製粉事業を止めない司令塔──全国の需給と物流を束ねる業務本部
現在、私は業務本部に所属しています。当社には、営業や生産、技術開発など、役割がイメージしやすい本部が数多くあります。一方で、業務本部は「何をしている部署なのか分かりづらい」と言われがちです。
あえて一言で表現するならば、私たちは当社グループの製粉事業全体を俯瞰し、総合調整を担う「司令塔」です。各本部が力を発揮できるよう、全体最適の視点で調整を行っています。
具体的には、原料である小麦の買い入れ、製品の需給管理や利益計画の策定、そして製粉工程で発生する「ふすま(ブラン)」や「末粉(すえこ)(飼料用・工業用小麦粉)」といった副産物の管理・販売など、その役割は多岐にわたります。私が現在所属している計画グループでは、全社的な利益計画の策定や、全国規模での製品の需給管理をメインミッションとしています。
当グループの中で、私は主査として全国の製品需給管理と原料小麦の購買、物流管理、そして事業のDX化の4つのプロジェクトに関わっています。メンバーと綿密に連携しながら業務を進め、私自身もプレイヤーとして全国各地を回ってそれらを束ねる役割を担っています。
製粉ビジネスは非常に特殊です。小麦粉は連産品と呼ばれ、たとえばお客さまが特定の等級粉だけを必要としていても、小麦を挽けば必ず1〜3等粉、末粉、ふすまが同時に発生します。これらすべての製品の需給バランスを見極め、不要な在庫を抑制しながら、パン・麺・菓子メーカーのお客さまや流通事業のお客さまのニーズに応え続けなければなりません。
国内で流通する小麦粉の約40%(※)を扱う私たちが一歩判断を誤れば、日本全国の食卓からパンや麺が消えてしまうかもしれない。そう考えると、自分たちが担っている役割の重さを強く意識せずにはいられません。だからこそ、私が仕事をする上で最も大切にしているのは、全体最適という視点です。自分の部門だけが良ければいいのではなく、営業が直面している顧客課題や生産現場の制約、物流の限界といったさまざまな側面を把握した上で当社にとって、ひいては社会にとって最善の道筋を導き出す。それが、業務本部に課された命題です。
この仕事に欠かせないスキルは、複雑な情報を整理し、定量的なデータに基づいて相手に伝える数値化及び言語化能力。そして、グローバルな規模で多岐にわたるステークホルダーと信頼を築いていく総合調整力だと思っています。一人では何も作れないし、売ることもできません。しかし、人や物、金、情報の全体の流れをしっかり掴み、緻密に調整することで、日本全国の食を支えるという巨大なインパクトを生み出すことができる。お客さまに新しい製品を供給する体制を作っていくことができる。この手応えこそが、今の私の原動力になっています。
※ 国内小麦粉販売シェア(重量ベース)40.3%、日刊経済通信社調べ(2024年度、推定値)
営業から労働組合、そして現場管理へ──「点と点」がつながるキャリアの変遷
大学の農学部で食と農の経済学を学んだ後、直接物の供給に関わりたい想いとラーメンやパンなどさまざまなものに使われる小麦粉を扱ってみたいという気持ちで2011年に日清製粉に入社しました。最初に配属されたのは現在も所属する計画グループで、その後はふすま・末粉グループに移り、副産物の需給・物流管理だけでなく、実際に営業職としてお客さまの元へ足を運ぶ日々を5年間経験しました。
業務本部の社員が営業を経験するのは、当社では比較的珍しいケースかもしれません。しかし、この時に「お客さまが何を求めているのか」「現場で何が起きているのか」を肌で知れたことは、後に大きな財産となりました。
その後、2018年からは日清製粉労働組合の専従書記局として約4年間、組合実務に従事するという異色のステップを歩むことに。当時は「なぜ今、自分が?」と戸惑う気持ちもありましたが、この経験が私の価値観を根本から変えてくれました。
春闘での交渉、多様な働き方の推進……。組合員の声を吸い上げ、経営陣と向き合う中で痛感したのは、「理屈だけでは人は動かない」という現実でした。制度としては正しくても、工場と本社それぞれで働く人の立場によって正解は異なります。対立する意見をどう整理し、一人でも多くの人が納得できる着地点を見出すか。感情に寄り添いながら組織の未来を描く、泥臭くも誰かがやらなければならない必要不可欠な調整の経験が、今の私の全体最適という視点の根幹を成しています。
2022年に職場復帰した際、私は東部管理部の主査として、関東・甲信越・東北エリアをカバーする大規模工場の製造計画を担当することになりました。ここで、最大の壁にぶつかります。復帰後のポジションは管理職でありながら、実務としてはまったくの未経験。製造計画の組み方すら分からない状態でした。
「知ったかぶりをすることが、一番の不誠実だ」。そう自分に言い聞かせ、私は当時入社3年目の後輩に一から教えを請いました。年次のギャップや立場の違いに葛藤しつつも分からないことを素直に言い、徹底的にキャッチアップすることに努めました。後輩たちも真摯に応えてくれ、半年後には自分なりの判断軸を持って業務を回せるようになりました。
故スティーブ・ジョブズ氏が2005年の米国スタンフォード大学卒業式で卒業生に向けて語った「Connecting the dots(点と点を線でつなぐ)」という言葉が好きです。振り返ってみると、入社から現在まで計画的にキャリアを積んできたわけではありません。しかし、その時々で与えられた役割に真摯に向き合い、苦手なことから逃げずに取り組んできたことが、今の司令塔としての判断に深みと厚みを与えてくれている。どんな経験も無駄にはならないと、今の私は確信を持ってそう言えます。
物流DXで現場を変える──荷待ち時間の削減で、社会課題に挑む
現在、私がとくに注力しているプロジェクトの一つが、物流領域におけるDXの推進です。いわゆる「物流2024年問題」が社会的な課題となる中で、私たちは荷主としてお客様だけでなく物流会社にも選ばれる会社にならなければ安定供給を維持できないという危機感を持っていました。
そこで、最初に取り組んだのが工場の荷待ち時間の実態把握です。最初はアナログな計測から始めましたが、可視化されたデータは想像以上に深刻でトラックドライバーの方々を工場で何時間も待たせてしまうことがある現状。原因は、工場の出荷体制・能力の問題だけでなく、お客様の発注タイミングや発注単位、需給計画の精度不足による欠品対応など多岐にわたるもので、各部門がそれぞれ個別最適を行ってきた結果でした。
これは荷主である私たちの責任だと覚悟を決め、物流効率化プロジェクトを立ち上げました。トラック予約受付システムを導入し、ドライバー自らがスマホで予約を入れられる仕組みを構築。同時に、社内の各部署を巻き込み、在庫管理や検査プロセスの見直しを徹底した結果、直近2年間で荷待ち時間を3分の2以下に削減できた工場も現れました。データを見える化し、利害関係を調整しながら、全国に仕組みの導入を進めています。
また、需給管理においてもDXを加速させ、データに基づく製造計画の自動作成を推進。かつてベテランの経験に頼っていた領域を、誰もが迅速かつ高度に判断できる仕組みへと作り変えていきます。これらのDXの推進は、単なる効率化を超え、物流会社ともパートナーとしての関係性を再構築する挑戦でもあります。
私が仕事に携わってきた中で日清製粉の魅力を実感した出来事があります。それは、ある大規模工場のトラブルで出荷を急遽停止しなければならなくなった時のことです。停止の影響は10t トラック100台分を超える物量におよび、非常事態でした。
しかし、その時に私たちが決めたことは「絶対に供給を切らさない」。この一点において、部署の垣根を超えて全社員が一丸となって、さまざまな手を打ちました。生産部門は近隣工場も含めたリカバリー製造と増産体制の構築をし、営業部門はお客様への状況説明と他工場品を提案し、業務・物流部門は全国在庫を物流会社にも協力いただきながら前例のないリードタイムで輸送し、お客様へ代替品を供給する。絶望的な状況でしたが、各部門の責任者・担当者が自分事として取り組んだ結果、当社の供給責任問題に発展するような大事には至らず、なんとか乗り越えることができました。
私はその調整の中心に立ち、情報を取りまとめながら当社の持つ誠実な熱量を肌で感じました。製品の質の妥協はせず、安定供給のためにできる限りの手を尽くすという熱量と執念。これが日清製粉の魅力なのだとあらためて実感しています。
未来へつなぐ足跡を残して──ナレッジを共有し、次代の成長を支える
これまでの経験を振り返ると、私の強みはコミュニケーション能力にあると考えています。正直に言うと、私はコミュニケーションを取るのが苦手でした。しかし、とくに労働組合専従の時に培ったコミュニケーションスキルや謙虚な姿勢、そして言語化能力で、相手に分かりやすく伝えることを意識できるようになりました。
追い込まれることも多々ありましたが、昔に比べて成長を実感できることが多く、成長し続けられる自分のことを好きでいられるのは、これまで根気強く取り組んできた結果だと思います。
入社から10年以上が経ち、中堅の立場として意識していることがあります。それは、自分が培ってきた調整の技術やDXの知見を個人の持ち物にするのではなく、組織の資産として残していくことです。
日々の業務は忙しく、ともすれば各種情報や判断経緯は埋もれてしまい、「暗黙知」になりがちです。しかし、後の人が同じ迷いを抱かないよう、判断の理由を言語化して「形式知」に落とし込む。未来の人が、より高い生産性で仕事ができる土壌を作ることこそが、これから先の私の責任だと思っています。
私のロールモデルは、かつてのボスです。彼は私と同じく業務本部の各部署を渡り歩き、快活なコミュニケーションと鋭い判断力で組織を牽引してきました。その背中を追いながら、私もまた、後輩たちに「背中を見てついてこい」と言えるだけの説得力を持ったプロフェッショナルでありたい。
最後に、これから日清製粉、そして業務本部をめざす皆さんに伝えたいことがあります。常に待ったなしの連続であるこの仕事は「逃げないこと」が何より重要だということです。数字に向き合い、人の話を聞き、逃げずに取り組み続けることで、社会を支える実感を得られる仕事です。規模の大きな仕事に挑みたい方、全体を見て物事を動かしたい方にとって、これ以上ないフィールドが日清製粉にはあります。
自分を変え、成長させてくれたこの場所で、皆さんと一緒に新しい風を吹かせたいです。そして、後輩たちには私たちの真似をするのではなく、私たちが残してきたものを発展させていってほしいと思っています。
※ 記載内容は2026年2月時点のものです

