「救えなかった」無力感が原点。研究と実習を経て選んだ、地域に根ざす「予防医療」へ
ーー学生時代のことを教えてください。
薬学部での学生時代を振り返ると、前半と後半で全く異なる景色を見てきました。1年生から3年生までは、正直に言えば勉強よりも部活が中心の生活。弓道部に所属し、的を射るその一瞬に全神経を注ぐ、そんな日々に情熱を燃やしていました。
しかし、キャンパスが変わる4年生からは一転、本格的に学問と向き合うことになります。 私が配属されたのは生物系の研究室。そこで取り組んだテーマは「トリプルネガティブ乳がん」の研究でした。エストロゲン、HER2、プロゲステロンという3つの受容体がすべて陰性を示すこのがんは、ホルモン療法などが効かず、有効な治療法が限られる極めて難治性の疾患です。「どうすればこの病に立ち向かえるのか」、化学療法しか選択肢がない厳しい現状を前に、基礎研究の分野から医療の可能性を模索し続けていました。
ーーそんな学生時代を経て、ドラッグストアに就職することを決めた理由を教えてください。
そんな私のキャリア観を根底から覆し、就職活動の方向性を決定づけたのは、5年次の病院実習での経験でした。配属されたのは緩和ケア病棟、いわゆる終末期医療の現場です。そこで私が出会ったのは、人工呼吸器を装着された認知症の患者様でした。言葉を交わすことも、意思の疎通もままならない状態の方に対し、吸入薬の指導を行う。その時、私の中に湧き上がってきたのは、使命感ではなく、あまりにも大きな「無力感」でした。
「もっと早い段階で、何かできることはなかったのか」
「こうなる人を、一人でも減らさなければならないのではないか」。
その痛切な思いが、私の中で確固たる決意に変わりました。治療の最終段階に関わるのではなく、病気になる前の段階、生活の場に近いところで「予防医療」に携わりたい。そう強く願い、私は病院ではなく、患者様の日常に寄り添える調剤薬局やドラッグストアの道へ進むことを決めたのです。
ーーたくさん企業がある中で、Vドラッグを選んだ理由を教えてください。
数ある企業の中でこの会社を選んだ理由は、まず「土地柄」でした。岐阜県内に多くの店舗を展開し、地域に深く根ざしていること。処方箋枚数も多く、ここなら地元である岐阜の人々の健康を一番近くで支えられると直感しました。
入社前の店舗見学で感じたのは、圧倒的な「人の温かさ」です。先輩と後輩が交わす何気ない会話、質問のしやすさ、そして職場全体を包む柔らかな空気感。調剤薬局単体の企業も検討しましたが、OTC医薬品(一般用医薬品)の経験が積めないことへの懸念がありました。一方でこの会社は、調剤専門店も多く持ちながら、ドラッグストア併設店への異動も可能で、薬剤師としての幅を広げられる環境がある。変形労働制による柔軟な働き方や休みの取りやすさも相まって、こここそが私の求めていた環境だと確信しました。
完成されたレールはない。総合病院門前での激務と、ゼロから切り拓いた「在宅医療」
ーー入社後の研修で印象に残っていることがあれば教えてください。
入社後の研修で、特に印象に残っているのは、バローホールディングス全体で行われる研修です。薬剤師としての専門知識はもちろんですが、それ以上に「バロー」というグループが大切にする歴史や哲学、そして「サービス業としてのあり方」を徹底的に学んだのです。「薬剤師は先生ではない。お客様、患者様にサービスを提供するスタッフの一人である」。白衣を着る前の心構え、接遇、人としての立ち振る舞い。これらは学生時代の勉強では決して得られなかった視点でした。この研修があったからこそ、単に薬を渡すだけの存在ではなく、一人の社会人として患者様に向き合う覚悟が決まったのだと思います。
ーー入社後のギャップがあれば教えてください。
入社前、私はこの会社に対して「大企業だからすべてがシステム化され、完成された画一的な組織だろう」という勝手なイメージを抱いていました。しかし、配属されて良い意味で裏切られました。会社は今もなお店舗を増やし続け、業務フローも時代に合わせて柔軟に変化させています。新しい調剤機器の導入にも積極的で、常に「より良くあろう」とする成長のエネルギーに満ちていました。
完成されたレールの上を走るのではなく、自分たちの手でレールを敷いていける。そんな「未完成ならではの面白さ」が、ここにはありました。
ーー現在のお仕事内容を教えてください。
私が現在勤務しているのは、総合病院の門前薬局です。眼科、整形外科、婦人科、泌尿器科、そして内科と、あらゆる診療科の処方箋がひっきりなしに届きます。入社1年目は、そのスピードと多様な症例についていくのに必死でした。来る日も来る日も勉強し、知識をアップデートし続ける日々でした。
しかし、2年目、3年目と経験を重ねるにつれ、後輩ができ、私の役割も変化していきました。現在は事業部のチーフ薬剤師として、自身の業務だけでなく、薬局長の補佐や後輩の指導、そして店舗運営の一端を担っています。
ーー印象に残っているお仕事があれば教えてください。
この3年間で最も心に残っている挑戦、それは「在宅医療」の新規開拓です。私が配属された当初、その店舗では在宅医療の契約が一件もありませんでした。会社として在宅医療を推進していく方針の中、私は「最初の一件」を獲得するというミッションに挑みました。しかし、待っていても依頼は来ません。在宅医療を必要としている患者様は、自ら「助けてほしい」とは言えないことが多いのです。
私は外来のカウンターで、アンテナを張り巡らせました。
「いつもご家族だけが薬を取りに来られているな」
「一包化や粉砕の指示が出ているけれど、ご自宅での管理は大丈夫だろうか」。
そうした小さなサインを見逃さず、患者様やご家族に声をかけ、管理状況をヒアリングし、在宅医療の提案を行う。まさに「0から1」を作り出す泥臭い営業活動でした。断られることもありましたが、諦めずにアプローチを続け、ついに最初の一件の契約を結べた時の達成感は、言葉では言い表せないものでした。
ーー薬剤師として働く中で、苦労したことがあれば教えてください。
また、忘れられないのがコロナ禍での経験です。入社後の約2年間はまさにパンデミックの真っ只中。発熱外来への対応、そして深刻な医薬品の供給不足。「咳止めが無い」という絶望的な状況下で、患者様にどう説明し、どう納得していただくか。ご希望に添えずお叱りを受けることもありましたが、失敗を繰り返しながら磨いた対応力は、今の私の大きな財産となっています。
専門性を磨き、次世代を育てる。チーフ薬剤師として描く、教育と経営のビジョン
ーー学生時代と比べて変わったと感じることを教えてください。
総合病院の門前という環境は、薬剤師としての専門性を飛躍的に高めてくれました。多種多様な処方に対し、常に「なぜこの薬なのか?」という仮説を持って挑む。その繰り返しが思考力を鍛えました。
さらなる高みを目指し、私は日本腎臓薬物療法学会に参加しました。そこで学んだのは、ロキソプロフェンやバラシクロビルといった日常的に触れる薬でも、使い方を誤れば腎臓を深く傷つけてしまうという事実です。近年、処方箋に検査値が記載されるようになり、私たち薬剤師が腎機能をモニタリングしやすくなりました。検査値を読み解き、副作用を未然に防ぐ。これこそが、私が学生時代に志した「予防」の一つの形だと実感しています。
ーー短期的な目標があれば教えてください。
現在、私が目指している短期的な目標は、店舗の教育体制の確立です。薬局長というポジションが見えてきた今、自分一人ができることの限界も理解しています。だからこそ、「どんな患者様にも対応できる薬剤師」を育てたい。教育においては、あえて「答えを教えない」ことも大切にしています。すぐに正解を与えるのではなく、「まず自分で考えてみて」と問いかける。もちろん、わからないことは何度でも聞いてもらいますが、一度立ち止まって思考する癖をつけることが、彼らの成長に繋がると信じているからです。
ーー中長期的な目標があれば教えてください。
そして中長期的には、エリアマネージャーのように複数店舗を統括・サポートする立場を目指しています。かつて在宅委員会に所属していた際、各店舗の数値や人的リソースを分析し、在宅医療の可否を判断する経験をしました。
国の施策として診療報酬改定や医療費抑制が進む中、薬局経営はよりシビアな視点が求められます。「かかりつけ薬剤師」や「在宅医療」を推進するためには、情熱だけでなく、数字に基づいた戦略的な人員配置と環境整備が不可欠です。現場を知り、経営数値にも責任を持てるリーダーとして、地域医療の基盤を支えていきたいと考えています。
変化を楽しめる人と働きたい。スキルよりも大切な「自ら正解を創り出すマインド」
ーー実際に働いてみてVドラッグにどのような印象をもらっていますか。
この会社は、決して「上がりきった」企業ではありません。まだまだ成長の途上にあり、変化を恐れずに進化を続けている組織です。だからこそ、ここには「自分に合った道」を見つけられる無数のチャンスがあります。
ーー一緒に働いていきたいと思う人はどんな人ですか。
私が一緒に働きたいと思うのは、変化を楽しみ、自ら考えられる人です。「どうすればいいですか?」と正解を求めるのではなく、「こう思うのですが、どうでしょうか?」と仮説を持ってぶつかってきてくれる人。失敗しても構いません。なぜ違ったのかを検証し、次に活かそうとする向上心があれば、スキルは後からいくらでもついてくると考えています。
薬剤師としての資格はスタートラインに過ぎません。大切なのは、現状に満足せず「もっと高みへ」と自分を奮い立たせるマインドです。予防医療への貢献、専門性の追求、マネジメントへの挑戦。あなたが望めば、その舞台はここに用意されています。完成された歯車になるのではなく、一緒にこの会社を、そして地域医療を創り上げていけたら嬉しいです。
■編集後記:「無力感」を原動力に変えて
取材を通じて印象的だったのは、学生時代に抱いた課題意識を、日々の業務の中で着実に実行に移している一貫した姿勢です。
「大手企業だからこそ、まだ変化できる余地がある」という言葉通り、整った環境に安住せず、自ら考えて新しい仕組みを作っていく姿は、非常に頼もしく映りました。
スキルは後からついてくる、という言葉の裏には、成長をしっかりと支える環境があることも感じ取れます。自らの手でキャリアを築いていきたい方にとって、一つの指針となるお話だったのではないでしょうか。
※記載内容は2026年1月時点のものです。
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