先端技能開発部で研究者の課題に向き合う竹崎 涼。デンソー工業学園と技能五輪で培った確かな技能を土台に、専門領域を越えて学び、AIや自動化にも可能性を見出しています。人の技能と多様な技術を掛け合わせ、新たな価値を生み出していく。そこには、デンソーのモノづくりへの姿勢が映し出されています。
競技で磨いた思考が今に生きる。本質的なモノづくりのための問い
──まずは、先端技能開発部でどんな仕事をしているのか教えてください。
研究開発部門を技能でサポートする「問題解決屋」のような役割を担っています。研究者の「やりたいけれど、できない」という悩みに寄り添い、解決策を形にする仕事です。
たとえば、新しい材料の性能を評価する装置づくりです。画期的な材料が開発されても、その性能を正確に測れなければ「良し悪し」を判断できませんよね。でも、最先端の領域だからこそ測定の基準が定まっておらず、専用の機器がないこともあるんです。そこで、私たちが既存の装置を組み合わせたり、新しい測定器を製作したりしています。
ほかにも、生産性を上げるために開発プロセスを自動化する装置を作るなど、研究の課題や状況に合わせて、さまざまなモノづくりをしています。
──こうした仕事をする上で、「なぜなぜ思考」を大切にしているそうですね。
はい。依頼に対して「何のために、どんな思いでやっているのか」、また、問題が起きた時には「なぜ発生したのか」など、背景や目的、原因を深掘りするようにしています。
材料が持つ意味や用途、どのような現象が起きるのか、なぜ必要なのか……時には、依頼内容に直接関係がなさそうな細かいことまで質問することもあります。
この思考法は、技能五輪の訓練の中で身につけたもので、今でも仕事の土台になっています。
──技能五輪をきっかけにした考え方だったんですね。当時は、どんなふうに「なぜ」を使っていたのですか?
技能五輪の訓練では、「なぜこの手順なんだろう?」「なぜここが重要なんだろう?」と、問題に対して常に「なぜ?」を繰り返すことで、指導の目的や意図、技術の原理を理解していました。
ただ言われた通りに手を動かすのではなく、本質を捉えることが、技術者としての成長を後押ししてくれたんです。
だからこそ、現在の仕事でも「なぜ?」を大切にしながら、研究者に向き合っています。「なぜそうしたいのか」「なぜ必要なのか」を明確にしていくと、依頼の言葉には表れていなかった、本質的な「やりたい」が見えてくる。そこまで掘れると、お互いの思いが一致して、前向きな熱量が生まれていきます。
背景にある思いまで理解することができれば、隠れた課題にも目が届くようになり、「こんな方法もありますよ」といった新たな提案にも広げることができるんです。
──「なぜ」を突き詰めることが、より良いモノづくりにつながっているんですね。さまざまな装置を作る上で、安全や品質面で意識していることはありますか?
装置を使用する研究者が予期せぬ操作をしても危険な状態にならないよう、安全第一の構造を心がけています。
品質面では、前例のない新しい試みだからこそ、小さなテストを重ねながら確認を進めています。そうした積み重ねによって、早い段階で問題を見つけながら開発を進めています。
私たちが扱うのは社内向けの装置がほとんどですが、その先には、いつか世の中に出ていく「未来の製品」があります。つまり、お客さまの手元に届く製品を最初に評価する立場です。
だからこそ、信頼性のあるデータを届ける責任を持って、品質と安全に気を配っています。
極限の技能五輪で培った、100点の先の妥協なきこだわり
──先ほど技能五輪の話がありましたが、デンソー工業学園に入り、大会に挑戦しようと思った経緯を教えてください。
もともとは普通科の高校から、大学に進むという漠然としたイメージを持っていました。ただ、進路を考えるタイミングで母が病気を患って。「金銭的な負担をかけたくない」という思いで、デンソー工業学園を選んだんです。
幸いなことに母はすぐに回復したのですが、そうした経緯だったので、モノづくりのことは詳しくありませんでした。技能五輪についても、「優秀な人が参加するものだから、自分には関係ない」と思っていたくらいです。
でもある時、「やってみない?」と指導員の方に声をかけてもらって。期待されていることがうれしくて挑戦してみたんです。とことん突き詰めたい性格もあって、気づいたらすっかりのめり込んでいました。
──竹崎さんも、最初はまっさらな状態からスタートしたんですね。技能五輪を経験する中で印象に残っていることはありますか?
全国大会で金賞を取り、表彰式で名前を呼ばれた瞬間です。失敗すれば終わりという緊張感の中、この日のためだけに訓練を重ねてきたので……あれほどうれしかった経験は、人生でもなかなかありません。
何より、会場で応援してくれた両親がすごく喜んでくれたんです。撮影してくれた表彰式の動画を見返したら、両親の歓声がしっかり入っていて。今見てもグッときますね。「ああ、頑張って良かったな」と心から思えた瞬間でした。
──その後、国際大会を経験し、コーチになったそうですね。
はい。国際大会では金メダルに届かず悔しい思いをしたため、コーチとして再挑戦しました。残念ながら世界一には届きませんでしたが、今の選手たちにもぜひ頑張ってほしいですね!
──技能五輪は、一発勝負の厳しい舞台です。そうしたプレッシャーの中で培った経験は、今の仕事にどう生きていますか?
