物理学と陸上競技に打ち込んだ学生時代。博士への逆風の中で見つけた理解者
私は学部の時は教育大学の物理学科で物理学や天文学などを学びました。大学院では量子力学を深めたいと思い、工学部の応用物理学科で物性物理の理論研究室に入り、新規2次元の半導体材料の基礎研究をしていました。研究では物質の性質を理論的に解明する日々で、数式と向き合いながら新しい材料の可能性を探っていくことに没頭していました。
勉強だけでなく、大学時代は陸上競技部に所属し、長距離種目をやっていました。高校生から陸上競技部に入り、走る楽しさを実感したことがきっかけです。チームの皆と全国大学女子駅伝を目指して切磋琢磨しました。大学院時代も陸上競技部に所属し、研究の傍ら、後輩たちと一緒に練習したり、フルマラソンの記録更新を目指すなど研究とランニングの毎日でした。理論研究という頭脳労働と、ランニングという身体活動の両立は大変でしたが、どちらも自分にとって欠かせないものでした。
就職活動では主に製造メーカーの研究職を中心に探していました。理論研究や博士課程での経験を活かすことができたら良いなと考えていました。しかし、私が就職活動をしていた頃は博士課程に対してまだまだネガティブなイメージを持つ企業も多く就職活動には苦戦しました。このままどこにも決まらないのではないかと不安でいっぱいでした。
そんな中で前職の化学メーカーに出会いました。化学メーカーでありながら、化学だけでなく、物理・数学・創薬などさまざまなバックグラウンドを持った人材や博士課程の学生を積極的に取っているところに魅力を感じました。技術面接では博士課程時代に進めてきた研究内容に関して多くの質問をしてくださり、他社ではここまで聞かれることもなかったので自分の研究に興味を持ってくださりとてもうれしかったのを今でも覚えています。自分の研究を真剣に理解しようとしてくれる姿勢に、ここでなら自分の専門性を活かせると確信し、入社を決めました。
ドメイン知識との融合でつかんだ信頼。データ分析者として現場と向き合った日々
前職では、製造や研究開発のデータ分析を担当していました。統計解析ソフトを現場の方々に普及させたり、教育したりする仕事も並行して行っていました。
とくに印象に残っているのは、有機化合物製造におけるデータによる物性予測のプロジェクトです。現場の方々には多くの協力をいただき、データの共有やヒアリングを重ねていく中で、データ分析にドメイン知識を入れることの重要性を深く学びました。最初はいただいたデータのすべての項目を変数として使っていたのですが、その中には制御には使えないものや物性には大きく寄与しないものもあり、各項目への理解が浅いまま何も考えずに使っていたんです。予測精度が上がっても、化学的理解とは異なる解釈が導き出されたため、「あなたの作ったモデルは信用できない」と言われてしまいました。
そこから現場のドメイン知識や化学的な解釈と合わせて変数を考えるようになったところ、少しずつ担当者からの信頼度も増え、モデルの精度が上がるようにと追加でデータをくださったり、コミュニケーションをとったりするようになりました。その結果、予測モデルもブラッシュアップすることができました。先輩からは「モデルの精度は下がっても良いから現場のドメイン知識をモデルに組み込むことを最優先にしよう」とアドバイスされ、ドメイン知識に合わせて制約を付けた予測モデルを構築しました。
基本的なことですが、初めて相手と打合せをした時、物性値の時系列変化を示した際に横軸をロット番号にしてしまい、相手の部長から「横軸は時間にしないといけない」と強く言われたこともありました。それ以降、図の横軸・縦軸にはかなり気を配るようにしました。当たり前のことかもしれませんが、普段相手がどのような軸でデータを見ているのか意識して資料を作成しないといけないと、そこで気づくことができました。時には厳しいコメントをもらうこともありましたが、仕事に対する姿勢を教えていただきました。
難しいテーマで思うようにいかないことが多かったのですが、所属していた部署の先輩や後輩も解決に向けたアドバイスをくださり、風通しの良い職場でした。技術面では所属部署のメンバーそれぞれが持っている手法・経験やセミナー等外からの情報を得て、成長することができました。人間関係の面では、さまざまな製造・研究のグループと関わる機会をたくさんいただき、コミュニケーションの重要性を学びました。
転職を考えたきっかけは、パートナーが関西の企業に勤めており遠距離だったことです。前職では関西拠点が多くなかったので、関西の企業に転職することを決めました。数ある企業の中で住友電工を選んだ決め手は、前職での仕事に対して技術的な質問から人と関わる深い質問まで追求していただいたことや、私自身の家庭の事情を考慮してくださったことでした。住友電工なら技術的なことを深め、人として成長できると思い決めました。
研究データの「デジタル化」に挑む。試行錯誤の日々と、現場に寄り添う姿勢
