半年後には常識が変わる。技術の進化を前提に、顧客と共創するAIビジネス
デル・テクノロジーズでは、これまでもAI関連の技術に携わってきましたが、AIビジネスのよりいっそう本格的な展開をめざし、2023年5月にAI Solution Sales Teamを立ち上げました。
私が所属する「AI Solution Sales Team」は、APJ(アジアパシフィック・ジャパン)地域におけるAIビジネスの拡大を担い、業界を横断して活動しています。私自身は通信、Webテック、公共、AIスタートアップといった業界を担当し、チーム全体ではすべての業界をカバー。とくに、大規模かつ複雑な構成・要件を伴うAI案件に特化して対応しています。
各業界で求められるAIの活用方法は大きく異なり、業界ごとの文脈を深く理解する必要があります。お客さま自身がAIに対して手探りの状態であるため、「何かやらなければいけない」という危機感は持っているものの、具体的に何をすべきかが明確になっていないケースが多くあります。そのため、私たちの役割は単なる提案に留まらず、お客さまと一緒に考えていく姿勢が重要です。
デル・テクノロジーズは世界的にみて稀な、パソコンからサーバー、ストレージ、ネットワークまで、全ポートフォリオを持っているのが強み。さらに、コンサルテーションやシステム構築のケイパビリティも有しており、AIビジネスに必要な要素を総合的に提供できます。このアドバンテージを活かしながら、プロダクト専門チーム、コンサル部門、デプロイ・構築チームなど、社内のさまざまな部門と連携し、お客さまのニーズに応えています。
とくに大切なのが、急速に進化するAI技術へのキャッチアップ。現時点で最適とされる技術や構成も、半年後には陳腐化しているということもめずらしくありません。こうした変化に対応するために、 社内のグローバルCTOチームと密に連携し、最新の技術動向を常に把握するよう努めています。「ネガティブに受け止めるか、ポジティブに受け止められるか」は紙一重。AIビジネスを構築していくには、テクノロジーの進化についていきつつ、学び続けることが重要となっています。
そのため、お客さまとの対話においては、技術の変化を前提とした提案が求められます。「半年後にはこの技術も進化している可能性がある」ということを、お客さまと共通認識として持っておかないと、ミスコミュニケーションが生じる恐れがあります。そのため、技術的な知見を深めつつ、コミュニケーションを丁寧に行うことを心がけています。
「世界をどう認識するのか」──認知科学が導いた私のキャリア
大学時代、私は認知科学と自然言語処理を研究していました。とくに興味深かったのは、ジュウシマツやキンカチョウなどのソングバードと呼ばれる鳥類で、人間や鯨、イルカ、一部の猿とともに、文法や言語を持つ生物として当時は知られておりました。研究では、これらの鳥がどのように文法を学び、音や言葉を認知するのか、また視覚的にどのように物や人を認識するのかを調査していました。
認知科学への興味は高校生の頃から芽生えていました。とくに「カプグラ症候群」という、家族や恋人など親しい人が、見知らぬ他人に入れ替わってしまったと錯覚する症状に興味を持っていました。
昔、これは認知症と言われてきましたが、最近の研究でこの症状のメカニズムが明らかになったんです。通常、人間は親しい人を見ると、意識できないほど微弱な皮膚電位反応が起きます。つまり、親しい人を見ると同時に身体に微弱な電流が流れるんです。その電流が身体に流れないことで、この二つの信号がうまくコネクトされないのがガプグラ症候群で、親しい人の見た目なのに身体に電流が流れない、だから「親しい人のそっくりさん」と処理される。本当に興味深いですよね。
私が高校生だった90年代前半は「脳の10年」と呼ばれ、脳科学が急速に発展した時期でした。MRIが一般的に使用され始め、人間の脳のどの部位が活動し、どのような物質が流れているかが解明されていきました。脳を調べることで「人間という存在の本質が理解できる」という考えが広まり、私もそれに強く影響を受けました。
大学卒業後の2000年頃、ITシンクタンクへの就職を選択しました。当時は最も成長できる環境だと感じたためです。「死ぬまでずっと勉強」という環境で、良い経験となりました。主に証券会社を担当し、その後別業種の小売業の顧客も担当しました。入社後1年間は見習い期間として、コーディングやテスト、障害対応などの実務を担当。その後、3年程度で早くもプロジェクトマネジメントや顧客との対話、システム設計、計画立案などより広い範囲の業務を任されるようになりました。
しかし非常に狭い分野を深く追求する業務で、もっと広い範囲でハードウェアやビジネスに関わりたいと考えるようになりました。そこで2013年、デル・テクノロジーズへの転職を決意しました。
デル・テクノロジーズを選んだ最大の理由は、幅広いポートフォリオを持つ企業だったから。幅広い領域に携われる環境が魅力でした。入社後は主にプリセールスエンジニアとして、技術と営業の両面から顧客対応を行いました。
ChatGPTがリリースされる以前から、個人的な興味でAIを学び始め、とくに画像生成AIに注目しました。画像生成AIを積極的に使用し、社外のAI技術者コミュニティでの勉強会に参加して継続的に学習を重ね、知見を深めていきました。この経験が、現在のAI Solution Sales Teamビジネス開発マネージャーに就くきっかけとなったのです。
