なぜ作るのか。どう届けるのか。 WhyとHowを同時に問い、体験をデザインする
車載位置情報サービスの中核を担うLBS製品本部。その中でLBSシステム開発部は、車載LBS関連システムの開発を通じて顧客価値を創出し、次世代・新規領域に向けた事業変革をリード、グローバル競争力を強化するミッションを担っています。
「LBSシステム開発部で私が所属しているのは、デジタルサービスにおいて理想のユーザー体験を考えるUXデザイングループです。ユーザーに提供する体験価値の設計といった上流工程から、それを実現するUIの検討といった下流工程まで幅広く担当しています」
チームにはUX/UIデザインやUIデザイン出身のメンバーに加え、HCI(※)領域の専門家も在籍。多様なメンバーと協働する中で、Zouが一貫して大切にしてきたのはエンドユーザーの視点です。
「アイシンは自動車メーカーに直接部品を納入するTier1企業のため、OEMのニーズに応えることが重要になります。一方で最終的に私たちの製品・サービスを使うのはエンドユーザーである生活者です。より良い体験価値を届けるには、自分たちのお客さまだけでなく、その先にいるお客さまのことまで見据えることが大切です。エンドユーザーにどのような『うれしさ』を届けるのか。それを開発側や経営側に問い続けることも、UXデザイングループの役割だと考えています」
その役割を果たす上でZou(しゅう)が常に意識しているのが、「Why」と「How」を同時に考えることです。
「UXデザインは、プロダクトの方向性が決まっていない段階から関わることが多いため、なぜその製品・サービスを提供するのかという『Why』の追求が重要です。しかしそれだけでは、エンドユーザーに『うれしさ』を届けることはできません。UXデザイングループが設立から10年目を迎えた今、なぜ作るのかと同時に、どう実現し、どう届けるかという『How』も追求することが、私自身のミッションだと感じています」
※ HCI:Human-Computer Interaction(人間とコンピューターとの相互作用を研究する分野で、人の行動、認知プロセス、感情などを考慮し、より良いインターフェースやシステムを設計することを目的としている)
医療・家電からモビリティの領域へ。産学連携の環境に見出したアイシンの可能性
大学(学部課程)では母国の中国でカーデザインを専攻していたZou(しゅう)。学ぶ中で、デザインの本質について強い関心を持つようになります。
「『なぜそのデザインにするのか』という根本の概念や方法論について知識を深めたいと考えました。しかし、当時の中国ではその分野はまだ体系化されていませんでした。そんな折、日本を代表するグラフィックデザイナーの方が取り上げられた記事を読む機会がありました。そこで語られた、人間の感覚や身体性に働きかけるデザインの考え方は、まさに自分が知りたかった内容でした。日本でこの分野を深く学びたい。そう考えて留学を決めました」
来日後、大学の修士課程では、家電・ロボット・行動観察などのプロダクトデザインを中心に実践的な知識を習得。その後は日本の大手電機メーカーに就職し、医療用画像診断装置や治療装置のプロダクトデザインを経て、白物家電を担当しました。そしてエスノグラフィーなどを活用したUXリサーチや先行デザインも手がけ、約9年にわたり幅広い経験を積んだZou(しゅう)。愛知への移住を機に、学際的な環境に惹かれてアイシンへの転職を決意します。
「前職はデザインに特化した組織体制だったため、他分野と関わる機会は限られていました。一方でアイシンは産学連携に力を入れていて、さまざまな考え方に触れられる環境があります。デザイン思考を提唱してきたスタンフォード大学をはじめ、AIやコンピュータサイエンスなどの研究に力を入れるコーネルテックといった最先端機関と連携し、新たな価値の創出に挑戦できる。そこに大きな魅力を感じ、転職先として選びました」
こうしてZou(しゅう)は、2022年10月にアイシンへ入社。LBS領域のデジタルプロダクトデザインやUX/UIデザイン、UXリサーチなどを幅広く担当してきました。現在は主幹としてチームをリードするZou(しゅう)ですが、入社した当初は、社内でUXの定義がされていない状況に苦労したと振り返ります。
「UXデザインという同じ言葉を使っていても、認識に相違があるため会話がかみ合わないということが多々ありました。UXデザインとは体験をデザインすることですが、事業の中身によってやるべきことは変わり、LBSというデジタルサービス領域ならではの定義が求められます。そこで最初の1年間は、メンバーや関係者との対話を通じてUXデザインの定義を言語化・可視化し、丁寧に認識の擦り合わせを行いました。それは自分の考えを受け止め、理解しようとしてくれる風土があったからこそ実行できたと感じています」
