BEV車の進化を支えるブレーキ技術開発。4社をつなぐプロジェクトリーダーの挑戦
私は、「BEV車向け製品戦略プロジェクト」に参画していました。BEVとはバッテリー式電気自動車のことで、自動車業界では急速に普及が進んでいる領域です。このプロジェクトでは、車両のBEV化における回生力拡大がブレーキに与える影響を予測し、技術戦略を立てることをミッションとしています。
今後増えていくBEV車向けコーナーブレーキとして、どのような製品や技術が必要かを検討するワーキンググループの一環として、このプロジェクトは立ち上がりました。車両のBEV化では回生力が拡大するため、基本ブレーキの制動力が減少するという影響が生じます。この課題に対して、技術的戦略の策定や必要技術の選定を行うことが、私たちの重要な役割となっていました。
私はディスクロータ開発設計者として、技術アイテムの検討だけでなく、評価法の立案や判定基準の確立にも取り組んでいました。従来からある評価法を組み合わせ新しい評価方を立案したり、今までは考慮されていなかった新しい視点での判定基準を設け、見極めの手法などを検討していました。約1年間という期間の中で、将来投入すべき技術アイテムを立案・提案し、得意先への承認を得ることをゴールとして活動を進めていました。
プロジェクトには、得意先の技術者6名、仕入先A社から3名、仕入先B社から2名 、自社設計者3名が関与しています。私たちアドヴィックスは、得意先と仕入先をつなぐ役割を担いながら、設計者主導で生産面やコスト面まで踏まえた技術提案を行い、最適な方向性の合意形成を進めていました。得意先と自社では打ち合わせを実施する中で、自社立案した技術アイテムの提案や本件に関わる調査内容、評価結果の報告、今後の方向性合意などを行っていました。
私はディスクロータ開発設計者の代表として、2名の部下と協力しながら、得意先と仕入先も含めたプロジェクト全体をリードするプロジェクトリーダーを担当していました。
製品設計者の代表として手を挙げ、前例のない技術の見極めに挑む
当時私はディスクロータという製品において、製品開発・設計のグループリーダーを担っていました。ディスクロータはブレーキシステムの重要な部品で、車の安全性能に直結する製品です。今回のプロジェクトへの参画は、製品設計者の代表として自ら手を挙げたことがきっかけで、これまで培ってきた経験を活かし、製品開発・設計の立場からプロジェクトに貢献したいという思いがありました。
プロジェクトに参画してまず最初に取り組んだのは、課題を正しく把握するための基礎調査でした。具体的には、現有技術の実力把握や、過去の知見やデータの再調査、そして現量産車での市場実力把握を実施しました。新しい技術の見極めを行うためには、まず現在地を正確に把握することが不可欠だと考え、地道な作業ではありましたが、この段階での丁寧な調査が、後の意思決定の土台となりました。
しかし、プロジェクトを進める中で大きな壁にぶつかりました。これまで経験のない技術の見極めであり、「本当にこれで良いのか」を証明する論拠固めが非常に難しく、苦労しました。前例がないということは、判断の正しさを裏付ける材料も限られているということ。その中で確信を持って進むことの難しさを痛感しました。
この困難を乗り越えるために、私は二つのアプローチを取りました。1つめは、技術アイテムの見極めのために評価に約半年もの工数が必要になるという課題に対し、その評価の必要性を関係者に丁寧に説明し、理解を得たうえで、愚直に実行し、都度、評価結果を次の評価へと迅速にフィードバックしました。2つめは、得られた結果を多角的に捉えることで、不足のない考察に繋げることです。一つの視点だけでは見落としがあるかもしれない。だからこそ、さまざまな角度から検証を重ね、論拠の確実性を高めていくことを心がけました。前例のない挑戦だからこそ、慎重に、しかし確実に前進することが求められていたのです。
プロジェクト完了。得意先との合意形成と若手の成長という二つの成果
このプロジェクトは、目標性能の見極めと必要技術の選定が完了し、無事にクロージングを迎えることができました。プロジェクトの最大の成果は、得意先とともにBEV車に向けた必要技術の見極めを完了し、合意に至ることができた点です。BEV車は、これからの自動車市場において重要な位置を占める車両です。このBEV車向けの必要技術について、得意先と共通の認識を持つことができたのは大きな前進でした。さらに、将来市場で課題となった場合に備えて、必要技術を具現化する生産検討も完了するところまで進めることができました。
このプロジェクトを通じて得られたものは、技術的な成果だけではありませんでした。私自身、将来的に起こりえる車両変化についての知識を大きく向上させることができました。自動車業界は今、大きな変革期を迎えており、電動化の波が押し寄せています。その中で求められる技術も変化していくわけですが、このプロジェクトに取り組むことで、そうした変化を先読みする力を養うことができたと感じています。
そして何より印象深かったのは、若手メンバーと一緒にこれまでなかった新たな知見を得られたことです。このプロジェクトで扱った領域は、私たちにとっても未知の部分が多く、手探りで進めていく場面もありました。しかし、若手メンバーたちは積極的に学び、挑戦し、確実に成長していく姿を見せてくれました。プロジェクトを通じて彼らの成長を実感できたことは、技術的な成果と同じくらい、あるいはそれ以上に価値のあることだったと思います。次世代を担う人材が育っていく過程に立ち会えたことは、私にとって大きな喜びです。
未経験から切り拓く対向キャリパ設計と、誇りある開発組織づくりへの挑戦
現在は部署異動し、対向キャリパの製品開発・設計のグループリーダーを担当させていただいています。対向キャリパとは、ブレーキディスクを両側から挟み込む構造を持つブレーキ装置の一種で、制動性能に優れた部品です。設計経験のない製品の担当になりましたが、これまでの経験と持ち前の問題解決力と推進力を活かして、より制動力を高められる対向キャリパ設計にチャレンジし、より良い製品を得意先並びにユーザーに提案していきたいと考えています。まずは、対向キャリパの設計知識向上が必要だと感じています。私にとっては新たなチャレンジだと思っていますので、何事も日々成長が必要だと考え、愚直に努力していきます。経験のない分野であっても、一つひとつ学びを積み重ねていくことで、必ず道は開けると信じています。このプロジェクトを通して、一人ひとりが自分の仕事のプロセスや結果にこだわりや自信を持って取り組み、より良い製品を得意先並びにユーザー提案できる組織を目指したいです。
そして、ブレーキを通じ、車における安心・安全だけでなく、快適さも満足して頂くことで、ユーザーにとって豊かなクルマ社会をめざしていきたいです。ブレーキは安全のための部品というイメージが強いかもしれませんが、快適な運転体験を支える重要な要素でもあります。一つの部品が、ユーザーの日常に豊かさをもたらせる。そんな製品づくりに、これからも携わっていきたいと思っています。
