正解のない時代を「組織戦」で生き抜く。みずほ総研調査部がめざすもう一段高みの分析
みずほ総合研究所の調査部はおよそ30人のエコノミストを抱える大規模な組織です。その役割は、経営陣への情報提供(ブレインスタッフ業務)と、メディア発信を通じた組織の認知度向上という2つの軸にあります 。チーフエコノミストの太田とプリンシパルの小野は、その中心となって日々経済分析や情報発信に携わっています。
太田:従来のエコノミストは、経済を予測して「当てに行く」のが仕事でした。しかし、ウクライナ戦争やトランプ政権の誕生以降、これまでの常識が通用しない世界になっています。そうした中で次は何が起きるのか、それがわれわれの生活や会社にどう影響するのかを考え、言葉で伝えることこそが、今求められるエコノミストの役割です。
私はチーフエコノミストとしてメディアへの情報提供はもちろん、ステークホルダーが今何に関心を持っているかを捉え、「こんな調査をしたらおもしろいんじゃない?」とメンバーにアイデアを提案しています。
小野:私は太田をサポートしつつメディア活動を行っています。また部署内で生成AI利活用のエバンジェリストとして、AIをエコノミストの業務効率化や分析の高度化にどう活用するか考え、メンバーに広める活動もしています。
AIの台頭により、エコノミストの仕事にも変化が訪れていると2人は口をそろえます。
太田:正直、統計の数字がよくなった・悪くなったくらいの判断ならばAIでできてしまうという声もあります。一方でエコノミストがAIを活用することで、分析内容をもう一段高みに引き上げる余地が生まれる面もあります。
小野:具体的には、AI活用によってこれまでの調査にかかる時間や労力を大幅に削減できます。調査にかかる時間を節約したり、表計算ソフトを開かなくても複雑な分析ができるようになったりしたことで、他のことに時間を活用できるようになりました。
エコノミストの仕事は組織戦だと語る2人。お互いの強みについて、こう語ります。
小野:太田はエコノミストとしての分析力の高さはもちろんのこと、人をまとめる力が高いところが大きな強みだと思います。社内のメンバーはもちろんのこと、経営陣、外部のメディア、他のシンクタンク、大学の先生など非常に幅広いネットワークを持っています。太田という存在そのものがみずほ総合研究所調査部をアピールする存在になっていますね。
太田:小野の強みは自分の話がお客さまにどう響くか客観的に判断して伝え方を工夫できるところです。小野と私はもともとコンサルタントだったので、お客さま目線で考える姿勢が身についているところが影響していると思います。
加えて、新しいものに対する探究心も素晴らしいですね。AIに関しても私たちは小野が培ってくれたノウハウを活用させてもらっています。
コンサルタントからエコノミストへ──独学と手探りで切り拓いた2人のキャリア
2人は同じ時代をコンサルタントとして駆け抜け、その後、エコノミストへの転向を遂げました。工学系の大学を卒業後、企業を外側から支援したいと入社した小野は 、官公庁や地方自治体向けのコンサルタントとして7年間従事。
あるメーカー出身の先生から「本物のコンサルタントをめざすなら、一度実務や別の世界で研鑽を積むべきだ」と助言されたことが、キャリアの転機となります。当時はまだ社内に人事異動の制度すらなかった時代。小野は「自らの手で道を切り拓く」と決め、粘り強く手を挙げ続けました。
小野:エコノミストであれば、自分の理系的な論理アプローチが活かせるのではないかと考えました。めざしたのはアカデミックな研究ではなく、日本企業のお客さまに寄り添い、世界経済の動きをわかりやすく伝える「ビジネスエコノミスト」。その一念で周囲に希望を訴え続け、入社7年目にようやく調査部への異動が叶いました。
太田:私は農学部出身で初めは銀行員をめざして就職活動をしていました。就職活動中にシンクタンクの存在を知り、話を聞いていく中で興味を持って当社に入社。
初めはコンサルタントとして官公庁の経済分野の問題分析や業界のお悩みを解決する業務など幅広く担当させてもらいました。ただ5年ほど経験した頃、多忙によりインプットがしづらいことに悩むようになりました。
このままではアイデアが枯れてしまうのではないかと不安に思っていたところ、エコノミスト養成機関での研修を勧められ、それをきっかけにエコノミストの道に進むことになりました。
2人がコンサルタントからエコノミストへと転向した時代は、フォローアップ体制も万全ではなかったと振り返ります。
小野:初めは周囲のメンバーに教わりながら自己研鑽し、手探りで業務を覚えました。また、私の場合は異動から1年後にニューヨーク勤務が決まり、社長から「とにかくレポートを書く」という指示を与えられました。
そこで、日々ウォール・ストリートのトップエコノミストのレポートを読み漁り、会議に潜り込んで話を聞くなど、がむしゃらにスキルを磨いて行きました。
太田:私の時は、会社から「自分で考えて動けるだろう」と信頼してもらっていたのか、さまざまな出向先に送り出してもらえたことがありがたかったですね。新しい環境に足を運ぶのは毎回緊張しましたが、その場その場でさまざまなネットワークを築けたことが、今の業務にも大いに役立っています。
一方、現在の当社のフォローアップ体制は大きく進歩していると語ります。
小野:今の社員への支援体制は、私から見ると正直天国です(笑)。さまざまな資格取得の支援制度があり、自分がやりたいと思えば挑戦できる環境です。活用しないのは損ですね。
