「Fit to Standard」を合言葉に、グローバル標準化を推進
IT企業からDX企業への変革を推進している富士通。その過程で始まった「OneERP+」は、2024年10月から順次稼働を開始しています。この「OneERP+」の取り組みの中で、既存システムから新システムへとデータを移行する役割を担う渡辺がここに至るまでの背景を語ります。
渡辺:富士通では2020年より、全社DXプロジェクトとして「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を推進してきました。OneERP+を含む全社横断プロジェクトである「OneFujitsuプロジェクト」もフジトラのテーマの一つです。DXのリーディングカンパニーをめざして変革を進める中、課題となっていたのが、個別最適化された業務とシステムです。
長年にわたって構築されたシステムは、グループ全体で4,000以上も存在しており、システムが異なれば業務プロセスも異なるため、業務の属人化が進んでいました。富士通の変革を実現するためにはこうした課題を解決することが必要不可欠でした。
先述した「OneFujitsu」には、現時点で「OneCRM」など6つのプログラムがありますが、その中核となるのが「OneERP+」です。システムをシンプル化してビジネスオペレーションを標準化・効率化し、さらにデータを一元化することで、データドリブン経営の実現をめざしています。
リアルタイムマネジメント、経営資源のデータ化・可視化、ビジネスオペレーションの標準化という3つの重点施策に取り組む「OneFujitsu」。その中核を担う「OneERP+」には、大きく2つの目的があります。
渡辺:1つは先ほども述べたとおりですが、データドリブン経営の実現です。これまではExcelでのバケツリレーが多く、システムごとにデータが散在していました。迅速な経営判断を行うためには、データを一元管理し、リアルタイムで確認・分析できる仕組みが必要となります。
もう1つがオペレーショナルエクセレンスの追求です。業務プロセスを全社で統一することで、グローバルシェアードサービスの実現をめざしています。経理や購買などの業務を、国ごとではなくグローバルで集約して一元管理できるように最適化を進めています。
全社を挙げた変革を円滑に推進するための体制構築も行われました。
渡辺:「OneERP+」は経営プロジェクトであるため、経営層がプログラムオーナーを務めています。そして各業務プロセスには、権限と責任を明確に持つDPO(Data & Process Owner)と DPL(Data & Process Leader)を配置しました。こうしてトップダウンでデータと業務プロセスを標準化できる体制を構築しています。
体制構築とともに重要なのが、グローバル標準化のための方針策定です。何をグローバル標準とし、それをどう実行していくのか。渡辺と同組織で「OneERP+」のグローバル標準業務の設計・構築を担う碁盤は、その方針について語ります。
碁盤:グローバル標準化の方針は「Fit to Standard」です。グローバル企業として通用する標準を構築していく、という意味が込められています。この方針に基づき、SAPのベストプラクティスをベースに、他社事例や欧州での先行事例を参考にしながら富士通独自のグローバル標準モデルを構築していきました。
通常は1つのシステムを各リージョンにコピーして構築し直す「展開型」が多く、結果的に似て非なるシステムが乱立してしまいます。これを避けるため、構築したグローバル標準モデルに各リージョンやグループ会社が合流していく「合流型」が「Fit to Standard」のアプローチです。とはいえ、標準化のために従来のやり方を変えるのは容易ではありません。そのため、現場の合意を得ながら進めることを大切にしています。
現場が納得感を持って変革に取り組めるよう、「OneERP+」ではチェンジマネジメントにも力を入れています。
碁盤:2つのターゲットに対してチェンジマネジメントを実施しました。1つはエグゼクティブ層です。従来のように部門ごとに使いやすいExcelでデータを集めるのではなく、全社共通のデータを用いて意思決定いただくといった意識改革に、時間をかけて取り組みました。
もう1つは現場ユーザーです。「OneERP+」の目的と意義、そして業務がどう変わるのかを、eラーニングや説明会を通じて継続的に伝えるとともに、実際にシステムを触って業務の変化を体感してもらう機会も設けました。
さらに、稼働前の半年間は全国9拠点で担当役員であるCDPO(Chief Data&Process Officer)(※1)やDPLが説明会を実施するなど、対面で直接「OneERP+」の意義を伝えることで、現場ユーザーの理解や協力を得る活動も展開しました。
※1 CDPO(Chief Data&Process Officer):2025年4月よりCDXOに統合
社内公募制度を利用し、自ら「OneERP+」に参画。前例のないプロジェクトに挑戦
2024年1月から「OneERP+」に参画している渡辺。富士通へは2013年に新卒で入社し、SEとして大手銀行向けのシステム開発に従事していました。
渡辺:金融関連システムの構築を中心に、複数のプロジェクトでプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーを担当しました。そこで約9年経験を積んだ後、グループ会社のRidgelinezに出向。SAPをはじめとするDXのデファクトスタンダードシステムを導入し、社内での効果的な活用を推進していきました。その後はコンサルタントとして生成AI関連のコンサルティング業務も経験しました。
そしてRidgelinezへの出向が終わるタイミングで、渡辺は自ら「OneERP+」への参画を志願します。
渡辺:社内のポスティング制度を利用して異動しました。「OneERP+」に参画したいと考えたのは、Ridgelinezで培った社内DXの実践知を活かし、富士通に貢献したいという想いがあったからです。
また、4,000以上ものシステムをシンプル化するという、これほど規模の大きなプロジェクトは、日本ではおそらく前例がありません。このような機会に携わることで、自身の成長やキャリアにとっても大きな価値のある経験になると考えました。
こうして「OneERP+」に参画することになった渡辺。既存システムから新システムへとデータを移行する役割を担いました。
渡辺:新システムはもちろん、既存システムの仕組みやデータの構造も理解する必要がありました。その上でそれぞれのシステムにおけるIT担当や業務担当と、数多くの調整を行わなければなりません。
関係者が多いため、自身がコミュニケーションのハブとなることを意識し、みんなで前向きに議論ができる雰囲気づくりも大切にしていました。
自身のこれまでの知見を活かし、キャリアの幅を広げるために自ら手を挙げて挑んだ「OneERP+」。データ移行では難易度が高いからこその苦労と、楽しさがあったと渡辺は振り返ります。
渡辺:もっとも苦労したのは課題の全体像を把握することです。富士通グループの全領域を横断するプロジェクトなので、関係各所から得られる断片的な情報から課題の本質を見極めるのが大変でした。
たとえばデータの不整合が起きたとき、その原因を特定するだけでなく、修正後に数字が正しく連動するかまで含めて、業務とシステムの両面から検証する必要があります。そのため関係各所と話し合いを重ね、全体像への認識を合わせた上で優先すべき課題を明確にし、実行に移していきました。
決められた期限の中で対応するのは難しかったですが、複雑なパズルをたくさんの仲間と力を合わせて解いているような感覚で楽しかったですね。「OneERP+」に参画したことで、社内のコネクションも広がったと感じます。データ移行に成功したときは、仲間と一緒にやり遂げたという大きな達成感が得られました。
新たな業務プロセスの理解を得るために。現場ユーザーの声に寄り添いながら支援を実施
2024年4月に「OneERP+」へ参画した碁盤。2009年に富士通へ新卒入社し、SEとしてキャリアをスタートしました。
碁盤:クレジットカード会社のお客様向けに、システムを開発していました。その後、グループ会社に出向してコンサルティング業務に従事し、帰任後にPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)としていくつかのプロジェクトを担当しました。
海外での業務にも挑戦し、インドネシアでは2カ月のプリセールス業務を経験。アメリカ駐在では、現地スタートアップとの協業による新規事業の立ち上げにも取り組みました。
アメリカからの帰国後は、営業支援として新規案件獲得のサポートや顧客との協業ビジネスの企画など、幅広い業務に取り組んできた碁盤。かつてお世話になった方から「OneERP+」での取り組みを聞いたことがきっかけで参画を決めました。
碁盤:新規案件獲得の支援を担当していた際、お客様がとくに強い関心を持ってくださったのが、富士通で実践する社内DXの事例です。「OneERP+」という全社プロジェクトの経験は、お客様の課題解決に必ず活かすことができる。そう感じたのが、異動を決めた理由の1つです。
また、富士通というグローバル企業ならではの業務に挑戦したいという想いもありました。「OneERP+」は、会社全体の仕組みや業務のあり方を変える経営プロジェクトです。大きな挑戦を経験できる貴重なチャンスだと考えました。
碁盤が参画したのは、システムが稼働する直前のタイミング。業務担当として現場ユーザーのトレーニングに従事しました。
碁盤:トレーニングの内容を企画し、システムの習熟に必要な操作手順書などの資料を準備しました。そしてトレーニング実施後に寄せられた質問への回答や課題への対処など、現場ユーザーが新しい業務に適応するためのサポートを行いました。
しかし、現場ユーザーのサポートはなかなか思い通りに進まなかったと碁盤は振り返ります。
碁盤:「OneERP+」は変革領域がとにかく広範なため、業務プロセスのAsIsとToBeを全量把握することは簡単ではありません。そのため、現場ユーザーからの質問を理解し、回答することに最初は苦労しました。
チームで協力したり、徐々に知識を深めたりすることで乗り越えていったのですが、トレーニング実施後に大変だったのが、新しいシステムに対して寄せられた不満や懸念への対応です。
