最悪な策とは、もっとも臆病な策のことである
佐久間は新卒社員4期生として、ベンチャー企業SPOOLに入社。当時未上場だったSPOOLは、グループ派遣を主軸とした人材アウトソーシングビジネスを行っていた。そんな佐久間はなぜSPOOLに入社したのだろうか。彼は少し考え、照れながらも口を開いてこう語った。
佐久間 「長くサラリーマンをするつもりはなくって。会社選びの基準は、能力を生かせ、成長出来る環境。 10年経たないと部下を与えられず、裁量権がないような会社には行きたくなかった」
入社6年目で最短の執行役員となり、2019年現在営業本部本部長の佐久間雄介にも当然就職活動時代があった。そして今の彼の姿は、当時の会社選びの基準を代弁しているかのようだ。
佐久間 「俺は実は臆病だからさ」
かのナポレオンは、「最悪の策とは、もっとも臆病な策である」と言った。しかし、本当に臆病とは最悪な策なのであろうか。就職活動をする学生は、安定を求め、いわゆる「大企業」へ行きたがる傾向がある。だが、本当の安定とはなんなのだろう。
SPOOLを含む人材領域では、過去に類を見ない人材不足時代に突入し、買い手市場から売り手市場へ変遷している。今後どうなるかということは誰にも予想がつかない中で安定を求めて大企業へ──この考え方への是非が問われる。
本当の安定とは、どの環境でもどの会社でも、活躍できる能力なのではないかと佐久間は言う。目まぐるしく変わる市場の中で、いざ何か自分でやりたい、やらなくてはいけないという状況になった際に、必要な能力や経験をより早く身につけることが出来る会社。それこそが「本当の意味で安定」した土壌なのだと言えるのだ。
失敗は、失敗ではなく出来ないことがわかるという成果である
佐久間 「年を重ねているからといって正解を導き出せる項目は少ない」
その個人の能力を形成する要素として、年齢が占める割合は非常に少ないと佐久間は人材について言及した。若くして管理者となった佐久間が言うこの台詞は、説得力が際立っていた。
新卒1年目だから、まだ入社したばかりだから、一番年齢が若いから──そんなことで自分の可能性を自ら閉じるべきではないのである。また、可能性という意味で言えば、佐久間はトライアンドエラーの人間でもある。
ある若手社員は佐久間についてこう語った。「神格化された人なので初めは緊張して話しかけづらいところもあったが、気さくでいつも優しく接してくれる」と。
“神格化”──大げさな響きではあるが、これは決して過ぎた表現とは言えないだろう。新卒社員にとって佐久間雄介は目指すべき姿として伝えられ、これまでの多くの成果は尊敬の対象となっているのだから。
しかし佐久間雄介は自身のことを、至って普通で誰よりもたくさん失敗してきたと話す。
佐久間 「たとえばひとつのクライアントしかいない状態で開設し、そのクライアントによって影響を受け、結果閉じてしまった金沢支店。これは失敗ではなく、次回に生かすことのできるノウハウの蓄積という形の成果です」
その中でも、もっとも大きな成果としては、SPOOLエコロジー時代、2011年3月東日本大震災後の福島除染事業である。
2012年、福島除染事業を立ち上げ地元福島で約30名を雇用。除染事業を展開していたが、見通しの甘さや、外的要因にむしばまれ、事業は8カ月という早さで撤退を決断したこともあった。だが、それでも最終的に成功に結び付けたのだ。
入社して時間が経つにつれ、これまでの実績には尾ひれが付き、成功したことばかりが記憶に残り、成功した話ばかりが逸話として残りがちである。とくに入社年度の新しい社員は、そういったイメージが先行しがちで、手の届かない異次元の人間に見えてしまう。
しかし実際は、佐久間も同じように間違いをし、経験をしてきたのだ。ただ、そのノウハウの蓄積を徹底し、成果に結び付けてきたという違いがあるだけで。だから、決して特別というわけではない。
佐久間 「出来るか出来ないかを判断できる唯一の方法は、実際にチャレンジしてみることだ」
とはいえ、無鉄砲に挑戦するわけではない。チャレンジする前に経験とノウハウを駆使して、少しでも正確に見通しを立てることが重要だ。そして、チャレンジした後に得た産物はすべて成果と捉え、蓄積すべきなのである。
仕事を成功させる唯一の方法は、その仕事を愛することである
