医薬品配送で地域医療を支える。小さな航空会社のようなドローン事業チーム
航空機の安全運航に関する知見を活かし商用化の最終検討が進むANAホールディングスのドローン事業。運航・配送管理システム開発を担う福永は、その目標を次のように語ります。
「現在の日本では、物流業界における人手不足や、とくに地方や離島においては、緊急性の高い医薬品や血液などの輸送手段が限られているという深刻な社会課題があります。私たちは、それを解決するための新しい配送サービスとして、ドローンというモビリティを活用していきたいと考えています。
最終的な目標はドローン配送事業の事業化ですが、配送だけでなく離れた場所から物体の形状や状態を計測するリモートセンシング技術を活用した測量など、さまざまな手段としての商用サービス化も直近の目標として視野に入れています」
既存の輸送手段が抱える課題を越える一手として、ドローンの機動力には大きな期待が寄せられています。
「たとえば離島への輸送手段としては、飛行機や船が一般的です。しかし、緊急性の高い医薬品や血液などが必要になった際、オンデマンドですぐに配送できるかというと、手段が非常に限られてしまいます。ドクターヘリを出動させる選択肢もありますが、ドローンと比較するとコストがかなり高額になってしまうという課題があります。
ドローンであれば、ヘリコプターなどよりもコストを抑えつつ、必要な時に必要な分だけ迅速に物資を提供できます。新しい配送サービスとして、社会に適用していける大きな可能性を感じています」
このインフラ構築に挑むのは、多様なプロフェッショナルたちです。
「チームには、パイロットや整備士、運航管理者、さらには実際に空港でグランドハンドリングを担当していたメンバーなどが集結しています。これまで有人機で培ってきた安全運航の知見をベースに、ドローンを飛行させるための仕組み作りを進めており、まさに『小さい航空会社』のような構成になっています」
その組織の中で、福永はシステム開発の要を担っています。
「ドローンチームの中には、実際にドローンを飛ばすオペレーショングループ、事業開発を行うビジネスグループ、そして私が所属するシステムグループの3つがあります。システムグループはANAシステムズのメンバーで構成されており、私はシステム開発を担当しています。
具体的には、配送物の動態管理や離着陸時間を含むフライトスケジュールの管理ができるドローン運航配送管理システムをアジャイル開発で構築しています。ビジネスグループが考える戦略をITの力で具現化し、実証実験に参加して直接システムを利用するユーザーのニーズを探りながら、必要なシステムを作り上げていく役割です」
ユーザーのリアルな声を聞きたい。未知のドローン領域への挑戦
福永が最前線で取り組むこのドローン事業は、ANAグループ内から生まれてきたプロジェクトです。
「2016年のANAグループ内新事業提案制度で出た『ドローンで何かできないか』というアイデアが始まりです。現在はANAホールディングスのモビリティ事業創造部で、事業化の最終検討を進めるフェーズに入っており、MaaS(移動サービス)や空飛ぶクルマなど、新たなモビリティサービスと並行してプロジェクトが進められています」
グループ全体で大きな広がりを見せる新事業。そこへ、以前とは異なる環境から自ら手を挙げて飛び込んだ福永は、当時の葛藤と決断をこう振り返ります。
「以前の部署では、国内線旅客システムという非常に規模の大きなシステムの開発を担当していました。システム開発に関わる中で、実際にシステムを利用するユーザーのすぐそばで、ダイレクトな反応を受け取りながら開発を進めたいと思うようになったんです。そんなタイミングで社内公募が出たため、自ら手を挙げました」
これまで経験のない分野へ足を踏み入れる決断の裏には、期待とともに葛藤もあったと言います。
「もちろん、新しい環境に対する不安はありました。ただ、それ以上に『新しいことをやってみたい』という思いが強かったんです。少し怖いもの知らずな部分もあったかもしれませんが、飛び込んでから勉強して進めていけばいい、自分自身も成長したいと考えていました」
未知の領域へ臆せず飛び込む行動力は、学生時代からの気質に根ざしています。
「もともと文系出身なのですが、大学時代に興味を持ってプログラミングの授業を受けてみた経験など、向いているかに関わらず、まずは自分がやってみたいと思ったことにチャレンジしてみようという考え方が根底にあったのだと思います」
持ち前のチャレンジ精神で参画した新事業は、過去の経験がそのまま通用しない現実が待っていましたが、その戸惑いと試行錯誤の過程が、自身の大きな成長の実感へとつながっていきます。
「開発言語も手法もまったく異なります。以前の国内線旅客システムはウォーターフォール型で、実装に要する時間よりも、検証に時間を充てる比重が高く、障害回避が最重要でした。
一方、ドローンチームはアジャイル形式で、新しい機能を迅速に作り、現場の要望を受けて改修するサイクルを回します。最初は規模や思想の違いに戸惑いましたが、一から学ぶ絶好の機会になりました。今では新しい言語を習得して自ら開発を回せるようになり、飛び込んで本当に良かったと感じています」
現場に寄り添い、業務フローから共に創り上げる
アジャイル開発という新しい手法を習得し、念願だったユーザーのすぐそばでのシステム構築に臨む中で、ドローンを飛行させるオペレーターの方との対話が大きな成果に結びついた出来事がありました。
「長距離飛行の正確な着陸時間を出したいという要望を受けた時のことです。長距離を飛行する場合、ドローンは風の影響を受けるため単純な計算が通用せず、有人機の運航管理者やオペレーターの方に直接、計算手法をヒアリングして機能に落とし込みました。
結果的に、1時間半の飛行で誤差を5分以内に収めることができたんです。予測が見事に的中し、オペレーターの方に喜んでいただけた時は、大きなやりがいを感じました」
自分が手掛けたシステムが現場で機能する喜びを実感する一方で、距離が近い環境だからこそ直面した経験もありました。
「配送物やフライトのステータスを管理する機能を作ったのですが、現場で定着しなかったことがありました。システムグループ内で将来的に必要になると考えて作ったものの、安全運航という最も重要なミッションに集中するオペレーターの方に、システムへの入力作業まで求めるのは、実際の業務環境に合っていなかったんです。
さらに、当時の実証実験は1日1便程度だったため、わざわざシステムに記録しなくても業務が成り立ってしまうという実態もありました」
開発したシステムが現場の運用に合わなかったという事実を受け、福永は定着しなかった原因を深掘りしていきました。
「ツールが定着する前提となる業務フロー自体が未整備だったことに気づきました。そこでオペレーターの方の業務を整理し、専門技術が必要な操作と、他者でも対応可能な作業を切り分け、新たにオペレーターの方をサポートする役割を定義したのです。
飛行以外の業務をサポーターが担うことで、ようやくシステムが活用される土台が整いました。単にシステムを構築するだけでなく、オペレーターの方も含めたチーム全体で、システムが使われる環境や業務フローから一緒に創り上げる必要性を強く実感した出来事です」
開発の枠を越え、現場と共に「システムが活きる運用」そのものをデザインしていく。これこそが、ユーザーのすぐそばで働く最大の醍醐味となっています。
ドローンが日常になる未来へ。新しいモビリティで誰もがより良く暮らせる社会を描く
「単にシステムを作るだけでなく、業務フローから一緒に創り上げる」という現場での大きな気づき。その学びを活かしながら、現在は商用化という短期・中長期の目標に向けて福永は歩みを進めています。
「ドローンの配送サービスとしての提供は、2027年度をめざしています。そのために必要なシステムをしっかりと構築していくことが、現在の短期的な目標です。
また、ドローンを1便飛ばすためのコストが依然として課題であるため、最終的には複数機の同時飛行を実現したいと考えています。それを達成するためには、関連する法制度の理解も不可欠です。法的な要件を深く理解した上で、どのような仕組みが必要なのかという将来像を描き、そこに向けてシステムを作り上げていかなければなりません」
サービス開始の時期が近づくにつれ、システム開発の枠を超えた幅広い視点での準備も本格化しています。
「サービス開始が目前に迫る中で、今あるシステムだけで本当に業務が回るのかを検証する必要があります。さらに、ドローンを飛ばすためには機体の整備はもちろん、オペレーターの方の資格管理などの人的リソースの管理も欠かせません。
単にオペレーション情報を提示するだけでなく、サービス全体で必要となるシステムを洗い出し、スケジュールに間に合わせることが直近の最も重要なミッションです」
多岐にわたる課題に向き合いながらも、ドローンという新しいモビリティを通じてどのような社会を実現したいのか、福永はドローンがもたらす未来像をこう描きます。
「物流の労働力不足に対し、ドローンという新しいサービスを導入することで、より生活しやすい環境を作りたいという強い思いがあります。ドローンという新しいモビリティだからこそ提示できる解決策があると信じているので、その実現に向けた手段を、システムという側面からしっかりと支えていきたいです」
システムを利用するユーザーの声に真摯に耳を傾けてデジタルの世界とつなぎ、誰もがより良く暮らせる新しい空の道を拓いていく福永の挑戦は、これからも力強く続いていきます。
※ 記載内容は2026年6月時点のものです
