日本の自動車産業を支える「オイルテンパー線」の専門家として、8人で挑む技術課題
私が所属するグループは、自動車の弁ばねやトランスミッション用ばねといった、自動車の重要保安部品に使われる「オイルテンパー線」と呼ばれる特殊鋼線の生産技術や開発を担っています。オイルテンパー線とは、焼入れと焼戻しの熱処理を施すことで高い強度と靭性を持たせた鋼線のことで、ばねの製造には欠かせない素材です。
一般消費者の方々には馴染みの薄い製品かもしれませんが、この部品がなければ自動車は動きません。私たちは「日本の自動車産業を支えている」という誇りを持ちながら、日々の業務に取り組んでいます。
その中で私が担当しているのは、オイルテンパー線の中でも特殊な「異形線」の生産技術および開発です。異形線とは、断面が卵型や台形型といった、丸ではない形状を持つ線材のことを指します。この異形線をばねに加工すると、同じ性能を持つ丸線のばねと比べてコンパクトに設計できるため、限られたスペースに多くの機能を詰め込みたいという自動車メーカーのニーズに応えることができます。
一方で、異形線は丸線に比べて製造難易度が高く、解決すべき技術的課題やプロセス改善の余地がまだ多く残っています。私はそれらの課題に向き合うため、金属材料学といった学術的な知識と、これまで積み上げてきた製造工程の理解を組み合わせながら、日々奮闘しています。
私たちのグループは8名で構成されています。特殊鋼線の各製造工程の技術担当、顧客の技術的な問い合わせに対応するサポート担当、新製品の開発を推進する担当など、幅広い業務分野をそれぞれのメンバーがカバーしています。
グループの雰囲気としてとても印象的なのは、上司と部下の垣根を越えて、率直に意見を言い合える風土が自然と根付いているという点です。月に一度開催される技術会議には、部長やグループ長、海外拠点のマネージャー、そして私のようなスタッフなど関係者が一堂に会しますが、役職に関わらず全員が積極的に発言し、「あるべき姿」「より良い姿」を追い求めて活発な議論が交わされます。こうした環境に身を置くことで、技術に対する自分自身の考え方が磨かれ、着実に成長を実感できています。
「諦めなければ打開できる」15年越しの顧客要求性能の達成に挑んだ開発の軌跡
私が今の事業部に配属されたのは2021年のことです。配属当初は、特殊鋼線という製品の知名度の低さもあって、どのような工業製品に使われているのか、日々どのような業務を行うのか、具体的なイメージをなかなか持てずにいました。しかし、業務を重ねるうちに、特殊鋼線の製造技術が持つ懐の深さに魅了され、この仕事のおもしろさに気づいていきました。
最初はオイルテンパー線(鋼線を熱処理することで性能を高めた線材)の生産技術を担当していましたが、数年前に異形線(断面が円形でない特殊な形状の鋼線)の生産技術・開発の担当となりました。現在は、主力である自動車向け以外の用途開発や、海外への技術移管に取り組み、私たちの技術をより広い領域へと積極的に展開しています。
その中でもとくに印象深いのが、15年以上にわたって競合他社にシェアを奪われ続けていた、ある自動車部品の開発への取り組みです。一度は開発中止となっていた案件でしたが、工場・営業・技術、そしてお客さまも巻き込んで開発を再開させ、ついに目標性能の達成——他社製品の性能を上回ること——を成し遂げました。
この案件が再び動き出したきっかけは、評価体制の整備でした。お客さまの側での評価に膨大な工数がかかっていたことが大きな課題だったため、私たちの事業部内で評価体制を独自に構築したのです。その結果、お客さまの負担が大幅に減り、評価サイクルを加速させることができました。これが開発再開の大きな突破口になりました。
一方で、開発を進める中で最も苦しんだのが、他社材と比べて目標性能が得られない原因の特定でした。鉄鋼材料には「機械的特性」と呼ばれる材料の基本特性(引張強さや硬さなど)がありますが、それらの値は他社材と比較しても遜色がなく、原因の手がかりがつかめない状態が続きました。そこで、数百個にのぼる評価後のサンプルを、機械的特性以外の観点から一つひとつ丁寧に確認し、特異な挙動を示すサンプルを地道に探し続けた結果、ようやく原因を特定することができました。
諦めずに続けられたのは、この案件が事業部として競争力を維持するために欠かせないものだという確信があったからです。昨今のEVシフトによってエンジン車が減少していく中でも、この製品には一定の需要が見込まれます。また、壁に直面するたびに営業メンバーが力強くサポートしてくれたことも、大きな支えになりました。チームとして互いに支え合いながら前に進んだことが、最後までモチベーションを保ち続けられた理由だと思っています。この取り組みを通じて次世代の自動車への採用が見込まれる段階まで到達でき、泥臭く諦めずに取り組み続ければ、困難は必ず打開できると確信しました。
