き合っている大澤にとって、気象と気候の違いをこう説明する。
「考えるべき現象の時間レンジも違いますが、一番違うのは、気候の変化は文化を作っているところだと思います。日本の気候が異なっていたら、今の日本の文化は生まれていなかったでしょう」
この仕事で今後したいことの一つに、金融グループであることの特性を活かし、「適応」に取り組む自治体や企業に対して〈みずほ〉が一体となって支援を行うことへの展開がある。
「自治体や企業が大きな社会課題を解決するには、相応の資金が必要です。では、そうした資金を用意できるのはどのような組織かというと、金融機関です。ですから、それぞれが進めている取り組みとみずほグループ内にある金融ソリューションとを結びつけていきたいです」
そのための課題は、定量的な提案だという。
「企業向けに脱炭素化に関わるコンサルティングを行っている社内他部署と一緒に、企業に対して適応策の提案を積極的に進めていきたいです。
定量的な分析をした上での提案が求められますが、まだまだ精緻でないものや定性的なものが多いです。そこを『金額的にこれだけの影響を減らせます、または効果があります』というような提案に変えていきたいです」
定量的な提案は、効果的な取り組みと成果につながる。気候変動に立ち向かうコンサルタントには、まだまだやるべきことがある。
※記載内容は2023年10月時点のものです
