経済学と文学、そして人生に触れた学生時代が導いた信託銀行への道
私は地方の公立大学で経済学を専攻していました。理論経済学、特にケインズ理論を中心に学んでいたのですが、ゼミでは毎週膨大なレポートが課せられ、その作成に追われる日々でした。地方にいたため専門書を手に入れるのも一苦労で、わざわざ東京の書店まで足を運んで書籍を物色していたことを今でも鮮明に覚えています。
勉強以外では、文芸研究部というサークルに所属し、純文学の創作活動に没頭していました。様々な新人文学賞に応募し、本気で作家になりたいと夢見る時期もありました。しかし残念ながら落選が続き、自分の才能のなさを思い知らされることになりました。また、長い間仏壇店でアルバイトをしていたのも印象深い経験です。小売店から各家庭に仏壇を運ぶのがメインの仕事でしたが、そこでは様々な人生模様に触れることができました。若い時に人の「生き死に」に関わる機会を持てたことは、とても勉強になったと思います。
就職活動では、長く働くからには社会性や公共性が高い仕事に就きたいと考えていました。また文系である自分が主役になれる企業という要素も大事にしていたので、研究職や技術職が多そうなメーカーなどは除外しました。自分の個の力を発揮したいという思い(野望・妄想)から、まだ商品の差別化もあまり進んでおらず個の力で勝負が出来て、まさに社会性と公共性が高い金融業界を志向するようになりました。
普通銀行、証券、生損保、リースと様々な金融業界を見て回りましたが、その中でも信託銀行に大きな魅力を感じました。時代や社会の様々な課題や要請に対して、信託の力、信託の器を使って実に幅広い商品やサービスを提供できる点に惹かれたのです。OB訪問でお会いした先輩方も、普通銀行とは異なるスタイルでプロフェッショナルとして働く姿がとても輝いて見えました。
当時はバブル経済が弾ける直前の売り手市場で、業界によってはかなり早い時期に内定を得る友人も多い中、金融はそこまで早くなかったので少し焦る気持ちもありました。しかし一生のことなので、できるだけ多くの企業を見て、たくさんの方々に会って後悔しない選択をしたいと考えていました。面接では他社から「もう他は受けないでうちに決めて欲しい」と言われることもありましたが、前職の担当者からは「色々な会社を見るのはとても勉強になる。今だけだからどんどん面接に行って来たらいい。その上で納得してうちに来て欲しい」と言われ、その懐の深さに感激しました。
一つの銀行の中で貸出以外に不動産、証券代行、年金、受託など実に幅広い業務を備えている点も魅力でした。当時、専業信託銀行は7行しかなく、希少価値のようなものを感じていました。普通銀行であれば銀行マンと名乗るところを、自分は信託マンと名乗れることがとても嬉しいと思っていました。実際に入行したらどんな色々なことが出来るのだろうとわくわくした気持ちでいっぱいでした。
大震災を経て再確認した「地域への想い」。転職を決意させた営業フロントへの情熱
地方の支店に配属され、社会人そして信託銀行員としての基礎を学んだ後、首都圏に異動し事業法人、金融法人、土地信託、ローン業務と多岐に亘る経験を積みキャリアを磨くことが出来ました。その後、合併を機に個人営業に転じ、全国各地の支店で担当者、課長、次長、支店長とすべての職位を経験することになりました。特に実務とマネジメントの両面で富裕層に対する資産運用と相続関連の総合コンサルティングを遂行する中で、顧客との折衝力、信頼構築力を発揮しながら専門知識とスキルを習得してきました。最終的には支店長として成果追求と人材育成の両立を図りながら、収益拡大とFD・CS向上に貢献することが出来たのではないかと思います。
※FD(Fiduciary Duty ):お客様本位の業務運営
※CS(Customer Satisfaction ):お客様満足度向上
33年余りで実に13の部署を経験し、それぞれ思いは尽きませんが、中でも強く印象に残っているのは、東北拠点(仙台支店)に在籍していた時期です。東北6県という広範囲にわたり営業活動を展開していたのですが、その時期は東日本大震災の爪痕が色濃く残る時期でもありました。多くの顧客との出会いの中で、「自分は助かったが、数分逃げるのが遅くて友人は命を落とした」といった生々しい話を目の当たりにしたのです。毎日、平穏無事でいることは決して当たり前のことではないことに気づき、やるべきことをやるべき時にしっかりとやる大切さを学びました。この経験はその後の人生に大きな影響を与えてくれた代え難い学びとなりました。地域のために出来ることの具体策として、支店の活動の中に津波被害を防ぐための防潮林の植樹活動を取り入れ、支店メンバーと一緒に汗を流したことは忘れられません。地域のために貢献するという使命を、この時期に再確認したのだと振り返っています。
