倉庫仕様の作業スペースもある、研究開発型ベンチャー企業のための社会実装拠点
──センターオブガレージの概要を教えてください。
センターオブガレージは、「研究開発型ベンチャー企業のための社会実装拠点」として2018年4月に開設しました。墨田区にある倉庫を活用した施設で、広さは1階と2階の合計で約2,000平米。天井の高さは最大6.4m、床の耐荷重が平米あたり2tという倉庫仕様の特徴を活かし、試作品の組み立てや実証試験など、幅広いニーズに対応できます。
運営体制としては、投資育成を得意とする株式会社グローカリンクが施設運営を、その親会社で科学技術研究のプロ集団である株式会社リバネスがサービス運用を担っています。さらに、リバネスが組織した日本全国の意欲的な町工場集団「スーパーファクトリー」が入居企業のものづくりの課題解決をサポート。現在は大手事業会社からベンチャーまで42社が入居しており、5年前から90%以上の入居率を維持しています。
──支援面ではどんな特徴がありますか?
主な特徴は3つあります。1つめは年間30回ほど開催しているピッチイベントです。必ずリバネスのコミュニケーターやグローカリンクのインキュベーションマネージャー(IM)が参加し、「参加者の次の一歩をつくる」という目標を持って運営しています。
2つめは、施設内に入居企業の製品を展示できる「ガレージミュージアム」があること。とくに地方拠点のベンチャー企業などは、開発が忙しく、東京での営業機会をなかなか持てないという課題があります。そのため、私たちが製品の技術的特徴や用途をヒアリングし、パネル化して製品と一緒に展示し、わかりやすく説明することで、企業の社員が常駐しなくても常にPRできる状態にしています。
3つめは、新しく事業を立ち上げる際のハードルとなる実証実験を支援できること。当施設で行った実証実験の例を挙げると、塗料や塗装機の製造技術を持つ会社が開発した抗菌剤を会議室に噴霧し、6カ月間定点観測をして効果を検証しました。
また、入居企業が開発した空間共有システムを導入し、リバネスの拠点があるマレーシアやシンガポールと接続してグローバル会議に活用してみる、という試みも行っています。
日本のものづくり技術でビジネスの可能性を広げたい──創業支援にかける想い
──髙木さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
私は美術大学でプロダクトデザインを学んだ後、デザイン事務所で商品ラベルや販促ブースのデザインに携わりました。その後、2014年からJICAの青年海外協力隊員としてフィリピン・ボホール州に赴任し、貿易産業省スタッフとして190社の小規模事業者支援を3年間担当。現地では、3Dプリンタなどデジタル工作機器を活用したものづくり工房で活動し、「テックプランターフィリピン」というリバネス主催の創業支援プログラムで企業賞を受賞しました。
2017年の帰国後は、リバネスの子会社・グローカリンクに所属し、センターオブガレージの立ち上げに参画。現在は施設運営代表兼IMを務めると同時に、リバネスの製造開発事業部で中小企業の事業変革にも携わっています。
──センターオブガレージの立ち上げに参画した背景と、当時の想いを教えてください。
フィリピン時代、インキュベーション施設やスタートアップ、アントレプレナーと関わる機会が多く、その経験を活かしてほしいと声がかかったのだと思います。ただし、実際に施設予定地を見学に行った時は、フィリピンのラボの10倍ほどの規模だったので衝撃を受けましたね(笑)。
東京で創業支援に関わることになって抱いたのは、「日本の優れたものづくり技術をもう一度この場所で生まれ変わらせたい」という想いでした。フィリピンでは、現地の方たちが日本のものづくりをとてもリスペクトしていて、私も客観的に見て技術レベルの高さを実感していました。
墨田区では、2013年には3,500社あった企業が、現在は千数百社にまで減っています。センターオブガレージが町工場の活動領域を世界に広げ、新しいビジネスチャンスを提供するハブになれないかと考えていました。
施設やIMとしての介在価値を発揮し、海外展開の支援や入居企業同士の連携事例も
──これまでの支援でとくに印象に残っているエピソードを教えてください。
島根大学発の、3分で充電できるバッテリーとバッテリーマネジメントシステムを開発したナチュラニクス社の事例は、とくに思い出深いですね。彼らは2021年4月からセンターブガレージで実証実験を開始し、最初は施設内のプレゼンテーションルームで、次に墨田区内で電動バイクの走行テストを行い、社会実装をめざしていました。しかし、日本では電動バイク市場の拡大が見込めず、投資家の理解も得られずに苦戦していたのです。
そんな時、タイで開催されたJETROのイベントに参加する機会があり、現地の方たちにこの事業の話をしたところ非常に反応が良く、その場で連携先も見つかりました。現在はタイの企業と連携し、小型モビリティの電動化や産業機械向けバッテリーレンタルの事業化を進めています。日本での実証実験があったからこそ海外に目を向けることができ、ナチュラニクス社が大きな成長を遂げたことを嬉しく思います。
──入居企業同士の連携事例はありますか?
養豚農家向けの豚の個体識別AIカメラを開発したEco-Porkという会社が、養豚場という土や埃の多い環境下だとカメラがすぐに汚れて機能しなくなる、という課題を抱えていました。そこで、太陽光パネルの清掃技術を持つ未来機械という会社が「太陽光パネルを置く砂漠も同じような環境だから、自分たちの技術を応用できるのでは」と提案。ベンチャー企業のものづくり支援をするアオキシンテックが実際の設計を手がけ、高耐久AIカメラが完成した、という事例があります。
企業間の連携は私たちスタッフが仲介することも多いのですが、この事例は入居企業同士で自然に生まれた連携です。センターオブガレージという場所が、各社の事業の進展に貢献できたと自負しています。
──入居企業を支援する上で心がけていることはありますか?
われわれと共に入居企業を支援しているリバネス側の企業担当者と情報共有し、各社の状況や抱えている課題などをしっかり把握するようにしています。その情報をもとに「この課題に対してはこんなソリューションが有効では?」という仮説を立てて話すと、解決の手助けになれると考えています。「センターオブガレージに入って良かった」「髙木さんに相談して良かった」と感じてもらえたら嬉しいですね。
実証実験への理解が進み、価値ある技術を活かせる社会に
──今後どのような企業に入居してほしいですか?
センターオブガレージは、2024年にマレーシアの経済特区内にも拠点を開設しました。そうした背景もあり、海外のスタートアップの数を全体の3割ぐらいまで増やしたいと考えています。国内のベンチャー企業はもちろん、大手や町工場の方たちも、海外企業と接することで新たな気づきやその国への興味が生まれ、海外展開のきっかけになり得ると思うからです。私たちの施設が、海外企業と日本のものづくり企業をつなぐハブのような役割を果たせたらいいですね。
──創業支援を通じて、どのような社会をめざしていますか?
研究開発型のベンチャー企業は、実証実験に時間がかかり、なかなか目が出にくいという課題があります。「新しい技術を使った製品やサービスを世に出すには、さまざまな検証が必要」ということへの社会的な理解が進み、身近なところで当たり前のように試されて、当たり前のように実装される世の中にできたら、と思っています。
私はこれまで、フィリピンでも日本でも、せっかくいいアイデアを持っているのに社会実装まで至らない、というケースをたくさん見てきました。そうした状況をわれわれが介入することで打破できるしくみをつくり、それを実行できるインキュベーション施設でありたいですね。
──INCU Tokyoに期待することはありますか?
たとえば、INCU Tokyo施設の共通パスのようなものをつくり、希望の施設が満室で入れない場合は他の施設を利用できるなど、よりフレキシブルなしくみがあってもいいのではないでしょうか。施設間の連携を強化し、お互いにビジネスとしてメリットがあるような関係性をつくれれば、施設運営者にとっても利用者にとっても価値があると考えています。
※ 記載内容は2025年10月時点のものです
