宇宙ビジネスが活況を呈しています。アメリカが主導して進めている国際プロジェクト「アルテミス計画」では、アポロ計画以来となる人類の月面着陸が計画されています。また、従来宇宙開発は政府が中心であったものが、近年は民間企業、とくに宇宙スタートアップ企業がその成長のけん引役となっており、今後、さらに市場の拡大が見込まれています。
みずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルティング本部では「未来社会を切り拓く、宇宙ビジネスへの挑戦!」をテーマに、〈みずほ〉の社員によるアイデアソンを開催しました。
スペシャルゲストは、2023年4月に民間企業として世界初の月面着陸に挑み大きな話題を呼んだ株式会社ispace 代表取締役CEO&Founderの袴田 武史氏。宇宙ビジネスへの挑戦ストーリーについてご講演いただきました。
▲袴田氏(写真中央)と会場参加者との集合写真
この記事では、袴田氏による講演内容とともに、社員による宇宙ビジネスのワークショップの様子をお伝えします。
「宇宙ビジネス」がテーマ
コンサルティング本部では、中長期を見据えた革新的ビジネス創出に向け、オープンイノベーションの土壌づくりとして、アイデアソンを企画・実施しています。
(企画に至る経緯は、第一回アイデアソン「山口 周先生とコンサルタントの未来を探る」ご参照)
二回目となる今回は、宇宙ビジネスをテーマに開催いたしました。
オープニング
当日は、会場とオンラインのハイブリッドで開催。コンサルティング本部の社員以外にも、他の本部やみずほ銀行、みずほキャピタルの社員など、多様なメンバー約80名が参加しました。
冒頭、事務局長・野口 博貴からアイデアソンの趣旨やプログラムの説明があった後、アイデアソン長・加地 靖からのオープニングスピーチの中で、「アイデアソンの目的とともにアポロ計画から生まれた言葉『ムーンショット』のように、不可能だと思っていたことでも夢に向かって努力すればかなうかもしれない。宇宙ビジネスの可能性を信じて議論してほしい」との話がありました。
▲加地(中央)、野口(右)
インプットセッション
デジタルコンサルティング部の稲場 未南(※1)によるプレゼンテーションでは、宇宙ビジネスの歴史から現在に至るまでの環境変化、宇宙ビジネス領域の拡大、さらに2050年の宇宙ビジネスの姿、未来の課題を考える上での視点についてインプットがありました。
※1 稲場は、民間企業向けのオープンイノベーション、新規事業開発の支援等を専門としています。宇宙ビジネスのコンサルティング実績も有しており、本アイデアソンで宇宙に関する幅広い知識を活かしてインプットセッションを担当
▲稲場によるプレゼンテーションの様子
続いて、サステナビリティコンサルティング第2部の大谷智一(※2)から、地球観測衛星データを活用したソリューションサービス「みずほネイチャーポジティブ・デザイン」について、その開発に至るまでの経緯やサービス事例について紹介がありました。
※2 大谷は、農林水産業、バイオマス、バイオテクノロジーなど生物資源等を専門とする。これらの専門性をベースにサステナビリティ全般の事業開発を得意としており、サステナファイナンスや、グローバルアグリイノベーション、SDGsビジネス・デザインなど、多数のソリューション開発を牽引
▲大谷によるプレゼンテーションの様子
袴田氏による講演
袴田氏から、「HAKUTO-R」ミッション1のランダー(月着陸船)によるチャレンジ、そして「Moon Valley 2040」について、動画も交えながらご講演いただきました。
▲袴田氏による講演の様子
以下に講演のポイントをご紹介します。
- 宇宙業界は時間を守らない!?宇宙ビジネスもプロジェクトマネジメントが重要
「HAKUTO-R」ミッション1は商業的な月のミッションとして世界初。予定していた競合他社より早く打ち上げられたのは、納期や計画遅れが生じやすい宇宙業界の中にあって、限られた時間内でプロジェクトマネジメントをしっかり行いやり遂げられたため。
- 月面着陸の8段階目までは完了、経験したからこそわかったことも