支店長として収益拡大やFD・CS向上に取り組む中で、個人事業を取り巻く環境が大きく変化していきました。「収益構造」を『フローからストック』へ、「提案」を『何をどれだけ』から『誰に何を』へと変革するにあたり、以前の仕事のやり方に固執するメンバーも見られました。しかし私は「お客様本位の業務運営」こそが大切であることを浸透させ実践すべく、各種会議体やミーティングの場では必ず話題として取り上げ、1on1を実施し自ら考える仕組み作りを粘り強く行いました。その結果、他の支店に先駆けて行動変革が進み、業績も大きく伸長し表彰店舗となることに繋がりました。またコロナ禍で地元商店街が苦戦する中で、季節の挨拶の品を本部指定の百貨店からすべて地元購入に切り替えたり、回復期には地域のイベントに率先して参加したりと出来ることは何でもやるという方針で取り組みました。その結果、商工会議所や市役所上層部からの評価に繋がり、信託銀行として初めて市の公金運用に数億円規模で参入することが叶うという大きな成果にも至りました。
そんな充実した日々を送っていた56歳の時、会社方針により関連会社へ出向、転籍となりました。会社施設・ビルの管理という銀行グループとして大事な業務であることは認識していましたし、取締役会事務局といった新しい仕事に遣り甲斐も感じていましたが、その一方で半年も経たないうちに「まだ銀行員としてやることが残っている」「まだ不完全燃焼だ」という思いが強くなっていきました。自分がやりたいことは知識・スキル、FD・CS、顧客第一主義の精神といったこれまで現場の最前線で培ってきたことを組織に伝承することだという思いに至りました。そしてキャリアの大半を過ごして来た営業フロントにおいて、残りのキャリアも現場でお客様と共にありたいという自分の軸を大切にしたいと考えました。そしてもう一つの軸である「地域への貢献と感謝の気持ちを形にする」ことが出来る仕事に就きたいという想い、これが転職を決意した大きなきっかけとなりました。
「地域への貢献」という自分にとっての大切な軸を実現することを考えた場合、転職するのであれば地方銀行というのは決めていました。前職では数年ごとに全国転勤を繰り返し、じっくり腰を据えた活動をするのには限界がありもどかしさを感じていたので、地域に根差した活動をしたいという優先順位はとても高かったです。 そういう意味で千葉県内にきめ細かく張りめぐらされた支店網、地域のネットワーク、そ して「地域共創」を基本戦略に掲げている当行はとても魅力的でした。
もう一つは長く仕事をしたいということです。その意味において「経営方針」と「働き易さ」は大切な要素でした。それを知るためにかなり時間を掛けて地銀各行のホームページを隈なく見にいきました。京葉銀行では、長期ビジョン(創立 90 周年に目指す姿)を「バックキャスティング思考」で策定し、そこに至るまでの具体的なマイルストーンを設定する、という経営方針は、まさにこれまでの自分の歩みやありたい姿と合致するものでした。また働き易さにも関連しますが、大切な価値観の一つとして"『チームワーク』風通しの良い組織で「多様性を力に」″が掲げられており、まさに自分がその役目を果たすのだと内定もしてないうちから考えるほど感じるものがありました。
※長期ビジョン・中期経営計画:https://www.keiyobank.co.jp/aboutus/strategy/
実際に働いてみてお客様からの声として、敷居が低く親しみやすい、行員がみんな親切、 しっかりと寄り添ってくれるといったポジティブな評価が極めて多いことに驚きます。長年に亘って積み重ねられた当行の素晴らしいカルチャーだと感じています。
『こういうことがしたかった~』が着々と実現しています。これからも当行のどんな魅力 を発見できるのかとても楽しみです。
12の支店を支える指導役として、経験を活かした伴走型の支援を実践
現在、私は個人営業部の相続チームで、千葉県内4地区に跨る12の支店を担当する指導役という職を務めています。メイン業務は相続ビジネスの推進で、遺言、遺産整理、家族信託といったサポート業務に携わっています。2025年5月の入社から数か月は上司や先輩の指導を受けながらトレーニングを積み、下期からは本格的に自ら支店担当者の案件相談に乗ったり、実際にお客様と対面してコンサルティングを実施したりする立場になりました。
相続ビジネスに慣れていない若い担当者も多いため、勉強会の開催や同席OJTを通じた知識とスキルの向上支援が重要な業務となっています。特に若い担当者の中には、両親や祖父母が健在で人の死に向き合ったことがなく、相続業務全般に対して悪気なく怯んでしまう方もいます。そうした担当者には、まず私自身がお客様への対応を目の前で実践し、その後に真似してもらうという順番を大切にしています。「勉強して自分でやってごらん」ではなく「まずは真似してごらん」という順序にしたことで、恐怖心が取り除かれ、落ち着いて対応できるようになった担当者の成長を見ると、大きなやりがいを感じます。
