設備管理の現場でチャレンジド社員と共に。密なコミュニケーションが共生の鍵
神奈川県の茅ヶ崎市にある神奈川工場に勤務しています。私が所属するのは設備環境課。
私たち設備環境課のミッションは、工場内の設備を安定稼働させることで、業務内容は多岐にわたります。電気・水・蒸気などのエネルギーを安定供給するユーティリティ管理のほか、製造現場でのトラブル発生を未然に防ぐための定期的なメンテナンス管理も行っています。また、いずれの仕事も、外部の協力会社さんと連携する機会が多いことが私たちの職場の特徴です。
私がこの神奈川工場にやってきたのは2004年のこと。2022年からは主任を務めており、リーダーのポジションを任されるようになって、以前に増して責任感を持つようになってきました。自分が何気なく発した言葉をきっかけに職場メンバーや協力会社さんが動き始めることがあるので、よく考えてから発言するよう気をつけています。
現在、神奈川工場では160名ほどの社員が働いており、チャレンジド社員は3名で、そのうちのひとりが2022年の8月から設備環境課に在籍しています。
設備環境課で働くチャレンジド社員は聴力に障がいがあり、会話することができません。設備環境課の仕事では自分の目や耳などを頼りに設備の状態を判断する場面が多い上、協力会社さんの出入りが激しい職場なので、聴力障がいのあるチャレンジド社員がうまく対応できるかと不安を抱えていたのを覚えています。しかし、一緒に働いていると、想像以上に、「なんでもできるんだな」というのが率直な感想です。
もちろん、互いに伝えたいことがうまく伝わらず、もどかしい思いをするときもありますが、そんなときは筆談を通じて納得するまで伝えあうようにしています。チャレンジド社員は努力家であり健常者と同じだけ、あるいはそれ以上に仕事ができるといまは思っています。
また、そのチャレンジド社員とは、関わるようになって約10カ月になりますが、コミュニケーションを密にとることの大切さを痛感しています。理解しているとばかり思っていたことが理解できていないなど、認識の齟齬が起きることがあるからです。表情などから違和感を覚えたときは、その場で必ず確認するようにしています。
ちょっとしたあいさつを交わすことも心がけていることのひとつです。管理室に設置したホワイトボードに簡単な手話を貼り出して、朝一番に会ったときや廊下ですれ違ったときに手話などで会話するようにしています。
何かの役に立てばと、「障害者職業生活相談員」の資格も取得しました。こうやってこの場所で出会えたのも何かの縁。互いに気持ち良く長く働き続けられるような環境づくりに努めています。
誰もがユニークな存在。障害者職業生活相談員の資格取得の過程で得た新しい視点
障害者職業生活相談員の資格を取得したのは、上司からの薦めがあったからです。それまでそんな資格があることさえ知りませんでしたが、チャレンジド社員の入社後でしたし、ちょうど主任になったタイミングということもあり、少しでも力になれればという気持ちがありました。
資格取得のための講習を受講して思ったのは、一般的に「障がい者」と言われる方々だけではなく、誰もが何かしら苦手なことがあるのではないかということです。たとえば、私も視力や聴力が不安定で文字などが見えないときや人の話がよく聞き取れないことがありますし、精神的な障がいのある方の話を聞いていると、「自分も同じ部分があるじゃないか」と思うことがあります。
資格取得をめざして学習し知識が増えるにつれて、障がいのある方に対する考え方だけでなく、人との関わり方が大きく変わるなど、得るものがとても多かったと感じています。
たとえば、職場で意見が食い違って人と対立するなど、対人関係でうまくいかないことがあっても、「この人にはこういう特徴があるから、こう接すればいい」と考えられるようになりました。許容できることの範囲が大きく広がったと思います。
一方で、D&I事務局の活動にも参加してきました。2023年4月から始まったもので、業務課の係長、生産管理の主任と私の3名でさまざまな活動に取り組んでいます。
