金属材料が割れる原因を数値で解明。シミュレーション解析で最適な接合条件を追求
日産自動車のパワートレイン・EVコンポーネント生産技術開発本部。その中にある素形材・成形技術開発部の鋳造技術グループに、深田は所属しています。
「私が所属する鋳造技術グループの新領域グループでは、3〜4年後に量産を開始する車体の鋳造部品を試作しています。従来はエンジン部品のみで使用していた鋳造部品を、車体にも適用できるよう試作と改良を重ねることが部署の役割です。
その中で私は、車体のアルミ鋳物と鋼材の接合を担当しており、車体接合技術グループと協力しながら、材料の接合に関するシミュレーション解析に取り組んでいます」
大型で熱処理が難しいため、伸びにくく割れやすい特性となるアルミ鋳物。熱を使わない機械的な接合方法であるSelf Piercing Riveting(SPR)を採用し、シミュレーション解析によって最適な接合条件を模索しています。
「アルミ鋳物を車体に適用する理由は、軽量化と部品点数の削減です。従来は複数の部品を組み合わせる必要がありましたが、アルミ鋳物なら1つの部品に減らせるため、コストの削減にもつながります。
シミュレーション解析では、リベットの形状や受け側のダイの形状、接合時の速度や荷重など、さまざまなパラメータを変更しながら最適な条件を探しています」
条件を細かく変更して根気強く取り組む必要があるシミュレーション解析の業務。そのおもしろさについて、深田はこう語ります。
「シミュレーション解析の醍醐味は、『なぜ割れるのか』という原因が理解できるようになることです 。たとえば、材料の特定箇所に大きな引張応力とひずみがかかることで割れにつながっている、といった具体的な理由が解明できるようになるのです。
さらに、数値的なデータによって提案の裏付けができるため、新たな挑戦に対する承認も得やすくなります」
実験に関しては車体の生産技術部署が行い、解析と合わせて蓄積したデータを研究・開発部門の材料開発部署や設計部署にフィードバック。さまざまな部署との連携が欠かせない中、深田が仕事で大切にしている価値観があります。
「言われたことをやるのではなく、自ら挑戦してみる姿勢を大切にしています。そのきっかけは、『人に聞いても答えが出ないことがある』と気づいたことです。
それなら自分にできることを探して動いてみよう。そう考えて自ら挑戦してみたところ、行動した分だけ学びが得られ、人との新たなつながりも生まれました。行動すればするほど新たな知識を吸収でき、成長のスピードも速くなると感じています」
学生フォーミュラでモノづくりの楽しさを実感。生産技術の仕事を志し、選んだ日産
大学では材料工学を学んでいた深田。チタンをレーザーで熱処理することで組織や機械的特性がどう変わるかを研究する中で、金属材料に魅了されていきました。
「おもしろさを感じたのは、材料や温度によって性質が大きく変わることです。粘土のように変形させられる一方で、自動車や航空機にも使える強度がある。そうした金属が持つ可能性について、調べるほどに関心が深まっていきました」
研究に励むかたわら、深田は学生フォーミュラの活動にも参加。モノづくりのおもしろさを体験します。
「学生フォーミュラでは、CADで図面を作成し、それを実際に加工して形にしていく一連のプロセスを経験しました。その中で私が実感したのは、自分は図面を描くより実際に形にしてつくるほうが好きだということです。この経験から、モノづくりに携われる生産技術の仕事がしたいと考えるようになりました」
そして就職活動では、金属材料の知識を活かせる自動車業界を軸として、生産技術部門のある企業を志望。その中で最終的に選んだのが、日産でした。
「日産は、e-POWERなど他社にない先進的な技術を開発しています。最先端の技術に携わり、より革新的なクルマづくりに関わりたい。そう考えて日産を選びました。また、採用の時点であらかじめ生産技術部門への配属が決まっていたことも、決め手の1つとなりました」
生産技術の中でも、深田が志望したのはパワートレインの部署でした。
「自動車業界は『100年に一度の変革期』と言われており、その中核を担うのはパワートレイン領域だと考えました。また社員の方のお話にも心を動かされました。電動化を進める中で材料技術や熱処理技術も活かせるし、とくに足回りは走行性能に直結するから技術者として挑戦のしがいがある。そう伺い、パワートレインの部署を志望しました」
そして深田は2020年4月に日産へ入社。コロナ禍でのリモート研修からスタートし、その後はモノづくり研修や工場実習を経験。2年目からは鍛造技術グループで浸炭熱処理の品質トラブル対応を担当し、不具合が起きたときの対策や基準書の改定などを学びました。
「3年目からは、デフギアの冷間鍛造を行うグループに異動し、品質不具合への対応や新たな部品の試作に携わりました。品質、コスト、時間というQCTをいかに達成するかを実践的に学ぶことができました」
そこから現在の部署に異動し、これまで培った鍛造の経験を活かしながら、新たな挑戦を続けている深田。部署異動のおかげでキャリアが広がったと笑顔を見せます。