着陸に向けて速度ゼロとなるコントロールはできたが、その地点が月の地表から5kmであったため軟着陸に至らなかった。センサーはその差を捉えていたものの、ソフトウェアはエラーと判断してしまった。詳細設計後に着地点を変更し、着地点の変更に伴う要件の変更もレビューしたが、それが十分ではなかったことが要因としてある。技術ではなく開発のマネジメントでの課題であり、経験したからこそわかったこと。
- 宇宙産業は研究開発や科学から利用のフェーズになり、ビジネスはさらに拡大
ニーズが研究開発から「利用」になり始め、顧客も利用も多様化。宇宙産業への投資が進み、ビジネスサイクルも早まり、マーケットを切り拓く最初のステップは始まりつつある。
- めざすのは、持続可能な人間の生活圏を創ること
持続可能な生活圏とするためには、宇宙にも経済圏が必要。月の水資源を利用して飲み水や燃料に使うことができれば、宇宙での輸送コストを下げることができる。地球での生活も、すでに人工衛星などの宇宙インフラに支えられており、地球の持続可能性も担保できる。
- ビジネスモデルも持続可能なものとするため、複数ミッションを並行
複数ミッションを同時並行で進め、それが可能となる資金調達も行っている。ispaceの事業は、月周回および月へのペイロード(積荷)の輸送、月のデータの提供、広告価値を活かしたスポンサーシップの3つ。スポンサーは、単にマーケティングではなく協業することで、それ自体が価値になり、次の月の事業に1歩踏み込むことになる。
- 月に住む将来像に向け、いろいろなステークホルダーを巻き込んだエコシステムを創る
2040年に人が月に住んでいる将来像を描くため、いろいろな人を巻き込み検討をしている。オペレーションや技術だけではなく、ビジネスモデルをどう組み合わせて経済的に合理性のあるシステムを作っていくか。その運用のガバナンス、人間が住むシステム、そのようなレイヤーを組み合わせエコシステムとして回る絵姿を創っていく。
- 強みは、グローバル
社員も、顧客も、事業も、技術開発もグローバルになっている。世界の一番良い技術を組み合わせて使っていくことで、マーケットインを早める。打ち上げはスペースX社のロケットを使用、エンジンはヨーロッパの老舗の宇宙企業から調達。着陸誘導制御のソフトウェアはアメリカのドレイパー研究所。グローバルに一番良い技術を活用してチャレンジしている。これからも“Never Quit the Lunar Quest”を心情にやっていきたい。
参加者との質疑応答
続いては、参加者から袴田氏への質問の時間が設けられました。
──宇宙産業を推進するエコシステムにはどういう課題があるか?
一番の課題は心の障壁。「宇宙」というと、夢みたい、という反応になる。「夢」と捉えてしまった時点でその先を考えなくなる。宇宙も産業化・商業化に向けて進んでおり、一歩踏み出すと多くの動きが見えてくるが、その壁をどう乗り越えてもらうかが1つのポイント。一方で、「夢」だからこそ注目を浴び広告事業が成り立つ面もある。
──宇宙ビジネスをやる前と後で印象が違ったことはあるか?
大きな違いはないが、1つだけあるとすると、時間がかかるということ。
他は宇宙だからといって特殊なことはあまりない。地道に、目標を決めてそれに近づいていく、それは変わらない。
宇宙と地上では環境が違うだけであり、エンジニアリングの原則はかわらず、そこに特殊性はない。資金調達も事業計画も他の事業と根本的には変わらない。ただ、不確実性は大きいので、それをどうマネジメントしていくかである。
──宇宙産業では、部品や物資の調達が難しいのではないか?
宇宙産業の難しさは、時間がかかり、遅れが発生する点。これは長納期部品が多いことに由来する。特注品であるため、不具合があると回収してからとなり、もともと1年で予定していても2~3年はかかってしまう。
もう1つのサプライチェーンの面での難しさは、打ち上げ機側の力が強く、打ち上げ機側がタイミングや価格や搭載有無を判断するので、予定していた通りに進めるのが難しい点。現在は、打ち上げはスペースXしか選択肢がなく、競争環境を整えていく必要がある。
──月面開発は南極とも似ているのではないか?