佐久間が入社してから14年、この間に多くの新卒が入社と退社を繰り返している。新卒で入社した人が3年経つと、退職に至る離職率が3割を超えるというデータも有名なものである。
しかし佐久間は14年間を振り返り、辞めたいと思ったことはないと言う。しかし、若くして管理者になった当時の佐久間にとって無論すべてがうまく回っていたわけではない。
26歳当時、彼は広島支店にいた。
東京本社への移動時、13時間かけて「青春18きっぷ」で帰ったことや、漫画喫茶で宿泊することも珍しくなかった。それでも、辞めたいと思ったことはないと言えるのは、それに勝る仕事に対する楽しさ・喜びを見出していたからだ。
「仕事を楽しむべきだ」という文言は、ビジネス書などでは比較的使い古された表現ではある。しかし佐久間はそのありきたりな言葉をこう紐解いた。
佐久間 「日々出来ないことが見つかり、その都度仕事に楽しみを覚える。実際に業務をしている時は、今仕事が楽しいのか楽しくないのかを考えることはない。しかし、出来ない壁を乗り越えた結果、周りの誰かが喜んでくれたことや会社として拡大してきたことを振り返ると、その瞬間が楽しくないわけがない」
出来ない壁を見つけ、その壁を乗り越える。成果を出して、周りも幸せになる。そして、給料をもらい値札を見ずに眼鏡を買う。それこそが佐久間にとっての“仕事を楽しむ”ということであり、「仕事を成功させる唯一の方法」足りうるのだ。
また、佐久間が誰よりも早く会社へ出社しているのは、社内では有名な話である。7時台で、すでにデスクにいることも多い。
佐久間 「常に人の話を聞ける状態でいたいから。それに、そもそも働くことが楽しいからね」
現在では青春18きっぷは使わないと言う。理にかなった彼の回答は、堂々としたものだった。
人は馬を愛するように車を愛せない。馬は人の内面の感情を引き出すからだ
佐久間は人材業界についてこう語った。
佐久間 「成熟した非常に特殊な業界である」
近年、人材業界に興味を示す大学生が増えていると言われるが、そもそも人材業界とは何をあらわしているのだろうか。
人材業界は一般に、人に関するビジネスを展開する業界と説明することができるだろう。しかし、佐久間は人材業界を「人と関わる業界」と表現した。
人材業界において、仕事の肝は「人との関わり」なのである。どんな会社であったとしても、どこかしらの人材会社との取引をし、同じサービスを無数の会社が提供している。HR Techと言われるテクノロジーを駆使した新サービスが普及しだしているものの、人材業界はサービスによる差別化が少ない業界であると言われる。では、クライアントはどこで判断するのであろうか。それこそが「人との関わり」だと佐久間は言う。
2006年、営業として活躍していた佐久間は、KOKUYOカウネットとTOYOTA自動織機の合弁会社に物流のグループ派遣の提案を行った。目標としていた3カ月後の売上は1000万円。しかし、3カ月経過の直前で、60万円がどうしても足りない状況となっていた。940万、3カ月での売上としては上々であるが、このままでは目標は未達成で終わってしまう。佐久間はクライアントのもとに駆け付け、案件の拡大提案を行った。その結果、見事に案件拡大の承認をいただき、目標1000万を達成したのである。
妥協しない姿勢だけではなく、そこまでのクライアントとの人間関係が生きた瞬間だったと佐久間は語った。テクノロジーが普及し、クライアント先に出向かなくても商談や打合せは可能である。それ故に、クライアントとは仕事上うまく付き合っておけば、大きな問題は起こらないかもしれない。
しかし、テクノロジーが進化した中でも、判断をするのは感情を持ち合わせる人であることに変わりはない。そう考えると、人との関わりは、いざというとき、あるいは困ったときに自身の行動の選択肢を増やす手立てになるのではないか。
また、人との関わりということで言えば、佐久間は会社内の関係も大切にしている。先輩に多くを教えてもらったという佐久間からは、周りに対し感謝の念が止め処なく溢れていた。上司、先輩、同期に支えられ、互いに高め合う。その風土は、他社に誇れるSPOOLの文化であるのだ。
新卒1年目だから、違う事業会社だから……そんなことは佐久間にとって他愛もない些事である。大事なのは行動し、人と関わってみること。まずは、立ち上がって佐久間に声を掛けてみてほしい。「関わり」はお互いの財産になるのだから。