「異動は新しいことに挑戦できるチャンスだと捉えています。別の部署でも私のスキルが必要とされている証ですし、実際に以前の経験を今の業務にも活かすことができてとても楽しいです。社内の人脈も広がるため、同じところに留まるより、新しい場所で挑戦するほうが成長できると実感しています」
小さな目標の達成を積み重ねて。諦めずに続ければ、必ず成功への道は開く
生産技術の現場で、常に新しい挑戦を続けてきた深田。中でも印象に残っているのは、SPRの解析条件を確立した経験だと話します。
「これまでは外部にシミュレーション解析を依頼していたのですが、結果が出るまでに1カ月程度かかる上に、多大なコストがかかっていたのです。そこで内製化できないかと考え、自ら手を挙げて解析条件の確立に挑戦することを申し出ました」
しかしSPRに関しては、社内に解析結果はあったものの、その内容を深く理解している社員はほとんどいないという状況。そこで深田は、自分にできることを探して行動し続けます。
「社内だけで解決できないことは外部の知見を借りればいい。そう考え、接合メーカーや解析ソフトメーカーに問い合わせて少しずつ手がかりを集めていきました。社内でも車体の接合部署に話を聞くなど、あらゆる方向からアプローチを試みました。
SPRは加熱せずにリベットを打ち込むことで、上板と下板をホッチキスのように接合する方法なのですが、最初は条件の確立どころか解析を始めるために何が必要かも知らない状況で……。ようやく解析が動き出したと思ったら、途中で計算が停止してしまい、なかなか最後まで走らせることができませんでした。
どうすれば上板を貫通し下板が変形するという接合プロセスをシミュレーション上で正確に再現できるのか。毎日パソコンと向き合い、社内外の知見を借りながら試行錯誤を繰り返しました」
こうして3カ月にもわたり、この難問と全力で向き合い続けた深田。小さな目標を設定することで、困難を乗り越えていきました。
「うまくいかないことがあっても、試した分だけ必ず前進している。そう信じ、毎日小さな目標を立てて少しずつ成功を積み重ねていきました。その中で心の支えとなったのは、周りの温かな応援です。
私が新たに達成できたことを報告すると、上司や同僚が一緒になって喜んでくれ、次につながるアドバイスをしてくれました。チームのみんなを喜ばせるためにも絶対に成功させたい。そんな想いが、諦めずに立ち向かい続ける原動力になりました。
そしてシミュレーションが最後まで正常に実行できて結果が出たときは、思わずガッツポーズするほどうれしかったです。部長にも報告し、成果を高く評価してもらいました」
自ら手を挙げて挑戦し、最後までやり抜いたこと。その経験は深田に大きな自信をもたらしました。
「諦めずに続ければ、最後は必ずうまくいく。実体験を通じてそう思うようになりました。ただ言われたことをやるのではなく、自分なりに工夫したり新しいことに挑戦したりすることで、仕事がどんどんおもしろくなっていくのを感じます。次はどんなことにチャレンジしよう。そんなふうにワクワクして、会社に行くのが楽しみになります」
モノづくりの可能性を広げる生産技術を追求して。これからも新しいことに挑戦し続ける
入社6年目を迎えた深田。着実に成長を重ねる中で、今後描いている目標があります。
「会社の誰もがシミュレーション解析を活用できるよう、マニュアル化を進めていくことが現在の目標です。そして長期的には、金属材料に関する成形技術のエキスパートになりたいと考えています。
これまで鍛造、鋳造、シミュレーション解析を経験し、キャリアの幅を広げてきましたが、今後も新しい業務に積極的に挑戦することをやめず、さらに専門性を磨いていきたいと思っています。
鋳造に関してはまだ経験が浅いため、もっと知見を培い、鍛造と鋳造の技術的な懸け橋となるような存在をめざしたいです。そして材料成形に対するアドバイスや育成ができる技術者になりたいと考えています」
目標に向かって成長し続けられるのは、挑戦を後押しする文化が日産には根付いているからだと深田は話します。
「上司をはじめ、私が新しいことに挑戦したいと伝えると、周りのみんなが必ずバックアップしてくれます。とくに生産技術の領域では、最適解にたどりつくまでのプロセスが無数にあるため、自分がやりたいことを提案して実現できるチャンスが多いです。挑戦できるフィールドが大きく広がっているため、モノづくりの醍醐味が味わえます」
チャンスがあるのなら、失敗してもいいから挑戦することを選びたい──そう力強く話す深田。同じようにモノづくりの世界で活躍したいと考えている仲間へ、メッセージを送ります。
「生産技術の魅力は、クルマの可能性を具現化できることです。技術の向上は、そのままクルマの進化に直結します。そして設計に対して新たな提案ができることも、後工程として実際に製品化できるか否かを判断する生産技術部門ならではのおもしろさです。
モノづくりに携わる仕事がしたいのであれば、生産技術部門からキャリアをスタートすることを私はおすすめしたいですね。生産技術を身につけておけば、設計部門など上流工程で仕事をすることになったときにも、必ず活かせるからです。まずはキャリアの入り口として『モノをつくる技術』に触れ、その楽しさを体験してほしいと思います」
※ 記載内容は2025年7月時点のものです
