個別最適から全体最適へ。現場の「痛み」に寄り添い、要件そのものを疑うDX推進
熊谷が所属する生産・SCM部門の車両生産技術統括部 デジタル業革グループは、2026年に発足した新しい組織です。これまで各部署が個別に取り組んでいたデジタル化を一括して束ね、生産技術領域全体の最適化を横串で推進することをミッションとしています。車体、組み立て、品質保証など多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まり、社内における異文化コミュニケーションのような刺激的な環境で業務が進められています。
「日産には歴史があり、各部署で技術者が積み上げてきた優れたプログラムやシステムが数多く存在します。しかし、それぞれが独自に最適化されているため、部署間をつなごうとするとデータの形式や考え方の違いという壁にぶつかります。データのバケツリレーや帳票のスタンプラリーをなくし、本当に価値のある形でデータを一元管理して誰もが活用できるようにすることが、私たちがめざす全体最適です」
熊谷が現在注力しているのが、プレス金型製作部署を横断する「ツーリングDB(データベース)」の構築です。従来の帳票形式による情報伝達では最新性の担保や抽出にタイムラグが生じていました。そこで、元データを一箇所に集約し、生成AIなどを活用して必要な情報だけをピンポイントで取り出せる仕組みづくりを進めています。
「業務の進め方そのものが大きく変わるため、単にコードを書くだけでなく、現場の方々と思いを共有し、納得していただくコミュニケーションの時間が不可欠です。その中で私が大切にしているのは『現状に満足せず、要件そのものを疑う』ことです。
『この作業を自動化したい』という要望に対し、そもそもその作業自体をなくせないか、AIで代替できないかという根本課題からアプローチするようにしています」
単なる手作業の効率化にとどまらず、仕事のあり方そのものを再設計する。熊谷は現場の「痛み」に丁寧に向き合いながら、デジタル改革の歩みを着実に進めています。
生成AIへの危機感からDXの世界へ。泥臭い現場経験と最新技術を掛け合わせる
幼い頃からモノづくりが好きで、大学時代は機械工学を専攻してエコカーのエンジン製作に没頭していた熊谷。ファーストキャリアとして電子部品メーカーに入社し、約6年間にわたり手のひらサイズの金型生産や現場改善に従事。自ら金型を手仕上げし、プレス機にセッティングして不良解析を行うなど、泥臭く現場と向き合う日々を過ごしました。転機が訪れたのは、世の中に生成AIが登場した時期でした。
「対話型AIに触れた際、『このままでは人間の仕事が代替されてしまうのではないか』という強い危機感を抱きました。焦っているだけでは何も始まらない。AIに仕事を奪われる側ではなく、使い倒して新しい仕組みを作る側に回らなければいけないと直感しました。自分のモノづくりの経験を活かしつつ、デジタル領域で業務を変革できる環境へ挑戦しようと転職活動を始めました」
数ある企業の中で日産を選んだ決め手は、選考時の面接官の言葉でした。「欠員補充ではなく、生産領域のDXを本格的に強化するための募集だ。手つかずの領域をゼロから作ってほしい」という熱い姿勢に「この仕事をやってみたい!」と胸が高鳴り、入社を決意します。2024年に中途入社した熊谷は、まずプレス技術部へ配属されました。
「最初はプレス金型の設計や試作現場に入り、日産のクルマづくりの実態や専門用語を学びました。前職での金型知識があったとはいえ、車の板金部品はスケールがまったく異なり戸惑うことも多かったです。
それでも、OJT指導員に加え、年齢の近い先輩が相談に乗ってくれるメンター制度など手厚いサポートに助けられ、スムーズにキャッチアップすることができました」
約2年間にわたり現場で日産の業務プロセスとドメイン知識を身につけた熊谷は、満を持して全社的なDXを推進する現在の部署へと足を踏み出しました。現場の泥臭い苦労を知る熊谷だからこそ提示できる確かな解決策を武器に、デジタル改革のエンジンとして新たな挑戦を開始したのです。
