国、東京都、区市町村が一丸となって進めるDXプロジェクトに携わる
──東京都は、近年DX推進を加速させていて、2023年9月には官民が協働してDXを推進するプラットフォーム「一般財団法人GovTech(ガブテック)東京」が始動します。デジタルサービス局は、一足早く2021年4月に設置され、デジタルを活用した都政のサービス品質向上に取り組んでいます。田邊さんは、どのようなプロジェクトに携わっているのでしょうか?
私は、デジタル推進課の課長として、自治体のDXをサポートしています。
2020年に総務省が策定した「自治体DX推進計画」の重点項目の一つに、「自治体の情報システムの標準化・共通化」があります。2025年度末までに、区市町村の20の基幹業務システムを標準仕様に適合させて、利用開始できるようにするというものです。現在は自治体ごとにバラバラのシステムを利用していますが、共通で使えるものは統一させて効率化を図ろうという目的です。
そのためには、ガバメントクラウド(政府共通のクラウドサービスの利用環境)への移行なども行わなければいけません。区市町村が主体で動く必要があるため、私たちは、国からの通知などを解釈して、どう動いたらスムーズに実現できるかを、コンサルタント的な立場でサポートしています。
もちろん、区市町村だけではなく、都が管轄する福祉局や保健医療局や主税局といった関係各局とも連携が必要になるため、国、東京都、区市町村が一丸となって進めるプロジェクトです。
──区市町村DXを担当するチームは現在、どのような体制ですか?
課長職が私含めて4名、メンバーが9名の13名体制です。それぞれ、行政向けのシステムの開発・導入・運用・管理経験者、クラウド事業の推進経験者、行政職員としてシステムの開発・運用・管理経験者など、官民さまざまなバックボーンを持っているので、得意分野を活かしながら区市町村のサポートをしています。
──多くの区市町村の方たち、都の職員の方たちと連携する必要があると思いますが、仕事をする上で、とくに大切にしていることはありますか?
「配慮すること」「信頼されること」「成長すること」の3つが大切だと考えています。
配慮することというのは、周りの人に気配りしながら、貢献する気持ちを持って役に立つということ。信頼は、信用されて頼られるような行動をすること。そのためには、まずは傾聴して、相手を知った上で言うべきことを言う、という姿勢が大切かなと思っています。そして、成長のために変化を受け入れる柔軟性も必要だと考えています。
また、私たちは組織間をまたいだコミュニケーションをすることが多いので、その一歩目をどう踏み出すかという点は気をつけています。東京都はとても大きな組織で、局や庁がたくさんあります。当然、DXや標準化への意識も温度差があって、いきなり「DXを進めますから、これをやってください」と言っても、難しいんです。
ですから、まずは通常業務以外でも、相談されたことには積極的に応えたり、手伝ったりすることで、私たちの存在を知ってもらい、認めてもらうことから始めています。
大きなプレッシャーに耐えながら、制度改正に合わせたシステム開発を成し遂げる
──田邊さんは、2022年4月に都庁に入庁されましたが、それ以前はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
新卒で、主に公共分野のシステムを開発するSIerに入社しました。まずはシステム開発を2年、次の2年は営業、次の5年は山梨県の自治体に常駐して、システムの導入・移行を担当するという、少し珍しいキャリアです。
山梨県での常駐が終わったあとは、税金の計算を行うシステムや、国民健康保険などに関する基幹業務システムの開発を担当していました。
──多くの人の生活につながるシステムの開発に携わっていたんですね。中でも、とくに大変だった出来事はありますか?
2018年4月の国民健康保険制度の改革です。区市町村だけではなく、都道府県も国民健康保険の保険者になるという改正があり、これに伴うシステム開発に携わることになりました。
全国で利用する大規模なシステムですから、複数の企業が協力し、メンバーも120名以上いるプロジェクトでした。そのうち、開発メンバーの70名ほどを私がマネジメントしながら、各社と調整する役割を担うことになったんです。
施行日は4月1日。行政のシステムですから、期日は絶対にずらせません。でも、途中で要件の変更が入ることもあれば、思うように動かないこともあります。そのため、施行日までに本当に必要な機能を整理して段階的にリリースできるようにしたり、問題が発生したときにはすぐに追加でリソースを提供してもらえるように各社と関係性を築いたりして、なんとか完了できました。
──大変な状況の中で、メンバーを束ねる立場として心がけていたことは何ですか?
メンバー任せにしないことです。全員が大きなプレッシャーの中で戦っていましたから、私も常に現場で状況を把握し、「必ず間に合わせるぞ!」というマインドを共有することを大切にしていました。
全員が力を合わせて取り組めたことで、周りからはスムーズに進んだプロジェクトに見えていたようです。私たちは本当に苦労したのですが……。今振り返っても、無事に終わって良かったですし、当時の方が、今より格段に大きなプレッシャーがあったかもしれません(笑)。
自治体で経験した自らの成長、そして命のありがたさ──「恩返し」で行政へ
──民間企業でキャリアを積んできて、行政側である都庁に入ろうと考えたのは、なぜでしょうか?
