組織の壁を越え、知見を循環させる。プロが集うITSMコミュニティの使命
システムを安定稼働させるだけでなく、顧客に提供するサービスの価値を最大化し、改善し続ける管理手法「ITSM(ITサービスマネジメント)」。各事業部が持つ高度な専門性を融合させ、全社的なシナジーを生むために設立された「技術コミュニティ」の中の一つである「ITSMコミュニティ」では、現場の第一線で活躍するエンジニアたちが、プロジェクトの枠を超えて集まっています。
日下:現在、個人・法人向けインターネットバンキングサービスの維持保守、およびそれを支える監視サービスや自動化の仕組み作りなど、運用システム全体を統括しています。コミュニティのリーダーとしては、全社員のベースとなる「ITSM人材の育成」と、テクノロジーを駆使した「運用の高度化」という2つの軸を推進しています。
当社が強みを持つ領域をさらに尖らせ、グループ内でも「ITSMといえばフィナンシャルテクノロジーだ」と言われる存在になることが目標です。
菅野:保険システム事業部で、紙帳票をデータ化するBPO業務の運用管理を担っています。コミュニティでは、ITSM普及のための成果物を全社に広めるための情報発信チームのリーダーを務めています。具体的な活動としては、ポータルサイトの運営などを通じ、社内に散らばっているITSMの知見を誰もが活用できる形に整え、普及させる役割を担っています。
野本:私はテクノロジー&ソリューション事業部で、保険会社様のデータ分析基盤の開発保守に従事しています。コミュニティでは情報発信チームの一員として、主に次世代層への啓発を担当しています。維持運用の仕事は、実は非常にクリエイティブでかっこいい。そのおもしろさを、実体験を通して若手に届けるための活動を企画しています。
コミュニティ内には情報発信チームのほか、人材育成チーム、ノウハウ共有チーム、生成AIコミュニティとも連携している生成AIチーム、ServiceNow(運用管理プラットフォーム)を活用した開発チームなど、目的に応じた5つのチームが存在します。
日下:メンバーは年度の初めに、自分の興味があるチームを自主的に選んで参加しています。単なる勉強会にとどまらず、事業部を跨いだメンバーが現場の苦労や成功事例をリアルタイムで共有する。横のつながりを作るこの仕組みが、組織全体のレベルを上げる機動力になっています。
スペシャリストの知見を全社へ。情報の「鎖」を解き放つ
コミュニティを牽引する日下は、2022年にNTTデータグループの認定資格「エグゼクティブITSM認定(CDP)」を取得しています。数万人規模のグループ内でも認定者が極めて少ないこの資格を持つ日下は、その高い専門性を全社へ還元すべく、期待を受けてコミュニティの旗振り役を引き受けたと語ります。
日下:これまでの運用は、人が調査・対応する「労働集約型」の側面が強くありました。しかし、これからは仕組みで解決する「知的集約型」の組織へ変わる必要があります。
当初、事業部ごとに運用のレベル感や手法にバラつきがあり、ある部署での改善が他部署に体系化されて届かないという課題がありました。まずはこのコミュニティを通じて標準的な運用の姿を可視化することからスタートしたのです。
日下が主導した情報の集約は、現場で悩むエンジニアに大きな変化をもたらしました。
菅野:私は今年からコミュニティに参加しましたが、蓄積されていた情報の質と量には圧倒されました。それまで事業部ごとに閉じていた高度な知見が、ポータルサイトなどを通じて誰でもアクセスできる形で共有されている。この3年間で、組織の土台が劇的に、かつ強固に再構築されたのだと実感しました。
今年参加した菅野が驚いたその「情報の土台」が築かれる過程を、発足2年目から参加している野本は肌で感じてきました。
野本:私はコミュニティができて2年目の年に入りました。1年目は実務的な情報を集約していたフェーズでしたが、2年目はそこから進んで若手から上位層まで幅を広げた知識の集約が進みました。そして3年目の今は、菅野さんが加わって情報を発信する力がさらに大きくなりました。
コミュニティ立ち上げ当初は専門的な資料が多かったですが、私が参加してから初心者向けの資料も作るようにと働きかけ、専門的な資料も作りながら易しい資料も作るようになりました。ベテランの深い知識を誰もが活用できる実践的な言葉として整理されているんです。そのオープンな空気感こそが、今の活発な議論の土台になっています。
ITILという共通言語で孤独を解消する。遊び心が育むコミュニティの力
コミュニティ活動、およびメンバーが向き合う日々のサービス運用の根底にあるのは、システムを安定稼働させるための教科書「ITIL(アイティル)」の考え方です。菅野にとって、この共通言語を持つコミュニティは、現場での孤独を解消する決定的な場となりました。
菅野:現在の現場に携わる中でITSMの重要性を痛感していましたが、社内の担当部署には運用管理の経験を持つメンバーがいませんでした。相談できる相手が見つからず、1人で課題を抱えていました。
しかし、コミュニティに所属したことで、自分の悩みを壁打ちできる相手ができ、他部署の改善事例やツールの情報といった多くの専門知識も得られるようになり、現場改善の視野が劇的に広がりました。ここで得た知見を現場に持ち帰り、情報の点在を解決するためのポータルサイトを構築するなど、相互扶助のサイクルが今の私の原動力になっています。
野本もまた、ITILを学ぶことで維持運用業務の本質を再定義した1人です。
野本:維持運用は、お客さまのビジネスに寄り添い、問題が発生した場合は問題を解決してお客さまに安心を届けるヒーローのような仕事です。それを伝えるため、2024年には「新規参画者向けITIL入門資料」を作成し、2025年にはそれをベースにした社内勉強会を開催しました。自分たちの仕事の価値を再認識できたという反響は、大きな自信になりました。
真剣な議論のかたわらで活動を彩るのは、遊び心から生まれる学びです。その象徴的なイベントが、野本の企画によって実現した北海道のデータセンター視察でした。
野本:北海道のデータセンターでは、寒冷地特有の涼しい外気を利用した冷却設備や最先端のファシリティを直接体験しました。都内では得られない知見を得られただけでなく、そこで生まれた新たな社外・社内ネットワークも大きな収穫でした。
こうした活動の成果はポータルサイトを通じて全社へ展開されるだけでなく、日常の何気ない場もITSMの思考を鍛えるトレーニング場へと変えています。
菅野:飲み会も、課題解決のトレーニング場と考えています。たとえば、日下さんから発せられた「居酒屋の梅干しサワーの梅が小さくて潰しにくい」という何気ない気づきに対しても、私たちはそれを改善の余地があるテーマ、つまり「解決すべき課題」として捉えます。
野本:その場で店員に梅を増やしてもらうのは、目の前の問題を消す「暫定対応」。次から店選びの基準を変えるのは、根本原因を断つ「恒久対応」。ITILの思考プロセスは、業務外の場にも通用するんです。
日下:どんな些細なことでも課題と捉え、論理的に解決策を導き出す。その楽しさがあり、かつすべての活動が本業の品質向上に直結しているからこそ、誰もが自発的に参加したいと思えるコミュニティになっているのだと思います。
システムを作るだけで終わらない。コーポレートビジョン「つくる♾️」が描く未来
コミュニティは3年目を迎え、次なるフェーズを見据えています。日下は、当社のコーポレートビジョンである「つくる∞(むげん)」を引き合いに、コミュニティの未来を語ります。
日下:当社には「つくる∞」というビジョンがあります。システムを作るのはもちろんですが、私は「サービスを創る」視点が不可欠だと考えています。システムは提供するプロセスがあって初めて価値になります。
今後はAIをエージェントとして活用し、少人数でもこれまで以上の価値を還元できる仕組みを創ります。こうした「つくる」ことへのコミットこそが、コミュニティが描く未来像です。
日下が掲げる未来像は、単なる技術活用に留まりません。その視線は、次世代を担う技術者の育成にも向けられています。
日下:私は若手こそ運用の泥臭さを知り、安定稼働の難しさを理解した上で開発へと羽ばたいてほしいと願っています。維持運用の知見を持って設計されたシステムは、アウトプットのレベルが格段に違うからです。単に物を作るだけでなく、サービスを提供するためのプロセスそのものを設計できるサービスを創る人材を育てていきたいですね。
その未来像に向け、菅野と野本も確かな決意を抱いています。
菅野:今行っている作業が何を意味しているのか、仕組みを深く理解し言語化できる人を増やしたいです。それができればAIへの的確なプロンプトの確立にもつながります。こうした経験を積んだ人がローテーションで増えていけば、会社全体で高度運用化の提案を含めたお客さまのビジネス改善まで目が向くようになる。すべての活動が本業に直結すると確信し、そんな未来をこの場から作っていきたいです。
野本:私は、運用の入り口をどんどん広げていきたいです。運用ってかっこいい、やりがいがあると感じる仲間を増やしたい。維持運用を魅力的な選択肢として「やってみたい」と手を挙げてくれるような、そんなワクワクする環境を作っていきたいですね。
働きやすさの先にある、エンジニアとしての確かな誇りを醸成すること。知的集約組織への転換を掲げ、現場の痛みを知る仲間たちが集うこのコミュニティは、今日も技術を磨き、知恵を出し合うことで、新しい価値を創出し続けています。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです

