OJTと並行し、「安心して仕事を任せてもらえる存在」をめざす
部品メーカーとHonda、そしてお客様に届ける販売店まで、物流領域でHondaのモノづくりを支えるホンダロジスティクス。物流の現場を知るため、新卒で入社した社員は入社後に一定期間、現場実習を経験します。
その後は配属先でのOJTが育成のベースとなりますが、並行して、入社3年目までの社員を対象に人事による若手育成プログラムが組まれています。
人事でこのプログラムを担当しているのが、Tです。
「当社では、1〜3年目までを“新人育成期間”と位置づけて、勤続年数に応じた研修やサポートを行っています。
このプログラムの目的は、職場の中核メンバーになるためのスキルを身につけること。3年間で“周りから安心して仕事を任せてもらえる存在”になり、ホンダロジスティクスでキャリアを積んでいくことに自信を持ってもらうことをめざしています」
1年目はOJTで仕事を学びながら、人事によるフォローアップ研修を実施。2年目は、先輩社員がメンターとして月に1回面談をしながらサポート。3年目は、これまでの成長を振り返りながら、責任のある仕事を担っていくために必要なコミュニケーション力、思考、知識を身につける研修を行います。
3カ年の育成プログラムが本格的に導入されたのは、2021年。若手社員の退職者が増加したことがきっかけでした。
「当社はもともと定着率が高く、若手社員の離職も少ないことが特徴でした。ところが、3年目までの社員の退職が増加した時期がありました。要因を調べてみると、若手社員の不安や悩みをすくいあげる機会が足りていなかったと気がついたんです。
物流会社ですから、当社の拠点は全国にあり、配属によっては地元を離れるケースがあります。さらに、モノを運ぶ以外にもさまざまな仕事があるため、育成は配属先でのOJTがメインになります。『ー社会人になること』『ー地元を離れること』『ー未経験の仕事に挑戦すること』。新入社員は大きく3つの不安と向き合っているのですが、職場や身近なところに気軽に相談できる相手がいないこともあり、こうした悩みをフォローしきれていませんでした。
この課題を受け、同期の横のつながりをさらに深くしながらも、3年という縦軸を設けて育成していくプログラムを導入しました」
メンター制度により、若手社員の不安や悩みを早期にすくいあげる
従来の現場主導でのOJTを中心にしながらも、人事が積極的に若手社員の不安や悩みをすくいあげる施策を取り入れたことも、この育成プログラムの特徴。その一つが、2年目社員向けに導入されたメンター制度です。
メンターを担うのは、他部署の先輩社員。月に1回、若手社員とさまざまな話をする面談の機会を作っています。言ってみれば会社公認の雑談の時間です。
「若手社員の悩みとして、『職場で気軽に相談できる存在がいない』という声がありました。そこで、メンターとなる社員には、仕事のことでもプライベートのことでも愚痴でも、なんでもいいからとにかく否定はせずに話を聞いてあげてくださいとお願いしています。
自分の経験からアドバイスできることがあればしてもらいますが、問題を根本的に解決しようとする必要はありません。人事に伝えた方がいいと判断した内容は報告してもらうことで、私たちも若手社員の悩みを把握する機会になっています」
実際に、若手社員から「メンター制度があって良かったです」という声をもらうこともあり、効果を感じていると話すT。早めにサポートに入れるようになったことで、悩みを抱えていた社員が笑顔で研修に参加してくれるようなったり、変化を感じることが嬉しいと微笑みます。
T自身、新入社員として人事に配属された際には、十分な現場経験のないまま人事の仕事をすることにプレッシャーを感じていたと振り返ります。だからこそ、メンター制度のメリットを理解しています。
「私自身、過去に会社を辞めようかなと思ったこともありますが、その選択をしなかったのは、サポートしてくれた先輩たちが身近にいたから。遊びに連れて行ってもらったり、愚痴を聞いてもらったり、何かあれば話を聞いてくれる相手がいる。横のつながりがあることは、働いていくために重要なのだと感じました。
だから、新入社員研修でも、周りの人との関係構築の大切さを伝えるようにしています」
自分が人事にいる意味とは──若手社員が夢をかなえる姿がやりがい
何もわからないまま人事に配属され、悩みながらも若手社員と共に成長してきたT。当初は、新入社員の前に立つ役割を“演じる”ことで自分を奮い立たせてきたと話しますが、今では若手社員の良き相談相手として頼りにされています。
まだまだ不安は抱えつつも、人事としての仕事の楽しさも感じていると言います。
「配属された当初は採用を中心に担当していましたが、次第に育成にも関わるようになったことで、それまでの仕事が一つの線になって見えてきました。
入社は大きな節目ですが、入社してから社会人としてどのように道を歩んでいくかが重要。その土台となる最初の3年に伴走できることがやりがいですし、もっとサポートを強化していかなければいけないと感じています」
人事として約5年の経験を積んだことで、育成に関わった若手社員が成長したり、夢をかなえたりする姿も見てきました。
「先日、就職活動をしていたころから担当していた社員が、海外駐在という夢をかなえました。学生時代から海外駐在を目標としていたことを知っているので、感慨深いものがあります。
また、仕事へのプレッシャーもあり体調を崩してしまった社員がいました。私にできることは限られていますが、関係各所に協力していただき、できる限りのサポートをする中で、元気を取り戻して職場に復帰することができました。こういう経験をすると、自分が人事にいる意味はあるのかなと感じます」
もちろん、育成プログラムを通して感じる変化や成長もやりがいの一つ。それは、若手社員に限らず、先輩社員も同様だと話します。
「メンター側の社員から、傾聴力が身についたという声をもらうことがあります。相手の話をうまく聞き出すスキルはもちろんのこと、自分が同じ悩みを抱えていたころを振り返り、客観的に課題を見つめることができたという意見もありました。
メンターの上司からも成長を感じるという言葉をもらうことができ、ポシティブな変化が起きているのではないかと感じています」
それぞれの道を見つけ、納得感のいく仕事、働き方をしてほしい
育成プログラムにある程度の手応えを感じていると話すT。同時に、改善点も見えてきました。
「メンターとなる社員は、成長を感じている一方で、話の聞き方によっては若手社員の人生を左右してしまうのではないかという不安も抱いています。人事としては、メンター側のサポートやフォローも必要だと感じます。
また、メンター制度があるとはいえ、人事と若手社員が直接話すことでしか得られない情報もあります。メンターと若手社員の信頼関係を崩すことなく、人事と若手社員の信頼関係を築いていく施策も検討したいと考えています」
多くの若手社員の成長を見守ってきたTは、「何より健康に働いてくれることが一番です」と笑いますが、「その先に自分なりの道を見つけてほしい」と話します。
「全員が会社の中心となってバリバリ働く必要はありません。自分のやりたいことを見つけて、自分の納得のいく仕事をしてもらえればいい。10年、20年と働く上で、自分の価値観や自分の成すべき道を見つけてもらえたら嬉しいですね」
そのために今後は、キャリア研修なども充実させていきたいと語ります。
「当社には本当に幅広い仕事があるため、他部署がどんな業務をしているのか入社5年目の私でも把握しきれていない部分があります。けれど知らないままでは、社内にあるチャンスを逃してしまうかもしれません。
研修のなかでは、若手社員同士が自分は今どんな仕事をしているのかを紹介し合う場面もあります。自分の仕事の意味や会社の中での位置付けを知る良い機会だと感じているので、そういった機会をもっと増やしていきたいですね」
やりたいことを引き寄せる力、つまり社会人としての基礎を身につける環境を用意すること。そしてその環境を活かす施策を運用していくことが人事部門の若手である自分の役割だと話すT。自らが感じた不安や、それを乗り越えた経験をもとに、若手社員に寄り添いながら成長を見守り続けます。
※ 記載内容は2024年1月時点のものです
