デザイナーと共にデザインの理想的なゴールを目指す。クレイモデリングへの想い

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▲クレイモデルの表面 さまざまなツールを使い魅力的なデザインを作り上げます

クレイモデラーとしてキャリアを積み、立体造形を担当している川﨑。クレイモデリングの持つ強み、クレイモデリングに対する想いを次のように語ります。

川﨑 「サーフェースクリエーショングループでは、工業用粘土(クレイ)で立体モデルを作るクレイモデリングの工程とパソコンの3D-CADソフトを使って画面上で立体モデルを作るデジタルモデリングの工程があります。

実際の仕事では、デジタルモデリングで作った形状のまま、車と同じ1/1サイズのクレイモデルを立体化します。ここで初めて仮想から現実となった立体で形状の確認ができます。

3D-CADでのデジタルモデリングは、設計要件の反映や検討、形状の細密な作りこみが可能ですが、クレイモデルで立体化すると、さまざまな角度から、近く、遠くから見るなど、幅広く検討することができます。さらに、『ここはこれくらいのボリュームにしたい』とデザイナーがクレイを持ってきて、クレイを盛りつけたり削ったりと、直感的にデザインの意図をモデラーに伝えることもできます。

クレイモデリングの持つ強みは、スケッチをもとにしたモデルが現実に存在して、手で直接触れられることですね。デザイナーの考えや、表現したいことをコミュニケーションしながら目の前で立体を作ることができます。直接触れるクレイモデリングは立体造形の際のツールとしても、コミュニケーションツールとしても欠かせません。

クレイモデリング、デジタルモデリングのどちらかが優れているということではなくて、それぞれの良いところを活かして魅力的なデザイン、魅力的な商品を作りこんでいきます」

スケッチから感じ取れる世界観、コンセプトを体現した造形を早くデザイナーに見せたいと川﨑は話します。

川﨑 「デザイナーと共にクレイモデルと向き合っている時間の中で、いかに試行錯誤しながら形を変えて、ゴールに近づけるかが大切です。

そのためにはクレイモデラーとデザイナーの認識を合わせ、お互いにとって思った通りの造形をするために、コンセプトや作りたい形を表現する言葉をどういう意味でデザイナー自身が発しているのか根本から拾い上げて、想いや意思の伝達精度を上げることを心掛けています。

たとえば、デザイナーとクレイモデルで形状が思い描いていた通りになっているかの答え合わせをして、10回中9回を『そうそう!こういう感じ、良いですね!』と言ってもらえるか、10回中3回だけしかそうならないのかでは、魅力的なデザインを作るというゴールに到達する時間が違いますよね。クレイモデルで何回デザイナーと答え合わせができるかが大切だと思います。

そのため、いちばん早くゴールに到達できるやり方を模索してきました。立体造形そのものの進め方を早くすることでデザイナーとの答え合わせの回数を増やすこともできます。

30メートルほど離れて形が成り立っているか、整って見えるかどうかが大切で、そこからディテールを作りこみます。離れて全体を見ればスケッチで表現できていた魅力が立体でも表現できている。表面が荒れていても形として成り立っているという作り方です。

デザイナーのスケッチにも似ていて、いきなり細かく書き込む人はあまりいませんよね。遠くから離れて見て、デザイナーとモデルを見ながらバランスがおかしいところ、良いところは残しつつ作りこんでいきます」

言葉を超えたコミュニケーションツールでこれからのデザインの物語を紡ぐ

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▲TOKYO AUTO SALON 2022出展「VISION RALLIART CONCEPT」のクレイモデル

川﨑 「三菱自動車は国内外でコンセプトカーを出展してきました。 私自身もこれまで、数多くのコンセプトカーに携わりました、量産車と較べるとコンセプトカーの製作期間は3カ月から半年程と短い日程の中で作り上げていくので、何度も経験するうちにもっと早く立体化するにはどうすればいいかを考え、挑戦しモデラーとして鍛えられたと思っています。

コンセプトカーの造形を表現するために使うのはクレイだけではなく、樹脂やFRPなどさまざまな方法で作り上げていきます。量産ではないのでコンセプトカー1台だけのために製作するパーツなどもあります。

量産につなげるプロダクト的な考えもありますが、コンセプトカーはもっと自由に発想できます。 デザイナーはもちろん、モデラーもコンセプトをしっかり表現できているか?その一心で作ります。自由な発想ができて制約がないので、造形の美しさや迫力、力強さ優先で最大限に表現することができるのがコンセプトカーですね。

