前任社長から受け継いだ信頼を胸に、野村ビジネスサービスの社長に就任した櫻井大輔。 野村證券の支店長時代に培った「人がつながる組織」づくりを振り返り、対話や仕組みを通じて専門性を結集し、組織の力を高めてきた歩みを紹介します。 受け継いだ信頼を未来の価値へとつなぎ、社内外に新たな連携を生み出す――その挑戦の現在地とは。
すべての原点は、人とのつながりにある
今ほど、人とのつながりの大切さを実感している時期はありません。
野村ビジネスサービスの社長に就任するまで、私は野村證券で支店営業、本社の投資銀行部門、従業員組合、人事部、支店長など、さまざまな立場で仕事をしてきました。その中で学んだのは、仕事は決して一人では完結しないということです。
特に、お客さまに向き合う仕事では、担当者一人の力だけで課題を解決することはできません。資産運用の相談を入り口に、相続、不動産、事業承継、M&A、法人の本業支援など、複数の専門性が必要になることがあります。
その時に重要なのは、必要な人を紹介することだけではありません。相手の専門性を理解し、相談しやすい関係を築き、同じ目的に向かって知恵を持ち寄ることです。私は、連携とは「業務を分担すること」ではなく、人と人、部署と部署、専門性と専門性をつなぎ、一人では生み出せない価値を生み出すことだと考えるようになりました。
その考えを強く実感した出来事が、野村ビジネスサービスの社長就任です。
3月末まで野村證券で支店長を務め、4月には同社の役員に就任しました。新たな役割への引き継ぎを進めていた矢先、前任社長の急逝を受け、6月2日付で野村ビジネスサービスの社長に就任することとなりました。
47歳で初めて社長の役割を担うことになり、社員数は500名を超え、派遣スタッフを含めると約1,500人が働く会社の経営を担うことになりました。
しかし、私が最初に感じたのは、不安よりも「絶対に恥ずかしい仕事はできない」という思いでした。
前任社長とは、野村證券の人事部時代に、私が直属の部下として約2年間ご一緒しました。誰に対しても優しく、公平に接する方でした。一方で、仕事の進め方や判断のあり方については厳しく丁寧に指導してくださいました。
大規模な人事制度改正のプロジェクトをともに進める中で、細部まで配慮しながら仕事を進める姿勢、そして必要な場面では大胆に決断する姿を学びました。
就任後、ある社員から「櫻井さんの社長就任は、前任社長から会社への最後のメッセージだったのかもしれませんね」と言われたことがあります。私自身も、同じように感じました。前任社長とのつながりを通じて受け取ったものは、役職の引き継ぎだけではありません。仕事への姿勢、周囲との向き合い方、そして人を信じて任せることの大切さでした。その信頼と学びが、私が新しい役割に踏み出す力になりました。
支店長時代に築いた、つながりの仕組み
私は、姫路支店と福岡支店の支店長時代、「人がつながる組織」を目指して取り組んできました。
姫路支店、福岡支店ともに、ウェルス・マネジメント、プライベート・ウェルス・マネジメント、金融公共公益法人、コンプライアンスなど、多様な機能を持つ複数の専門部門を備えた総合的な支店でした。専門性の異なる人材がそろっていることは大きな強みです。しかし、組織が大きくなると、部署ごとに業務や顧客接点が分かれ、情報が十分に共有されないことがあります。
お客さまの課題が複雑な場合、誰に、いつ、どのように相談するかによって、提案の質やスピードに差が生じることもありました。
そこでまず、支店が目指す姿を「みんなが自分らしくいられる組織」と定め、文書に明文化しました。そして、その考えを私自身の言葉で全社員に繰り返し伝えました。人がつながるためには、最初に「何のためにつながるのか」を共有する必要があります。目指す姿や仕事の目的が明確であれば、部署が違っても、お客さまや組織全体にとって何が最善かを考えやすくなります。
次に取り組んだのが、会議の見直しです。
会議をいったんすべてリセットし、目的を明確に説明できるものだけを再設定しました。営業実績の進捗報告だけを目的とした会議は廃止しました。
数字は集計シートを見れば確認できます。会議で必要なのは、数字を読み上げることではなく、現場で起きていることや課題を共有し、必要な協力を得ることです。
「今、自分がマネジメントする組織で何が起きているのか」
「どのような課題を抱えているのか」
「何を相談したいのか」
「他部署にどのような支援やアドバイスを求めているのか」
発言の目的を明確にしてもらうことで、会議を単なる報告の場から、課題を共有し協力を得る場へと変えていきました。
その結果、大規模な集会型の会議は減り、少人数で率直に意見を交わす、短時間で実効性の高い会議へと変わっていきました。会議では、課題の背景や具体的な打ち手まで議論できるようになり、意思決定や次の行動に移るまでのスピードも上がりました。
また、連携を一部の熱心な社員だけに委ねないことも意識しました。情報共有や連携の場をWebツールやイントラネットなどの仕組みに組み込み、個人の意識や担当者の判断だけに左右されることなく、必要な情報が自然に共有される環境を整えました。連携の必要性を伝えるだけでは、実際の行動にはつながりません。私は、連携によってお客さまにどのような価値を提供できるのかを、具体的な業務に結び付けて説明しました。部署ごとに専門用語や業務の進め方は異なります。だからこそ、専門性を一方的に主張するのではなく、相手の立場や役割を理解し、共通の目的である「お客さまへの価値」から会話を始めるようにしました。その結果、資産運用にとどまらず、相続や事業承継など、お客さまの課題をより広い視点で捉えられるようになりました。
つながりは、意識だけでは続きません。目的、場、仕組みがそろって初めて、組織の力になります。
日常の小さなつながりが、組織を変える
人と人のつながりを強くするために、私は「自然体で接すること」を大切にしてきました。
相手に過度に気を遣わせたり、自分自身が立場を意識しすぎたりすると、率直な相談や意見交換が難しくなります。
できるだけ普段どおりの自分で接し、相手にも自然体でいてもらう。そのために、役職名で呼ぶのではなく、「〇〇さん」と呼び合うことも推奨しました。
人がつながるためには、肩書による距離を必要以上につくらないことが大切です。
若手社員との対話でも、一方的に指導するのではなく、一人の社会人、職業人として尊重することを意識しました。
月1回の1on1ミーティングでは、業務の話だけでなく、仕事に対する考え方、実は困っていること、将来やってみたいことなども聞きました。
私自身が若手の頃に知っておけばよかったと思うことは伝えましたが、答えを押し付けないようにしました。最終的には、本人が考え、自ら行動できるよう支援することが重要だと考えたからです。
さらに、社員同士の良い行動や気づきを共有する仕組みも作りました。
良い行動や重要な気づきは、本人とその場にいた人だけのものにせず、組織全体の財産にしたいと考えたためです。
組織では、問題やミスには目が向きやすい一方で、誰かの適切な対応や周囲への気遣いは、十分に共有されないことがあります。
だからこそ、良い行動を言葉にして伝えることに意味があります。
「誰かが見てくれている」
「自分の行動が役に立っている」
そう感じられることが、安心感やモチベーションにつながります。
この取り組みを、大げさな表彰制度にしたいとは考えていませんでした。年間を通じた“大賞”があってもよいかもしれませんが、それ以上に大切なのは、日常の中で誰もが小さな感謝を伝えられることです。
「今日は一つ、人の良い行動を言葉にできた」
「今日は誰かから感謝された」
そのような小さな実感が、次のつながりを生み出します。
また、ミスが起きそうな事象についても、責任追及ではなく、早期の気づきとして共有することを意識しました。
良い行動とリスクの芽の両方を共有することで、組織全体で学習できます。問題が大きくなってから報告するのではなく、気づいた段階で相談できる環境をつくる。そのために、管理職には叱責するのではなく、早期の相談を促すことを徹底しました。
結果として、社員同士が互いの良い行動に気づき、言葉にして伝える機会が増えました。仕事上の小さな疑問や不安も、早い段階で相談されるようになりました。
連携は、特定の人だけが担うものではありません。日常の中で、一人ひとりが実践するものです。
感謝を伝える。相談する。相手の話を聞く。気づきを共有する。
そうした小さな行動が積み重なり、組織の中に新しいつながりを生み出していきます。
受け継いだつながりを、未来の価値へ
野村ビジネスサービスの社長に就任して、まだ2か月余りです。 支店長時代と比べ、連携する相手も、判断すべきテーマも大きく広がりました。日々の報告や相談は多岐にわたり、会社全体を理解するにはまだ時間が必要だと感じています。
それでも、立ち止まっているつもりはありません。まずは各拠点の管理職との対話を始め、現場で何が起きているのかを知る。必要なテーマについては、関係する部署や担当者を早い段階でつなげる。小さくても動かせることから動かし、進めながら修正していく。その姿勢を大切にしています。
これまでの社長と比べると、私は比較的若い世代に当たります。
若さを強みとするなら、それは変化を恐れず、意思決定と実行の距離を短くできることだと思います。一方で、受け継いできたものを十分に理解しないまま、急いで変えてよいわけではありません。守るべきものと変えるべきものを見極めながら、スピード感を持って改革に取り組んでいきたいと考えています。
しかし、私のマネジメントの基本は変わっていません。
組織の目指す姿や仕事の目的を明確にし、自分の言葉で伝えること。現場の声を聞き、相手の立場を理解すること。自然体で相談しやすい関係をつくること。
会社の規模が大きくなるほど、意識的に対話の機会をつくらなければ、部署や階層の間に距離が生じます。就任後、各拠点の管理職を対象として1on1を実施しましたが、現時点では、まず互いを知ることができた段階にすぎません。1on1は有効な手段の一つですが、それだけで会社全体がつながるわけではありません。信じて任せることを基本としながら、会社規模に応じてパーパスやビジョンの浸透させる方法や、情報連携の仕組みを工夫し、人がつながり続ける組織をつくっていく必要があります。
当社には、40年以上にわたり、受託業務を正確かつ着実に実行してきた実績があります。業務を深く理解した上で、業務設計を行い、必要な人員、オフィス、システムを計画し、入念なテストを経て受託する。
この積み重ねによって、経営者が代わっても業務が揺らがない、高い安定性が築かれています。
社長に就任してまだ日が浅い私にとって、現経営陣との連携は、会社を理解し、判断していく上で大きな支えとなっています。毎朝の役員ミーティングでは、定型的な進捗報告を行うのではなく、それぞれの担当領域で起きていることを共有します。グループ会社とのミーティングで出た話題をふまえ、今後の展開において連携が必要になりそうな場合には、関係部署との認識合わせが必要かどうかといった点まで議論します。
根拠となるデータや課題は、事前にメールやチャットで共有されます。全員が同じ情報を確認した上で議論するため、連携がその場限りで終わらず、次の行動につながります。日々の対話を通じて、理想に近い連携の芽が、すでに当社の足元にあることを感じています。まだ会社全体を十分に理解できたとは言えません。だからこそ、現場の声に耳を傾けながら、どのつながりを伸ばし、どの仕組みを変えるべきかを模索しているところです。これからは、そのつながりを社内にとどめず、グループ内外へ広げていきたいと考えています。
当社は、受託業務を正確に、迅速に、ミスなく実行し、オペレーションを回し切ることに強みを持っています。
今後は、業務の「可視化」と「標準化」を競争力の源泉とし、グループ内から業務を相談されて受託するステージから、お客様に対して改善や効率化を積極的に提案していきます。
業務の可視化、分析、改善から受託までを一貫して支援できる会社へと進化するとともに、デジタルプラットフォームを活用し、短いサイクルで機能実装し業務改善を実現していきます。
そのためには、社内外の多様なステークホルダーとの連携が不可欠です。
こうした取り組みを通じて、業務品質と生産性を高め、受託業務のさらなる拡大につなげていきます。
野村グループのパーパスは、「金融資本市場の力で、世界と共に挑戦し、豊かな社会を実現する」です。
当社は、その実現に向けて、以下のValueを掲げています。
「つなぐ」を実践します
「多様性」を大切にします
「失敗」を奨励します
私が入社以来、大切にしてきた「野村の創業の精神」にも、各部門が責任を持って仕事に取り組み、幹部が率先し、全員が協力して一つの組織になるという考え方が示されています。
時代が変わっても、つながりを大切にする精神は変わりません。社長就任直後、私は野村ビジネスサービスで新入社員時代に仕事を教えてくださった元上司や先輩と、再会しました。
数十年ぶりの再会でしたが、お二人は当時と変わらない優しい笑顔で「立派になって」と声をかけてくださいました。
うれしさと同時に、「しっかりしなければ」という思いを新たにしました。
かつての自分を知る人たちの前で、取り繕うことはできません。だからこそ、これからも自然体で、自分らしく、人とのつながりに感謝しながら仕事に向き合いたいと思います。
人とのつながりは、過去から受け継ぐものでもあり、未来へ手渡していくものでもあります。
前任社長から受け継いだ信頼。 上司や先輩から受け取った学び。 社員同士の日常の対話。 部署や専門性を越えた協働。 グループ内外の新たな連携。それらを一つひとつつなぎ合わせることで、個人の力を超えた価値が生まれます。
私はこれからも、広く現場の声に耳を傾け、相手の専門性や多様性を尊重し、誰もが自然体で相談し合える環境をつくっていきます。
人と人とのつながりを信頼に育て、その信頼を組織の連携へと広げる。
そして、その力をお客さまと社会への価値として届ける。それが、私の目指すリーダーシップです。
※ 記載内容は2026年8月時点のものです。