不確実性と向き合い、ビジョンを形にする。アジャイルな開発で見出した最適解への道筋
アイシンに入社してさまざまなプロジェクトを手がけてきたZou(しゅう)。中でも印象に残っているのは、「YYSystem(ワイワイシステム)」のUI/UXデザインを担当した経験だと語ります。
「『YYSystem』は、聴覚障がいのある方や加齢によって日常の音が聞きにくくなった方などの意思疎通を支援するために開発された音声認識アプリシリーズです。体験全体を俯瞰して整合性の取れたUXを設計するために、私たちのチームが参画することになりました。大規模なウォーターフォール型の開発とは異なり、1人のプロダクトオーナーと密に連携しながらアジャイルに開発していく。そのプロセスがとても新鮮で楽しかったです」
Zou(しゅう)のチームは、講演会などのイベントで生成される字幕を、リアルタイムで修正するツールのプロダクトデザインを担当。スピードが求められる現場で複数人が同時に作業するにはどのようなUIが最適なのか、試行錯誤を重ねました。
「仮説を立てて実装し、テストをしてはまたやり直す。その繰り返しで、暗闇の中で答えを探しているような気持ちでした。そして6回目のテストで、ようやく『これだ』という解決策を見出すことができました」
こうして粘り強く最適解を導いていくデザインのプロセスを、Zou(しゅう)は「陶芸」にたとえます。
「粘土を何度もこねて、身体性を活かしながら自分の理想とする形をつくっていくような感覚があります。理想の形にたどり着くには仮説とテストを繰り返すだけでなく、仲間との対話も重要です。自分の考えを他者に話すことで、まるで鏡を見るように、相手の解釈を通じて自分は何がやりたいのかが明確になっていきます」
対話する相手は、チームメンバーに留まりません。法務などの専門部署と向き合い、守るべき法律や規格を理解することも重要だとZou(しゅう)は語ります。
「法規などの制限があるからこそ、その中でいかに理想を形にしていくかというデザイナーの創造性が問われることになります。たとえば高齢者の移動促進プロジェクトの実証実験でも、個人情報の取り扱いや規約の整備をめぐり、法務や人事の担当者と何度も議論を重ねました。こうした調整を経て、制約の中でユーザーの体験価値を最大化することがUXデザイナーの腕の見せ所だと言えます」
個人の意志が、未来を動かす。「あなたは何をやりたいか」が問われる組織文化の中で
アイシンに入社して4年目を迎えたZou(しゅう)。働く中で、組織としての許容性と、人材を大切にする文化を日々感じていると話します。
「これまでのキャリアでは、上からの指示を遂行する仕事がほとんどでした。しかしアイシンでは、上司から『あなたは何をやりたいですか?』と頻繁に問いかけられます。ゼロから事業を立ち上げる際、個人の意志や志がなければプロジェクトは前へ進まないからです。だからこそ、アイシンでは個人の声が大切にされています。私の専門的な提案に対して、上長が理解しようと歩み寄り、対等な立場で議論してくれる環境には何度も助けられました。個人の意志を尊重する土壌があるからこそ、新しい領域への挑戦が可能になるのだと感じています」
挑戦できる組織風土を活かし、Zou(しゅう)は今、新たなテーマに取り組んでいます。製品の要求仕様の策定から設計、検証へと至る「V字工程」において、仕様が決まる前の「ゼロ」の工程を確立することです。
「現在の開発プロセスでは、どのような体験価値をユーザーに提供すべきかという定義やその検証について、公式に議論される場がほとんどありません。そのため、多くの現場が開発の入り口で立ち往生しているのが現状です。そこで、V字工程が本格的に動き出す前段階である『ゼロ』からの工程を、誰もが再現できる共通の手順として整えたいと考えています。実務での経験を個人の勘に頼らない仕組みとして整理し、UXデザインのノウハウを組織の共有財産にしていきたいです。具体的には、アイシンの最新技術の研究・開発を紹介する『アイシン技報』での発表などを通じ、価値の定義から始まる開発が当たり前に行われる土壌を整えたいと考えています」
自らテーマを見つけ出し、より良い体験価値の提供をめざして挑戦を続けるZou(しゅう)。これから加わる新たな仲間にも、同じように能動的な姿勢を求めています。
「単に言われたことをこなすのではなく、自ら仮説を立ててテストを繰り返し、実装していく。そうして何かを変えたいという強い想いを持って行動できる方が、UXデザインの仕事に向いていると思います。まだ方法が確立されていない新しい領域なので、常に不確実性と向き合い、チームで協力して最適解を追求できる方が加わってくださるとうれしいですね」
※ 記載内容は2026年4月時点のものです
