ドイツで実感した、地域密着クラブチームの在り方を日本へ
水戸ホーリーホックで事業戦略担当執行役員として働く瀬田は関東リーグ・JFLで2年間プレーした後、2005年に単身ドイツへ渡り、デュッセルドルフのサテライトチームや5部リーグなどでも数年間サッカー選手として活動した経験を持ちます。
「その時にドイツのサッカーはなぜこんなに盛り上がっているのかと興味を持ちました。大学では体育スポーツ経営学を学んでいたこともあり、2008年に当時は3部リーグ所属のデュッセルドルフのフロントスタッフになり、ここでボトムアップから経験して日本に持ち帰ることが自分の使命だと考えました」
そこで12年間を過ごし、言葉通り1部昇格までを経験し、帰国。2022年に水戸ホーリーホックに入り、地域に密着した小さなクラブに自分の経験を還元して一緒に成長することを目標に掲げたと言います。
自分たちが選び、選ばれたからこそ、自発的に取り組む仕組み
「たいへん有難いことに、昨年は気候変動に関する取り組みで『明治安田 地元の元気賞』をいただき、今年は『おらが街PRリーグ』で『メディア賞』をいただけることになり、クラブとしては2年連続の受賞となりました。この取り組みを開始したのは一昨年のことで、活動内容はホームタウン15市町村それぞれがPR大使を依頼したい選手をドラフトで獲得し、1シーズンをかけてさまざまなPR合戦を行うというものです」
この取り組みを始めた理由として、瀬田はヨーロッパと日本の違いを挙げます。
「ヨーロッパの選手は育成年代から地域の向き合い方やスポンサーなどの教育をしっかり受けていますが、日本はまだそうなっていません。地域と選手が本質的に関わる取り組みが必要だと感じました」
また、水戸ホーリーホックは育成に定評があり、在籍期間が短く移籍のサイクルが早いことから地域との深い関わりが生まれにくく、選手も地域住民も愛着がわきづらいという課題を実感していたと語る瀬田。
「同様のアンバサダー制度はいろいろなクラブチームが取り組んでいますが、大半は運営側などが担当を決めています。でも、それでは選手も自治体も親近感がわきづらい部分があります。そこで市町村が選手を指名するドラフトにすることで、自治体は『自分たちが選んだから』、選手は『自分が選ばれたから』とより前向きに取り組む流れをつくりました」
県内での移動を活性化し、「小さな経済」を生み出す
「おらが街PRリーグ」が盛り上がるために瀬田は数々の“仕掛け”をしています。その1つはポイント制の導入で、地元のイベントへの参加やSNSへの発信などさまざまなポイント獲得の方法があります。
「同時に選手からもやりたいことを出してもらい、やらされ感がなく楽しめるような設計にしています。芋ほりがやりたいという案が出て、地元の小中学生を交えて実施したりして、自発的に盛り上がる流れが生まれたと思います」
また、各地でのPR大使のサイン会やイベントを行うことで、地域内での回遊が生まれ、経済効果も生まれるなど副次的な効果も出てきています。
「県民が行ったことのない市町村へ行く機会になっています。道の駅に行ってお土産を買ったなどの声があり、“小さな経済”が回るようになりました」
クラブチームと担当地域だけでなく、お店や観光施設までも巻き込んだ、「シャレン!」らしい取り組みと言えるでしょう。
選手が移籍しても「水戸のホームタウンはよかった」と思われるように
この取り組みを実施したことで、選手と自治体には深い結びつきが生まれたと言います。ある自治体はSNSの内容がほぼ水戸ホーリーホック関連になり、スポーツに特化したアカウントをつくったところもあるほどです。瀬田はこう振り返ります。
「自治体のSNSどうしのつながりも生まれ、地域をつなぐプラットフォームにもなっています。新たなイノベーションを起こすことができたと思います」
今後については「選手の新陳代謝が早いクラブチームだからこそ、どのクラブチームへ行っても『水戸のホームタウンは本当によかった』と思ってもらいたい」と話す瀬田。近年は海外で活躍する選手も出てきた中で、キャリアの後半に水戸に戻ってプレーをしてくれる選手が出てくることも夢見ています。
「地域の方には移籍した選手のことも応援してもらいたいですね。実際に、他のクラブチームに移籍した選手にも愛着をもったままで応援してくれる雰囲気になっています」
水戸ホーリーホックの取り組みは、選手にとって心はいつまでもつながっている“故郷”のような存在をつくることなのかもしれません。
(文章:廣田 喜昭)
※ 記載内容は2024年5月時点のものです
