未知の領域での試行錯誤がおもしろい。多様な知見が交差する「Xin1」開発の現場
アイシンのパワートレイン製品開発本部で、数年先である2030年頃のEV市場を見据え、次世代の「eAxle」開発を最前線で牽引する組織があります。それが、髙橋が室長を務める制御機能開発室です。
「私たちのミッションは、モーターやインバーター、ギア、ECU(電子制御ユニット)などを一つに集約した『Xin1』と呼ばれる機能統合電動ユニットの制御システム開発を推進することです。私たちは、制御そのものはもちろん、クルマを動かすコンピューターであるECUやソフトウェアといった領域を一貫して扱っています。アイシンの強みを活かし、小型・高効率・低コストを徹底的に追求し、お客さまである世界中の完成車メーカーの多種多様なニーズに応えられる製品を具体的に提示していくことが求められています」
すぐに量産には至らない先行開発だからこそ、難しさとやりがいは表裏一体だと言います。
「EVという、まだ正解が確立されていない領域では、これまでの常識にとらわれず、新たな技術も取り込みながら大きなチャレンジを行う必要があります。難易度は高いですが、製品化を見据えてお客さまと直に議論を重ねる日々は、大きなやりがいに直結します。未知の領域だからこそ、試行錯誤そのものが本当におもしろいんです」
未知への挑戦に惹かれ、近年はキャリア採用の仲間が続々と入社。即戦力として活躍しています。
「鉄道業界でソフトウェア開発を行っていた人や、同じ車載でも異分野のハードウェア経験者など、多様な経歴を持つプロフェッショナルが加わっています。共通しているのは、技術探求心が強いこと。自分が成長するために多方面にアンテナを張り続けている人なら、これまでの経験を活かしつつ、さらなるステップアップをめざせる環境です」
目まぐるしく変わる情勢の中、髙橋は仕事をする上で大切にしている価値観があります。
「従来の思考や固定観念を打破しなければならないということです。変化が激しいEV領域では、常に新しい情報をインプットし、自分自身、そして室のメンバーにもアウトプットし続けることが欠かせません。常に学び続ける姿勢こそが、この変革期を生き抜く鍵になります」
一回路設計者から会社の代表へ。出向で高めた視座でPLとしてチームを主導
2007年に新卒入社した髙橋は、ECUのハードウェア設計からキャリアをスタートさせました。大学院で専攻していた磁気工学と直接結びつく領域ではなかったものの、回路設計や熱設計について新たに学びながら、着実に技術を身につけていきました。そして2012年、大きな転機が訪れます。
「国内の完成車メーカー向けにアイシン製のATとECUをセットで開発する新たなプロジェクトが始まり、その架け橋となる担当者が必要になりました。それまで、当社からECU設計者が出向する前例はなかったのですが、上司から声がかかり挑戦を決意しました。自身が第1号として道を切り拓き、現在まで続く流れをつくれたことは1つの自負になっています」
出向先では、一回路設計者ではなく、アイシンの代表として振る舞いが求められました。
「お客さま先では、アイシンの顔として車両開発の上位層と対等に渡り合わなければなりません。ハードはもちろん、専門外だったソフト領域も把握し、さらにはクルマ全体の中で担当する部品がどう機能すべきかを理解する必要がありました。この経験を通じて、一部品という狭い枠に閉じず車両全体を俯瞰して考える姿勢、さらに、アイシンとしてどうあるべきかを考えて動く姿勢が身に付きました」
3年間の出向を経て戻った髙橋は、培った広い視野や技術に裏打ちされた調整力を武器に、PL(プロジェクトリーダー)としてECU開発全体を統括することに。CVT(無段変速機)向けECUの開発で予期せぬ不具合に見舞われた時は、社内の関係者を巻き込み壁を乗り越えました。
「当社の仕様に合わせたICを半導体メーカーとの協業で新たに開発したのですが、量産間際で不具合が発生してしまって。急遽、品質に関する集中対策室を設置し、プロジェクト内外のあらゆる知見を持つメンバーを集めて対策に奔走しました。なんとか無事に量産までたどり着いた時の達成感は格別でしたね。また、この時に私が手がけた特許が採用された製品が今も世の中を走っていることも大きな励みになっています」
出向で培った「クルマ目線」は、PLとして経験を重ねる中で、電子技術を軸にシステム全体の価値を向上させる「システム目線」へと昇華されていきます。
「アイシンではシステム全体の安全設計を重要視しており、AT開発でも故障時のリスクを洗い出し対策を講じるFMEA(故障モード影響解析)という検討フェーズがあります。ただ、当時はメカ設計側から主体的に動くのが難しい状況にありました。しかし私はメカ設計部署へ『安全設計を早期に固めたほうがいいのではないか』と提案を行いました。技術の進化なども含めて今後のクルマ全体の方向性を見据え、部門をまたいでシステムの価値向上を働きかけることで、プロジェクトも円滑に進められたと考えています」
会社と自身の成長のために新天地へ。組織の壁を壊し、9カ月でデモカー走行を実現
2022年、髙橋は長年在籍した電子開発本部を離れ、パワートレイン製品本部の先行開発部へと異動しました。本部をまたぐ異動、それもグループ長という大役。未知の環境に、打診直後は不安を覚えたと振り返ります。
「でも、その日の夜には『これはチャンスだ』と想いを改めたんです。これまでずっとECU開発に携わってきて、この環境で今後も歩んでいくのだろうと漠然と考えていました。もちろんそれも道を極める1つの方法ですが、不安や悩みがない状態は、停滞しているとも言えるのではないか。当時は自動車業界が『100年に1度の大変革期』と言われ始めた頃でもあり、このまま同じ場所にいていいのか。そんな危機感を感じ、会社、そして自身の成長のために、今こそ転換点が必要だと確信したんです」
異動後は、当時の部長の「100個アイデアを出して、1個実現すればいい。まずは打席に立ってバットを振ろう」という方針のもと、EV向けのパワーエレクトロニクスや自動運転を見据えた制御など、グループのメンバーと徹底的に議論を重ねながら、新たな製品の種まきに奔走しました。その中で芽吹いたのが、現在の「Xin1」開発につながる新規ECUプロジェクトでした。ここで髙橋は、開発スピードを最大化するための組織改革を自ら提案します。
「先行開発で新しい領域に踏み出す際、部署が分かれているとどうしてもスピードが落ちてしまいます。そこで、ハード、ソフト、制御のメンバーを1つの室に集めることを提案しました。新規ECUでソフトを動かすためには新たなマイコンを採用する必要があります。制御で実現させたいこととソフトの設計を同時に考え、ハードとも密に連携しなければ絶対に間に合わない。そう確信していたからです」
髙橋の考えは見事的中。混成部隊による挑戦は、通常なら仕様決定から1年以上かかるところ、わずか9カ月という短期間でデモカー走行まで漕ぎ着けました。
「ソフトとハードの担当者が日々密に会話し、仕入先の協力会社ともビジョンを共有して共創関係を築けたことが勝因でした。出向時代にソフト領域を深く見ていた経験があったからこそ、プロジェクトマネジメントやメンバーのアサインもスムーズに進められたと感じています」
多様な分野の技術者と共に、「クルマ目線」で一貫した開発ができる環境が魅力
髙橋はアイシンで働く魅力として、自らの技術を実車で検証し、品質を突き詰められる環境を挙げます。
「やはり、車両全体を一貫して手がける『クルマ目線』での開発ができることが一番の魅力です。愛知県内はもちろん、北海道にある広大なテストコースにデモカーを持ち込み、自らつくったソフトでクルマを動かし、何かあればその場で対処して技術検証を繰り返す。ソフト開発からクルマを動かし、その先の試行錯誤まで携われる環境は、アイシンならではの魅力であり、現在の私たちのプロジェクトの醍醐味にもつながります。一方で、どんなに新しい技術に挑む際も、当社が創業以来大切にしてきた『品質』や『安全設計』の思想は揺るぎません。この両立こそが、アイシンとしてのものづくりの誇りであり、信頼の土台になると確信しています」
この刺激的な環境に、さらなる多様な視点を呼び込みたいと話す髙橋。求めるのは、完成された技術者ではなく、飽くなき向上心を持つ挑戦者です。
「車載経験の有無はこだわりません。鉄道システムなど異分野で培った電子の知見は、私たちの領域でも必ず活かせます。技術的な幅を広げ、エンジニアとして新たな高みをめざしたいという強い想いを持つ方にこそ、ぜひ仲間になってほしいですね。ギア、モーター、熱設計、評価など、あらゆる専門家が入り混じるこの場所なら、多角的で新しい知識を得られるはずです。私自身、自分の想いを言語化して発信してきたことで、役職や年齢に関係なく真摯に受け止めてもらい、議論の中心にい続けられたと感じています。経歴にとらわれず、チャレンジしようとする人の想いを汲んで仕事を進められる。そんな柔軟な文化がアイシンの強みです」
髙橋の視線は、すでに10年後のモビリティ社会を見据えています。
「先行開発に1つの区切りをつけた後は、より品質を高め、具体的なビジネスにつなげるフェーズに入ります。EVの形が決まりきっていない今だからこそ、新しいモビリティのあり方や、それを所有することによる新たな価値を、アイシンとして世界に提案していきたい。そのためには、本部の垣根を超えた連携がいっそう重要になります。当社のリーダーたちの中には、明確なビジョンを掲げ力強く引っ張っていくスタイルや、部下のやる気をうまく引き出すスタイルなど、タイプは違えど尊敬すべきロールモデルが多くいます。そうした先輩たちの優れたマネジメントスタイルを吸収しながら、私なりのリーダー像を確立し、アイシンの未来を切り拓いていきたいですね」
※ 記載内容は2026年5月時点のものです