「泥臭く、地道に」積み重ねた先にある成長とやりがいの実感
マネジメントという立場にはまだない私ですが、日々の業務を通じて、メンバーや自分自身の成長を実感する瞬間があります。その中でもとくに強く意識するのが、品質トラブルへの対応です。
自動車部品の製造現場では、お客さまに対して品質トラブルを発生させてしまった際、いかにスピード感を持って、正確かつ的確な対策を実施し、できるだけ早くお客さまへ報告できるかが重要だと考えています。入社当初は仕事の勝手がわからず、対応に時間がかかってしまい、上司や先輩たちに助けてもらうことが多々ありました。しかし、経験を積み重ねながら自分自身で原因や対策を考え続けてきた結果、今では大半の対応を自力でこなせるようになりました。この変化こそが、私にとって最も大きな成長の証だと感じています。
後輩の指導においても、同じことを大切にしています。私が心がけているのは、「やること」だけを伝えるのではなく、それを行う背景や理由を必ず一緒に伝えることです。背景や理由を理解することで、自ら考える力が育まれると信じているからです。後輩たちが一生懸命取り組む中で、対応のスピードや対策の正確さ・的確さが向上していると感じる瞬間があります。そういった場面に立ち会えたとき、自分のことのように嬉しくなります。
やりがいを感じるのは、困難な課題を解決できたときや、自身の成長を実感できたときです。その瞬間には、純粋な達成感と喜びが込み上げてきます。何事にも一生懸命、諦めずに、泥臭く、地道に取り組み、自分自身で考え続けることが大切だとつくづく感じます。
こうした日々の積み重ねこそが、より大きな責任を担える人材へと成長するための条件だと思っています。特別なスキルや才能は必要ありません。ただ、目の前の課題から逃げずに向き合い続けてきた結果が、今の自分を形づくっています。これからも、その姿勢だけは変えずに仕事に臨んでいきたいと思います。
新規用途への参入とDXで切り拓く「安定したモノづくり」への挑戦
私たちが今後挑戦したいことは、大きく2つあります。
1つ目は、新規用途への参入です。これまで私たちが手がけてきたのは主に自動車向けの製品でしたが、直近では電子部品や非自動車の構造部品に関する開発にも取り組んでいます。従来とは線のサイズ域が異なり、要求される性能の水準も高いという課題がありますが、それでも諦めずに一生懸命取り組んでいきたいと思っています。新規用途への参入によって拡販が進み、売り上げの向上につながることができれば、他社との差別化にもなり、市場における当社の競争力向上につながると信じています。
2つ目は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用です。昨今の生成AIの発達によって、専門的なプログラミング知識がなくても「誰でも手軽に」コーディングが可能になり、機械学習やディープラーニング(大量のデータをもとにコンピューターが自律的にパターンを学習する技術)を活用できる環境が整ってきました。これまで私たちの製造現場では、熟練の作業者が長年の経験から培ってきた「カンコツ」に頼った部分が少なくありませんでした。こうした暗黙知をデータとして見える化することで、作業者ごとのスキルのばらつきや技術の分断を防ぎ、より安定したモノづくりを実現できると考えています。さらに、これまであまり着目されていなかった製造条件(パラメータ)を分析することで、慢性的な不良の撲滅にもつなげられるのではないかと期待しています。技術力の向上と継承を同時に達成することが、私たちの大きな目標の一つです。
私たちが理想とする組織の姿は、メンバー全員が自ら考えて行動できるチームです。常に考え続けることで、社会の情勢変化にも柔軟に対応できる、しなやかな強さ——いわゆるレジリエンスを獲得できると思っています。私たちの成長はお客さまの技術力向上にもつながり、社会により良い製品を届ける一助になると確信しています。
そんな組織を一緒に作り上げていくために、ぜひ失敗を恐れずさまざまなことに積極的にチャレンジできる方に仲間になってほしいと思っています。鉄鋼材料の知識があるかどうかは関係ありません。私の上司や先輩方を見ていると、みなさん積極的にチャレンジし、その結果として製品の採用や拡販につなげています。成功が1回でもあれば大きなモチベーションになりますし、だからこそチャレンジし続けることが非常に重要だと実感しています。一生懸命取り組んで、考えることが好きな方と一緒に働きたいです。社会を支えるモノづくりをしたいという方は、ぜひ私たちのメンバーになってください。