下期から相続ビジネスの変革がスタートし、申込受付体制と指導役の役割という2つの大きな変化がありました。支店の早急な自立が求められる中で経験や知識不足から戸惑いを感じている担当者もいるため、リーダーシップで牽引する場面と、事案のフィードバックに時間をかけて疑問点をその場で解決できるような寄り添いの場面、この両方をバランスよく使い分けることを心がけています。基本的には寄り添いが8割、牽引が2割のイメージを持ちつつ、事前に上席者から担当者の人となりやキャリアをヒアリングし、一人ひとりにフィットするきめ細かな指導スタイルを実践しています。
また、前職で富裕層業務に携わっていた経験を活かし、2025年4月に立ち上がった資産家営業業務にも関わっています。スピード感をもって高水準で推進されていると認識していますが、「こういった視点を持つともっと強くなる」といった観点での発信を心掛けています。また相続ビジネスに加えて、預かり資産営業、特にファンドラップやコア&サテライト戦略についての発信も積極的に行っており、「相続だけでなく色々な事を教えてくれるのでとても助かる」という言葉を貰った時は、本当に嬉しく、益々指導に力が入ります。徐々に知識やスキルがアップする担当者が出てきており、その成長を間近で見られることが、この仕事の最大の醍醐味です。若い担当の皆さんには「何の仕事が好きか」ではなく「何の仕事をしている時の自分が好きか」という言葉を送りたいです。
一方で、苦労したこともありました。相続ビジネスに長く身を置いてきたため、「このようなことは誰もが知っている」という勝手な思い込みがあって、説明に丁寧さを欠いてしまい、お客様や担当者に真意が十分に伝わらないことがあったと反省しています。また、業務そのものについての戸惑いはあまり無かったものの、勘定系や情報系など各種システムに慣れるまでには相当な時間を要し、規定や取扱要領、各種資料を探すのに時間が掛かるという課題がありました。この業務効率向上という課題には「習うより慣れろ」の精神で、とにかくパソコンを数多く触ることを心がけ、時には先輩に「基本」プラス「裏技」を伝授してもらうことで改善してきました。
相続ビジネスの磨き上げから描く、地域金融の未来像
短期的な目標として最も注力したいのは、当行が現在推進している相続ビジネスの磨き上げに貢献することです。特に支店の管理職層に対して、相続ビジネスこそが顧客メイン化、次世代深耕、永続的取引に繋がる「キラーコンテンツ」であることを浸透させることが出来たらと考えています。そのために重要なのは、目標や業績だけを追いかけるのではなく、FDやホスピタリティ、ワンストップサービスの提供といった相続ビジネスの根幹とも言えるあるべき姿を追求していくことです。信託銀行出身者として、社会になくてはならない極めてやりがいのある仕事であることを訴求していきたいと強く思っています。
中長期的には、個人営業部という横断的な部署にいる強みを活かし、相続、年金、預かり資産という主要分野の連携をより一層深めシナジーを発揮させられるような組織構築に関わりたいと考えています。特に預かり資産営業は収益を稼ぐだけでなく、アフターフォローをしっかり行う体制を作ることで、他行に先駆けてお客様の変化や課題に気づくことができます。それが財産管理や相続ビジネスに結びつき、次世代取引の深耕、最終的には永続的な顧客基盤の構築に繋がるものであることを根付かせていく必要があると考えています。
当行では、中期経営計画においても長期ビジョンにおいても人的資本への投資拡大が重要事項として位置づけられており、様々な育成プランが用意されています。さらに公募制度や副業制度も拡充している最中で、受け身のコンテンツをこなすだけでなく「自分はこれをやりたい」「だからこんな努力をしている」という人材には門戸が無限大に開放されているといっても過言ではありません。私自身も早速、社内副業という形で経営企画部が担う「プラスαプロジェクト推進チーム」に参加し、企業理念の浸透という骨太のテーマに取り組んでいる最中です。
当行のコーポレートスローガンは「プラスαで未来をともに」です。顧客や地域社会の課題にプラスαの価値を提供するという想いが込められています。地域への貢献という価値観を絶対的なものとして、その上で挑戦と成長を体現し、資金・資産・資本の循環を担う銀行というエッセンシャルな存在に誇りを持ち、楽しんでいただきたいです。当行の魅力は信用力を背景としたネットワーク力であり地域のコーディネーターとしての役割を果たすことが出来るということです。常にベストプラクティスを追求し、顧客や地域の期待に応えるために全力で取り組める方と一緒に「多様性を力に」、地域金融の新しい未来を創っていきたいと考えています。

