設計するのは“良い”金型
私は製品を量産するための金型の設計を担当しています。金型とは金属で作った型枠のことであり、アルプスアルパインでは、この金型に樹脂を流し込んでクルマの運転席周りのパネルやセンサーやスイッチなどの製品を作っています。たい焼きを作る際に使用される生地を流し込む型を想像するとわかりやすいと思います。
私たちの職務は“良い部品を作る為にその品質を保証できる金型を設計する事です。良い金型とは、金型製作工数が少なく、高寿命低コストのものです。
当社の製品は形状が複雑なものが多くありますが、だからと言って金型も複雑な構造にしてしまうと、加工しづらく時間を要してしまいます。そのため、製品設計者から提出された図面や3Dデータを元に、金型製作の問題点や生産性また金型製作しやすい形状の提案などを行い、金型製作時間の短縮やコストダウンの検討をする必要があります。
耐久性を上げるためには、金属の摩耗という特性を考慮しなくてはいけません。当社では100万以上回部品を作れる耐久性を基準として金型を設計しています。ですが、金型は金属なので使用しているうちに摩耗していきますので、使用回数がかさんだ時の状態も考えながら設計しないと、目標を達成する前に使いものにならなくなってしまいます。
ほかにも配慮すべきことは多くあります。たとえば、樹脂の収縮にも配慮が必要です。製品の小型化や精密化が進むとともに、製品サイズはミクロン単位の誤差も生じないことが求められるようになってきました。一方で製品の素材となる樹脂は、成型後冷えると縮みやすく、さらには樹脂の材料配分によって縮む割合や方向が異なるという難しい特性があります。樹脂の収縮や変形などを考慮して、金型設計を行わないと、狙った通りの寸法にならず業務の後戻りロスが発生してしまいます。
これを防ぐために、経験豊かな先輩たちのアドバイスをもとに、流し込む樹脂の特性に配慮しながら金型を設計しています。金型に求められる精度は年々増しており、マイクロメートル単位の誤差も生まないような設計が必要となっています。とても大変ではありますが、この精度があってこそ、製品の小型化や精密化への対応が可能となります。
感覚ではなく知識が求められる理由
入社後、最初はプラスチックをマシニングセンターという機械で削る部署に配属されましたが、3Dプリンターの普及で業務が縮小化したため、次に金型を加工する部署に異動になりました。そこではCAMを使用しプログラムを作成して金属を削る業務を行っていました。その後、現在の金型設計の部署へ異動となりました。
過去に金型を加工する業務に携わっていたことは自分の強みとなっています。金型を設計する上で、どういう工程を経て金型が作られるのか、どういう金型が加工しやすいのか、という知識がなければ良い金型は作れませんから。
しかし加工するのと設計するのでは、やはり勝手が違います。金型設計を始めて間もないころ、今まで経験したことがないくらい大きな金型を担当した時のことです。自分が設計した金型が、いざ製品を製造する際に強度不足により金型が変形してしまい、流し込んだ樹脂が流れ出てしまったことがあります。
製品を成型する時は強い圧力をかけて樹脂を金型に流し込みます。金型の強度が足りないと、たとえ金属でも圧力に負けてたわみ、隙間ができてしまいます。また大きく重い金型は適切な設計をしないと自重に耐えられずたわんでしまいます。この圧力と重さに耐えられる設計をしなかったために、金型構造見直しから金型パーツの作り替えを行い、余計な修正コストとリードタイム(完成までの時間)が掛かってしまいました。
大きく重い金型を設計する時には、本当は計算式に当てはめて金型が耐えうるか否か確認する必要があったんです。当時は知識が十分になく、感覚で「これくらいなら耐えられるだろう」と思い込んで設計してしまった結果でした。
金型は金属を削って作るため、失敗するとゼロから作り直しになります。時間をかけて設計し、多くの人の手を経て削り出された金型の失敗を目の当たりにするのは非常につらかったです。
それ以来、感覚でものを作るというやり方を見直し、知識に基づいたもの作りにシフトしました。
「学び」への欲は人一倍
私の長所のひとつは、学ぶことが好き、ということだと思います。昔から専門的な知識を得ることが好きで、高校時代に、危険物取扱者乙種や電気工事士2種、ボイラー技士など多くの資格を取得しました。危険物取扱乙は第1~6類まであるのですが、需要が高いと言われる第4類だけしかとらない人が多いです。ですが私は新しい知識を取り入れることが楽しくて第1~6種のすべてを取得しました。学生時代にここまで取得できたことは私のちょっとした誇りです。
入社後も、会社の後押しもあって、技能検定試験の機械・プラント製図、機械製図CADなどの資格を積極的に取得しています。
資格だけでなく、業務に直結するような勉強も行っています。今の時代、世の中の最新の技術情報や知識はインターネットでも手に入ります。常に自分の中の知識をアップデートして、新しい考え方を取り入れるようにしています。
金型の設計は決まりきったことだけをしていると失敗します。想像していなかったような不具合や問題にも臨機応変に対応できるように知識は十分に持っておきたいので日々学ぶ姿勢を忘れないようにしています。
一方で、知識があればすべて上手くいくわけではありません。机上の理論だけではなく、金型を掘削する現場に頻繁に足を運び、現場の声を活かした設計を行うことも大切にしています。
それでも残念ながら狙い通りの設計ができないこともあります。失敗したからと言って逃げ出すことはできません。成功するまで試行錯誤を繰り返す忍耐力、そして失敗を前向きにとらえ次の成功につなげる前向きさが今の自分を支えていると思います。お客様に迷惑をかけなければ失敗は完全な悪ではありません。同じ失敗を繰り返すことが悪だと思っています。
最近では、会社自体のことを広く知りたいという思いから、労働委員会の執行部も兼務しています。今までの仕事では接点がなかった人たちとも一緒に活動するため、いろいろな考え方に出会えるようになりました。また、執行部の仕事は工場全体、会社全体が対象となるため視野も広がり、人間としての成長につながっているなと感じます。
たとえば会社の夏まつりを開催するには、社内イベントであっても地域の皆さまとの連携が重要ということや、花火を打ち上げる時間や高さには制約があるなんてことは、執行部をやるまで気づきもしなかったですからね。
信頼される人になるために
アルプスアルパインの強みの1つは、金型を一貫して作れることだと思います。世の中には金型を設計するだけ、金属を削るだけという工場も多くありますが、当社は設計からまとめ上げるまで対応できます。一貫生産することで、お客様からの品質、コスト、納期に対する要求に、適切かつ柔軟に応えることができます。時には厳しい要求もありますが、やり遂げた時にお礼を言われるとやりがいを感じます。
私が金型の削り出しも、設計もどちらも経験できたのは、当社が一貫して金型製造できるという体制だったからこそとも言えます。
また設計した金型ができあがり、その金型を使用した試作品が出てきた時は、喜びを感じる瞬間です。画面上で考えたものを実際に目で見て触れることができることはこの仕事の醍醐味だと思います。
今後はさらに知識と経験を蓄えて「この人に聞けば大丈夫」と思われる人になりたいです。もちろん知識だけではなく人間性も鍛えていきたいです。もともと感情の起伏が少なく穏やかな方ですが、誰にでも優しく、平等に接することを自分でも意識することで信頼される人になっていければと思っています。同じ部署にも知識豊かでみんなから頼られている先輩がいるので、そういう人をめざしていきたいですね。
私には職業病があります。街で目にするものがどんな金型でできているのかをつい想像して、自分の金型設計の参考にしてしまうことです。とくに100円ショップの製品は金型を想像しやすいんです(笑)。そんな職場以外での研究も、自分の知識を豊かにしてくれているのだと思います。
これからも本やインターネットや同僚や街中から新しい知識をどんどん吸収して、アルプスアルパインや自分自身の成長につなげていきたいです。
※ 記載内容は2024年3月時点のものです