当社では、全社的にD&Iの取り組みを推進しています。社内の多様な人財の融合を通じて大きなイノベーションを生み出して社会課題を解決し、より豊かな社会の実現をめざしていますが、そうした本社主導の活動とは別に、工場単位でも何か新しいことができないだろうかということで立ち上がったのがD&I事務局です。
D&I事務局の活動で見えてきた課題。労働環境の改善に向けた取り組みの意義を実感
D&I事務局の取り組みを進めるにあたって、まず当社がD&Iを推進する上で掲げている「女性活躍」「グローバル人財」「チャレンジド」「シニア」「LGBTQ+」の5つの重点領域のうち、当工場に関連の深い「女性活躍」「チャレンジド」「シニア」の3つに的を絞りました。
工場内で働く方のうち、「女性活躍」「チャレンジド」「シニア」の対象者は33名。現在は3人で手分けしながら対象者との面談を実施するなど、働きやすい環境づくりのための課題を抽出しようとしている段階です。
私が担当する10数名と面談してもっとも印象的だったのは、仕事を楽しんでいる方がとても多いこと。職場だけでなく私生活を含めて悩んでいることはないかなど、約8項目の質問を用意しましたが、前向きな意見がとても多く、「神奈川工場で定年するまでずっと働き続けたい」という声がたくさんありました。
別の事務局員によると、昇格やキャリアパスが話題になったケースもあったようです。職場の愚痴を聞くことになるかもしれないと想像していたので、良い意味で期待を裏切られました。
また、上司や同僚と相談しやすい環境がある職場では、とくに前向きな意見が多い傾向が見られました。やはり重要なのは人との関わり。コミュニケーションの取りやすさに働きやすさの鍵があると感じています。
集まった意見を事務局内で整理した上で、できるところから具体的な施策に落とし込んでいく予定です。たとえば、管理室の座席の配置がコミュニケーションを取りづらくしているという意見がありました。同じ課で働く人同士が離れて着席していることが多いため、仕事のことで相談したり依頼したりしにくい状況があるようなんです。
こうした現場の声を一つひとつ拾い上げながら、できるだけ早く改善につなげたいと考えています。面談して実際に話が聞けたことで、工場全体をより働きやすい環境にしていきたいという気持ちがますます強くなりました。
働きやすい職場づくりに必要なのは、雑談と思いやり。多様な人財との共生をめざして
誰もが働きやすい職場にしていく上で、雑談の大切さをあらためて感じています。仕事の話ばかりではなく、とりとめのない会話がときに潤滑油となって楽しく仕事に取り組めるようになる場面を何度も目にしてきました。普段から何気ないコミュニケーションが取りやすい環境をつくることが今の目標です。
チャレンジド社員の例で言えば、LINEを活用することでコミュニケーションが改善されたことがありました。それまでメールのCC機能を使って雑談などのやりとりしていたのですがあまりうまくいかず、チャレンジド社員を含め課内でLINEグループをつくり、情報共有し始めたところ、連携がずいぶん取りやすくなったんです。状況にあったコミュニケーションの必要性を実感しました。
ただ、コミュニケーションの大切さはわかっているものの、現在の工場には社員同士が定期的に顔を合わせるような機会がほとんどありません。面談でも「日帰りでいいから皆と旅行にいきたい」という声が聞かれるなど、工場内ではつながりを求める意見が多いので、まずは社員同士でランチを楽しむ機会をつくるなど、可能なところから着手していけたらと考えています。
もうひとつ、より良い職場づくりに欠かせないと感じているのが、相手のことを思いやる気持ちです。相手が言おうとしていることを正しく理解すること、少なくとも理解しようとする文化が育っていけば、ちょっとした行き違いや衝突も起こりにくくなると思っています。
もし、女性やチャレンジド、シニアといった人財と共に働く中で問題に直面することがあったとしたら、一つひとつ提案して改善していけばいい。会社が生まれ変わっていくためにも、多様な人財の価値を理解し、受け入れる気持ちを醸成していくことが急務だと考えています。
※ 取材内容は2023年7月時点のものです