コンセプトカーには、三菱自動車の持つ魅力を発信する目的の一方、もうひとつ大切な目的があると川﨑は話します。

川﨑 「これからの三菱自動車の世界観、物語を働くみんなで共有することもひとつの目的です。三菱自動車の次世代車の世界観や物語をみんなで話し合い、まとめ上げて完成したコンセプトカーは魅力的なデザインや商品を作っていく上での軸となります。

デザイナーとモデラーで『もう少し』『ちょっと違う』『あー惜しい』と何度もやり取りするのも悪くないですが、コンセプトモデルを見ながら『このモチーフを今やっているデザインに使えないかな?』と一緒に見て、触ってフィードバックすることもできます。百聞は一見に如かず。論より証拠ですかね(笑)。

そういった意味ではコンセプトカーは、世界観、物語、コンセプトを体現した、言葉を超えたコミュニケーションツールになります」

モノ作りに大切なこと──クレイモデラーとしての視点から考える

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▲クレイモデリング中の川﨑

川﨑 「海外出張でコンセプトカーのモデリングに関わったこともあります。仕事中以外でも得られる経験、情報が多くあると感じました。 現地の人々がどういう暮らしをして、生活のどのような場面で車を使っているかを肌で感じる良い機会で、視野が広がったと思います。

インターネットで海外の写真を見るだけではわからないことだと思います。それを車作り、デザインに活かすことができると思います。とくにデザイナーは現地で吸収して、魅力的な商品としてアウトプットすることが大切だと思います 」

商品として世に送り出された現地でのデザインの見え方や使い勝手も考えてデザインする必要があると話す川﨑。印象的なエピソードを振り返り、こう話します。

川﨑 「クレイモデラー目線で考えると、国によって日光の強さ、差し込む角度が違って車のボディの陰影が違って見えるんですよ。現行のアウトランダーPHEVでは、陰影の表現を強く出す狙いで形状の作りこみと検討をしました。影の部分から明るくなる変化の仕方で唐突すぎるのもダメだし、緩やかに変化するとメリハリのついた表現ができない。

そういった陰影の表現を見るときも朝早くから外で見てみたり、夕方に見てみたりと、何度も時間を変えて形状の変更をしましたね」

クレイモデルを通してのデザイナーとの対話

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▲手のひらで面のわずかな変化を感じ取る

担当マネージャーとして、若手への技術の継承にも情熱を注ぐ川﨑。若手クレイモデラー、若手デザイナーとの仕事の進め方や想いを語ります。

川﨑 「実際にスケッチからクレイモデルで立体にする際、デザイナーは思い通りにいかない難しさに直面します。

打開策としてスケッチで伝えたかったことを立体でも感じ取れるように、スケッチを描いているときの想い、伝えたいことが1番伝わってくる角度、位置からクレイモデルを一緒に見て気づいてもらいます。それからラフスケッチを描いてもらったり、今までのアイデアスケッチも見せてもらったりします。

スケッチも誤魔化して描いていることがあり、そのままでは立体として成り立たないので、クレイモデラーは自分なりに解釈してモチーフとして使います。まずは立体にして、デザイナーに投げかけます。そしてデザイナーもスケッチではこうなっていたけれど、クレイモデルではこうなるのかと確認ができます」

良い商品、魅力的な商品を作り上げるためには、若手に失敗を恐れず挑戦してほしいと川﨑は話します。

川﨑 「デザイナーがすべてを伝えることは難しいと思うので、伝えたいことや想いを引き出せるよう心掛けています。立体造形で何度もコミュニケーションしながら形の変更、デザインの変更をするのはより良い魅力的なデザインを作り上げていくのが目的なので、モデラーにもデザイナーにも形状の変更をすることに怖さとか後ろめたさを持ってもらいたくないですね。

若手デザイナーの場合、デザインの本質やものづくりに関して先輩デザイナーから学ぶだけではないと思うんです。『自分が思っていたのと違うな』とか、『クレイモデルでこうなったんだ、なんでこうなったんだろう?』と自分がちょっと疑問に思うこととか、『こんな造形にしたい、どうしたらできるか』といった考えをデザイナー、先輩だけでなくクレイモデラー、デジタルモデラーにもとにかく話して聞いてみると、より良いデザインができると思います。

そこから吸収して、次にスケッチを描くときは立体化されたときをイメージしながら描くようにするなど、改善して成長につながると思います。私が若いころにも通ってきた道なので、若手にも同じようにチャレンジしてほしいです。