本番でミスが起きたら、1年間の努力が水の泡になってしまう。だからこそ「もしこれが起きたらどうしよう」と、あらゆる事態を予測して入念に準備する姿勢が身につきました。今の仕事でも、事前に起きうる問題を予測し、対策を練る習慣が根付いています。
また、技能五輪には対戦相手がいます。たとえ100点を取れても同点なら、優劣をつけるためにどこまでも品質を上げる必要がある。だから、刃物の材質や見た目の美しさなど、直接点数に関わらない細部にまで徹底的にこだわる必要がありました。
今の仕事は誰かと競うわけではありませんが、「自分は今、妥協しようとしているな」と気づき、自分を律することができるのは、間違いなくあの経験があるからです。ほんのわずかな違いでも「やるならきっちりやろう」と突き詰める姿勢が、より良い品質につながっていると思います。
人の「勘やコツ」は再現できるか。未知の領域に挑むマインド
──竹崎さんは、業務以外の自主参加クラブでも、さまざまなモノづくりの活動を行っているんですよね。
はい。自律型ロボットが迷路を走る時間を競う「マイクロマウス」や、起伏を読み取って100%カップインをめざすゴルフのパターロボット競技、社内イベント「夢卵(ムーラン)(※)」で開かれるミニ四駆大会などに参加してきました。
「やりたい人いますか?」と言われるとすぐ手を挙げてしまって、始めるとなんでも楽しくなるので、気づいたらあれもこれもやっている状態です(笑)。
とくにマイクロマウスではソフト領域の知識が必要で、メカが専門分野の私にとって未知の世界でした。でも、飛び込んでみたらおもしろくて。新しい分野に触れたことで人脈も広がりますし、「ソフト担当者にはこういう情報を渡したほうがうまくいきそうだな」と、本業にも活かすことができています。
※ 夢卵とは、デンソーが2年に一度開催するアイデアコンテスト
──未知の領域に挑戦を続ける中、AIや自動化に対して、どのような思いを持っていますか?
「問題解決屋」として、より良い成果を早く届けるためにも、AIや自動化を使いこなしたいと思っています。置いていかれないよう、日々勉強しながら食らいついているところです。
──現場で培われる技能や経験など、「人にしかできない」領域については、どう考えていますか?
そうですね。私たちの仕事上、「これは人にしかできない作業だ」と諦めてしまったら、進化が止まってしまう気がするので……。「どうにかして再現できないか」「何かしらの方法があるはずだ」と頭をひねりながら、形にしたいと思っています。
たとえば、加工するときにわずかな音や見た目、温度の違いで察知する「勘やコツ」は現場の技能や経験があってこそ生まれるものです。だからといって、「職人技だ」と諦めるのではなく、「なぜこの音で気づけるのか?」「なぜこの変化で判断できるのか?」と原因や本質を突き詰めたいんです。
「なぜ?」を解き明かしてデータ化できれば、職人の判断を機械やロボットで再現できるかもしれない。それっておもしろいですし、すごいことですよね。
──可能性を閉じることなく、前向きに取り組んでいるんですね。
そうですね。一方で、危機感も持っています。AIや自動化によって実現できる幅は想像以上に広く、「人の仕事とは何か」「自分の価値をどう示していくか」と考えさせられます。
まだ完璧な答えは出ていませんが、人間が何をして、何を任せるか。そこはしっかりと向き合っていきたいです。
消えることのない技能を軸に、モノづくりの新たなフェーズへ
──これからのデンソーのモノづくりは、どう変化していくと思いますか?
どれだけ変化が進んでも、人の技能はずっと消えないものだと思っています。デンソー工業学園や技能五輪で培った技能も、今振り返ると意識的に身につけてきたというより、「自然と身についてきた」感覚なんですよね。だから今後も、消えていかないだろうなと。
大切なのは、そうした技能とAIやデジタルを掛け合わせていくことです。新たな技術を活用できれば、自分の中になかった知見もどんどん取り入れられますし、仕事の効率も一気に上げられると思います。
──AIやデジタル化が進む中でも、そこには「人の技能」があるんですね。デンソーのモノづくりの核は、そういった部分にあるんでしょうか。
そうですね。また、デンソーにはさまざまな分野の専門性を持つ人がいて、現地現物で粘り強く課題に向き合う姿勢があります。
さまざまな技術を持った人が社内各所にいるので、何かやりたいことがあった時に、声をかけて巻き込んでいけば、「できないことはない」と思えるくらいです。
そうした人財が一丸となって、社会課題の解決に取り組んでいることが、デンソーの核であり強みだと思います。
──そうした環境の中、竹崎さんはどんなことに挑戦していきたいですか?
やりたいことはたくさんあるんですが、そのうち1つは、設計にAIを取り入れた際の信頼性です。
たとえば、AIに「この装置のリスクと対策を考えて」と投げかければ、一瞬で回答を出してくれます。ですが、本当に安全なのかを確かめるためには、人間が検証・評価し、証明する仕組みが必要です。
AIに対する不安や抵抗感をなくし、誰もが安心して使える方法を確立していきたいですね。
──最後に、今後も大切にしていきたい姿勢を教えてください。
振り返ってみると、知らない世界でも、まずやってみることで思いがけない楽しさに出会えると実感しています。技能五輪も自主クラブの活動も、最初から自分の得意分野だったわけではありません。声をかけてもらった時に一歩踏み出し、夢中になって取り組む中で、技能や知識だけでなく、人とのつながりも広がっていきました。
そこから学んだのは、食わず嫌いをせず、未知の分野にも好奇心を持って飛び込むことの大切さです。飛び込んだ先で「なぜ?」を重ねていけば、未知の分野も習得していけますし、そこで得た経験は、自分の専門性を深めるだけでなく、誰かの役に立つ新たな価値にもつながります。私もこれから、まだ見ぬ領域への好奇心を大切にしながら、挑戦を続けていきたいです。
※ 記載内容は2026年8月時点のものです