バックグラウンドが違うからこそ自分らしさが光る。独自性を磨き続けた2人の挑戦
コンサルタントからエコノミストへの転身。それは2人にとって、決して平坦な道ではありませんでした。
小野:私はエコノミストとしての知識をOJTや独学で積み上げてきました。一方、今の若手世代は経済学部の修士・博士を経てエコノミストになることが普通になってきており、私とはバックグラウンドが異なります。彼らに対し、どうやって自分の独自性を出すのか悩んだ時期もありました。
そこで役に立ったのが、コンサルタント時代に培った「お客さま目線」です。経済理論は教科書を読めばわかりますが、それを使って何をどう伝えていくのかを考えることが大切。コンサルタント時代に毎日100本ノックでお客さまの課題に応えるアイデアを出してきたことが、今の仕事に活かされています。
太田:私もエコノミストになりたての頃は、常に「自分の言っていることは合っているんだろうか」と、専門家である経営者や他のエコノミストと同じフィールドに立つことに不安がありました。でもある時、同じ土俵で戦う必要はないと気づいたんです。
正直、どのエコノミストも主張していることは似通っていることが多く、聞いている方は飽き飽きしてしまうことも。そこで私は、コンサルタント時代に培ったお客さま目線を重視し、講演を聞きに足を運んでいただくお客さまや、忙しい仕事の合間にレポートを読む経営陣の立場で考え、戦略的に伝え方を工夫するようにしました。
また、私は生まれ持っての冗談好きなので(笑)、表現力で差別化を心がけて弱みを強みに変えていきました。
エコノミストの価値とは何か──小野は部下にもよく話すとあるエピソードがあると言います。
小野:まだ若手の頃に大企業の役員の方に1時間半の枠をいただき、プレゼンテーションをしました。1時間弱分析結果を話し、質問時間を設けたのですが、あまり質問が出てこなくて。そこで私が「最近ずっと思っているんですけど……」と自分が世界経済に対して考えている仮説、今後の世界の動向に関する予想を20分くらいとうとうと語ったんです。
するとその役員の方は、それまでの退屈そうな表情を一変させました。
小野:役員の方は「今の話こそが、私が聞きたかった話なんですよ」とおっしゃいました。「いろんなエコノミストを呼ぶけれど、データ分析の結果はどこも同じ。もし小野さんが今の仮説を話さなければ、もう二度と来なくていいと言おうと思っていた」とのこと。
冷や汗が出ましたが、同時に経営者が本当に求めているのは記された数字の背後にある「その人がどう世界を見ているか」という思想なのだと確信した瞬間でした。それ以来、その企業からは繰り返し声をかけていただけるようになりました。
長年の経験から培った感覚を次世代へ。2人が描くエコノミストという仕事の未来
エコノミストとして長年キャリアを積んできた2人。今後についてはどのような未来図を描いているのでしょうか。
小野:引き続き「小野が話していることには価値があるんだ」と思っていただけるようにメディア活動に力を入れて行きたいですね。それに加えて今大切にしているのは、若手メンバーに私たちが培ったこの感覚をどう伝えるかということです。
太田:若い頃は、どうしても主語が「自分」になりがちです。自分の成長や評価に囚われているうちは、視野が狭く、仕事が苦しく感じられることも多いでしょう。
しかし経験を積むにつれ、主語は「家族」「仲間」、そして「世の中」へと他人称化していきます。自分のためではなく「日本のために、今何を示すべきか」と考え、視野が広がった瞬間に、辛かった思いが何とも言えない充実感に転換します。そのエキサイティングな感覚を、ぜひ次世代の若手にも体感してほしいですね 。
また、今は予測不可能な世の中です。だからこそなぜうまくいかないのか、何をしたらもっと世の中はよくなっていくのかという大きなテーマを、これまで築いたネットワークを活用しながら、みんなで探って行きたいというのが私の密かな野望です。
独自のキャリアを築き上げてきた2人が、これからエコノミストをめざす採用候補者へメッセージを送ります。
小野:学生さんにはエコノミストと大学の先生はまったく違う職業だと伝えたいです。私たちは必ずしも経済理論を駆使した調査をしているわけではなく、柔軟にいろいろな人の話を聞きにいったり、さまざまなデータを扱ったりしています。何か1つの専門家というよりは幅広い教養が武器になる職業だと理解してほしいですね。
また中途採用を考えている方には、〈みずほ〉の広大なネットワークを活用して他の組織にはできない情報分析ができること、強い提言力があることを魅力として伝えたいです。
太田:エコノミストに対して高い専門性のある職業だという先入観があるとしたら、それは間違いです。それこそ今はAIがあれば専門性がなくてもキャッチアップできる時代です。それをうまく活用して、世の中のわからないことを解明したり、世の中をよくするために何ができるか考えたりして、発信するのがエコノミストの仕事だと伝えたいですね。
私たちのようにコンサルタントからエコノミストへの転身はこれまで珍しいケースでした。しかし、〈みずほ〉では本人に意思があれば、職種の転向も可能です。入社後に活躍の場を変えてみたり、これまでエコノミストの経験がない方が中途採用でエコノミストとして採用されたりすることも十分考えられる世界になりました。可能性を狭めず、ぜひ挑戦してほしいです。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです
