「走る・曲がる・止まる」というすべてのクルマの機能を統合し、最上流で形にする
まだ見ぬ未来のクルマの骨格を描く──技術開発本部 第2先行開発部で、第1先行システム開発室 第1グループのグループ長を務める水谷は、部署のミッションをこう語ります。
「第2先行開発部では、特定の分野にとらわれず、新しい商材の発掘や要素技術を含む先行開発を行っています。見据えているのは、まだ製品ロードマップにも載っていない2035年以降の未来。アイシンの持つ従来の領域をすべて統合して扱い、クルマの『走る・曲がる・止まる』機能の最上流で、ユーザーにどんな嬉しさを提供できるかを、皆で模索しています」
ゼロから形にしていくからこそ、ものづくりの醍醐味を感じられると言います。
「要件が定まっていないところから構想して、試作から評価まで一貫してできる環境です。完成車メーカー(OEM)や社内の専門家と仮説を回して仕様を定義しますし、新入社員は図面作成から技術選定、評価設備の構想まで担当します。設計にとどまらず幅広い技術や知識が身に付く楽しさがありますね」
第1グループのメンバーは、水谷を含めてわずか3人。少数精鋭ながら、各製品本部をつなぐ「ハブ」として大きな役割を果たしています。
「人数が少ないからこそ、しがらみなく臨機応変に動けます。正解がない先行開発では『まずはやってみる』ことが重要です。メンバーの自由な提案に『それいいね』と高速で意思決定を行い、そのまま車両仕様に反映することができています。また私たちは、各本部のロードマップを跨いで、アイシンとして『全部できます』と一括提案できる窓口でもあります。メンバーはそれぞれ得意分野を持っていて、お互いの知識を結集して補完し合う関係です。領域を超えた対話を、現場レベルで主導していけるのがおもしろさですね」
多様な領域が交錯する開発の中で、水谷が大切にしていることがあります。
「社内外問わず、異なる分野の人たちと仕事をする上では、さまざまな障壁が発生することもあります。そのため、定量データにもとづく意思決定を徹底しています。相手の状況や立場に配慮しながらも、設計においては感情に左右されない判断が何より大事です。それが、領域横断で仕様を統合する私たちの設計責任の姿勢だと考えています」
人柄と社風に導かれてアイシンへ。上司から学んだ「伝え方」と「最速で出す」極意
学生時代は電気系を専攻していた水谷。アイシンへの入社を決めた大きな理由は「人」にあったと振り返ります。
「研究室を訪れたOBと話をして『この人と一緒に仕事がしたい』と強く思いました。当時はやりたいことがまだ明確ではなく、実は『クルマが大好き』というわけでもなかったんです。社風や人柄に惹かれたことが一番の決め手になりました。その中で、自分の考えを製品という形にしたいという最上流のものづくりへの憧れから、設計部門を志望しました。入社当初は専攻での学びを直接活かせる機会は少なかったのですが、最近、電動化が進んできたことで当時の知識が役立っています」
入社して配属されたのは、トランスミッションの設計業務。その一連のプロセスを経験する中で、水谷が学び取ろうと注視していたポイントがあります。
「内蔵部品の設計を初期構想から量産立ち上げまで一貫して経験しました。スケジュールに追われる日々でしたが、上位職の先輩たちがどんなことを基準に物事を判断しているのかをよく観察していましたね。1つの開発過程でも、初期と立ち上げでは仕事内容がまったく変わるため、若手のうちに全体を経験できたのは大きな財産です」
しかし、実務に打ち込む中で、水谷は大きな壁に直面します。
「当時は自分の考えをうまく相手に伝えられず、自身で作り込んだ仕様をなかなか認めてもらえませんでした。技術は愚直に努力すればある程度は伸びますが、言語化能力は意識しないとスキルアップしないのだと痛感しましたね。 そんな中で、当時の上司から『何を言っているのかわからないよ』と率直に言われたことがマインドを変えるきっかけとなりました。そこから、『相手が何を考え、何を求めているか』を徹底的に考え、話し方や長さを工夫するように。たとえ不完全でも、20%の出来でも素早いレスポンスで試行錯誤を繰り返すことで、言語化能力や対話力を身に付けていきました。社内やお客さまとの対話に限らず、間違ってもいいから最速でアクションを続けることは、徐々に正解につながり、結果としてお客さまの満足にも結び付くのだと実感しました」
こうした努力を地道に続ける中、水谷は入社3~4年目に、あるプロジェクトを任されます。
「当時、トランスミッションの中に当社では保有していない機能の部品がありました。そこで、コストを抑えるために、社内で新たに部品を開発し、機能を導入することに取り組みました。コスト削減のためには、設計だけでなく、製造や調達の協力が不可欠です。彼らを巻き込んで一から作り込めたことは印象深いです。こうして早い段階から大きな裁量と責任を持たせてもらい、自分事として捉えられる環境があることがアイシンの風土ですし、恵まれていたと感じます」
新たな挑戦を求めて先行開発へ。若手を育てながら試練を乗り越えた先でつかんだ成果
量産立ち上げという大きな山を乗り超えた水谷が、次なる挑戦の舞台として選んだのは、未知の領域を切り拓く先行開発への異動でした。
「新たな領域に挑戦したいという想いで異動を希望しました。それまでの単品の部品設計から、車両全体を見据えて『システムとして成立するか』を構想するフェーズへ変わり、最初は視野の広さに戸惑いもありました。しかし、おのずとあらゆる領域の知識を身につけることになり、今後の大きな糧になります。先行開発は毎日が学び直しで、同じことの繰り返しがありません。自分の知らないことを新しく知りたいという、潜在的な欲求が刺激される環境です」
異動から2年目、プレイングマネージャーとして挑んだ顧客との先行開発プロジェクトは、水谷にとって、忘れられない試練と感動の記憶となりました。
「バッテリーEV用の駆動システム『eAxle(イーアクスル)』を用いて、左右の車輪の駆動力を細かく制御するトルクベクタリングの先行開発を担当しました。仕様が荒い段階からお客さまと何度もすり合わせを行い、技術提案を主導していきました。若手メンバーを率いながら、内蔵部品の設計から試作、評価までやりきる必要があったのですが、途中で最初に設計したものが歯折れによって壊れるトラブルが発生してしまって。その時に活きたのが、量産時代に培った品質問題対応の経験でした。若手メンバーにプロセスを共有しながら、解決へと導きました。そのほか、お客さまからのさまざまな要望に応えるべく奮闘した結果、最終的に担当の方から『非常に出来が良い』『やりたかったことが実現できている』と言っていただけました。車両の形になったものに私も試乗させてもらい、成果を肌で感じられた時は格別でしたし、若手メンバーと喜びを分かち合えたことも嬉しかったですね」
何もないゼロの状態から新しい価値を生み出す先行開発の難しさとやりがいを、水谷はこう語ります。
「100本打っても1本当たるかという厳しい世界だからこそ、世の中にないものを形にできた時の喜びは格別です。一方で、技術を好きに追求するだけでは、不確実性の高い先行開発を勝ち抜けません。いかに初期段階から精度の高い仮説を回し、実現の確率を上げていけるかが、これからの本質的な課題だと捉えています」
異動後に本格化したマネジメント業務にも、新たな手応えを感じています。
「私は多くの人たちを巻き込んで仕事をすることが好きなタイプです。プロジェクトの意義を丁寧に説明し、他部署の協力を取り付けて最後に形にしていくことに喜びを感じますね。自分でできないことは率先して周囲に助けてもらいながら、チームで進めていく楽しさを実感しています」
本当にお客さまに喜ばれる開発とは。領域を超え、切磋琢磨し合える組織を作りたい
さらなる技術の研鑽を重ねながら、技術開発の枠にとどまらず、水谷が見据えている未来があります。
「先ほど確率の話にもつながりますが、貴重なリソースを闇雲に投入するのは組織としてもったいないと考えています。いかにお客さまのニーズを的確にキャッチアップして、開発の確率を上げられるかが課題です。今後は組織の壁を超え、誰もがエンドユーザーを意識するマインドセットを浸透させたい。将来的に、より大きな組織運営にも携わりたいですね」
自身に限らず、メンバーや組織も含めたビジョンを描く背景には、水谷が入社以来実感してきた、アイシンの「人」の温かさがあります。
「もともと人柄や社風に惹かれてアイシンを選びましたが、その想いは現在も変わりません。仕事をしていて『気持ちの良い人たちだな』と感じることが多く、お客さまとも技術や利益にとらわれない良い関係を築けています。だからこそ、この会社でずっと働き続けているのだと思います。中でも私が影響を受けた人が2人います。1人は、若手時代に伝え方を見直すきっかけを与えてくれた上司。もう1人は、私が管理職になった当時の上司で、物事の一面しか見ていない私に対して『もっとしっかり俯瞰して見ないと』と助言をくれました。2人とも口ぶりはぶっきらぼうですが(笑)、高度な技術を持ち、本質を捉えているからこそ、素直に受け入れられるんです。仕事の難しさも楽しさも教えてもらう一方で、プライベートでも一緒に過ごすような仲で、本当に尊敬している2人ですね」
自身が大きく育ててもらったからこそ、今度は水谷自身が、新たな仲間に対してやりがいのある環境を提供したいと語ります。
「今チームに求めているのは、何か1つ尖った技術を持ち、課題に対して自ら調べてプロジェクトをどんどん推進していけるような、強烈な個性のある人材です。そんなモチベーション高い方にとって、多様な領域を跨いでコラボレーションしながら新しいものを創り出せる環境はきっとおもしろいはずです。お互い刺激し合いながら、チームの力をさらに高めていきたいですね」
※ 記載内容は2026年7月時点のものです
