部署別の専門化を徹底。人財採用部と人財開発部による特化戦略
──人財採用部と人財開発部では、それぞれどのような活動をしていますか?
佐藤:人財採用部は採用を専門とする部署です。新卒採用、キャリア採用、チャレンジド(障がい者)採用を担当し、採用広報活動や母集団形成、学生向けインターンシップの企画や運営、選考、配属決定といった一連の採用業務を13名のメンバーで行っています。
水野:人財開発部では、所属している社員やこれから入社する社員に向けて能力開発のための研修の企画と運営や、社員の配置や人事異動、人事考課などを担当しています。
在籍するメンバーは8名とこちらも少数精鋭で、毎日のように研修を実施しているほか、働き方改革推進室と共同で1on1ミーティングを全社展開したり、経営層と社員が対話するラウンドテーブルミーティングを設けたりと、社内コミュニケーションの活性化につながる活動も行っています。
──採用と研修を担当する部門をそれぞれ独立させているのはどうしてですか?
佐藤:以前、採用と研修は同じ部署で行っていましたが、将来的に労働人口が減少し、採用活動と人のマネジメントの重要性が高まることを見据え、人財採用部と人財開発部を分けてそれぞれをより強化していこうという想いがありました。
水野:部署を分けた背景には、意思決定をスムーズにし、よりスピーディーに物事を前に進めていきたいという狙いもありました。人事部長が、採用や人事異動、処遇やマネジメントなどにひとりで対応する負担は大きく、どうしても業務速度が落ちてしまうからです。
佐藤:当社には、昇格や昇進するために筆記試験や役員面接を行うフローがあるほか、全社で擦り合わせを行った上で社員の評価を行うなど人事異動や人事考課に誠実に向き合うことを大切にしています。こうした姿勢を保つためにも、役割を分けることは重要でした。
水野:新しく入社する社員へのケアが行き届いているのは、採用に特化した人財採用部があるからこそです。採用して機械的に人事配置するのではなく、たとえば「こんな社員が入ってきます」と密に情報を連携し、人をみながらより適切な人事配置や人事異動を実現できていると考えています。
「共生(ともいき)」の実現に向けて、まずは「個の自立」を
──それぞれの部署を運営する上で、おふたりはどんなことを大切にしていますか
佐藤:部署は分かれていますが、水野と私は、人事としてのポリシーを見える化すべきとの認識を共有し、いままさにポリシー策定のために動き出しているところです。
水野:明文化するのはこれからですが、人事のメンバーが共通して持っているのは「どうせなら、鈴与で楽しく仕事をしよう」というマインド。創業以来220年以上にわたりさまざまな挑戦を繰り返しながら発展してきたこの会社で、楽しく働き人間的に成長したいという想いを人事メンバー全員が持っていますし、その考えを全社に根づかせたいと考えています。
それに加えて、人事としては経営層と社員をつなぐ役割を果たしていきたいと思っています。経営層に対して社内の実態を伝え、正しい経営判断をしてもらうことが重要です。また、人事から経営層に積極的にコミュニケーションを図り、共に会社の未来を考えられる存在になることが理想です。
ときに社員が望まない施策もあるかもしれませんが、それは社員と会社の長期的な未来を考えてのこと。こちらの意図をしっかりと伝えられるように、また、社員の声にも耳を傾けたいと考えていますので、進める際には対話する姿勢で臨んでいます。
──部署の体制とポリシーのいずれからも鈴与の人財にかける想いが伝わってきます。どのような価値観が根底にあるのでしょうか。
水野:「企業は人なり」という考えでしょうか。いくら仕事があっても、人がいなければ回りません。逆に、人財が揃っていればどんなことでも実現可能だと思っています。当社を選んで入社した社員には、ひとり残らず仕事を通じて成長し、仕事のやりがいを感じながら、ますます鈴与を好きになってもらえたらと願っています。
私たちは、いわば社員の伴走者。鈴与に入社した仲間が自己成長を実感できるような機会を提供しつつ、主体的に成長していく姿を見守り、支援する役割を果たさなければいけないと考えています。
人事異動も社員の成長を願っての施策として位置付けています。とくに若手は10年で3部署のジョブローテーションと比較的高頻度な人事異動があります。拠点の業績や運営のしやすさに注目すると、もう少し長いスパンで専門性を身につけた方が好ましいときもあります。しかし、私たちは社員が変化に対応し成長してほしいため、10年3部署のローテーションを基本にしています。
佐藤:当社のグループ基本指針における行動の心得の中に、「人財育成は企業経営の原点である」というメッセージがあり、当社はその言葉を体現していると感じます。
また、企業活動においてもっとも重要な人財採用や人財開発に十分なリソースを割くことができているのは、当社が非上場のオーナー企業であり、経営の独立を担保できているからだと思います。
──鈴与では「共生(ともいき)」という経営理念を掲げています。この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか?
