KERNELが提供する、AI・DeepTechスタートアップ創出のための3つの支援
──KERNEL HONGOの概要を教えてください。
「KERNEL(カーネル)」は、AIや最先端技術に関心を持つ起業家や研究者が集まるコミュニティです。最先端技術の分野で活躍する人物が登壇する勉強会やイベントを定期的に開催しており、学びとネットワーキングの場になっています。
また、人と人とのマッチングに強みを持ち、起業や経営人材(CxO)としてのキャリアに興味のある方に対して、共同創業者探しやスタートアップへのマッチング支援を行っています。KERNEL HONGOはそうした活動の拠点として、東京大学近くの文京区本郷に誕生しました。
運営するのは、AI特化型VC・DEEPCOREです。「技術で世界を変える志を持つ者たちの潜在能力を解き放つ」をビジョンに掲げ、主に創業前~創業直後のアーリーステージへの投資を専門とし、これまでの投資先は140社ほどになります。
──特徴的な支援やプログラムはありますか?
直近では「創業・事業化支援」「マッチング支援」「ナレッジシェア」の3つにとくに力を入れています。それぞれのトピックスを紹介すると、まず「創業・事業化支援」として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実施する「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)」に採択されました。
これにより、大学の技術を事業化することに関心があるCxO候補の方と、技術シーズを持つ研究者の方のマッチングを通じて、共同創業を後押ししています。
「マッチング支援」としては、「LINKS by KERNEL」というマッチングプラットフォームを通じて、スタートアップへの参画に関心がある方と、スタートアップ企業をカジュアルにつなぎ、マッチングをサポートしています。
「ナレッジシェア」としては、スタートアップ特化の「人・組織の壁」を乗り越えるプログラム「SYNCLE(シンクル)」を運営しています。これは「自身の創業の思い」や「スタートアップの人・組織の課題」に向き合う起業家やCxO同士が、互いの経験や知恵を持ち寄りながら学び合うピアラーニングプログラムです。なお、「LINKS by KERNEL」と「SYNCLE」は、東京都のスタートアップ支援事業・TOKYO SUTEAMに採択されて立ち上げた事業です。
──村上さんはどのような役割を担っていますか?
コミュニティの運営責任者を務めています。私が一貫して大切にしているのは「人と向き合うこと」です。入会の際には必ず面談を実施し、一人ひとりのフェーズや状況を把握した上で、最適な支援を届けるよう心がけています。
また、顔と顔が見える関係性があるからこそ、コミュニティの中で予期せぬ出会いや化学反応、いわゆるセレンディピティが生まれると思っています。
人事・採用からスタートアップ支援へ。キャリアを貫く「人と向き合う」という原点
──これまでのキャリアについて教えてください。
2012年に新卒でソフトバンクに入社し、人事部で採用や人事制度企画などを担当しました。配属は偶然でしたが、人のキャリアや成長に向き合う仕事におもしろさを感じ、自然とのめり込んでいきました。そんな時、DEEPCOREの立ち上げの話を聞き、スタートアップの組織づくりにも携わりたいという想いから、2018年にジョインしました。
入社後は、HR支援を通じてコーチングやアセスメントツールを活用しながら、スタートアップの「人・組織の課題」に向き合う経験を積んできました。その延長線上に、「LINKS by KERNEL」や「SYNCLE」の立ち上げがあり、今のコミュニティ運営があります。振り返ると、「人と向き合う」というテーマは、キャリアの中で一貫していると思います。
──ソフトバンク時代のアメリカでの経験が転換点になったそうですね。
今から約10年前、出張で初めてシリコンバレーを訪れた時、インキュベーターやVCなどを訪問する機会がありました。それまで私は、新規事業をつくることや起業することは、個人の情熱や才能に依存した「アート」だと思っていました。
しかし現地で目にしたのは、志を持つ人を支援し、同じ想いを持つ人同士をつなぐことで化学反応を生み出し、大きなムーブメントへと育てていく「しくみ」でした。起業やイノベーションは、個人の資質だけでなく、しくみによって後押しできる。その気づきが、今の自分の仕事の原点になっています。
──起業家やスタートアップの方たちと関わる上で、心がけていることはありますか?
