業界の「当たり前」を問い直し、一人ひとりに合った医療の提供をめざす
多田さんのキャリアの始まりは、IT業界の営業職でした。もともとスタートアップ企業に関心があったことから、日本法人立ち上げを目前に控えたパソコンメーカーに入社します。
「入社後しばらくして、世界第1号店を立ち上げることが決まり、メンバーとして手を挙げたことで店舗の開発や運営にも携わりました。その後は、大学卒業後わずか3年目で営業部長として約80名の組織を率いる立場に。
社員の多くが自分より年上で、社会人経験も浅い中、挑戦や成功だけでなく、失敗や挫折などさまざまな経験をさせてもらい、私のキャリアの礎になったと感じています」
その後、IT業界での起業を経て、心機一転して医療業界へ転身。その決断の背景には身内の存在があったと振り返ります。
「祖父母、叔父、そして愛犬が同じ年に亡くなり、もし自分にできることがあるなら“命に関わる仕事”に携わろうと決心しました。最初に入社したのは外資系の医療機器メーカーです。医療のバックグラウンドはありませんでしたが、挑戦し続けられる環境を選びました」
成長途上の企業を中心にキャリアを積む中で、多田さんは「業界全体をより良くしたい」という一心で努力を重ねてきました。
「業界で当たり前とされてきたことでも、未来を見据えると変えるべき点は多くあります。なぜ、その仕組みなのか。“なぜ”を繰り返しながら問題提起を続けてきました。
日本にこれから必要な医療は何かを考え、さまざまな政策提言の研究会に参加し、中には自ら立ち上げたものもあります。同業他社を含めた“産産連携”を進め、官僚やアカデミアの皆さまともフラットに議論することを大切にしてきました」
現在もその姿勢は変わらず、積極的に意見交換の場に参加しています。
「たとえば、ドラッグストアと調剤薬局の違いや、“かかりつけ薬剤師”の制度も広くは知られていません。この一般認識と業界の常識とのギャップにこそ改善の余地があり、それが業界を良くしたいという原動力になっています。
そして、私は“評価者は上司ではなく顧客”だと考えています。最終的に判断するのは患者さんやお客さまです。これからは、その場のベストではなく、一人ひとりに合った質の高い医療を効率よく提供するパラダイムシフトが必要です。90年代、IT業界で社会が一気に変わる瞬間を体感したからこそ、そう強く感じています」
大事なのは主体的にキャリアを考えること。次世代のリーダーらが集結した新体制が発足
2025年4月に代表取締役社長に就任した多田さん。大きな決断に至った経緯や思い、そして総合メディカルの魅力についてこう語ります。
「総合メディカルでは、院内のレンタルテレビ、売店、食堂、人材派遣、リネンといった幅広いサービスをはじめ、医師の開業・承継を含むキャリア支援、さらに地域医療を支える調剤薬局運営や在宅医療、医療モールの展開まで多岐にわたる事業を手がけています。グループ全体の社員数は2万人を超える大規模な会社でありながら、一般の方々にはその全容がまだ十分に知られていません。
この“伸びしろ”こそ、大きな可能性だと感じています。私は最初、社外取締役として関わりましたが、前社長から次世代へのバトンを渡すというお話をいただいた際に、『ぜひやらせてください』とお伝えしました。
当社の魅力は、創業者の強い想いを原動力に拡大・成長してきた組織文化と、素直で正直、そして素晴らしい価値観を持った社員が本当に多いことです。一方で、取り巻く環境が急速に変化する中、自ら実践的な先駆者となり、変化と成長を続ける姿勢が今まで以上に重要になっています。とくにキャリアについては、もっと主体的に考えてほしいという思いから、現在は執行役員を含め管理職は公募制に切り替えました。
7月の組織改編に向けては、半年かけて“5年後・10年後のあるべき組織像”を全員で議論してもらい、自ら手を挙げてくれた社員と面談を重ね、次世代リーダーが集結した新体制へと生まれ変わりました」
次に着手したのは、意思決定のスピードを高めることでした。より機動力のある組織をめざし、多田さんは大きな決断を下します。
「すべての経営会議をいったん廃止することにしました。会議の準備には膨大な時間と労力がかかり、一方通行で終わるものも少なくありませんでした。また、経営会議のための“準備の会議”も数多く存在していました。
“報告する組織”から“対話でつくる組織”に変わるためには、一人ひとりが自分ごととして考え、意見を出し合って意思決定していくカルチャーが不可欠です。そのためには心理的安全性を確保する必要があり、まずは階層を減らし、役職で呼ぶこともやめました。役割の違いはあっても、人の優劣はありませんから。
フラットな場では社員の皆さんから驚くほど多くの質問や意見が出てきます。その質問には、事前に用意した言葉ではなく、自分の言葉でその場で考えて答えるようにしています」
組織が変化する中で、多田さんは自ら全国の拠点を回り、現場の声を直接聞く姿勢も大切にしています。
