行政とベンダーそれぞれの意図を“通訳”して、最適なシステムを構築する
──東京都は、2023年9月に官民が協働してDXを推進するプラットフォーム「一般財団法人GovTech(ガブテック)東京」を始動させるなど、DXの取り組みが加速しています。デジタルサービス局は、2021年4月からデジタルを活用した都政のサービス品質向上に取り組んでいますが、亀山さんは、どのような業務を担当されていますか?
デジタルシフト推進担当課長として、各局支援という業務を担当しています。都庁が管轄する福祉局(旧福祉保健局)や産業労働局といったさまざまな局からデジタル化の相談が来た際に、プロジェクトマネージャーに近い立場で参加します。
システムを作る際は、ベンダーとのやりとりが発生するのですが、専門的な話になることが多いので、私たちが“通訳”のように双方の意図を伝えるのも大事な仕事です。
東京都が管轄している局はたくさんあり、2022年にデジタルサービス局が関わった案件数は約260件に上ります。2023年も、6月までですでに約70件の依頼が来ています。そのうち、現在私が担当しているプロジェクトは、アクティブに動いているものだけでも30件程度あります。
最近では、「都庁DXアワード」なども開催されるようになったことで、私たちの役割が認知されてきたのかなと思います。
──かなりの数を担当されていますね!これまで、どういったプロジェクトに関わってきたのでしょうか?
私は、保健医療局や福祉局(旧福祉保健局)のプロジェクトを担当することが多いですね。生活に直結するようなところで言えば、一般の方向けのワクチン予約システムなどを担当してきました。
システム開発自体はベンダーに依頼するので、「行政としてはどういった考えで作るのか」「運用に関して、こういう部分に気をつけてほしい」といったことを伝えています。
──さまざまな部署や企業との連携が必要な立場ですが、仕事を進める上で気をつけていることや心がけていることはありますか?
「何も便りがないのは良い便り、ではない」ということです。
私たちは、基本的には各局から相談や依頼を受けて動きますが、それが困りごとのすべてではないと思っています。「困っているけれど、何を聞いていいのかわからない」「今のシステムはちょっと使いにくいけれど、言いづらい」ということもあるはずです。
ですから、相手が私たちに聞きづらいであろうことも含めて、こちらから情報を取りにいくことを心がけています。できるだけリアルな現場の声を聞いて、すぐに対応するということを積み重ねることで、信頼関係が築けると思っています。
民間での経験を活かし、費用対効果が高く、リスクを抑えた開発をサポート
──亀山さんは、2021年に都庁に入庁される前は、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
公共分野のシステムを含めいろいろな事業分野の開発をしているSIerに20年ほど勤務していました。最初は、社内のシステムや製造業のシステム開発をしていたのですが、途中から、官公庁で使う勤務管理システムなどの開発にも携わるようになりました。
──ベンダーの立場として、行政のシステム開発で苦労したのは、どんなところですか?
入札の難しさですね。行政が定めた要件と費用感、ベンダーが想定している要件と費用感が合わず、結果的に満足いくシステムにならないというケースが起こるんです。
行政の方たちはシステムの専門家ではありませんから、細かく要件定義をすることは難しいですよね。そのため、仕様書の要件では足りなくて、途中で予算が不足することがあります。でも、年度ごとに予算が決められるため、追加の予算はすぐに出ません。すると、ベンダーは予算内でなんとかするよう検討して進めます。
逆に、「あれもほしい、これもほしい」と過剰な機能を盛り込んだ仕様書で入札が行われた結果、慣れていないベンダーが妥当でない金額で受注してしまい苦労する、というケースも見たことがあります。
──行政のシステムを開発するとなると、プレッシャーも大きいと思います。とくに大変だった思い出はありますか?
あるシステムで追加機能をリリースする際、私のミスでシステムを止めてしまったことがあります。事前に何度もテストやシミュレーションをしていたのですが……。
「何かがおかしい」という連絡が入ってから、問題点に気がつき、システムが止まるまでの間は、本当にスローモーションのように時間が流れました。どう改修すればいいのか、どうやって謝ろうかといったことが頭を駆け巡り、苦しい時間を過ごしました。当時はよく夢に出てきました。
──そういった苦労をされたぶん、現在の業務に活かせることがありそうですね。
そうですね。トラブルが起きたときの対応もそうですし、トラブルを予防するための確認ポイントなども、こちらからベンダーに投げかけることができます。
入札に関しても、現在は私のように民間出身の職員もいますから、発注する際にどういう書き方をしたら良いか、ベンダーに提案してもらった方が良い部分はどこかなど、受注側の視点も交えてアドバイスできます。
「費用対効果が出やすくなるようにしつつ、リスクも抑える」という点は、みんなが意識している部分です。
この先の20年をどう生きるか──思い切って行政への転職を決断
──約20年、民間企業に勤めていて、行政の中に入ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
コロナ禍になって、自分が関わっていた案件が止まったり、専門外の案件に携わることが増えたりしたことがきっかけです。
ちょうどそのころ、東京都がデジタル人材を募集していることを、知人に教えてもらったんです。ベンダーの立場として行政とは関わっていましたから、中の様子もある程度理解していて、正直不安はそれほどありませんでした。
とはいえ、会社に不満があったわけではありませんし、20年勤めた会社を辞めるというのは、とても勇気がいることでした。でも、「定年までのあと20年をどう生きようか」と考えたときに、思い切って転職してみるのも良いかもしれないと思ったんです。
また、当時は管理職となり、お客様との距離が少し遠くなっていたことも一つの理由です。都庁に入れば、自分たちのサービスを届ける人の生の声が聞ける距離で仕事ができそうだなと思いました。
──実際に行政の仕事を始めて、利用者との距離が近いというのは、やりがいになっていますか?