大きな理由として、「恩返しがしたい」という思いがありました。
山梨県の自治体に常駐していた経験が、一つのきっかけです。当時は社会人5年目で、まだまだ知らないこともたくさんありました。でも、小規模な自治体だったこともあり、私一人で幅広く業務を担当しなければいけませんでした。
そんな中で、職場の方たちが本当に丁寧に接してくれたんです。そのおかげで、知らないことを素直に教えてほしいと言えたり、困ったときには周りの人たちを頼ったりできました。
また、町を歩いていると、地域の方たちに温かく声をかけもらえるんですね。「地域に根付いた仕事っていいなぁ」と思いましたし、その5年の経験が自分の仕事のベースになっていると感じています。
もう一つのきっかけは、体調を崩した経験です。手術が必要な状態だったのですが、当時はコロナ禍で、緊急事態宣言が出ている時期。病院が大変なときだったのですが、医療従事者の方たちのおかげで乗り越えることができました。
そうやって救ってもらった命で、このあと何ができるだろうと考えたときに、「お世話になった行政に恩返ししたい」「行政のDXに関われば、デジタル化に課題を抱える医療現場にも恩返しができるのではないか」と思ったんです。
──それで恩返しなんですね。田邊さんはもともと行政との関わりは深いですが、実際に行政の中に入ってみて感じたやりがいは、どんなところですか?
これまでは外部のSIerとして、制度の変更を受けてシステム部分の対応をするという立場でしたが、行政の中にいることで、もっと上流から関われるようになったことが大きなやりがいです。いわゆるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング/業務フローや情報システムを抜本的に見直すこと)に踏み込めるということです。
SIerにいたころは、“制度ありき”のシステム構築に難しさを感じていました。制度と運用が一体になっていないので、複雑な仕組みになってしまい、最終的に現場で使いにくいシステムになってしまうことがあるんです。
当時も、「制度をここまで決めないと、運用は難しいですよ」といった提案はしていたのですが、そういった声を直接届けられる立場になったことが、大きな違いです。
──より現場に即したシステムが作れるし、システム周りの業務改善のアドバイスもできるということですね。
そうですね。制度を適用するにあたっては、その周りの付帯作業もありますし、データ収集が必要なこともあります。そういった部分の業務効率化などもアドバイスできる点は、新たなやりがいです。
──では逆に、行政ならではの文化や風土で苦労したことはありますか?
私は、自治体に常駐していた経験もあるので、文化の違いなどに戸惑うことはほとんどありませんでした。ただ、組織をまたいだコミュニケーションの場合、課長であれば課長同士というように、役職を合わせたやりとりを重視する人が多いんです。役職を飛び越えてやりとりした方が早くても、それが難しい場面があります。
そこは、民間出身者が増えていくことで、もっとフラットになっていくといいなと思っています。
デジタルによる効率化で、住民サービスを拡充できる。そのために時間を使いたい
──これからのキャリアについてもお伺いしたいと思います。今、区市町村のDXに関わっていますが、今後の目標や挑戦したいことはありますか?
まずは、2025年が目標期限になっている、自治体の情報システムの標準化・共通化をしっかり進めたいと思っています。
ここが実現できて、区市町村の事務作業が楽になったり、データ連携がしやすくなって、データの利活用もできるようになったりという状況が作れれば、住民の皆さま向けのサービスもスピード感を持って提供できるようになると思います。
もちろん、基幹業務システムだけではなく、その周りの効率化も進めていきたいと考えています。たとえば、コミュニケーション一つとっても、メールを使わないといけなかったり、ファイルのやりとりの方法に制限があったりといった部分は、ツールの活用などでもっと効率化できるはずです。
日本には1,718市町村、23特別区、および47都道府県の自治体があります。一つひとつの自治体で見れば、削減できる時間は少なかったとしても、すべての自治体で取り組めば、膨大な時間が短縮できます。効率化できる部分はしっかり効率化して、その分のリソースを住民サービスに充てられると良いですよね。
──そういった想いを実現するためにも、より多様性のある人材が参画していく必要があると思います。行政のDXに携わるには、どういった価値観やスタンスの人が向いているのでしょうか?
これまでの行政の歴史をきちんと受け止めて、現状を理解することが重要なポイントだと思います。いきなり最新の技術やツールが使えたり、一気に改善が進んだりするわけではありませんから、これまで築いてきた制度や文化を理解した上で、改善できるところはどこかを、常に考えて見つけていく姿勢が大切です。
そのために、これまでの知識や経験を、もっと広く行政の人たちに伝えていくという気持ちを持っている人が向いていると思います。
私たち民間出身者は、行政のプロではありません。ですが、そのノウハウを行政の人たちに伝えることはできます。行政の実務を知っているプロがITを覚えれば、私たちは敵いません。
そういう人たちを少しでも増やすことで、行政はもっと良くなり、社会に還元できると思います。「そのために時間を使うんだ」という人が、たくさん集まるといいですね。
──ありがとうございます。最後に、「行政のDXに挑戦したい」と思っている方に、メッセージをお願いします。
民間と行政のいろいろな知識や経験をつないでいくことで、もっと便利な社会が作れると思います。そのためには、行政の中に入らないとできないこともあります。ぜひ、一緒により良い社会を作っていきましょう。
※ 記載内容は2023年7月時点のものです
