先生になるのは、社会を知ってから。自分が成長できる環境を求めた就職活動

▲新卒時代、同期との1枚 / 右端が近田

学生時代は教育学部で学び、教員免許も取得した近田。しかし、彼女が卒業後の進路に選んだのは学校の先生ではなく、一般企業への就職であった。

近田 「一般企業への就職を考えたきっかけは複数ありますが、そのうちの一つは、教育学部という小さなコミュニティの中で過ごすうちに、『このまま順当に先生になって、自分は教鞭を振るうことを楽しむことができるのか』と、疑問に感じたことでした。

また、社会科の教員免許を取得したのですが、自分自身が社会に出ることなく、社会を生徒に教えることにも何か違和感がありました。そんな違和感を持って先生になるくらいなら、まずは社会に出て、世の中を知った上で、教えていきたいと思いました。

加えて、3月31日に学生という立場を卒業し、翌日の4月1日から先生としていきなり教壇の上から指導する立場に変わることも不安でした。自分自身がもっと成長してから先生になりたいと思ったことも、就職を考えたきっかけです」

学生時代、彼女は学外に目を向けることが多く、学生団体の立ち上げなど、周りを巻き込んで何か企画することを数多く行ってきた。そのように、いろんなチャレンジをして、社会の大きさ、自らの小ささを知ったからこそ、彼女は教師になることに疑問を持ち、就職への道を選ぶことになった。

就職活動は、研修がしっかりとしていて、自分が成長できる環境を軸に進めていった。

近田 「就活サイトに登録していたのですが、その中でスカウトメールという企業側からメールをいただける機能があります。私自身は、それに登録した記憶がなかったのですが、ある日エスプールからメールが届きました。怪しいなと思う気持ちが大半でしたがこれも何かの縁なのかな?と思い、興味本位で選考に進みました(笑) 」

選考が進む中、人事部長の米川 幸次からの言葉が印象に残っていると言う。

近田 「米川さんから『世の中を変えるのは政治ではなくてビジネスなんです』との言葉をいただきました。その頃はそうなのかなと軽く考えていましたが、入社して、実際に働けなかった人が働けるようになっている様子を間近で見たため、世の中を変えていると今ではすごく実感しています」

エスプールの研修費用が全国平均の5倍であるという点も、成長できる環境を求めていた彼女にとって大きな決め手になった。

雇用する企業と実際に働く障がいのある方をつなぐ役割

▲エスプールプラス就労支援事業部メンバーとの1枚 / 右端が近田

エスプールプラスは、企業が抱える様々な障がい者雇用の課題を解決しながら、障がいのある方々が仕事を通じて働く喜びを心から体感できるようにという思いから、「わーくはぴねす農園」を手掛けている。

「わーくはぴねす農園」とは、野菜作りを通じて障がいのある方々が自分らしく働くことができる場所だ。

定着率92%と高い水準を維持しているが、理由の一つに障がい者就労支援グループの存在がある。入社した近田が半年後に配属されたのが、そのグループだった。

近田 「私たちは福祉事業所などへ伺い、事業説明などを行っています。そして、農園に興味を持っていただいた方には体験実習をしていただき、その上で就職に繋がるようにサポートをしていきます」

業務のミスマッチを防ぐため、体験実習から就職までの期間も人によって異なる。早い方で2週間。半年後に就職される方もいる。3人1チームとして紹介するため、それぞれの方の個性を見極め、より輝けるチーム編成になるように企業への面接を設定するのも彼女の仕事である。

近田 「企業の方には、どうしてこの方々を紹介するのか、どうしたらその方々が輝くのか、など一人ひとりの個性も伝えています。企業の方は長く勤めて欲しいため、『この人は大丈夫なのか?』という目線で見ることが多いです。一方、障がいのある方は『不安だけれどやってみたい、頑張りたい』という挑戦の気持ちが強いです。

なかなかすんなりOKともいかないことも多いので、私たち就労支援グループのメンバーが間に入り、就職できるよう様々なアプローチをしていきます」

エスプールプラス内には、”ハッピートライアングルを拡大させる”という指針がある。その意味は、誰かだけの幸せではなく、企業・障がいのある方(その関係者)・エスプールスタッフの全員が同じように幸せになる方法を考えること。

雇用する企業と、実際に働く障がいのある方々、今まで支援してきた支援員の方や親御さんの思いが錯綜する中、誰かの気持ちに寄り添い過ぎず、間に入ってそこを取り持つことは、この指針のもとで進めていくことでもある。

