水族館に隣接するオフィシャルホテルならではの「特別な体験」を提供する
神戸の海を一望できる場所に2024年6月、神戸須磨シーワールドホテルは誕生しました。水族館に隣接するホテルのフロント業務を担当する藤原が、この場所の魅力を語ります。
「館内には、イルカが泳ぐ姿を間近で見られるドルフィンラグーンがあります。全客室オーシャンビューで、瀬戸内海とイルカたちの様子が一望できるんです」
この特別な体験は、客室だけにとどまりません。すべての宿泊プランに水族館の入館料が含まれ、さらに宿泊者だけが参加できるプログラムも用意されています。
「シャチやイルカのパフォーマンスの予約席を優先的に購入できることに加えて、閉園後の水族館を少人数で巡るナイトツアー、翌朝には水族館のオープン前のシャチの様子を見学できるツアーも実施しています。
ナイトツアーは完全貸切で30〜40名限定。朝のツアーでは、時に十数名で約2,500席あるオルカスタディアムの中心部を独占することも。宿泊したお客様だけが体験できる特別な時間です」
一般的なホテル業務とは異なることが、大きな魅力だと藤原は語ります。
「私はチェックインからチェックアウトまでのゲストケアはもちろん、ナイトツアーや朝の観覧ツアーのガイド役も担っています。シャチの生態や水槽の工夫について説明しながら、お客様が楽しんでいる姿を見ると、他では経験できない仕事だと実感します」
藤原にとって、この仕事の醍醐味は小さい頃から大好きだった水族館での仕事と、ホテルの仕事がともに味わえることにあると言います。
「子どもの頃から水族館が好きでした。ホテルでキャリアを積んできたことで、大好きな場所で働くことができたのがとても嬉しいですね。
特にやりがいを感じる瞬間は、ツアーガイドをしている時にお客様から『楽しかった』と声をかけていただくことです。ガイドが終わってチェックアウトの際に『水族館の方ではなかったんですね!』と言われることも。ホテリエではあるものの、水族館キャストと思っていただけるようなご案内ができたことに喜びを感じます」
情熱をもとに選んだ転職先──地元で生まれ変わった水族館のホテルへ
神戸市出身で、幼少期から現在の神戸須磨シーワールドの前身にあたる神戸市立須磨海浜水族園によく足を運んでいた藤原。学生時代は陸上競技に熱中し、中学校から大学まで長距離を続けました。
「とくにチーム競技である駅伝にどっぷりハマっていました。チームで走るおもしろさは、相乗効果があるということ。たとえば、個人で出た種目のタイムより駅伝の方が早いタイムが出たりするんです。みんなで盛り上がれる達成感が非常に心地よかったことを覚えています」
高校と大学で主将を務めた経験は、藤原にとって大きな学びとなりました。
「初めて主将になった時、責任の部分だけに目を向け、まったくチームの方を向いていませんでした。その結果、上級生と切り替わった初めての駅伝大会で、団結力が生まれず、大きくタイムを落としてしまったんです。
この失敗から、しっかりとコミュニケーションを取ってメンバーへのフォローを大事にするようにしたところ、半年後には同じメンバーで10分以上の大幅な記録向上を達成できました。相手のことを思いやり、気持ちを理解しようとする心の大切さを学べたのは、今の仕事においてもつながる財産だと思います」
就職活動では「苦手なことを克服したい」という思いで、接客業に挑戦します。
「1社目はアミューズメント施設に務め、多様な業務を経験する中でユニットリーダーを任されるようになりました。しかし、子どもが生まれたことをきっかけに、家庭のことを考えて、地元の神戸に戻る決断をしました」
2社目に転職した藤原は、テーマパークのオフィシャルホテルで、ドアマンからフロントまで6年間経験を積みます。
「テーマパークのホテルでは、初めてお子さまへの接客を経験しました。最初はどう接するべきかと悩みましたが、お子さまに対しては、親しみやすいコミュニケーションを心がけていきました」
そんな中、長年通い続けていた神戸市立須磨海浜水族園が閉園し、新たな水族館とホテルが開業すると知った藤原。迷わず応募を決めました。
「水族館は、毎日同じように通っていても生きものの違う表情が見られたり、新しい気づきがあったりと、私にとって特別な学びが得られる場所でした。『ここで働くことができれば、これまでにないほどの情熱を持って、お客様に感動を伝えられるだろう』と感じ、転職を決意しました」
大切な価値観から生まれた、笑顔が連鎖するチームづくり