開発速度は体感10倍以上に。日産のスケール感で最先端AIを使い倒すおもしろさ
日産自動車に入社して以降、熊谷がもっとも大きな衝撃を受けたのは、業務における生成AIの飛躍的な進化と実務での活用スピードでした。
プレス技術開発のDX担当を経て現在の部署に至るまで、最先端のデータ分析・アプリ開発プラットフォームや多様なLLM(Large Language Models、大規模言語モデル)を日常的に活用する中で、従来の仕事の進め方は一変したと熱っぽく振り返ります。
「一番の変化はプログラムの開発速度です。以前なら仕様決定から試作品を作るまでに膨大な時間を要していましたが、今は打ち合わせの最中に自然言語で指示を出し、その場でアプリを組み上げて形にできます。
さらに現場との対話を録音・文字起こしし、そのテキストをAIに読み込ませるだけで要望に沿った改修が即座に完了します。開発速度は従来と比べて10倍以上になり、超高速で改善サイクルを回せるようになりました」
最先端のテクノロジーをいち早く実務へ適用できる環境は、熊谷にとって大きなやりがいとなっています。個人では到底手に届かないような最新のAIツールやシステムを、日産という大規模な事業基盤の中でいち早く試し、生産現場へ実装していけるおもしろさがあります。
「最新技術をいち早く実務で検証できることは、新しいもの好きな私にとって最高の環境です。知識や知見をすぐ実践に移せる楽しさがあります。そして何より、自分が構築した仕組みによって現場の働き方が変わり、それが最終的にお客さまへ届く高品質なクルマづくりに寄与していく。業務の設計そのものを根底から見直し、組織に大きなインパクトを残せることに深い手応えを感じています」
自らプログラミングやデータ活用を完結できるまでに成長を遂げた熊谷。しかし、どれほど技術が進化しても「相手が何に困っているのか」という現場の根っこにある「痛み」を理解する姿勢を第一に考え、人とテクノロジーをつなぐ架け橋となっています。
違和感を持てる人こそが変革の鍵。生成AIと共に歩む新しいモノづくりの未来
生成AIが急速に進化する現代において、熊谷が今後見据えているのは「生成AIが働きやすい環境」の整備です。一見すると斬新な表現に聞こえますが、そこには人間とテクノロジーの新しい共存関係に対する深い考察があります。データベースの最適化や情報の構造化を進めることで、AIがスムーズにタスクを処理できる基盤を整え、人間はより高度で創造的な業務に集中できる未来を描いています。
「AIができる領域が増えていく中で、人間はより本質的な価値創造に向き合う必要があります。だからこそ、日産に興味を持っている方には、ぜひ日頃から最新のツールに触れ、世の中の変化を肌で感じてみてほしいです。
そして日産で輝けるのは『今のやり方、何か変だな』と違和感を持てる人です。組織の当たり前を疑う視点こそが、業務改善における最大の強みになります」
新卒や中途で新たに組織へ入ってくるメンバーは、外部の視点から既存のプロセスに素直な疑問を投げかけられるという強力なアドバンテージを持っています。専門知識やスキルは入社後にいくらでもキャッチアップできるからこそ、自身の違和感を恐れずに提示できるマインドを大切にしてほしいと熊谷は呼びかけます。
「生産・SCM部門の魅力は、クルマづくりというモノづくりの本質にダイレクトに貢献できることです。自身が構築した仕組みで工場の設備が動き、現場の働き方が変わっていくさまを間近で実感できます。
また、完成車そのものと比べて生産プロセスや設備は新しいアイデアを織り込むハードルが低く、自分の提案を主体的に試せるおもしろさがあります」
最先端テクノロジーを積極的に取り入れるカルチャーと、多様な個性の挑戦を後押しする柔軟な環境が日産自動車には息づいています。変化を恐れることなく、生成AIと共に未来のクルマづくりと生産現場の革新を推進する熊谷の情熱は、これから入社する新たな仲間と共に更なる高みへと向かっていきます。
※ 記載内容は2026年8月時点のものです
