アジャイルの手法を社内に広げようと有志社員が立ち上げたイベント「DENSO AGILE」は、今や毎年恒例の社内行事です。年々参加者を増やし、その影響は開発現場のみならず、デンソーの企業文化にまで及ぼうとしています。「DENSO AGILE」に関わる3名の社員に、イベント立ち上げの経緯と手ごたえ、さらには今後の展望を語ってもらいました。
プロフィール
石田 晋哉
クラウドサービス部 DI室 所属。
パブリッククラウドを使ったサービスを開発・運用する部署。社内の他部署がサービスを開発運用する際の技術支援、スクラムのトレーニング提供、クラウド活用推進組織(CCoE)活動などをしている。
こだわりのテレワークアイテム:座椅子とちゃぶ台
外海 駿輔
マテリアル研究部 マテリアル基盤研究室 所属。
車に載せる新しい材料の研究開発をする部署。統計的に材料を理解するため、データ解析や画像解析から材料開発を研究をしている。研究者に技術を届けるため、材料解析のプラットフォームやアプリ開発にも携わる。
こだわりのテレワークアイテム:デスクチェア(健康意識!)
松原 秀一
先端技能開発部 デザイン実証室 所属。
最先端の技術・技能を使いこなしアイデアを最速で形にする部署。アプリ開発のチームリーダーとして、新しい技術開発のアイデアの段階から携わり、コンセプトや価値の実証を行っている。
こだわりのテレワークアイテム:良いマイクと照明
【動画公開中】カルチャー変革を巻き起こすイベント「DENSO AGILE」って何!?
※再生ボタンを押すと音が出ますのでご注意ください。
3名による座談会の様子を動画で観たい方は、ぜひYouTubeでご覧ください。
ここからは動画でお伝えしきれなかった内容も含め、対談の様子をお伝えします。
アジャイルを学びたい──社内に散在した有志をひとつにした「DENSO AGILE」
──はじめに皆さんの経歴とデンソーでの職務内容を教えてください。
石田 晋哉(以下、石田):私はパブリッククラウドを使ったサービス開発と運用を担うクラウドサービス開発部に所属しています。その中でもSREというチームに属して、社内の他の部署がサービスをつくるときのお手伝いをしたり、運用の支援をしたりしています。
開発チームのチームビルディング自体を任されることもあるため、アジャイル、スクラムの手法を自ら学んで社内向けのトレーニングメニュー・ツールもつくっています。
──開発を支援するだけでなく、開発チームの育成まで手がける組織というのは珍しいのではないでしょうか?
石田:あまり一般的ではないかもしれませんね。そもそもクラウドサービス開発部は、デンソーが従来のウォーターフォール型のシステム開発とは異なるアジャイル型のサービス開発を実践するためにつくられた部署が前身となっています。そうした背景が、われわれの業務内容にも色濃く残されているのでしょう。
──ありがとうございます。外海さんはどのようなお仕事を担当されていますか?
外海 駿輔(以下、外海):私は、マテリアル研究部で車に載せる新しい材料の研究開発を行っています。とくに材料の性質などを統計的に理解することを目的としたデータ解析や画像解析が主な仕事です。RX(リサーチトランスフォーメーション)という言葉を掲げて、データを使うことでマテリアル研究の効率化・進化を図っていくことをミッションとしています。また、材料を解析するためのプラットフォーム開発も担当しています。
もともとはバイオ系の研究をしてきたため、マテリアル系の研究もプラットフォーム開発も不得手でした。どちらの知識・スキルもデンソーに入ってから身につけたものです。とくにアジャイルを取り入れる点では、石田さんのチームや松原さんのチームにも手伝ってもらっています。
──松原さんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
松原 秀一(以下、松原):私は、先端技能開発部で新規事業の開発に取り組んでいます。ウェブアプリやスマホアプリなどのアプリケーション開発チームのリーダーを担っています。
「お客様がこんなことに困っているが何かできないか?」というような事業部からの相談に対し、ペルソナやカスタマージャーニーを整理し、ゼロイチで課題解決をめざすのが私の仕事。事業開発では、コンセプトや価値の実証をスピード感を持って繰り返すことが重要なので、たとえば3Dプリンターなどを用いながら、実際に触れるものをすばやく作って検証しています。さらに近年では、VRやAR技術を用いて、モノをつくらずに検証する取り組みにも挑戦しています。
石田さんのチームはソフトウェア開発におけるアジャイルの導入を先導してきたチームですが、モノづくりにアジャイルの手法を取り入れる視点では私たちが先行部隊だと言えるでしょう。
──業務内容こそ違いますが、アジャイルを活用しようと取り組んできた点では皆さん一致していますね。皆さんが集まって、DENSO AGILEをスタートさせたきっかけは何だったのでしょうか?
石田:もともとは業種・業界を超えてアジャイルを根付かせようとする「Agile Japan」という外部のカンファレンスに参加したことがきっかけです。
ある年に私が登壇者として参加したところ、会場に松原さんをはじめとした、後にDENSO AGILE運営メンバーとなる人たちが来てくれていたのです。
同じ社内の人間ですが、そこで初めて互いを認識し、デンソーの中にもこれだけアジャイルやスクラムのことを学びたいと思っている人がいることに気づきました。すぐに「社内でも何かイベントをやりたい!」と盛り上がり、DENSO AGILEの立ち上げへとつながっていったんです。
部門を超えた交流で、アジャイルの理念を全社に根付かせたい
──DENSO AGILEのコンセプトはどのように作られていったのでしょうか?
松原:せっかく同じ想いを持った人たちがいるのだから、部署を超えた横のつながりをつくることで、アジャイルを進める上での互いの悩みを解決し合ったり、これからアジャイルに取り組みたいと思っている人を支援したりできる仕組みをつくろうと考えたんです。
そのため、“誰かの発表を聞く場”ではなく、互いに交流しつながる“場”としてイベントを構想しました。
外海:私が参加したのはDENSO AGILEの第2回が開催されたタイミングです。実体験を生々しくしゃべってほしいということで、講演者として呼ばれたのがきっかけでした。
──最初のイベントはどのようなもので、反響はいかがでしたか?
松原:新型コロナウイルス感染症が流行する以前のことだったので、リアルで開催しました。社外の有識者による基調講演をプログラムに入れたおかげで、結構な人が参加してくれましたね。しかし、基調講演の後の事例発表にはあまり関心を得られなかったようで、基調講演後には離席される人も少なくなかったです(笑)。
一方、参加者自らがA4用紙の紙に話したいテーマを書いて、そのテーマに共感する人たち同士で集まりディスカッションするオープンスペーステクノロジーという手法のワークショップは好評でした。同じ課題意識を持った人が身近にいることを参加者の皆さんにも感じてもらえたのではないでしょうか?
ともあれアジャイルがテーマなので、イベントもアジャイルにつくっていきたいという想いがありました。やってみてフィードバックをもらい、修正していくことが大事なんです。
石田:年に1回のペースで開催し、回を重ねるごとに参加者を増やすことができました。個人的には、社内から登壇者を探すためいろんな部署へ足を運んだことも良い経験でしたね。
──その後もイベントを続けてきた中で大切にしていることは何でしょうか?
石田:同じデンソー社員同士だからこそできる情報交換を常に意識しています。いわゆる教科書のような内容であれば書籍や外部のセミナーから得ることもできますし、コンサルタントにお金を払って聞いたほうが効率的でしょう。
そうではなく、デンソーのなかでアジャイルに取り組んだ社員の“生の声”が聞けることに意義があるんです。同じ環境にいる人の経験談だからこそ、「自分たちでもできるんだ」という自信につなげてもらえると期待しています。
松原:私としてはアジャイルという題材を通じて、参加者のマインドやデンソーの文化にも刺激を与えたいと考えています。
アジャイルを取り入れた開発では急な仕様変更などにも対応できるよう機能単位で素早い開発とテストを繰り返しますが、開発プロセスのみならず“物事の考え方”や“価値観”にも通じるものを持っているんです。
デンソーで働いておよそ20年になりますが、伝統的な会社ならではの受け継がれていくべき文化もあれば、変えるべき部分もある。時代の流れをキャッチアップしなくてはいけないという私の課題意識に、アジャイルの理念がぴたりとフィットすると思うのです。
参加者にとっても、このイベントが会社の文化や自分の観念に目を向けるきっかけになれば嬉しいですね。そういう意味では、DENSO AGILEとはカルチャー変革の取り組みなのかもしれません。
開発現場だけでなく、社内外を巻き込むイベントへ
──これまでの活動を通じて、現われてきた成果はありますか?
外海:イベント後に、「自分たちも同じようにアジャイルを導入してみたい」という相談をもらえるようになりました。また、私が講演会で発表した材料の研究開発に一緒に取り組んでみたいと声をかけてもらったことも嬉しかったですね。
石田:本社のITデジタル本部とも、社内のデジタル化に向けて一緒にいくつかのプロジェクトを進めるようになりました。
このように部門を超えた連携につながっていることが何よりの成果だと思います。イベントを開催するごとに輪が広がっているんです。会社全体の文化に少しずつ影響を与えられている実感がありますね。
連携が広がることで新たな事例が生まれ、次回のイベントで発表するテーマになるといった好循環が生まれています。
──今後の展望を伺えますか?
外海:組織全体としてアジャイルの意義を共有できれば、デンソーの開発環境はより良いものになっていくでしょう。できれば現場の担当者だけでなくマネージャー層・経営層も巻き込んだイベントにしていきたいと思っています。
石田:実はアジャイルの源流はトヨタ生産方式にあると言われています。デンソーも昔から馴染みのある手法なんです。そういう意味では、2023年現在のマネージャー層・経営層にもともと持っているアジャイル魂を呼び起こしてもらうことで、会社全体の活気につながっていくと思いますね。
また、先ほど話したように、アジャイルは文化や価値観にまで影響を与える考え方なので、マネージャー層・経営層だけでなく、人事や広報など開発とは直接関係の無い部門を巻き込み、それぞれの視点からアジャイルの意義を語ってもらうことも大切かもしれません。
松原:個人的には、この取り組みをもっとオープンにしていきたいと思っています。イベントを通じて結成されたチームが実際にコラボレーションしていく様子をみんなにも見えるような形にすると、アジャイル導入の機運が高まっていくのではないでしょうか。
また、イベントを社外に向けて公開していくことも考えています。他の企業や学生さんに気軽に参加いただけるイベントにすることで、新しい気風をデンソーに取り込む、あるいはデンソーと一緒に働きたいと外部の人に思ってもらえるきっかけになると思っています。
実際、個人的に「スクラムフェス三河」というアジャイルコミュニティを社外で立ち上げたのですが、そこでの異業種交流で得た学びが本業にも生かされていると感じます。
社内に閉じたイベントだからこそ話せることもあるので、外に開くことの難しさは理解していますが、企業文化を変えていくという点では価値がある取り組みではないでしょうか。できるかできないかではなく、やるんだという意気込みで臨んでいきたいですね。
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