使い慣れたシステムから新しいシステムに変わりますから、当然現場に負担がかかります。ユーザーの状況や気持ちは痛いほどわかりますが、データドリブン経営を実現するためには新たなシステムで業務を進めてもらわなければなりません。そのため、ユーザーに寄り添いつつ、自分たちにできる支援を懸命に実行するしかありませんでした。
現場ユーザーからの声に4~5カ月にわたり対応し続けた碁盤。新しいシステムに対する理解を深めてもらうための取り組みも積極的に行いました。
碁盤:質問に対して1件ずつ回答するだけでは、現場ユーザー全体の理解向上にはつながりません。そこで、よくある質問や疑問が生じやすいポイントについてはFAQを作成しました。さらに特設サイトを設置し、参考になる情報を継続的に発信するようにしました。
もう1つ取り組んだのが、AIを活用したBotサービスの提供です。「OneERP+」に関する情報や過去のQAデータを学習させることで、ユーザーがBotに質問すると過去のやり取りから適切な回答を提示できるように改善していきました。
現場ユーザーの皆さまの努力もあり、新しい業務の理解が深まっていると感じています。
業務担当とIT担当で連携し、データドリブン経営の土台を構築。変革は次のステージへ
「OneERP+」を推進する上では、業務担当とIT担当の連携も欠かせなかったと碁盤は話します。
碁盤:「OneERP+」の稼働にあたり、旧システムからのデータ移行を行いましたが、どうしても移行しきれないデータや業務上の制約が残り、現場ユーザーに手作業での対応をお願いする必要が生じました。ITチームからの情報をもとに業務チームで内容を整理し、現場ユーザーに説明した後、データが正しく投入されているかチェックを重ねました。
そしてデータに漏れがあった場合は、担当者一人ひとりに連絡し、画面操作のサポートも行いながら地道に問題を解決していきました。これは業務チームと、渡辺さんをはじめとするITチームが密に協力し合ったからこそ成し得たものだったと思います。
課題にぶつかりながらも、プロジェクトを推進してきた2人。全社的な大規模プロジェクトへの参画を通じ、成長を実感しています。
渡辺:最先端のテクノロジーを使って「OneERP+」を推進することで、エンジニアとしての経験値が向上したと感じます。また、ITチームと業務チームが一体となり、本音で意見を言い合いながら取り組むスタイルは、社内プロジェクトとして理想的でした。この経験は今後、お客様との関係構築においても活かせる貴重な学びだと思っています。
碁盤:これまで私は、現場SEとして、会社のルールの下でどのように業務を回すかを考えてきました。OneERP+プロジェクトで海外リージョンを含む富士通グループの全体像、業務を知ったこと、また、会社の仕組みそのものを変えていくプロセスに関わったことで、新たな視点の獲得と、視座の変化を感じます。
昨年10月に国内主要会社のSI領域でシステムが稼働してから約8カ月。現状の成果について渡辺はこう語ります。
渡辺:「OneERP+」の目的であるデータドリブン経営の実現に向けて、着実に環境が整備されつつあります。システムごとに散在していたデータが一元管理できるようになり、マネジメントプロセスの変革が加速していることから、変革のための基盤ができたと実感しています。
一定の成果が表れている「OneERP+」。今後の鍵を握るのは、国内グループ会社と海外リージョンの合流プロジェクトです。
渡辺:今年10月にアジア・オセアニアリージョンへの稼働範囲の拡大に向け、現在は合流プロジェクトを進めています。今後も半年~1年のサイクルで段階的に展開していく計画です。より多くのデータが集約されることで、さらに詳細な分析が可能になります。
また、業務プロセスの統一においても、シェアードサービスセンターが稼働を開始するなど、業務の標準化・効率化が加速していくと期待しています。
碁盤:私は次の段階を見据え、現在はソフトウェア、工事ビジネスの合流プロジェクトに取り組んでいるところです。業務側の立場として、新しく合流する事業領域のOneERP+における業務プロセスを整理するとともに、円滑に合流できるよう検討していきます。
富士通グループでの「OneERP+」稼働が完了するのは、2028年以降。長期にわたる大規模プロジェクトを成功させるために、2人の挑戦は続きます。
渡辺:昨年の稼働開始時に経験した「Fit to Standard」の知見を、今後も活かしていきたいです。グループ会社や海外リージョンの合流には、痛みを伴う部分も確実にあると思います。だからこそ関係者との対話を大切にし、経営と現場が互いに納得感を持って進めることが重要だと考えています。
碁盤:昨年までに痛感したのは、人が変わらなければチェンジマネジメントは成功しないということです。現在のアジア・オセアニア合流プロジェクトでは、現在はCDPOとCIOの役割を担っているCDXO(Chief Digital Transformation Officer)をはじめとしてトップ層から現場リーダーまで密にコミュニケーションを取っています。
新しい業務のあり方を一方的に提示するのではなく、各現場リーダーと一緒に考え、自分事化してもらえるようにする。そうして現場に寄り添う丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、プロジェクトを成功に導いていきたいと思います。
※ 記載内容は2025年8月時点のものです