そうですね。ワクチン予約のシステムなどは、家族や知人、私自身も使うものです。そういった身近なシステムに携われる、そしてそれを東京都の規模でできるというのは、魅力ですよね。
もちろん、都民の方たちだけではなく、現場の職員との距離が近いというのも、やりがいの一つです。実務に携わる人たちと一緒に、システムに関連する業務フローなどにも踏み込んだ改善ができることは、大きなやりがいです。
──現場の方たちと取り組んだもので、印象的だったプロジェクトはありますか?
2021年に取り組んだ豊洲市場の衛生システム管理業務のデジタル化プロジェクトは、その年の「都庁DXアワード」で最優秀取組を受賞しました。
これは、毎朝豊洲市場で行っている事業者への衛生検査をデジタル化するプロジェクトです。きちんと温度管理ができているか、有毒魚がいないかなどをチェックするのですが、それまでは、記録用のカメラや記入用紙を持参し、事務所に戻ってからパソコンに転記するという手順でした。
この検査にタブレットを導入すれば、データを打ち直す必要もなく、効率化できるのではないかという相談があったんです。
そこで、まずは試作を作り、実際に検査を担当している職員に使ってもらいながら、改善を繰り返して完成させました。このタブレットを活用した検査の仕組みは、その後横展開されて、現在ではさまざまな事業所で導入されています。
その業務のプロフェッショナルである保健医療局(旧福祉保健局)と、民間の知見を持ったデジタルサービス局が、ガッチリとタッグを組んで成功した事例として評価してもらえたのかなと思っています。
こんなにおもしろい仕事は他にない。行政と民間の知見を活かして地域に貢献したい
──これからのキャリアについてもお伺いしたいと思います。現在、さまざまなプロジェクトに関わっていますが、今後の目標や挑戦したいことはありますか?
現在携わっているような、大きなシステムを安定的に構築する仕事は、引き続き取り組んでいきたいと考えています。それを東京都で経験できていることは、とても大きな財産になるはずなので、ゆくゆくは、自分の出身である地方都市など、別の地域でも貢献してみたいと思っています。
公務員としてなのか、CIO補佐官のような立場としてなのかはわかりませんが、民間と行政の両方でDXに携わった経験がある人はまだまだ少ないので、この経験を活かしたいと思います。
全国に自治体は1,700以上ありますから、行政のDX推進を担える人を増やす活動もおもしろそうですよね。
──ちなみに、民間に戻るという選択肢を選ぶ可能性もあるのでしょうか?
可能性はゼロではないですが、今の仕事を経験して、「こんなにいろいろなことをやらせてもらえる立場は他にないな」と感じているんです。このおもしろさを知ってしまうと、私自身は自治体に近いところにいた方が楽しそうだな、と思っています。
やっぱり、生活に直結していて、利用者の顔が見えるプロジェクトに横断的に関われるのは、すごく手応えがありますよね。
──亀山さんのように、行政の仕事が楽しめる人というのは、どういう価値観を持った人だと思いますか?
いろいろなところに埋もれている課題を、自分ごととして捉えて、解決のための行動ができる人だと思います。
問題や課題を認識している人は、たくさんいるんです。だけど、認識するだけではなくて、その本質的な問題は何かを考えて、解決策を立て、実行することが肝心。
そのためには、やはりコミュニケーションが重要です。相手が組織と組織の間に境界線を引いていたとしても、「その境界線をなくそうよ」とコミュニケーションをとることで道が拓けます。
そうやって埋もれている課題を拾い上げ、技術を使って解決したいと思っている人であれば、やれることは山ほどあると思います。
──ありがとうございます。最後に、「行政のDXに挑戦したい」と思っている方に、メッセージをお願いします。
行政は、取り組まないといけない課題が幅広くて、深いものがたくさんあります。そして、それを解決したら喜んでくれる人たちが、身近なところにたくさんいます。そういったところに手を差し伸べられる仕事は、すごくやりがいがあるはずです。
2023年9月には、新しいプラットフォームとしてGovTech東京が始動します。行政と民間の知見を持ち寄った組織を一緒に作るということも含めて、皆さんと力を合わせていきたいと思っています。
※ 記載内容は2023年7月時点のものです