佐藤:私たちは、三つの共生を掲げています。1つ目が「社会との共生」、2つ目が「お客様・取引先との共生」、そして3つ目が「社員同士、グループ各社の共生」です。根底には、「皆でしっかりと手を取り合い、この世の中を生き抜いていこう」という想いがあるため、どこか優しそうな印象を受けるかもしれません。
しかし、共生の精神には、「個の自立」を大前提とする厳しい教えの側面もあります。個が自立するためには、時代の変化に合わせて自分自身を変化させ、成長していく「自己改革」が不可欠だからです。この共生の精神と自己改革への強い意志の両方を、当社の社員には備えてほしいと考えています。
水野:個の自立のためには、まず社員一人ひとりが自立を望むことが必要ですし、私たち人財採用部や人財開発部は、社員の自立を支援していくための施策や仕組みをつくらなければなりません。それらを両輪で回すと同時に、人事業務部で制度の設計・運用にあたってもらい、日々試行錯誤をしながら人事施策に磨きをかけています。
人への投資が、目に見えるかたちで成果に
──共生の実現のための取り組みとして、具体的にどのようなことを実施していますか?
水野:鈴与らしい研修の例として、「帆船研修」が挙げられます。これは、会社が所有している「ドーントレッダー号」という帆船に社員が乗船し、2泊3日の航海研修をするというものです。(新型コロナウイルス感染症の感染拡大で休止していましたが、2023年から再開)
自分たちで帆を立てて航行させたり、当番制で食事をつくったり、交代で夜間の安全確認を行ったり。実際の船員さながらの体験を通して、チームワークや安全、リーダーシップについて学んでもらっています。慣れない環境で協力する経験の影響力は大きいものです。「一緒に乗船した仲間とは、研修後も定期的に集まっている」といった声がよく聞かれます。
──珍しい研修ですね。独自の研修を企画することに力を入れているのでしょうか?
水野:共生の精神を具現化する社員を育てたいと考えているので、パッケージをそのまま提供するのではなく、当社の課題意識やあるべき姿を踏まえ、必要な要素を含めながら研修を組み立てています。
帆船研修以外にも、若手・中堅・管理職の各層に向けたリーダーシップ研修や、自分自身のキャリアについて考える研修などさまざまです。一時的に負荷がかかったとしても、社員の成長やキャリアアップにつながる研修の提供をめざしています。
研修に携わる中で嬉しかったのは、自分が企画運営した新入社員研修を10年ほど前に受講したメンバーが、現在人財開発部で中堅となって後輩の新入社員研修を率いる姿を目にしたこと。新入社員一人ひとりをしっかり見て、「あなたのこういうところが良かった」と声をかけている様子を見ると、本人の視野の広がりと成長を実感し胸が熱くなりましたね。
──共生の実現に向けて、佐藤さんはどのような取り組みを行っていますか?
佐藤:共生は仕事を通して実感していくものだと私は考えています。たとえば、当社は物流を生業にしていますが、私たちがめざしているのは、単に物を運ぶことではなく、お客さまの物流課題や経営課題の解決に貢献することです。
お客さまのことを徹底的にリサーチし、お客さまもまだ気づいていない課題を見つけて解決策を提案し、実施をサポートすることで、お客さまに多くのメリットをもたらすことができます。
また、物流導線を改善することでCO2削減や脱炭素につなげられたら、それは「社会との共生」につながります。そのため、当社では「共生についてどう考えていますか?」「どんなときに共生の実現を実感できますか?」といった対話で考える機会を設けています。
──印象的だった事例はありますか?
