見えない現象をバランスで制御する性能設計の矜持
米山が所属し、アイシンが作り出すBEV(電気自動車)・HEV(ハイブリッド自動車)・PHEV(プラグインハイブリッド自動車)の心臓部であるモーターを開発するモータ技術部。その第3設計室には、量産を見据えたモーターの性能設計を担う約15名のスペシャリストが集っています。中でも、米山のミッションは、BEV向けの高出力モーターの「性能の最適解」を導き出すことです。
「私の役割は、モーターの性能設計です。トルク出力、効率、静粛性・NV(騒音・振動)、そしてコストや量産性、これらすべての要素を、1つのモーターの中にどうバランスよく収めるか。モーターの世界において、1つの性能を突き詰めようとすれば、必ず別の性能が犠牲になります。たとえば、静粛性を高めようとすれば体格が大きくなり、小型化を優先すれば静粛性が悪化する。こういったトレードオフのなかから、いかにしてお客さまのニーズに合致するモノを作り出せるかが腕の見せ所です」
そんな米山が仕事をする上で大事にしていることは、データを正しく捉え、正しく分析するということです。
「性能という、目に見えない現象を扱うからこそ数字に対しては真摯でなければなりません。設計は数字の積み重ねですが、その数字が本当に正しいのか、常に疑うことから始めます。理屈ベースの原理原則に立ち返り、時には評価部隊のエキスパートと膝を突き合わせて議論をします。アイシンには、世界最高精度の評価ベンチ(試験設備)があります。ほんのわずかな変化点すら拾い上げてしまうこの設備で得られたデータが、果たして私たちが真に欲しているものなのか、それとも外部要因によるエラーなのか。その見極めこそが、設計の精度を左右します」
現場には、特定の領域に特化したマニアやオタクとも呼べるほどのエキスパートが揃っており、米山は、その膨大な知見を活用し、製品としての最適解を導き出すリーダーとしての役割も期待されています。
「上司であるグループ長やエキスパートの方々は、技術的な難問に対しても即座に参考書を広げ、原理から解き明かしてくれます。こうした知的な刺激に満ちた環境で、高度な技術をいかにうまく使いこなしていくか。さまざまなステークホルダーと調整を重ねながら最適な性能を追求していくことに、この仕事の奥深さがあるんです」
制御からハード設計へ。原理原則を武器に歩んだ7年の軌跡
2020年に新卒で入社し、現在7年目となる米山。学生時代は、大学院までモーター制御を専門に研究していました。
「学生時代は、モーターをどう動かすかという制御を見ていました。しかし、制御を突き詰めれば突き詰めるほど、『モーターそのものがどう作られ、どういう原理で動いているのか』を知らなければ、本当の意味での最適化はできないと感じるようになったんです。それで、車載用のモーターを高い次元で設計しているアイシンの門を叩きました。入社の決め手となったのは、インターンシップ時代に出会ったリクルーターの存在でした。とにかく親身になって、どんな些細な疑問にも誠意を持って答えてくれる。この温かく、かつ技術に対して誠実な人たちがいる場所なら、自分を成長させられると確信しました」
入社後、米山は猛勉強の日々を送ることになります。制御の知見があったとはいえ、設計や解析の世界は未知であり、広大だったからです。
「1〜2年目は分からないことの連続でした。性能解析の結果を見ても、その数字が何を意味しているのかすらつかめない。当時はまだ今ほどマニュアルが整備されていなかったので、新入社員の特権を生かしてとにかく上司や先輩に聞き、参考書を読み漁り、自分で解析を回しては考察するというサイクルを繰り返しました。一方で、学生時代のモーター制御の知識があったからこそ、『この制御なら、効率や損失にどう影響するか』という予測が立てられました。それが、ハード設計を理解する上での私独自の武器になりました
現在、アイシンでは設計標準や手順書のクラウド化が進み、キャッチアップの環境は劇的に向上しています。しかし、米山が重んじるのは、マニュアルの先にある自分の頭で考える力だと話します。
「手順書があれば設計はできます。ですが、なぜその手順が必要なのかという裏にある物理現象を理解していなければ、新しい課題には立ち向かえません。後輩たちにも、単にマニュアルをなぞるのではなく、データの裏側にある理屈を徹底的に掘り下げることの重要性を伝えています」
NVと軽量化の二律背反を越えて──世界一の設備が証明した正解
米山の技術者としての能力が試されたのは、BEV向け次世代モーターの先行開発プロジェクトだと言います。「従来を遥かに上回る静粛性と軽量化・小型化を両立せよ──」。微細な性能の差がBEVの航続距離や乗り心地を左右するため、お客さまからの要求に応えるには、より緻密な設計が求められました。
「NVを抑えるための手法は、通常はモーターの体格を大きくする方向に働きます。しかし、軽量化のためには体格を絞らなければならない。これまでは、モーターの『起振力』からNVを予測して設計する手法が一般的でしたが、今回はより詳細に共振モードまで考えたうえで、磁気回路設計をする必要があると感じました。この難題に立ち向かう上で突破口を開いたのは、周囲に相談する中で出た知見者からの情報でした。磁気・電気・機械という3つの要素を統合的に見る『連成解析』を用いて、より高い精度で設計に織り込むことにしました。」
米山は、社内のエキスパートを集い、最新のNVの知見や、解析技術を吸収。さらに、大規模な最適化解析により、目標性能を満足する最適なモーターを見つけ出します。
「音の原因となる共振がどこで起きているのか。周りの伝達系まで含めてシミュレーションすることで、狙った部分に対して最適な対策を施すことができます。こうした緻密な計算と大規模CPUを活用した解析技術の積み重ねにより、お客さまの性能要求を満足しつつ、限界までの軽量化を実現するモーターを設計することができました」
この成功の背景には、アイシンが持つ高度な解析技術がありました。
「NVの解析はとても難しく、高い技術力が求められるのですが、アイシンではモーターの根っこの部分から音の発生までの一連を解析でつなげることができます。私たちのシミュレーション環境は、業界TOPクラスだとという自負があります。そして図面も形もない状態から解析を重ね、DR(デザインレビュー)を繰り返し、ようやく出来上がってきた実機。それを評価ベンチにかけて、『ほら、想定通りの結果が出たでしょう』と言えた瞬間こそが、エンジニアとしての最高の快感です。もちろん、想定通りにいかないことも多いですが、理屈を突き詰めた先にあるその一瞬のために、私たちはこだわり続けています」
野心なき者に、この深淵は覗けない──アイシンで成し遂げる未来
モーターの性能という分野に特化して力をつけてきた米山。現在は、主任としてプロジェクトを牽引すると同時に、若手エンジニアのレビューや技術指導にも力を注いでいます。
「最近になって、あらためてモーターの性能設計のおもしろさを実感しています。アイシンには、技術・設備・人財の面で超一流の環境が整っています。この環境をどう使い、どうお客様のニーズに応えるか、設計者の腕の見せどころです。 今後もさらに解析技術と評価技術の精度を高めていき、『未解の課題』を解き明かしながら、さらなるモーター性能の向上をめざしたいと思っています。エキスパートの方々はとにかく技術力や知識が豊富で、それ以上に貪欲さがあります。私もそのレベルで会話ができるようになりたいので、やるべきことは山積みです」
どのような人がこの職場で活躍できるのか。米山は、知識量よりも大切なものがあると語ります。
「もちろん知識やコミュニケーションも大切ですが、それ以上に『この技術で世界を変えたい』『この分野では誰にも負けない』という野心や向上心がある人と働きたいです。アイシンには、その野心に応えられるだけの知見と環境があります。知識は後からついてきます。私も入社当初は知識が足りていませんでしたが、学ぶことが苦ではなかったので現在こうして楽しく、前向きに技術を追求できています。大切なのは、絶え間なく変化する技術を学び続け、自ら身に着けた技術で課題を突破しようとする姿勢だと思います」
日進月歩で進化を続けるモーター技術の世界。米山は、その変化を楽しみながら技術力を磨いています。
「技術がどんどん上がっているからこそ見えてくる新しい課題があります。それをしっかり要素開発できるように知識レベルを上げ、課題を明確化できるチームにしていきたいです。そして、その知識をみんなで共有できるよう、手順書の整備や標準の整備をしっかり残していくことが私の仕事だと考えています。技術を突き詰めたい人にとって、アイシンは最高の環境だと思います。自身の持つ技術にこだわる人たちと一緒に、次世代のモーターの定義を書き換えていく。そんな挑戦を、私たちは待っています」
※ 記載内容は2026年4月時点のものです
