コンマ数ミリに宿る執念。最上流で美しいボディを創り出す、プレス技術部の挑戦
クルマの美しさを決定づけるなめらかで艶やかなボディ。このボディを成形する金型を製作し、国内外の車両生産工場へ供給するのが車両生産技術開発本部プレス技術部のミッションです。その中で掛川は北米向けの新車プロジェクトリーダーとして、品質・コスト・日程の全体マネジメントに挑んでいます。
「北米向けの新車プロジェクトチームは10名ほどで構成されています。メンバーは20代の若手が3名で、残りのほとんどは40、50代以降のベテランという、年齢差のあるチームですが、ベテランと若手の間にまったく壁がなく、わからないことがあればフランクに相談し合える風通しの良さがあります」
プレスに使用する金型は、一見すると、図面通りに製作すれば、そのまま美しいボディができあがるように思えるかもしれません。しかし実際には、図面から金型を起こす金型メーカーとのやりとりから、トライアンドエラーが始まります。
「金型は図面通りに製作しても、一度で正確にプレスできることはありません。プレスしては修正を繰り返し、この期間は約1カ月もの時間を要します。その分、新車の開発期間が延長してしまうため、修正回数の低減をめざし、金型メーカーと協力して改善策を模索しています」
また、型玉成は車両試作と並行して行われ、車体や塗装、組み立てなどの後工程に部品を供給し、そこで発生した不具合の対策を織り込みながら、型を製作します。
「たとえば、塗装による数ミクロン単位の薄い塗膜だけで部品取り付け用の穴径が小さくなり、組み立て段階で部品が装着できなくなる不具合が発生します。そのため、プレス段階であらかじめ穴径に微調整を施します。ほかにも、組み立て時にパネルを重ね合わせて水漏れ防止のシーリング剤を塗布する際、寸法誤差が累積されると隙間が広がり、せっかく塗布したシールが破断する事象につながるのです」
量産体制では、1つの金型で1,000ショット以上の鋼板を打ち抜くことになります。それだけの連続プレスに耐えうる強度を担保しながら、寸法精度を「±0.5mm以内」というレンジに収めるため、金型を溶接したり削ったりしながら、コンマ単位の微調整を何度も繰り返していくのです。
「プレスはクルマづくりの最上流に位置するため、金型の精度がそのまま後工程に影響を及ぼします。しかし、プレスの開発日程は他の工程に比べてはるかに早期から始まるため、実際に車体を何十台も組み立てて初めて発覚するような不具合がフィードバックされる頃には、すでに金型を量産工場へ出荷していなければいけません。
だからこそ、過去の車種における膨大な不具合データを徹底的に分析し、先回りして金型に対策を織り込んでおく先手の対応が不可欠なのです」
北米プロジェクトへの抜擢と直面した壁。焦る自分を変えた「聞き倒す」覚悟
かつて学生時代、モノづくりが好きだった掛川は機械工学を専攻します。自ら進んで運転を引き受けるほどドライブが好きで、「お客さまに移動の楽しさを提供したい」と自動車業界を志しました。
「就職活動を行っていたちょうどその頃、家族が正面衝突事故を起こしてしまう出来事がありました。車は大破しましたが、幸いにも命に別条はありませんでした。
この出来事を通じて、交通事故を未然に防ぐ安全技術の重要性を痛感。自動運転や最先端の安全技術といえば日産という強いイメージが当時からあったため、事故のないクルマをつくりたいと、第一志望で入社を決意しました」
入社前に抱いていた生産技術のイメージは「工場での組み立て作業を行う現場の人」や「決められたラインの管理する人」というものでしたが、配属されて知ったリアルはまったく異なるものでした。