南極はよく比較対象となる。ispaceが掲げる「Moon Valley 2040」のコンセプトも南極の定住者約2,000 人をイメージし、20年後には月の定住者もそのくらいという規模感である。
南極は、資源開発を禁止する協定が結ばれているため、まだ経済圏がない。宇宙は、現在法体系が存在しないが、国連制定の宇宙条約では、宇宙空間では国家による所有権は発生しないとしている。しかし、近年はこの考え方が変化し始めており、アメリカ、ルクセンブルク、UAE、日本は宇宙での不動産所有は認めないが、民間企業に動産である資源の所有や利用を認める宇宙資源開発に関する法律を制定している。
現在、月の資源開発に関する国際協定「アルテミス協定」は約30カ国・地域が署名している。条約ではなくコンセプトのため、今後ガバナンスができていくと思われるが、宇宙開発は米中の覇権争いがあるため、中国の参加が注目されるところ。
──1,000人が暮らすMoon Valleyはどう管理し、持続可能なものとしていくイメージか?
具体的なイメージは作り切れていないが、これから具体的な仕組みを検討していく。平和的に利用できる場所にしてきたいため、民主主義的仕組みにしたいが、地上の民主主義を適用するかはこれからの議論。
よく宇宙飛行士も宇宙に行くと、地球をホームと感じると。宇宙に住む人が出てくると、国境の意識もなくなってくるのではないか。心情の変化とともに、どういうガバナンスの仕組みがベストか、将来に視点を移して議論できればよい。
──日本の役割について。東側が太平洋に面している日本は打ち上げの地の利があるが、海外からの需要や、また需要が増えていないならば課題はあるか?
打ち上げの引き合いは増えてきているが、課題はいくつかある。宇宙技術の輸出規制の問題や、事故や損害が起こった場合の補償関係である。打ち上げ以外については、宇宙地政学という考えが最近出てきている。打ち上げと通信をおさえていくことが重要である。
日本の役割としては、宇宙産業以外での産業に期待できる。宇宙にインフラができると信頼性の高いものづくりが必要となり、宇宙に人が住むようになると人の生活に必要なあらゆるものが必要となる。実際に宇宙空間で過ごしている宇宙飛行士は相当我慢して生活していると思うが、普通の人が1,000人住むとなれば、豊かな生活を支えるものが宇宙空間にも必要となる。島国の日本はそのようなニーズに応えられる産業を一通り持っている。日本の多くの企業が宇宙に関心を持っている。とくに、月は地面があるので、地球上で使われている多くのものが転用しやすい。
ワークショップ
インプットセッションをうけて、未来社会における宇宙ビジネスの課題や可能性について、グループに分かれてそれぞれアイデアを出し合いました。
各グループの「宇宙の新規ビジネス」のアイデアについて発表し、参加者間の投票により優勝グループを決定しました。
優勝は、「宇宙時代の計算革命」のアイデアを出したグループです。優勝メンバーには優勝賞品として、ispaceグッズと宇宙食が贈呈されました。
参加者の声
参加されたメンバーに対してアンケートを実施しました。参加者の感想の一部をご紹介します。
- 「夢」と捉えることは心の障壁にもなる、ということが気づきとなった
- 最先端で活躍されている方の講演を拝聴できた
- インプットとワークショップが連動しており取り組みやすかった
- ワークショップではさまざまな発想に触れることができ、視野が広がった
- グループ内の異なる会社の方ともコミュニケーションをとることができ、人的ネットワークを構築する機会になった
企画した事務局メンバーからも、
- 参加者が生き生きと取り組んでいた様子からゼロからアイデアを発想することへのおもしろさを感じる良い経験の場であった
- 袴田氏の講演などのインプットセッションを通じた学びや刺激が多かった
などの感想が寄せられており、社員の新たな視点・気づき・マインド醸成に効果があったと手応えを感じています。
今年度は二回のアイデアソンを通じてオープンイノベーションの土壌づくりに取り組みましたが、来年度はさらにもう1歩も2歩も踏み込み、新規事業アイデア創出や、サービス開発にも取り組んでいく予定です!
※ 記載内容は2023年12月時点のものです