報告なしでどこかへ行ってしまう方を、トレーニングの末に大企業へと導く

▲農園で働くスタッフの方々との1枚 / 左端が近田

現在、全国に30のわーくはぴねす農園があり、2200人以上の障がいのある方が農園で働いている。近田自身も4年間で1000人近くの方と接してきた。

近田 「多くの方と出会う中で、『どうしても今すぐに働くことは難しいのかな。上手く続けていけるかな』と不安になる方もいらっしゃいます。ただ、そのように思っていた方が、実際に就職し、農園に行った際に元気に笑顔で挨拶してくれたときは、とても嬉しく、またこの笑顔を増やしたいなとやる気にさせてくれます」

障がいの程度も人によって異なり、中には重複して抱える方もいる。

近田 「配属半年が経った時、聴覚障がいと重度知的障がいの両方を持った方が体験に参加してくれましたが、その方とのコミュニケーションには、とても苦労しました。

最初の体験では何もできず、再度体験に来てくださったときも、報告せずにどこかに走っていってしまい、戻ってきたと思ったらビショビショの状態で。『一体どこで水浴びをして来たのだろう。正直、就職は難しいのかな』と感じました」

しかし、何度も体験に参加するうちに、本人の働きたいという気持ちが高まり、トレーニングをすることになった。

近田 「報告なしにいきなりどこかに行ってしまうため、まずは報告の練習からでした。マンツーマンで指導し、誰が対応してもどこに行くかわかるように行き先のイラストが書いてあるプラカードを首から下げてもらったこともありました。

ご家庭の協力もあり何度も体験を繰り返す中で報告ができるようになり、ついには大手企業への就職も決まりました。その後も少しトラブルはありましたが、現在も元気に働き続けてくれて、今ではその企業、チームで欠かせない中心的な存在になっています」

「あなたのためを思って」。その本心からの想いを伝えることが大切

仕事をする上で、「本人のためを思って言っている」ことが一番に伝わるように、想いを全面に出すようにしていると、近田は言う。

近田 「どうしても人によっては就職に苦戦する方もいらっしゃるため、課題などの厳しいことを伝える場面が多くあります。

印象的だったのは、ある知的障がいの方でした。体験を通して本人の働きたいという意思は高まっていましたが、違うことを考えて作業が止まってしまう、時計を見て動けないことで始業に間に合わないなど、その方には多くの課題がありました」

実際に就職できても、課題が残ったままだと働いてから辛い思いをしてしまう可能性もある。そのため、近田は本人に、少し厳しい言葉を伝えた。

近田 「正直、親御さんからは、伝えられた不安や課題が本人にとって負荷にならないのかとの声もいただきましたが、本人の長く楽しく働きたいという願いを叶えるためにも、”自分が農園で働きたいから頑張らないといけない!”と心から思えることが必要でした。

すると、想いが通じたのか、厳しいことを伝えた後の体験では明らかに今までと違い、何事にも積極的で時間を見て行動するなど、課題に真摯に向き合う姿勢が見られるようになったんです。家でも時間を気にするようになったり、体験に備えて準備をしたりと大きな変化があったそうです」

結果、その方は面接も無事合格して大手企業に就職した。

近田 「障がいのある方の中には、『わーくはぴねす農園で初めて就職への希望が見えた』と、思ってくださる方もいらっしゃるため、私たちから厳しい言葉を掛けられると希望を失ってしまう方もいらっしゃいます。

ですが、そんなときに押し付けではない、本心からの自分のためを思って言ってくれているという想いが伝わると、この方のように本人のやる気が変化するんです。

何度も目を見張る成長に立ち会うことができ、いい意味でものすごく裏切られます。教育という面では、学生時代に学んだことがいきていると感じます」

学生時代から他者を巻き込み物事を進めてきた近田。そんな彼女の言葉だからこそ、多くの方の心に火をつけることができる。

近田 「身近に障がいのある方がいなかったため、最初はどんな感じなんだろうなとは思っていました。ただ、農園に行った際に向こうから挨拶してくれる環境を見て、なんだか楽しい場所だと思いました。

だから、今は障がいに対して、はじめにイメージを持たなくて良いと思っています。障がいがあってもなくても、接し方は何も変わらないです。このことをもっと知ってほしいと思います。

自分たちで壁を作っているだけなので、もっと多くの方が障がいのある方と接するようにしたいです。また、今は農園という形ですが、さらに多くの方がここだったら就職に挑戦したいと思ってもらえるよう、幅を広げてもっと多くのことに挑戦できるように、垣根を低くして地域に根差した取り組みができたらいいなと思っています」

雇用する企業と働く障がい者の双方が幸せになるように。近田は、これからもたくさんの個性と向き合っていく。