AIは「やらない」という選択肢がない。AIを好きになることが強いチームをつくる鍵
AIに対するお客さまの反応には特徴的な傾向が見られています。それは「アクセル」と「ブレーキ」の両面。お客さまにとってAIは「やらない」という選択肢がない必須の取り組みとして認識されており、これは他のIT分野とは異なる特徴です。
たとえば情報セキュリティは重要性を誰もが認識していますが、他の優先事項を置いてまで取り組むかというと、そこまでの切迫感はありません。一方でAIに関しては、他の案件を置いてでも取り組まなければならないアクセルとしての意識が感じられます。
ただし、ブレーキもあります。1つは自社で何をAIでやればよいのかが手探り状態であること。もう1つはROI(投資効果)が明確でないと投資しにくい日本の企業文化です。海外企業は収益が不確実でも大きな投資を行う傾向がありますが、日本企業は着実に進めていく文化があり、この違いは明確に表れています。
実際、RIETIの分析では、日本企業は手元資金があっても設備投資には慎重で、代わりに研究開発(R&D)や人的資本、M&Aなどの無形資産への投資を選好する傾向があるとされています。これは、将来の収益性が不透明な領域への投資に慎重な姿勢を示すものといえます。
AI事業の進展についても興味深い気づきがありました。当初は半年で世界が大きく変わるほどの急激な変化を予想していましたが、実際には予想よりもゆっくりと、しかし着実に広がっていっている印象です。2023年前半は、AIビジネスを始めたスタートアップが短期間で撤退するケースが多く見られましたが、2023年後半から2024年にかけては失敗例が減少し、より安定した成長が見られるようになってきました。
社内での反響も大きく、とくに勉強会の参加者数に顕著な変化が表れています。参加者が大幅に増加し、以前は30人程度だった参加者が現在は100人近くまで増えています。質問の内容も、基礎的なものから高度なものまで幅広く出るようになり、社内のAIへの関心の高まりを強く感じています。
このような経験を通じて、私が最も大切にしたいと考えているのは、チームメンバーにAIを好きになってもらうこと。お客さまからの相談の約90%以上が、具体的な実施内容が決まっていない段階での相談です。そのため、チームメンバーがお客さまのビジネスを深く理解した上で、AIでどのような可能性があるかを提案できることが理想です。
単にAIの知識を増やすことを強制するのではなく、AIのおもしろさを理解してもらうことで、自然とニュースや技術に関心を持ち、お客さまとの対話がより深いものになると考えています。
学び続ける人が、AI時代を切り拓く。世界を変えていく日本発AIビジネスを支える
日本総合研究所のレポート「生成AIと日本経済──デジタル赤字削減と経済安全保障」によれば、2030年までに日本企業が海外のAIサービスに支払う利用料は数兆円規模に達する可能性があるとされています。すでに日本語にネイティブ対応していないLLMも増えており、日本のAIビジネスの存在感を高めることが急務となっています。
私たちのチームとしては、日本発のAIソリューションを充実させ、その活動をバックアップしていきたいと考えています。当社は幅広いポートフォリオと提案力を活かして、自社内でも幅広くAIを活用していこうとする企業向けのビジネスにフォーカスしていきます。
また、AIの世界で注目を集めているのが「AIエージェント」です。これまでのAIは一問一答的な対話が中心でしたが、AIエージェントは人間の意図を理解し、複数のタスクを自律的にこなすことができます。たとえば「週末にインドカレーを作りたい」と伝えるだけで、家族構成や冷蔵庫の中身を考慮し、必要な食材の発注までを一括して行うことができます。このような技術は、ビジネスシーンでも大きな可能性を秘めています。
とくに日本企業はAIへの投資に慎重な面がありますが、AIエージェントのような技術により、具体的な業務改善や収益向上が見込めるようになれば、より多くの企業がAI導入に積極的になると考えています。
AIについて学ぶことは、人間を理解することにもつながります。たとえば、私は社内勉強会で「盲点」の話をよくします。人間の目には、視界の一部に必ず“見えない穴”があります。本来ならそこにあるものは見えないはずなのに、私たちは気づきません。
なぜなら、脳が周囲の情報をもとに自動で補っているからです。 イメージしやすい例でいうと、私たちは1日に数千回瞬きをしていますが、そのたびに視界が真っ暗になったと感じることはありません。脳がその欠落を補完して、連続した世界を見せているからです。このように、人間の意識では気づかない能力や処理が、認知や行動に影響を与えており、それがAIによって明らかになる可能性があるんです。
このように技術的な側面だけでなく、人間の本質に迫るような話題を共有することで、より多くの社員がAIに興味を持ってくれること。そして自発的に学習を続けていくことを期待しています。そうした人材の広がりが、日本のAIビジネスの発展につながり、私たちの生活をより豊かなものにしていくと確信しています。
※ 記載内容は2025年9月時点のものです