私は現在、研究企画部に所属し、研究データ基盤によるデータ収集・蓄積・分析作業の効率化を進めています。兼務でDX技術研究開発センターにも所属し、マテリアルズインフォマティクスやプロセスインフォマティクスといった、データを活用して研究開発の加速や製造プロセスの効率化を牽引する役割も担っています。
私の役割は、研究開発部門でデータの収集・蓄積・分析を進めていけるよう、いくつかの研究グループのDX担当者とデータ収集方法の相談・アドバイスをしたり、なるべく担当者の負荷がかからないようなプログラム・アプリを検討したりして、研究開発部門でのデータ基盤の利用の普及を進めることです。社内共通のデータ基盤を用いて、ユーザーがなるべく使いやすいように意見を聞いて開発部隊に要望を伝えたり、アプリを作ったりしています。
まだ大きな実績はありませんが、住友電工に転職してからDX技術研究開発センターで今のデータ基盤の活動をPoC、つまり概念実証から始め、当時の上長の方々や周りの支えもあり、一昨年に今のグループが発足し本格的に始めることになったのでそれはとてもありがたいです。同時に、より頑張らないといけないと身が引き締まる思いです。
一方で、苦労もあります。研究では工場で取得するデータと異なり毎回同じ項目のデータを取るわけではないので、そういった不定形な実験データをデータ基盤に落とし込むことは難しいです。今も担当者と試行錯誤しながら進めています。試行錯誤の中で、不定形なデータを無理にデータ基盤に落とし込む必要はないと感じるようになりました。一方で、文書など何かしらの形で共有していく仕組みや文化の醸成は進めていきたいと考えています。
また、各研究グループの研究背景を理解できておらず、データ設計に苦戦することもあります。なるべく、どんな実験をやっているか担当者にヒアリングしたり、時には実際の実験を見に行ったりして自分なりに理解を深めるよう心がけるようにしています。実際の実験現場ではこれまで紙に記入することも多く、いきなりUIを使って入力してほしいとなると現場への負担が大きいことがわかりました。それでも、データを残していくにはデジタル化していく必要があるため、入力は馴染みのあるエクセルを使ってもらい、そのエクセルを基にデータ基盤に入力するアプリを作成しています。実際の工程を知ることで、後のデータ活用イメージなどを膨らませることができるようになりました。
前職での担当者とのコミュニケーションの重要性が今の仕事でも活きています。これからも関わっている方と深くコミュニケーションを取り、課題解決に繋げていきたいと思います。
「ご縁を大切に挑戦を」データ基盤構築から人材育成まで、学び続ける姿勢で描く未来
短期的には、今構築している研究データ基盤をさまざまな研究グループに浸透させ、各研究グループが自走化できるようにしていきたいと考えています。そのために生成AIを使ったツールなどを検討しているところです。データ基盤を使いこなせる環境を整えることで、研究活動全体の効率化と高度化を実現したいですね。
中長期的には、今蓄積を始めているデータや製造のデータを使って、研究から量産への移行をスムーズにできるようにし、製造のプロセス最適化などに取り組みたいと思っています。そのために今から準備も始めていて、将来的に研究と工場のデータを繋げるにはデータ基盤上でどのようにしていけば良いか検討したり、解析に関しては材料に関する知識を勉強したりしています。データを通じて研究開発と製造現場の架け橋になれたら嬉しいです。
また、これまでの経験を基にデータ蓄積や分析等の人材育成にも関わっていきたいと考えています。どのような形が良いのかまだ決まっていませんが、学んでいきたい人と実テーマで伴走できると良いと思っています。自分にもっと力が付いたときは学習コンテンツや研修など企画も考えたいですね。
これまでのキャリアを振り返って、今後も大切にしたい価値観があります。それは、関わっていく人とのコミュニケーションは大切にすること、いくつになっても新しいことに挑戦し学び続けていきたいということです。また、仕事を楽しむことを忘れないようにしたいと思っています。
当社はエネルギー、情報通信、モビリティといったさまざまな分野で社会を支え、それぞれの分野で高い技術力を保有しているところが魅力だと思います。また、個人の意見を尊重してくれる風土があります。失敗を恐れず新しいことに積極的に挑戦し、困難に当たっても粘り強く取り組み、周りと乗り越えていくことができる人に活躍してもらえる環境です。
入社を検討している方には、このご縁を大切に、新しいことにどんどん挑戦していってほしいです。自ら新しい知識を吸収し、自身の技術力を高めていきたい人、コミュニケーションを積極的に取り業務を進めていく人と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。
