「問い」から物事の本質を追求。多様な個性が混ざり合う「Scramble Society」
──SHIBUYA QWSの概要を教えてください。
SHIBUYA QWSは、渋谷駅に直結した渋谷スクランブルスクエア15階に位置する、約2,600平米の会員制共創施設です。「Scramble Society(スクランブルソサエティ)」というコミュニティコンセプトのもと、多彩な人が集まり、さまざまな活動の中で化学変化が起こることで、新しい事業やまだない価値が生み出されることをめざしています。スタートアップはもちろん、大企業の新規事業担当、大学教授、起業をめざす学生など、いろんな立場の方に利用していただいています。
また、QWSとは「Question with sensibility(問いの感性)」の頭文字で、私たちは「問い」は物事の本質を追求する上で重要な「まなざし」だと考えています。「問い」を持つことで課題に対して別の視点が生まれ、さまざまな気づきや新たな価値の創出につながります。実際にQWSでは、会員の「問い」から多くのプロジェクトが始動し、事業化や社会実装が生まれています。
──サポート面での特徴や、具体的な支援プログラムについて教えてください。
特徴的なものとして、3カ月ごとに実施している「QWSチャレンジ」という公募制プログラムがあります。これは「未知の価値に挑戦するプロジェクト」を広く公募するのですが、採択されると3カ月間QWSを無料で利用できます。QWSのメンター会員である「コモンズ」をはじめとした審査員が1人でも「おもしろい」と思えば採択されるというユニークな仕組みで、学生が考えたアイデアやまだ収益化していないものも含め、年間40〜50のプロジェクトが採択されています。
また、月に1度の「スクランブルミーティング」というメンタリングイベントでは、投資家や元大企業社長、アスリート、アーティストなど各分野の第一人者であるメンターに1on1で相談ができます。1人のメンターと長く話すのではなく、15分間のセッションを5回繰り返すので、多様な視点からの意見や気づきを得ることができます。
──岩田さんの役割について教えてください。
私はコミュニティマネージャーとして、コミュニケーターと呼ばれるスタッフと共にプログラムやイベントの企画・運営、施設全体のマネジメントを担当しています。会員同士やメンターとのマッチングを支援したり、定期面談で壁打ち相手になりながらプログラムを提案したりと、コミュニティ内でのつながりやきっかけをつくる役割を担っています。
教育や組織論への興味から施設運営の道へ。社会に必要な活動を支援する場をつくりたい
──これまでのキャリアについて教えてください。
私の両親は現在小学校の校長と学校司書、兄は中高の教師で、私自身も教員免許を持つという教員家系です。また、大学卒業までずっとラグビーをしていた経験から「どうすれば強いチームをつくれるか」という組織論を意識することが多くありました。教育というバックグラウンドと、ラグビーを通じて培った強い組織づくりへの関心が、キャリアの原点にあります。
新卒で東京急行電鉄株式会社(現・東急株式会社)に入社し、最初は人事部門で組織開発やキャリア開発を担当。その後、官民連携のインフラ開発プロジェクトや社内起業制度を利用した新規事業推進を経て、2022年よりSHIBUYA QWSの施設運営者になりました。人事時代から新しいものが生まれる場所やコミュニティ運営には興味があり、異動希望を出していたので、それが叶った形で着任しました。
──複業として、住みながら街と関わるシェアハウス「まちのば」を運営しているそうですね。
東急の一員として大規模なエリア開発やまちづくりに携わる一方で、「人がまちに根づき、暮らしの中で地域と関わっていける空間をつくりたい」という想いがあり、シェアハウスを仲間と立ち上げました。「まちのば」では、住民同士が交流するだけでなく、地域の方たちと一緒にイベントを企画・開催することもできます。「まちに関わりたい」「何かに挑戦したい」というさまざまな人たちが集まり、さまざまなイベントやつながりが生まれています。
──SHIBUYA QWSのコミュニティマネージャーを務めるにあたって、どのような想いがありましたか?
着任当時SHIBUYA QWSは、まだその価値が知られていないことも多くありました。しかし私は「本当に価値のある場所」だと確信していたので、その価値をより多くの人に知ってもらい、持続的に活用してもらえる施設にしたいと思っていました。
QWSには、創業前で事業アイデアを練っているフェーズの方、必ずしも起業にはつながらないけれど自分の活動を探求したい方、利益を生みづらい社会起業と呼ばれる事業をしている方などもたくさんいます。資本主義的な観点だけでなく、社会に必要なサービスや課題の本質を追及しながら活動できる場所をつくり、その場所を必要とする人を応援し続けたい──そんな想いで運営に携わっています。
日頃のコミュニケーションや信頼関係から生まれた、意外な異業種マッチング
──これまでの支援で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
ある時、子会社にマットレスメーカーを持つ企業の方から、マットレスの端材の活用に悩んでいるという話を聞きました。その数日後、動物園や水族館のアニマルウェルフェアや従業員のサポート課題からプロジェクトを興し、今ではPRやクリエイティブ制作も一手に担うようになった方と雑談をしている時、何気なく「マットレスの端材って動物園で何かに使えませんか?」と相談。
すると、動物園ではさまざまなものを職員がDIYでつくっていると教えてくれました。そこで両者をつなげたところ話がトントン拍子で進み、福岡県大牟田市の動物園で断熱性の高いマットレス端材を使った飼育小屋の実証実験が行われることになったのです。
(参考記事:https://wizoo.jp/posts/article79)
日頃から会員さんの事業内容などを把握し、気軽に相談したりされたりできる関係性を築いてきたからこそ生まれたマッチングだと思うので、自分の存在価値を発揮できてうれしかったですね。
──支援する上で心がけていることはありますか?
まずは、会員さんから気軽に相談してもらえる存在でありたいと思っています。そのためにも、あいさつなど基本的なコミュニケーションを大事にしようと意識していますし、コミュニケーターにも伝えています。そして、もし相談を受けた場合は、自分たちの知識で判断するのではなく、適切なプロフェッショナルやマッチしそうな人につなげることを大切にしています。
ダイレクトに課題を解決するというよりは、会員さんが求める情報やサポートしてくれる人との出会いを増やすことが私たちの役目です。「Scramble Society」というコンセプト通り、いろんな人たちがいろんな形で組み合わさることで新しい価値が生まれるはずです。
──施設運営のやりがいや魅力について教えてください。
会員の方たちが、新しい価値を生み出そうと日々努力している姿から、常に刺激をもらっています。「いつか社会を変えてくれるかもしれない」「より良い未来をつくってくれるかもしれない」という方たちを応援できることに、大きなやりがいを感じます。
まだ形になっていない事業も多いですが、「将来のムーブメントの一歩目に携わっている」と考えるとワクワクします。
「好奇心があふれる世界」をめざして。社会を変えるアイデアの種を形に
──今後どのような方に施設を利用してほしいと考えていますか?
事業フェーズに関わらず、いろんな立場の方に利用してほしいです。創業前の方、一度立ち止まって事業を見直したいタイミングの方はもちろん、大企業の中で組織を変えていきたい方、新しい事業を立ち上げたい方にとっても、SHIBUYA QWSのような場所は有効です。
すぐにアイデアが見つかるというよりは、「自分は本当は何がしたいのか」「会社や社会には今何が必要なのか」という「問い」に向き合い、新しい道が見つかる場所だと思います。
──今後は施設としてどのようなことに取り組んでいきますか?
SHIBUYA QWSは開業以来多くの方にご利用いただき、コロナ禍が明けてからはさらに会員数が増えました。次なるステージでは、「QWSならではの価値をどう提供していくか」が重要だと考えています。現在「問い」を起点にしたQWS独自のプログラム「QWS CULTIVATION PROGRAM」をアップデートしており、併せて新しい概念を提唱していく予定です。SHIBUYA QWSならではの支援や価値を提供し、社会を変えていくような起業家や事業の種を生み出す一端にQWSが寄与できればと思います。
──創業支援を通じて実現したい社会や未来について教えてください。
QWSの館長・野村(エグゼクティブディレクターの野村 幸雄氏)もよく言っているのですが、好奇心があふれる世界にしたいと思っています。何かに挑戦する人が、「どうせ無理だよ」と諦めずしっかりと向き合い、形にできる環境があれば、好奇心を持っていろんなことに取り組む人が増えるはず。
そして、個人の想いや考えを実現しやすい世の中になれば、結果として社会も良くなるはず。SHIBUYA QWSが好奇心を生み出し、形にできる場となり、より良い社会にできたらいいですね。
──INCU Tokyoとどのように連携していきたいですか?
INCU Tokyoの中には、すばらしい施設がたくさんあると感じています。SHIBUYA QWSの会員さんが、ある程度事業が成り立ってきた時に、次のフェーズに合った支援を受けられる他のインキュベーション施設やオフィスにつなげられるように、施設の垣根を超えた連携ができたらいいと思っています。
ひとつの施設では解決しづらいこと、どの施設も共通で抱えている課題があると思うので、INCU Tokyoに参加しているみんなで解決していけると心強いと思います。
※ 記載内容は2026年1月時点のものです
