自分が開発したコンデンサでAIの進化に貢献したい
スイッチング電源やモータ制御、パソコン、車載機器などの電子機器に不可欠な電解コンデンサ。その材料プロセス開発を推進する吉野は2018年の新卒入社以来、誘電体材料の研究に注力し、次世代の電子部品の進化を支えている。
「誘電体とは電気を蓄えるコンデンサの心臓部で、容量・耐圧の性能を左右します。誘電率が高いほど、より多くの電気を蓄えることができ、製品の性能を大きく引き上げられます。目標の誘電率を実現するには、どの程度の材料性能が必要か、製造やマーケティング部門からの多角的な視点も取り込み、見極めていきます。
今、私たちが注力しているのは、急速に需要が拡大するAIサーバー向けのコンデンサです。サーバー性能への要求が高まるほど、それを支えるコンデンサの役割は大きくなります。私の夢は、開発したコンデンサでAIサーバーの進化、生成AIの能力向上に貢献すること。より小型で高性能な製品で、社会に新たな可能性をもたらす──そんな技術貢献をめざしています」
コンデンサは有機と無機の異なる材料が組み合わさる複合デバイス。吉野の専門領域である誘電体は無機材料にあたる。
「材料やプロセスの異分野が交わるこの領域では、個人の専門性だけでなく、社内外の知見を融合する力が非常に重要です。幸いなことに、当社には有機、無機、さらに材料分析測定など各分野のスペシャリストがそろい、知恵を出し合いながら課題に取り組む環境が整っています。実際に、専門外で悩んでいた課題も、周囲のアドバイスで解決できた経験が何度もありました。自身の専門性を軸としながらも、異なる視点を積極的に吸収できることに面白さを感じています」
材料プロセス開発に求められるのは、耐圧、容量、導電率、誘電率といった特性、ポテンシャルを極限まで引き出す技術だ。その実現には、理論に基づいた知見と、実際の製造現場で再現可能なプロセス技術の両輪が不可欠だと吉野は言う。
「材料の特性を最大限に引き出すには、装置の制約や現場の作業環境などを同時に織り込まなければなりません。どれだけ実験で効果のあるデータを確認できても、それは机上の理論。私のミッションは、そのギャップを埋め、実装可能なプロセスの最適解を導き出すことです。求められるのは、装置構造、現場オペレーションまで踏み込んでいく力。それぞれの要素が歯車のように噛み合った瞬間に、本当に機能するプロセスが生まれます。理論と実証をつなぐ、橋渡しの役割に今は大きなやりがいを感じています」
実験室を飛び出して現場に学び、つかんだ栄誉
学生時代はリチウムイオン電池を専攻し、将来は電池材料の開発に携わっていきたいと、関連する企業を探していた。中でも、電池事業の規模が大きく、先進的な取り組みをしていたパナソニックグループは、当初から有力な候補の一つだった。
「入社の決め手は、パナソニック社員との出会いでした。その方は大学の指導教官の後輩で、忙しい合間を縫って熱心に面談してくださいました。技術者としての知見の深さを肌で感じるうちに、『こんな方と一緒に働きたい』と気持ちが固まりました。入社してからは、さまざまな専門性やバックグラウンドを持つ仲間たちと切磋琢磨しながら、技術を高めていく毎日。この道を選んで本当によかったと実感しています」
入社後のキャリアは材料開発の基礎研究から始まった。その2年後、現在の業務である材料開発プロセスに従事。当初は性能面を重視した材料探索を行っていたが、次第に実験室の中だけでは限界を感じるようになった。
「実験で性能が出ると確信した材料が、いざ製造現場では品質が安定せず、かえって製造不良の原因になる。そんな苦い経験もありました。転機となったのは、製造現場へ自ら足を運び、作業者との対話を重ねたこと。製造プロセスの複雑さや、現場での苦労を肌で感じる中で、開発者として足りないものに気づかされました。材料開発はプロセスの最上流。わずかな詰めの甘さで製造現場に大きな負担をかけてしまう。その事実から材料開発の本質を学んだのです」
製造過程や条件を深く理解し、材料開発へのアプローチが変わった。製造現場との連携が実を結び、自身が手掛けたコンデンサで社内表彰の社長賞(最優秀賞)を手にした。
「工場の製造工程を目の当たりにし、『自分も一緒に泥臭くやっていかなければ』という覚悟を決めました。性能だけを追い求めるきれいな開発ではなく、扱いやすさや再現性といった現場視点を持った開発が必要だと、心に刻んだのです。社長賞はそうした探究心が認められた結果で、今の自分があるのは現場から学んだからだと感じています」
壁を超えて交じり合い、価値を共創したスマートラボ開発プロジェクト
大阪府・門真拠点に新設された、自動実験が可能なスマートラボ自動実験室(以下、スマートラボと呼称)。24時間365日、自動実験が可能となり、これまで人の手で繰り返していた作業を大幅に削減。技術者はより高度な開発業務に注力できるようになり、新しい働き方の実現にもつながると期待されている装置だ。
「私はプロジェクトの一員に加わり、実験を行うユーザーの立場から、操作のしやすさや運用時の細かな仕様などを設計者にフィードバックしました。今回のプロジェクトは、自動化に特化した装置をゼロからオリジナルで設計する新たな挑戦。試作機の設計段階から、基本性能を徹底的に検証しました」
このプロジェクトには、設計、シミュレーション、メカニクスなど各専門分野のメンバーが集結。各分野で培われたこれまでの慣習や業務の進め方が異なり、戸惑うことも多かったという。それでも吉野は全員と真摯に向き合い、粘り強く議論を重ねて一致点を探るために奔走した。
「最近はTeamsなどオンライン会議や連絡が当たり前になりましたが、意見の相違が生じた局面には、対面の議論が重要だと考えています。難しい場面でも、腹を割って話せば真意が伝わり、理解を得られることもある。効率だけを見れば遠回りに見えるかもしれませんが、私はこうした直接対話による関係構築こそが、自分の強みだと思っています。
入社当初、高い専門性と経験を持つ先輩技術者と自らを比較し、自分の価値とは何なのかと思い悩む日々がありました。各専門分野に自分の上位互換のような方がいるようなイメージです(笑)。そんな時に気づいたのは、私はコミュニケーションを通じた人脈づくりが好きだということ。相手の考えを丁寧に聞き、自分の想いを伝えながら合意点を見いだしていく──それが自分らしい技術者像だと思えるようになりました。スマートラボ開発プロジェクトにおいても、そうした姿勢を生かしながらチームの力をつなぐ役割を果たせたと感じています」
見えないところから、見違える世界に変えていく
スマートラボ開発プロジェクトは、2025年度 社長賞(PID Award)企業価値向上表彰 金賞に輝いた。「このプロジェクトは、未知の領域に果敢に挑む当社の象徴」と吉野は胸を張る。常識にとらわれず、新たな価値を創り出そうとする技術者の想い。それを支える挑戦的な風土が革新的な技術を生み出す原動力となっている。スマートラボとは、いわば技術者自身がさらに高みをめざすための場でもある。吉野の次なる目標は、自らが開発に携わった実験環境を活用して、新たな材料プロセスを生み出していくことだ。
「私は実験そのものが好きで、自発的な試行錯誤を通じて得られる気づきを大切にしています。はたから見て『それは必要なのか』と思われても、小さな試みから思わぬ知見や技術的なブレークスルーが生まれるものです。実際、過去にもそうした好奇心に基づいたアプローチが成果につながった経験があり、スキルの深化や新たな可能性の発見に寄与してきました。
ラボの整備により、こうした自由な実験の幅をさらに広げると期待を寄せています。“見えないところから、見違える世界に変えていく” ために、今後はこの実験環境を最大限に生かして、自分なりの独自プロセスを確立し、量産技術として工場へと実装する──その一連の流れを自らの手で形にしていきたい。私が携わった技術でデバイスの信頼性や耐久性が向上し、その成果が製品となって世の中に送り出される。めざすのは、たとえ目に見えない部分であっても、製品の使い心地や安心感に直結する価値を生み出すことです。最終的には、『パナソニックの製品は安心して長く使える』とお客様に実感していただけるような、高寿命・高信頼性の価値提供を実現したいです」
誰もたどり着いていない材料開発の実現に向けて、吉野はこれからも一歩ずつ挑戦を重ねていく。
※ 記載内容は2025年8月時点のものです