「東京・大阪・福岡などでタウンホールを実施し、各拠点ではラウンドテーブルを開催しています。また、若手社員を中心に約60名と対話の機会を持ちました。顧客訪問の合間にも薬局や拠点に足を運ぶのは、現場の空気を肌で感じたいという思いと、組織のリーダーとして何を考えているのかをきちんと伝えたいからです。
そして、透明性を重視し、業績もすべて共有しています。こうした風通しの良さがスピードと柔軟性を生み、意思決定が早くなることで現場も動きやすくなる。軌道修正はいくらでもできるので、まずは動いてみることを社員の皆さんにも強く推奨しています」
巡り巡って組織の発展につながっていく。社員の挑戦を後押しする背景にある想い
社員との対話の中で、多田さんが最も多く耳にするのは、キャリアに対する不安だと言います。だからこそ、一人ひとりが主体的にキャリアを考えられる環境づくりに力を入れてきました。
「総合メディカルは本当に多岐にわたるサービスを提供していますし、働き方も多様です。これだけの規模があるからこそ、社内異動の可能性はもっと広げられるはずです。そこで、今は“越境体験”の強化に取り組んでいます。
具体的には、部門の垣根を越えてアイデアを出し合うプロジェクトへの参加や、今後は他部門の仕事内容を知ってもらうための社内ジョブ・フェアも開催する予定です。他部門の仕事や求められる知識を理解できれば自ら準備することができますし、視野が広がることで主体的にキャリアを描くきっかけになると思っています」
さらに多田さんは、新しい価値を生み出すためには「多様性の中での共感力」が不可欠だと考え、留学ならぬ“留職”制度の導入も検討中です。他社や異業種で一定期間働くことで、自分の常識が通用しない体験をし、少数派としての立場を理解する。それが、多様性を力に変えていく大きな原動力になると考えているのです。
「当社だけを知る、同じ部門だけで長く働く──それでは可能性を狭めてしまいます。だからこそ越境体験や留職制度を増やし、環境が変わることで気づく“新しい視点”を得てほしいと思っています。主体性を持って仕事の意義を感じられれば、自然とスコープは広がり、視野も人脈も大きく広がっていきます」
こうした取り組みを続けることで、転職や起業に挑戦する社員も現れるかもしれません。しかし、多田さんにはそれすらも“組織の成長につながる”という確信があります。根底に、マサチューセッツ工科大学・ダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功循環モデル」があるからです。
「組織の“関係の質”が高ければ、思考の質が上がり、議論が活発になります。その結果、行動の質も高まり、成果の質も向上する。そして、良い成果は再び関係性を良くし、好循環を生み出します。逆に、関係性が悪い組織では議論は起きず、行動はばらばらになり、成果が出なければ責任追及が始まる──悪循環です。
成長を続けられる組織とは、関係性の質が高い組織だと考えています。そして、変革を続けられる組織というのは、『変わることによる利益と、変わらないことによる損失の総和』が、『変わらないことで得られる利益と、変わることによる損失の総和』を上回る──そのことを組織全体が理解できている状態だと思います」
すべての人が幸せになれる仕組みづくりを。 変革を“実体験として学べる”当社の魅力
止まることなく進化を続け、新たな挑戦に向けて体制を刷新した総合メディカル。その根底には、多田さんが掲げる「医療のあり方そのものを変革する」という大きなビジョンがあります。
「将来、『薬局は薬をもらう場所でした』、『病気になってから病院に行く場所でした』と過去形で語れる日をつくりたい。総合メディカルは、健康を“共に創る場所”でありたいと考えています」
一方、物価や人件費の高騰、医療財政の逼迫など、医療を取り巻く環境は厳しさを増しています。それでも多田さんは、「質を高めながら効率的に、医療に関わるすべての人がより幸せになれる仕組みをつくる」ことをめざしています。
その中心にいるのは常に患者さんです。
「患者さんのニーズは一人ひとり異なります。効率を重視する方もいれば、丁寧なケアを求める方もいる。だからこそ、その方に必要な価値を提供できる“専門性の届け方”を磨くことが重要です。構造的な非効率をなくし、生産性を高めながら、多様なニーズを受け止められる仕組みを整えることで、最終的には“健康に暮らせる街づくり”にも貢献したいと考えています」
そして、その変革の主役は社員だと語ります。
「会社は、社員一人ひとりが“5%”頑張るだけでも大きく変わります。だからこそ、まずは内側から変えていくことが不可欠です」
そのために大切にしているのが、平場で率直に議論し、自分ごととして考える主体性です。
「『自分なら会社をこう良くしたい』と考えられる人が周囲を動かし、組織を変えていく。リーダーシップとは、他者を動かす前に自分自身をリードできる力でもあります」
さらに多田さんは、社員が“変革を実体験として学ぶこと”の重要性を強調します。
「実体験があるかどうかで、言葉の説得力も、困難を乗り越える力もまったく違います。だからこそ、まずは自分たちが“クライアント側の立場”になってみることが大切なんです」
※ 記載内容は2025年10月取材時点のものです