佐藤:お客さまの経営課題を解決するために必要なロジカルシンキングの研修を、全社員対象もしくは階層別に行っています。その研修を通じて身につけたスキルを応用し、お客さまのニーズや経営課題にインパクトを与えられる提案ができるようになり、結果として引き合いが増えてきました。
一例として、生活雑貨を扱う大手企業の事例が挙げられます。最初にそのお客さまの店舗を視察したところ、昼の混雑する時間帯に、スタッフの方が納入された商品の仕分けや充填作業を行っていることがわかりました。
その観察結果から、「来店客がスタッフに話しかけづらいため、販売機会のロスが生じている」と仮説を立て、スピーディーに商品を補充できるよう、フロアやアイテムごとに仕分けした状態で、朝の時間帯に納品することを提案。すると、お客さまの売上が大幅に改善されました。こうして研修を通じて社員に投資することが、具体的な成果としてあらわれているケースは少なくありません。
──とても興味深い事例ですね。「お客さまのために、このように変えたい」と社員が声を挙げれば、それが受け入れられるような風土が鈴与にはあるということでしょうか?
佐藤:はい。当社には、新しいことに挑戦したり改善したりしようとする社員の気持ちを受け止め、周囲の信頼を得て、社内をきちんと動かす力を兼ね備えていれば背中を押してもらえる組織風土があると思います。
水野:社長の鈴木は、2016年の社長就任以来、「ボトムアップとトップダウンのベストミックスをめざす」というメッセージを発信し続けてきました。社員が自ら仮説を立ててチャレンジし、課題を解決していく意識が、確実に社内に根づいてきていると感じます。
社員に働きがいと働きやすさを。「鈴与に入って良かった」を増やすために
──今後の展望について教えてください。
佐藤:鈴与の静岡県外での知名度を上げることがいまの目標です。鈴与は、物流事業を軸とする一方、日本で初めてツナ缶を製造し、その製造技術を県内の企業に提供したり、余ったマグロからインシュリンを製造する製薬事業を展開したりと、さまざまな事業に挑戦してきました。
また、現在では「地参地翔」「地方と地方を結ぶ交流の架け橋」をコンセプトとした旅客航空事業のフジドリームエアラインズの経営やサッカーJリーグの清水エスパルスの支援など、経済合理性の追求だけにとどまらない、企業市民としての責任と義務を果たすべく取り組んでいます。
しかし、とてもユニークな会社であるにもかかわらず、当社の静岡県外での知名度は決して高いとは言えません。現在、採用ブランディングを強化するなど、全国や海外の人にも鈴与に興味を持っていただくと同時に、当社で働く社員のエンゲージメント向上にも貢献するような活動をスタートしています。
水野:人財開発部としては、時代や環境の変化に合わせて研修をブラッシュアップしつつ、現在の活動を地道に継続することを重視していきたいと考えています。そして、社員が「自分の選択は正しかった」「鈴与に入って良かった」と思えるよう、社員がより働きがいや働きやすさを感じられることをめざし、人事ができることをひとつずつ具体化していきたいです。
──社員に伝えたいメッセージはありますか?
佐藤:鈴与には長い歴史がありますが、長さ自体に価値があるのではなく、変化をし続けてきたことに価値があると考えています。「老舗ベンチャー」のようなカルチャーがあり、「これをやりたい」と強い意志を持って周囲に働きかければ実現できる環境がありますし、1on1や、勤務地や職種の要望を伝えられる「自己申告制度」など、自分の考えや意見を伝えられる機会は豊富にあります。このような環境で自ら積極的に発信することで、想いをかたちにしていってほしいと思います。
水野: 鈴与の社員は真面目で責任感が強いがゆえに、気づけば目の前の仕事に「追われている」と感じている方もいるかもしれません。そんなときは、意識的に主語を「自分」にして、「自分はどうしたいのか」「自分ならどうするか」と自問自答してみてください。
私自身、仕事で大変だと感じることもありますが、「主導権を持ってこの仕事に取り組む」というポジティブなマインドを持つことで、見え方がまったく変わることを実感しました。
この経験から、主語を自分にする瞬間を多く持つことで、仕事も人生ももっと楽しめるはずですし、社員それぞれの人生において一番大事なことだと考えています。このようなマインドを持った社員が増えることで、鈴与はさらに変化を重ね、持続的に発展できる企業になると信じています。
※ 記載内容は2024年2月時点のものです