お互いにとってフェアな関係であることです。起業家は事業にかけがえない時間を注ぎ、私たちも支援に真剣に向き合っています。だからこそ、御用聞き的になんでも応じるのではなく、一人ひとりに本当に必要な支援を見極めて届けることが、お互いへの誠実さだと思っています。
起業家には相談できる相手が不可欠。コミュニティとして、創業を支援する意義とは?
──これまで支援してきた中で、とくに印象的なエピソードがあれば教えてください。
「LINKS by KERNEL」を通じてスタートアップにマッチングした方が、そこでの経験を糧にご自身で起業され、今度はスタートアップ側(採用する側)として関わるようになったケースです。
私たちは、VCとして投資を行うだけでなく、起業家そのものを増やしていくことがスタートアップエコシステムの活性化に不可欠だと考えています。スタートアップに参画した人が次の起業家になり、また新たな参画者を引き込んでいく。そんな循環が広がっていけば、日本のスタートアップエコシステムはもっと豊かになると思っています。
──創業を「コミュニティ」として支援する意義はなんでしょう?
中小企業庁の調査によると、「起業を実現した人」は「周囲に相談できる経営者の先輩や仲間がいた」と答える割合が高く、逆に「起業を諦めた人」は「相談できる相手がいなかった」という答えが多かったそうです。
人は、自分がわからないことを実態以上に怖く感じてしまうものだと思っています。でも、周りに実際に起業している人がいて、その話を聞いていると、「わからない範囲」が少しずつ減って、起業を身近に感じられるようになります。そうやって一歩踏み出せる人を増やしていくこと、そのための場をつくることが、KERNELの役割だと思っています。
ロールモデルが次の起業家を生む。KERNELエコシステムの循環が描く長期的なビジョン
──今後どのような方にKERNELを利用してほしいですか?
KERNELは、これまでAIエンジニアや研究者が多く集まるコミュニティとして成長してきましたが、今後は業界知識や経営スキルを持つビジネス人材にも、ぜひ参加してほしいと思っています。
AIの進化によって、AIスタートアップの立ち上げはエンジニア以外にも門戸が開かれてきました。業界のペインを深く理解しているビジネス人材が事業を立ち上げ、そこに共感したエンジニアが加わる。あるいは技術シーズを持つ研究者が事業化をめざす際に、経営人材やエンジニアとマッチングする。そんな多様な形でのスタートアップ創出が可能になってきた今、業界知識や経営スキルを持つ方にとって、KERNELは新たな挑戦の場になると思っています。
──今後の展望について教えてください。
KERNELは2018年の立ち上げから約8年が経ちました。嬉しいことに、初期に入会した方の中には、今やさまざまな分野で第一人者として活躍している方も多くいます。そういった方がKERNELのイベントに登壇し、知見を還元してくれる。コミュニティの中で先を行く起業家をロールモデルとして見ていた人が、やがて自らスタートアップを立ち上げ、今度は自分がロールモデルになっていく。そんな循環こそが、コミュニティの本来の価値だと思っています。
KERNELというエコシステムの中で、次々と起業家が生まれ、互いに高め合っていく場をつくり続けることが、私たちの長期的な目標です。
──最後に、INCU Tokyoに期待することがあれば教えてください。
私たちは、同じ立場の人間が集まり、互いの経験や知恵を持ち寄ることに大きな意義があると考えています。それは起業家同士に限った話ではなく、コミュニティを運営する私たち自身にも当てはまります。
INCU Tokyoは、施設運営者同士をつなぐだけでなく、コミュニティマネージャーのスキルアップのための取り組みも提供してくれています。支援者自身が学び、成長し続けることで、日本のスタートアップエコシステムの底上げにつなげていきたいと思っています。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです
