建築設計事務所が手がける、地域共創シェアオフィス「func」
──まず、施設の概要について教えてください。
地域共創シェアオフィス func(ファンク)は、東京都府中市の府中駅北口から徒歩5〜6分、けやき並木の東、甲州街道の北側に位置しています。このあたりは緑や文化施設、住宅が多く、非常に暮らしやすいエリアです。運営しているのは、同市内で約10年間活動している建築設計事務所・株式会社アワーデザインです。
──ハード面や空間づくりには、どのようなこだわりがありますか?
建築設計事務所が運営母体である強みを活かし、内装や家具、照明、動線計画まで丁寧に設計しました。 コワーキングスペースには、パーティションと昇降式デスク、さらに長時間の作業でも疲れにくいエルゴノミクスチェアを導入するなど、無理なく集中できる環境を整えています。
また、イベントや会議、ワークショップに利用できるスペースも併設。今後はWeb会議用ブースの設置も予定しており、多様なビジネスシーンに対応できる空間づくりを進めています。法人登記や事業用住所としての利用も可能で、集合ポスト新設により、ご自身の名義で確実に郵便を受け取れる環境が整っています。
さらに、生産性向上やリラックス効果を重視し、室内には多くの緑を配置したのも特徴のひとつ。植栽のコーディネートは地域の生花店と協働して配置、空間づくりの段階から地元のプロフェッショナルと協働することで、ハード面においても「地域連携」を体現しています。
──ソフト面での特徴を教えてください。
地域の人や取り組みをつなぐ場をめざしています。入居者の方に地域の事業者や公共施設の活用法を紹介したり、街のイベントへの出店をサポートしたりしています。実際に、funcとしてけやき並木通りの公共歩道空間を借りて、入居者の方や知人のコーヒー店を誘って小規模なマルシェブースを出店した実績もあります。
──運営体制や、インキュベーションマネージャーとしての具体的な活動内容について教えてください。
funcを設計事務所の活動の場としても活用しながら、利用者の方と近い距離で運営を行っています。具体的には、施設の企画・運営全般に加え、入居募集や契約管理、設備の維持管理までを一貫して担っています。また、日々の運営においては、利用者対応から環境のメンテナンスまで、場の質を保つための実務にも継続的に関わっています。
また、日常的な交流だけでなく、月1回程度、地域のプレイヤーを招いたトークイベントや上映会、コーヒー&ティー・ミートアップなどを企画し、利用者同士や地域事業者とのネットワーク形成を支援しています。さらに、商店会や行政と協働したテストマーケティング支援や、学生のインターン受け入れなど、若い世代とまちづくりの現場を共有する活動にも取り組んでいます。
循環を生む起点に。インキュベーション施設を立ち上げた理由
──廣瀬さんのこれまでのキャリアを教えてください。
大学院修了後、株式会社日本設計という組織設計事務所に約13年勤務しました。一級建築士として、建築意匠設計の業務を起点に、経験を重ねる中でプロジェクトマネジメントにも携わってきました。学校などの公共施設や環境に配慮した建築を中心に、構想・企画の段階から設計、施工に至るまで、長期にわたるプロジェクトに関わってきました。
こうしたプロジェクトでは、クライアントや設計・施工チームに加え、行政や地域の方々など、関わる人や立場が多様になっていきます。その中で、建築物が完成後にどのように使われ、どのように地域と関係を築いていくのかまで含めて考えることを大切にしてきました。
その後、8年前に東京都府中市でアワーデザイン一級建築士事務所(現:株式会社アワーデザイン)に参画しました。住宅をはじめとした新築計画やオフィスの内装といった建築設計業務に加え、エリアマネジメントやまちづくりなど、建物が完成した後の運営や活用にも関わりながら、建築を通して地域や人との関係を育てていく仕事に取り組んでいます。
──設立のきっかけや背景にある想い、コンセプトについて教えてください。
地域に根ざした活動を続ける中で、クリエイターや個人事業主、商店会の方々とのつながりが増え、「地域に開かれた活動が見える場所」をつくりたいと考えたことが原点です。また、地域には「自宅住所を事業用の住所にしたくない」「子育て中でも地元で働きたい」といった個人のニーズがある一方で、街全体では開発によって小規模店舗が減っているという課題感もありました。
そこで、新しいことをスタートする個人や小規模事業者が、小さく挑戦を始め、ファンを獲得し、やがては街へ出店していく循環をつくりたいと考え、異なる事業者が組む「協働」の拠点としてシェアオフィスを立ち上げました。名前には「Fun(楽しい)」かつ「Creative(創造的に)」、そして「街のFunction(機能)」になりたいという想いを込めています。
──建物自体にも、インキュベーション施設につながる背景があるそうですね。
そうなのです。実はfuncがある場所は、もともとはオーナーのお父様が長く地域で学習塾を営んでいた場所でした。「ここで学び、巣立っていく」という文脈を持つ建物だからこそ、私たちがシェアオフィスとして「起業家が育つ場所」にすることに、オーナーが深い理解と応援をしてくださっています。
──なぜ、インキュベーションマネージャーになろうと思われたのですか?