「日産の生産技術開発は、設計者が描いた理想の図面を、いかにして本物の高品質な『クルマ』として世界中で量産化できるかを、独自の知見と技術でつくり上げていく仕事でした。図面の通りにラインを組むのではなく、開発の最上流にも深く入り込み、モノづくりに向き合う、きわめてクリエイティブな技術開発職だったのです」
2021年の入社後、プレス部門を体験する中で自ら「ここで挑戦したい」と配属を希望。圧型技術課で約3年間、金型設計の基礎を徹底的に叩き込みました。そこで培った図面の裏側を見通す知見を活かして、現在はプロジェクト全体を統括しています。
「現在の部署に異動し、北米向けプロジェクトのサブリーダーに抜擢されたときは、視野が一気に広がって幅広い知識を求められたため本当に苦労しました。
さらに、当時の私の上司は英語しか話さないアメリカ人。それまで金型設計の狭い世界しか見ていなかった自分にとって、プロジェクト全体の膨大な調整業務を英語で進めることは、言葉の壁も含めて大きなプレッシャーでした」
英語でのやり取りに苦手意識があり、仕事の全体像も見えていなかった当初、掛川はアメリカ人の上司と日本の金型製作現場の間に立たされ、ただメールを転送して翻訳するだけの「伝言板」になりかけていたと言います。
「このままでは自分の介在価値がないと焦りを感じ、納得するまで初歩的なことでも恥をしのんで周囲に聞き倒すことを徹底しました。
ちょうど配属当初、アメリカ人の上司が『理解が曖昧なままYESと言わず、納得がいくまで何度でも質問してほしい』と言ってくれたことも大きな後押しになりましたね。中途半端な理解で流さず、技術的な本質まで落とし込んで会話を重ねたことで、単なる伝言板から抜け出し、自分の言葉で主体的に説明・提案ができるようになりました。
この積み重ねで知識量が向上しただけでなく、上司とも強固な信頼関係を築くことができました。新人の『わからない』を歓迎し、周囲が一体となって丁寧に育成する日産の人を大切にする文化には、今も深く魅力を感じています」
生産技術開発はクリエイティブな仕事。デザイナーと対峙し、極限の美しさをカタチにする
現在、北米向けの新車プロジェクトを率いる掛川。このプロジェクトは、国内工場向けに先行して開発されたベース車を、期間と投資コストを大幅に短縮しながら海外展開していくことが進められています。
「一般的にこのようなプロジェクトは、すでに先行車というお手本が存在するため、新たな不具合対策や品質の限界までの作り込みは省略されがちですが、私はそこで一切の妥協をしたくありませんでした。生産されるボディパネルの美しさを決める金型同士の『当たり』の調整に、限界まで徹底的にこだわり抜いたのです」
「当たり」の調整とは、鋼板に青いインクを塗って金型で挟み、きれいに青色が転写されるかを目視で判断して型を削り磨き上げる、日本のモノづくりならではの職人技です。北米工場の品質担当メンバーが日本へ視察に来た際、その出来栄えに目を見張りました。
「プレスされたボディパネルの圧倒的な精度と、極限まで緻密に合わせ込まれた美しい金型を見た北米工場の品質担当者から、『これほど短い開発期間で完璧な品質にまで作り込まれた金型は、私のキャリアでも見たことがない。掛川の執念と、丁寧なプロジェクトマネジメントの賜物だ』 と、最上級の評価をもらうことができました。
自分の努力が国境を越えてプロフェッショナルに認められたこの瞬間は、何物にも代えがたい誇りとなりました」
プレスの金型は、たった1つの部品用であってもおよそ2億円、クルマ1台のフルモデルチェンジとなると20億円以上の超巨額投資が必要となる、まさにモノづくりの「要」です。
「生産技術開発における私たちの仕事は、会社の経営や新車投資の行方を大きく左右する責任を担います。だからこそ金型設計の段階から知恵を絞り、効率化を図ることができれば、億単位のコストメリットを会社にもたらすことができます。若手でありながら、そのような大きな責任感を背負ってプロジェクトをマネジメントするダイナミズムは、ほかでは味わえない大きなやりがいです」
そして何より掛川を突き動かすのは、デザイナーがスケッチに描いた美しいデザインを、技術の力で現実のものにするという誇りにほかなりません。
「近年のクルマのデザインは美しく、かっこよく進化しており、今までにない複雑な曲線や、極限までシャープで鋭いエッジなどの形状が求められます。開発の初期段階では『このような複雑な造形はプレスでは絶対に量産できない』と言われることも多いですが、そこで諦めていては日産車の美しさは進化しません。
私たちプレス技術チームが何度も試行錯誤を繰り返し、技術でそれを実現した美しいボディが、実際の街中を走っている姿を見かけた瞬間は、言葉にできないほどの大きな喜びが湧き上がってきます。このクルマのボディは、自分たちがカタチにしたのだと心から誇れる仕事です」
図面に込められた夢を美しいカタチに。仲間と駆け抜ける、生産技術開発
多くの関係者を巻き込みながらプロジェクトを進める掛川が、リーダーとして最も大切にしているのは、謙虚で誠実な姿勢です。
「開発現場において、懸念事項やスケジュールの遅れを先送りすることは、後発のトラブルをより深刻化させ、解決を難しくする最大の要因になります。だからこそ、個人の事情や目先の状況にとらわれず、悪い情報ほど『早く、かつ正確に』工場や車体、塗装、組立などの各関係部署へ共有することを徹底しています。
この誠実な姿勢を積み重ねることで、社内外のパートナーから『掛川になら安心して任せられる』と信頼される存在になりたい。将来的には、プレス技術の枠を超えて車体技術の領域にも踏み込み、クルマ全体の骨格づくりを俯瞰してリードできるエンジニアをめざしていきたいですね」
最初は「自分にマネジメントなんて無理」と考え、一つの技術を深めるエキスパート志向だった掛川。しかし、日産の懐の深い環境がその視野を大きく広げてくれました。
「個人の意見を尊重し、若手にも大きな裁量を与えて挑戦を後押しする社風の中で、他部署や社外における『人脈』という心強いネットワークを築くことができました。単独では解決が難しい課題に直面した際にも、協力を仰げる人脈が広がったことこそが、課題解決能力につながっていると実感していますね。
入社当時と比較して確かな成長を感じており、現在はさらに大規模なプロジェクトを牽引したいという気持ちが芽生えています」
生産技術開発という仕事の醍醐味とおもしろさを、未来の仲間たちに正しく伝えたい。掛川は学生たちに向けて、次のように熱く語りかけます。
「生産技術開発とは、ただ工場で量産体制を整えるようなただ指示された作業を工場で行う仕事では決してありません。『図面という二次元の夢を、誰もが憧れる三次元の美しいクルマへと、その命を吹き込む仕事』です。設計やデザイナーと常に対等な立場で最高の『美』と『品質』を議論し、最後は生産工場を含めた『プレスファミリー』が一丸となって不具合を潰し込み、新車を送り出す。
お客さまに新車を届ける新車立ち上げというゴールに向かって、ファミリーでラストスパートを駆け抜ける団結感と、やりきったときの達成感は、生産技術開発でしか味わえない特別なものです」
日産の生産技術開発には、金型設計から最先端のデジタル技術を活用した工程設計、そして国内外の工場とのコーディネートまで、想像以上に広大なフィールドが広がっています。
「職種の幅が非常に広いため、入社したときにやりたいことが明確に決まっていなくても、仕事を経験する中で必ず能力が活かせる場所や新たな強みが見つかります。後工程の仲間を気遣い、最後にお客さまが手にするクルマへと思いやりの心を持てる方と共に働きたい。私たちと一緒に、世界中のお客さまが熱狂する美しく魅力的な日産のクルマづくりを、その手で支えていきませんか」
※ 記載内容は2026年7月時点のものです