入社後は、2024年6月のオープンに向けて準備を進めていったという藤原。水族館という特殊な立地を活かした、まったく新しいスタイルのホテル運営が求められました。
「オープンに向けた準備はしっかりとしていたものの、キャスト同士で連携がしきれておらず、オープン当初は部署やキャスト間を横断したオペレーションの仕組み化に追われていました」
この状況を受けて、藤原は自身が大切にしている考えを実践に移します。
「仕事をする上で大事にしている考えの1つに『キャストが幸せでないと、満足できる接客はできない』という想いがあります。そこで、キャストが安心して業務ができるようマニュアルを作り直し、フロント業務を細分化した成長管理表を作成しました。そして、個人が自身の現在位置と次の目標をゲーム感覚で把握できるツールを作って実行したのです。
取り組みを進める上では、マネージャーにも支えられました。とくに大きな力になったのは、質問に対する姿勢です。上司に同じ質問はしづらく、なかなか前に進めなかったり、緊張して自分の本領が発揮できなかったりする方が多い中で、先頭を切って『同じことを何回も聞いてね』と笑顔で言ってくれたのです。そのおかげで、チーム全体に風通しの良い空気が生まれました」
こうした取り組みの結果、口コミでも高い評価をいただけるようなホテルへと成長していきました。
「職場環境の改善は、キャスト一人ひとりの表情にも現れています。当ホテルは支配人とマネージャーを中心に、仕事の合間に適度な雑談やユーモアを挟むことで、一人ひとりが笑顔になっているシーンが多いんです。そんな風にコミュニケーションを取れていると、職場の雰囲気もあたたかくなりますし、顔を上げている回数が増える分、お客様の変化にも気づくことができるんです」
キャストと向き合いながら、職場づくりをしてきた藤原。印象に残っているお客様とのエピソードもあると話します。
「とあるご家族の接客を担当させていただき、小さなお子さまにドルフィンラグーンをご案内し、イルカを見ながら楽しくお話しをさせていただきました。その後、再びご来館いただいた際、お子さまが私の顔を見た瞬間に、駆け寄ってきてくれたのです。私のことを覚えてくださって、その後も来られる度に声をかけてくれるようになりました。
かつて接客も苦手で、お子さまとの接し方もわからなかった頃を経て、自身の変化を実感できた出来事でした。本来は我々が喜びを提供する側ですが、お客様からあたたかい励みをいただけましたね」
キャストの輝きが、お客様の満足度を高めていく
神戸須磨シーワールドホテルの客室は全80室。比較的小規模なホテルだからこそ、藤原が大切にしていることがあります。
「一般的なホテルからすると少ない部屋数なので、積極的に自分からコミュニケーションをとっていくのが大事だと思います。小さな変化に対して気づく力というのが一番だとは思いますが、その上でこちらからお声がけし、お客様一人ひとりに丁寧にコミュニケーションを取ることが必要です。
それは、どんな小さなことでもいいのです。空のペットボトルを持っているお客様にお声がけし、ゴミを回収するというのもひとつです。『何かお困りごとはないですか』という一言をもとに、自ら話しかけていくことを大切にしています」
このホテルで働くのに向いている人材についても、藤原は具体的なイメージを持っています。
「自分自身が楽しむことができる人がいいと思います。私自身もそうなのですが、マネージャーたちを見ていても、みなさん楽しんで仕事をしています。お客様以上に水族館のオフィシャルホテルというロケーションを楽しめるというのが一番なのかもしれません。
キャストを見ても、水族館に限らず、多様な興味や情熱を持つ人材が集まっています。楽しいことが好きで、何かを追求していける人はきっと活躍できると思います」
最後に、今後の展望について藤原は一つのビジョンを描いています。
「来ていただいたお客様に、『来てよかった』『また来たい』が口癖になるぐらいに楽しんでいただけるホテルにしたいです。そして、キャストに輝いてほしい。それがお客様の満足度にもつながると信じているからです。働いていて一番楽しい職場、キャストが輝く職場にしたい。世界一幸せな職場と呼ばれるようなホテルにしていきたいですね。
当ホテルもまだまだ改善の余地があります。一つひとつ課題をクリアし、さらにキャスト同士がコミュニケーションを取れる時間を今以上に増やしていきたいです」
※ 記載内容は2025年9月時点のものです