私自身の生活者としての地域への想いが背景にあります。私も10数年住んでいるこの街で、子育てを通じて仕事以外のつながりが増えていきました。都心で働いていた頃よりも、地域で仕事をするようになってから人とのつながりができ、それが本当に豊かだと感じて。「恩返ししたい」「街を元気にしたい」という想いが強まりました。
また、何より私たちの会社の中でも、府中というまちで暮らし、働き、子育てをする「当事者」として、利用者の方と近い目線でお話しできる私が適任だと考えたのが一番の理由です。
──INCU Tokyoへの参加理由は何ですか?
入居者にはスモールビジネスで起業している方もいて、創業間もない起業家を支援すべくより良い環境にしたいと思ったからです。また、インキュベーション施設の運営は未経験なので、ノウハウを学び、横のつながりをつくりたいという期待もあり参加しました。
同じ目線で、自然な対話を。実体験に基づく伴走支援
──支援にあたって大切にしている姿勢について教えてください。
大切にしているのは、利用者の方と対等な「仲間」になることです。あえて「受付カウンター」を設けず、私たちも同じ空間で仕事をし、来客があれば立ち上がって挨拶をするなど、心地よい距離感を保つようにしています。
また、運営者である私自身も近隣圏内で仕事と生活を行き来し、地域の人々と多様な関係を築くことを大切にしています。そうした自身の姿勢を通じて、起業家の方の生活も大切にしながら働ける環境を提供したいと考えています。
──funcならではの強みはどこにあると考えていますか?
大きく3つあります。1つめは、運営者自身もチャレンジャーであるという点です。今回、自らが「クライアント/事業者」としてfuncの開業準備をし、その大変さを身をもって経験しました。だからこそ、制度や理論だけでなく、準備段階でつまずきやすいポイントや見落とされがちな実務まで含めて、起業初期の悩みに共感しながら支援できると考えています。
2つめは、少人数だからこそ実現できる「カスタムメイド型の伴走支援」です。立ち上げたばかりの小さな施設だからこそ、一人ひとりの事業フェーズや状況に合わせて、柔軟で丁寧なサポートが可能です。必要に応じて士業や専門家、行政へ適切につなぎながら、画一的ではない、その人に合った支援のかたちを一緒に考えています。
そして3つめは、「ハブ機能」です。funcは単なるワークスペースではなく、地域で活動する人々、商店会、行政など多様なプレイヤーと自然につながりが生まれる「ローカルハブ」をめざしています。日常的な連携があるからこそ、テストマーケティングや販路開拓支援など、実践を伴う支援が可能です。民間施設ならではのフットワークの軽さを活かし、柔軟かつ現実的な支援を行っています。
──これまでに印象に残っている支援事例について教えてください。
入居者の方の相談に限らず、地域から寄せられるさまざまなニーズをきっかけに、人と人がつながっていく場面を経験してきました。個々のスキルや人となりを理解した上で、適切な形やタイミングを考えながらつなぐことは簡単ではありませんが、そのプロセス自体にこの場所ならではの価値があると感じています。
また、商店会活動の一環として、地元の農業高校による探究授業の取材を受け入れたこともありました。高校生たちが働き方に関心を持ってさまざまな質問をし、実際に見学に訪れてもらう中で、学校や家庭以外に、大人と子ども世代が日常的に関われる場があることの意義をあらためて実感しました。
若い世代が地域や仕事に関心を持ち、大人の実践に直接触れる機会をつくることは、この場所が担える役割のひとつだと考えています。今後は高校生や大学生と入居者の方がゆるやかにつながり、学びと実践が行き交う関係性を育てていきたいですね。
funcでの出会いから、街全体の活気をつくっていく
──今後、どのような方に入居してほしいと考えていますか?
コワーキングスペースは、複業を始めたい方や新しいチャレンジをしたい方、個人のスキルアップの勉強や作業場所を得たい方、会社員の気分転換としていつもと違う人と出会いたい方に利用してほしいですね。
コワーキングスペースをご利用の方も事業用住所登録や法人登記ができるので、とくに新しくビジネスの拠点を探している方にぴったりです。個室はレンタルオフィスとして、自宅開業からステップアップしたい方や地域でオフィスを構えたい方・法人の方にもぜひ来ていただきたいです。
私たちは、地域でそれぞれの生活と両立しながら、持続的に事業を育てたいと考えている方と、非常に親和性が高いと考えています。働く場所と生活圏が近いことで、家族や友人、地域の人々と共に暮らす時間を大切にできる。そんな「暮らしと仕事が調和する拠点」として、ぜひ活用していただきたいですね。
──この場所を通じて、どのようなことを実現したいですか?
実現したいのは、想像を超えたコラボレーションです。自分たちだけではできないことを、入居者の方同士のスキルを掛け合わせることで実現したい。そして、funcでの活動が波及し、地域全体が元気になることをめざしています。
──INCU Tokyoや他施設との連携には、どのようなことを期待していますか?
キッチンやラボなどfuncにはない設備を持つ施設との相互利用や、共同イベントを行っていきたいですね。起業に限らず、会社員のままでも「場所を変え、会う人を変える」ことで新しいアイデアが生まれるような、柔軟で豊かな働き方をいっしょに楽しんでいきたいと考えています。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです
